第283話 城下町の散策は甘酸っぱく
文字数 2,161文字
主に技術の進歩について議論した転生者による評定の後は、内務大臣のイラード・タンや教育大臣アンミリーヤ、各区の代表者などを集めた内政の評定を行う。
この中では主に各区の開発状況や農業生産高、産業の発展具合などが話し合われた。
イラードによれば、おおむねルダーと話し合っていた収穫量で推移しているとのことで、次の戦の時は兵糧に余裕を持ってことにあたれるとのことだった。
具体的に言うと、最大動員で二ヶ月は戦えるとのことだ。
現在、領内の総人口は二万人余り。
領民皆兵制なので強権を発動すれば幼児など戦えない者を除いて一万二千人は動員できる。
もっともこんな事態は村だけだった時ならいざ知らず、現在は大規模侵略に対する防衛戦でもなければ行う予定はない。
とはいえ、ズラカルト領統一後に進めてきた専門兵制度で常時動員できる兵力は千三百人。
ほとんどは領内各町の守衛や巡検にまわっている巡検兵と砦の守備兵に充てられているので、戦を起こす際には都度作戦規模に応じて領民から徴兵するとこになっている。
今回の外征には人口比二十五パーセント、約五千人を動員する予定だ。
「では、五ヶ月は遠征できますな」
そんなに戦う気はないけどね。
「今回の戦でどこまで進めるおつもりですか?」
と、イラードが訊いてくるので
「忍者部隊からの報告次第だが、一気に領土の半分を奪いたいと思っている」
と、答える。
「そりゃまた随分と強気ですね」
「ルダー殿の言うとおりです。無理をして大きな損害になりはしませんか?」
「いや、たぶんだが、そんな大きな戦にはならないと思う」
「根拠がおありなのですね?」
「物見の報告では元々のアシックサル領はハングリー区ほどではないにせよ痩せた土地だという。そこの防衛に金と兵力を注ぎ込んでも益がないと、アシックサルが判断する公算が高い」
「なるほど。すでにヒョートコ男爵は砦を破られ領地の三分の一を失い、オッカメー季爵も砦を一つ奪われているとか」
「ああ、おそらくこの冬の間にヒョートコ男爵領はアシックサルの版図に組み込まれるに違いない。オッカメー季爵の方は……」
「同盟相手のドゥナガール仲爵次第……ですかな?」
「そうなるな」
「お館様の見立ては?」
「読めんな」
ドゥナガール仲爵の同盟相手はオッカメー季爵とベヤサン叔 爵 、その二領に挟まれているガラッパーチ男爵とは不可侵協定を結んでいる。
この間の会談で協定か同盟の破棄をそそのかしたわけだけど、どこから手をつけるかは判らない。
「俺ならオッカメー季爵との同盟は破棄しないな」
「理由は?」
「同盟を組んでいる相手が第三国に攻められているのに同盟を破棄するなんてなぁ信用問題だからな」
「一理ありますね」
確かにな。
(あ。)
(なに?)
(僕なら「こうする」っていう奸計を思い浮かべちゃって)
(奸計ね)
(あの文官と仲爵ならこうするんじゃないかなぁ……って)
(どんな手段?)
(アシックサルにオッカメーを滅させてアシックサルからオッカメー領を奪うっての)
(悪どいね)
(悪どいね。だけど、これなら同盟破棄の汚名は着なくてすむ。ついでに対等な同盟関係から実質的な主従関係にしてしまうこともできそうだ)
「とにかく、我々の目標はアシックサル領の攻略だ。周辺の情勢は戦略に影響を与えうるから情報収集は怠らないように」
「かしこまりました」
出席していた忍者部隊頭領オギン・エンが頭を下げる。
その後、教育大臣で文学者のアンミリーヤから教育環境についての現状報告と提言が、歴史学者のウォルターからも要望が寄せられたので実現の可能性を検討した後いくつかを却下、優先順位をつけて予算を割り振ることにする。
内政評定の後は外交の評定をと思っていたのだけれど、秋の農繁期と重なってしまい、しばらくは開けなくなってしまう。
「そんなに急ぐことなのですか?」
僕がよっぽどイライラしていたのだろうか?
