第327話 御館様艶事情御帰宅之段 1
文字数 2,014文字
【タイトルでお気づきの方もおられましょうが、
艶っぽいエピソードが続きます。】
館に戻った僕をサラとキャラ、そして子供たちが出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ、お館様」
耳に心地よいサラの声に体の中心が熱くなる。
「おかえりなしゃいましぇ」
まだサ行が上手に発音できない次女のマリーンの舌足らずなところにほんわかしたところで、執事のコンドー・ノレマソが深く頭を下げる。
「おかえりなさいませ、お館様。この度はご戦捷のよし、誠に祝 着 至 極 にございます。長旅でお疲れでしょう。風呂に湯を張っておきました。旅の垢を落としてまいられませ」
気が利くじゃないか。
長期の遠征で汗と泥にまみれた体は一度凱旋門で洗ってはいる。
そのままだと自分自身でさえ臭くて辟易するほどだったからね。
娘たちに「くちゃい」とか言われて嫌われるのは前世だけで充分だ。
ところで……
「このものたちは?」
一同会して並んでいる見知った顔の館の使用人たちだけでなく、サラたちの後ろに見知らぬ六人の見目麗しい若い女性が並んでいるのだ。
「側室候補にございます」
と、こともなげにコンドーが答える。
「お二方ともご懐妊中につきご奉仕いたしかねることが不憫だと申されましたので、僭越ながら奥方様にお館様の好みを伺いまして集めたものどもでございます」
……あ、そう。
僕はちらりと二人の顔色を伺ってみたが、どちらも済ました顔で目を伏せているだけでいっかな感情が読み取れない。
たしかに長期遠征で女っ気がほとんどなかったから溜まっているといえばこの上なく溜まっているのは事実なわけだけど、こんなに物分かりいいのは裏がありそうというか、なんだか怖いな。
「あい判った……」
そういうしかないじゃない。
え? なに?
一度に六人も側室をもうけろって?
と思ったのだけど
「一度にすべてのものに手をつけてはダメですよ」
と、私室でサラに念を押されてしまった。
「サラも知っての通り、僕は寒村の百姓の出だ。ちゃんと説明してくれないか」
「お館様がいけないのですよ。わたしとキャラ、二人同時に妊娠させるのですから」
ええぇ……なにがいけないんだ。
「妊娠中の過度の行為が母体にも胎児にもよろしくないことはお判りですね?」
「うむ……」
「ですから貴族は複数の女性を側室に置いて夜伽をさせるのです」
なるほど、だんだん理解できてきた。
要するに僕が明るい家族計画に失敗したので新たに僕の伽をさせる女性が必要になった、と。
でも、そんなこと言ったってこの世界、避妊技術が未熟でまともな避妊方法ないじゃない!
「だからと言って新たな側室候補などと」
「お館様」
語尾を上げて僕を正面から見つめる。
思わず抱きしめたくなるのをグッとこらえてしまったのはなんの作用か?
「お館様は領主なのです。その気になれば誰を抱くのも思いのまま、領内に断ることのできようものなどおりません」
そ、そうか?
「一夜限りのゆきずりで子種など宿されるようなことになればお家騒動に発展しかねないのですよ?」
お、おぅ。
なるほど、落とし胤は争いの元だ。
「ですから側室として正式に迎えねばならないのです。さらには」
まだあるの!?
「お手をつけられた場合その責任を取らなければならないことはお判りになられます?」
大奥についてはドラマも見たし歴史オタクとして資料を漁ったりもしたけど、あれか? この世界でも領主のお手付きはややこしいしきたりがあるってことか。
「領主の寵を受けてしまうと、その身はままになりません。下手をすると最悪な男に下賜されるなどということもあるとか」
「ぼ、僕は」
「お館様がそのようなご無体をなさるとは思っておりません。ですが、お館様次第で一生を不幸にすることもあるのですから、肝に銘じてくださいませ」
「肝に銘じよう」
それにしても
「ずいぶんと大人になったんだな」
「あの日、ゼニナルの町でお館様に助けられた少女のままがよかった?」
「いや、どちらかというと今の方がいいかな」
「あなたもお上手になって」
二人称を使い分けるのちょっとずるいな。
「あと、この館の規模では六人全員の室は用意できないので、それも考慮に入れてお手をおつけになってくださいませ」
と、最後にいたずらっぽく笑うとか、もう反則だろ。
「なにか?」
「久し振りなんだからキスくらいいいだろ?」
「キスだけで満足できると?」
「む。我慢するさ」
「ふふ、わたしができそうにないのでお断りします」
手を回そうとしたのをするりとかわしてまたいたずらっぽく笑うと、右の頬に軽く口づけをしてくれた。
「あとで左の頬に口づけするようにキャラに申しつけておきますね」
そう言い残して部屋を出て行った。
ぐぬぬ……これじゃ蛇の生殺しってやつじゃないか。
(おーおー、あついあつい)
(リリム……)
(私はダメよ。サイズが違いすぎるもの)
と、体をクネクネとよじってしなを作ってみせる。
冗談は顔だけにしろ!