サラが秋晴れの中を城下に連れ出し、散策する中で訊ねてきた。
「うーん……急ぐものではないか」
「領主なのですからお忙しいのは判りますが、たまには水入らずでのんびりお過ごしください。娘た ち も淋しがっておりますよ」
正室のサラ、側室のキャラとの間にはともに娘が一人ずつ。
そして今はどちらにもお腹の中に子供がいる。
むしろ淋しがっているのは彼女の方かもしれない。
「……そうだな。悪かった」
思えば前世での結婚生活の破綻も、家族のためとか言いながら仕事を優先していたせいで愛想を尽かされたのが理由かもしれない。
ちゃんと反省して努力しないと、前世の記憶を持って転生した意味がないな。
「優しいのは閨 の中だけ……と言うのは嫌ですからね」
おっと。
(ひゅーひゅー。あついあつい)
茶化すな、リリム。
「じゃあ、土産でも買って帰るか」
「もう少しいいじゃありませんか。久しぶりに二人で出歩いているんですから」
「そうだな。仲良く手でも繋ぎながら……」
と、手を差し出すと、サラはその腕にしがみついてしなだれかかり、上目遣いでこう言った。
「腕を組んで歩いてみたいのですけど、いけませんか?」
もう組んでんじゃん。
「ま、たまにはいいか」
その日は日が暮れるまで城下町を散策したのは言うまでもない。
次の日、キャラにも城下町散策をねだられたことは追記しておこう。
この中では主に各区の開発状況や農業生産高、産業の発展具合などが話し合われた。
イラードによれば、おおむねルダーと話し合っていた収穫量で推移しているとのことで、次の戦の時は兵糧に余裕を持ってことにあたれるとのことだった。
具体的に言うと、最大動員で二ヶ月は戦えるとのことだ。
現在、領内の総人口は二万人余り。
領民皆兵制なので強権を発動すれば幼児など戦えない者を除いて一万二千人は動員できる。
もっともこんな事態は村だけだった時ならいざ知らず、現在は大規模侵略に対する防衛戦でもなければ行う予定はない。
とはいえ、ズラカルト領統一後に進めてきた専門兵制度で常時動員できる兵力は千三百人。
ほとんどは領内各町の守衛や巡検にまわっている巡検兵と砦の守備兵に充てられているので、戦を起こす際には都度作戦規模に応じて領民から徴兵するとこになっている。
今回の外征には人口比二十五パーセント、約五千人を動員する予定だ。
「では、五ヶ月は遠征できますな」
そんなに戦う気はないけどね。
「今回の戦でどこまで進めるおつもりですか?」
と、イラードが訊いてくるので
「忍者部隊からの報告次第だが、一気に領土の半分を奪いたいと思っている」
と、答える。
「そりゃまた随分と強気ですね」
「ルダー殿の言うとおりです。無理をして大きな損害になりはしませんか?」
「いや、たぶんだが、そんな大きな戦にはならないと思う」
「根拠がおありなのですね?」
「物見の報告では元々のアシックサル領はハングリー区ほどではないにせよ痩せた土地だという。そこの防衛に金と兵力を注ぎ込んでも益がないと、アシックサルが判断する公算が高い」
「なるほど。すでにヒョートコ男爵は砦を破られ領地の三分の一を失い、オッカメー季爵も砦を一つ奪われているとか」
「ああ、おそらくこの冬の間にヒョートコ男爵領はアシックサルの版図に組み込まれるに違いない。オッカメー季爵の方は……」
「同盟相手のドゥナガール仲爵次第……ですかな?」
「そうなるな」
「お館様の見立ては?」
「読めんな」
ドゥナガール仲爵の同盟相手はオッカメー季爵とベヤサン
この間の会談で協定か同盟の破棄をそそのかしたわけだけど、どこから手をつけるかは判らない。
「俺ならオッカメー季爵との同盟は破棄しないな」
「理由は?」
「同盟を組んでいる相手が第三国に攻められているのに同盟を破棄するなんてなぁ信用問題だからな」
「一理ありますね」
確かにな。
(あ。)
(なに?)
(僕なら「こうする」っていう奸計を思い浮かべちゃって)
(奸計ね)
(あの文官と仲爵ならこうするんじゃないかなぁ……って)
(どんな手段?)
(アシックサルにオッカメーを滅させてアシックサルからオッカメー領を奪うっての)
(悪どいね)
(悪どいね。だけど、これなら同盟破棄の汚名は着なくてすむ。ついでに対等な同盟関係から実質的な主従関係にしてしまうこともできそうだ)
「とにかく、我々の目標はアシックサル領の攻略だ。周辺の情勢は戦略に影響を与えうるから情報収集は怠らないように」
「かしこまりました」
出席していた忍者部隊頭領オギン・エンが頭を下げる。
その後、教育大臣で文学者のアンミリーヤから教育環境についての現状報告と提言が、歴史学者のウォルターからも要望が寄せられたので実現の可能性を検討した後いくつかを却下、優先順位をつけて予算を割り振ることにする。
内政評定の後は外交の評定をと思っていたのだけれど、秋の農繁期と重なってしまい、しばらくは開けなくなってしまう。
「そんなに急ぐことなのですか?」
僕がよっぽどイライラしていたのだろうか?
サラが秋晴れの中を城下に連れ出し、散策する中で訊ねてきた。
「うーん……急ぐものではないか」
「領主なのですからお忙しいのは判りますが、たまには水入らずでのんびりお過ごしください。娘
正室のサラ、側室のキャラとの間にはともに娘が一人ずつ。
そして今はどちらにもお腹の中に子供がいる。
むしろ淋しがっているのは彼女の方かもしれない。
「……そうだな。悪かった」
思えば前世での結婚生活の破綻も、家族のためとか言いながら仕事を優先していたせいで愛想を尽かされたのが理由かもしれない。
ちゃんと反省して努力しないと、前世の記憶を持って転生した意味がないな。
「優しいのは
おっと。
(ひゅーひゅー。あついあつい)
茶化すな、リリム。
「じゃあ、土産でも買って帰るか」
「もう少しいいじゃありませんか。久しぶりに二人で出歩いているんですから」
「そうだな。仲良く手でも繋ぎながら……」
と、手を差し出すと、サラはその腕にしがみついてしなだれかかり、上目遣いでこう言った。
「腕を組んで歩いてみたいのですけど、いけませんか?」
もう組んでんじゃん。
「ま、たまにはいいか」
その日は日が暮れるまで城下町を散策したのは言うまでもない。
次の日、キャラにも城下町散策をねだられたことは追記しておこう。