艶っぽいエピソードが続きます。】
館に戻った僕をサラとキャラ、そして子供たちが出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ、お館様」
耳に心地よいサラの声に体の中心が熱くなる。
「おかえりなしゃいましぇ」
まだサ行が上手に発音できない次女のマリーンの舌足らずなところにほんわかしたところで、執事のコンドー・ノレマソが深く頭を下げる。
「おかえりなさいませ、お館様。この度はご戦捷のよし、誠に
気が利くじゃないか。
長期の遠征で汗と泥にまみれた体は一度凱旋門で洗ってはいる。
そのままだと自分自身でさえ臭くて辟易するほどだったからね。
娘たちに「くちゃい」とか言われて嫌われるのは前世だけで充分だ。
ところで……
「このものたちは?」
一同会して並んでいる見知った顔の館の使用人たちだけでなく、サラたちの後ろに見知らぬ六人の見目麗しい若い女性が並んでいるのだ。
「側室候補にございます」
と、こともなげにコンドーが答える。
「お二方ともご懐妊中につきご奉仕いたしかねることが不憫だと申されましたので、僭越ながら奥方様にお館様の好みを伺いまして集めたものどもでございます」
……あ、そう。
僕はちらりと二人の顔色を伺ってみたが、どちらも済ました顔で目を伏せているだけでいっかな感情が読み取れない。
たしかに長期遠征で女っ気がほとんどなかったから溜まっているといえばこの上なく溜まっているのは事実なわけだけど、こんなに物分かりいいのは裏がありそうというか、なんだか怖いな。
「あい判った……」
そういうしかないじゃない。
え? なに?
一度に六人も側室をもうけろって?
と思ったのだけど
「一度にすべてのものに手をつけてはダメですよ」
と、私室でサラに念を押されてしまった。
「サラも知っての通り、僕は寒村の百姓の出だ。ちゃんと説明してくれないか」
「お館様がいけないのですよ。わたしとキャラ、二人同時に妊娠させるのですから」
ええぇ……なにがいけないんだ。
「妊娠中の過度の行為が母体にも胎児にもよろしくないことはお判りですね?」
「うむ……」
「ですから貴族は複数の女性を側室に置いて夜伽をさせるのです」
なるほど、だんだん理解できてきた。
要するに僕が明るい家族計画に失敗したので新たに僕の伽をさせる女性が必要になった、と。
でも、そんなこと言ったってこの世界、避妊技術が未熟でまともな避妊方法ないじゃない!
「だからと言って新たな側室候補などと」
「お館様」
語尾を上げて僕を正面から見つめる。
思わず抱きしめたくなるのをグッとこらえてしまったのはなんの作用か?
「お館様は領主なのです。その気になれば誰を抱くのも思いのまま、領内に断ることのできようものなどおりません」
そ、そうか?
「一夜限りのゆきずりで子種など宿されるようなことになればお家騒動に発展しかねないのですよ?」
お、おぅ。
なるほど、落とし胤は争いの元だ。
「ですから側室として正式に迎えねばならないのです。さらには」
まだあるの!?
「お手をつけられた場合その責任を取らなければならないことはお判りになられます?」
大奥についてはドラマも見たし歴史オタクとして資料を漁ったりもしたけど、あれか? この世界でも領主のお手付きはややこしいしきたりがあるってことか。
「領主の寵を受けてしまうと、その身はままになりません。下手をすると最悪な男に下賜されるなどということもあるとか」
「ぼ、僕は」
「お館様がそのようなご無体をなさるとは思っておりません。ですが、お館様次第で一生を不幸にすることもあるのですから、肝に銘じてくださいませ」
「肝に銘じよう」
それにしても
「ずいぶんと大人になったんだな」
「あの日、ゼニナルの町でお館様に助けられた少女のままがよかった?」
「いや、どちらかというと今の方がいいかな」
「あなたもお上手になって」
二人称を使い分けるのちょっとずるいな。
「あと、この館の規模では六人全員の室は用意できないので、それも考慮に入れてお手をおつけになってくださいませ」
と、最後にいたずらっぽく笑うとか、もう反則だろ。
「なにか?」
「久し振りなんだからキスくらいいいだろ?」
「キスだけで満足できると?」
「む。我慢するさ」
「ふふ、わたしができそうにないのでお断りします」
手を回そうとしたのをするりとかわしてまたいたずらっぽく笑うと、右の頬に軽く口づけをしてくれた。
「あとで左の頬に口づけするようにキャラに申しつけておきますね」
そう言い残して部屋を出て行った。
ぐぬぬ……これじゃ蛇の生殺しってやつじゃないか。
(おーおー、あついあつい)
(リリム……)
(私はダメよ。サイズが違いすぎるもの)
と、体をクネクネとよじってしなを作ってみせる。
冗談は顔だけにしろ!