第149話 国家戦略会議 3 報連相はやっぱ大事じゃね?

文字数 2,321文字

 農林大臣には当然ルダーをあてる。
 村と町を一つの行政区域に統合したのだから、それに伴って総合的に開拓開発していく方針を打ち出すのは当然だ。
 そして、文明水準からいっても税制から考えてもその大半が開墾に注力することになるのは必然みたいなもの。
 ルダーが提示してきた開拓可能面積は現在の耕作面積の二・二倍。
 人力で開墾するのに何年かかるかね?
 もちろん、すべてを畑にするわけじゃない。
 住宅も必要だし、特産品の生産工場も作る計画だ。
 薪や炭など生活必需品を生産する里山・雑木林も大事な場所だ。
 拡げた畑に供給する水の確保もなかなか解決策が見つからない難題だ。

「水は大丈夫だよ」

 と、ルダーは事もなげに言う。

「いや、大事業であるのは間違いないんだがな? ため池を作る」

「タメイケ?」

 なるほど、ため池か。
 大量の水を必要とする稲作が盛んなアジア地域でよく見られる農業用の人工池のことだ。
 うん、あれを作れるなら水問題の結構な部分が解決するだろう。
 この辺は王国最北の地域で冬季間雪に閉ざされるような場所だから雪解け水で十分対応できるんじゃないかな?
 さすがは前世でも農業をやっていた生粋の百姓だ。
 もちろんこんな大土木事業、権限がないとなかなか難しい。
 自由裁量(フリーハンド)は無理だけど、国力増強に必須の事業だから相当の便宜をはかってあげよう。
 いや、もちろん国力増強に必須の事業はまだまだ他にもたくさんあるさ。
 優先順位の問題だ。
 ルダー先生によるため池講座が終わるのを待って次の議題に移る。
 オグマリー区攻略のタイミングを優先して保留にしていたグリフ族対応の件だ。
 一応、ルビレルが下交渉までは進めていた。
 最後の交渉時点で大枠の合意に漕ぎ着けていたことまでは確認している。
 春の披露宴のために突貫工事で整備した街道がオグマリー市から一の町経由でバロ村に入るルートだったのと、交渉役のルビレルをオグマリー市の代官に据えたことも相まってほったらかし状態だ。

「完全に放置していたわけではありません」

 と、説明するサイが言うにはルビレルの交渉時点で大枠で合意していたこともあり、冬の間にサイがチカマックの指示を受けて詰めの交渉をしていたのだという。
 おお、チカマック、グッジョブ!

「あとはお館様がグリフ族の族長と会談にて最終合意をして頂ければよいところまでまとめてあります」

 すごいじゃん!
 けどさ……。

「サイ」

「は」

「なにを根拠に合意した」

「なんの話でしょう?」

 視界の隅でイラードが自分のことのように居心地悪そうにしている。

「誰の権限でもってグリフ族との交渉に合意したかと聞いている」

 サイの顔がみるみる蒼くなる。
 そこはイラードとは違うんだな。

のところに今日までまったく報告が上がっていないことに対して、お前とチカマックはどう思っているのか聞きたいものだ」

「も、申し訳ございません。合意はワタシの独断であり、チカマック様は直接関わってはございません」

「みんなにもいっておく。私はこのオグマリー区の領主だ。才能ある人材の裁量を否定はしないが、私の意向を無視した独断は許さない。肝に銘じておくように」

 それぞれが勝手に動いて互いの利害がぶつからないとは言えないし、そもそも僕の望まない不利益が生じると困る。

 …………。

 あれ? なんか自分自身に違和感というか矛盾を孕んでいる気がする。
 なにが?
 どこが?
 ……いや、今はそんな思考の脇道に入っても仕方ない。

「で?」

「『で?』?」

「この後に及んで合意の内容を報せない気か?」

「……あ! も、申し訳ございません」

 サイの報告はおおむね問題はなかった。
 さすがにチカマックが重用する人材だ。
 こちらに明らかな不利益はない。
 けど、少々こちらに有利すぎる。
 もしかしたらグリフ族側に不満があるかもしれない。
 会談の際にはなにか手土産でも用意しとかなきゃな。

(大変ね)

(ほんとだよ。web小説の主人公みたいにチートと口八丁でぱはっと解決できるならしたいことだ)

(そんな非現実的なこと望まないでよ)

(異世界に転生してる段階でリアリティなんてないんですけど?)

(あー、うん。そうね)

「次の議題は街道と宿場の整備計画だ」

「宿場ですか。あの湯船というのはいいですな。旅の疲れがほどよく取れる」

 オクサは風呂をたいそう気に入ったみたいだ。

「街道整備は継続事業ですが、宿場はどこに増やすのですか? 開拓が進めば村と村を繋いでいた街道は街に取り込まれるものと思うのですが」

「三カ所だ、ウータ。グリフ族との交易拠点として元々計画されていたセザン村とハンジー町の間の四の宿。セザン村とゼニナル町の間の五の宿。最後がハンジー町とオグマリー市の間に作る六の宿だ」

「ああ、開拓予定のない区間ですね」

 と、チローがいう。
 給仕をしながら耳だけで情報を拾っていたくせにしっかり把握してるんだな。

「その通りだ、チロー。ついでに四の宿と五の宿を直接街道で結ぼうと思う」

「それはいい。二つの町を行き来する際、いちいちセザン村を経由すると四日かかりますからね。四の宿と五の宿の間を通してくれれば一泊ですみます」

 と、諜報活動で飛び回っているオギンが大きく頷きながらいう。

「そんなに短縮できるのか? いやあ、便利になるなぁ」

 今やすっかりひとかどの武将然としてきた元傭兵のカイジョーが感嘆の声をあげる。
 カイジョーも軍事視察などで行き来するから嬉しいんだろう。
 もちろんキャラバンを率いるジョーが喜ばないはずがない。

「俺たちにとっても願ってもない計画だ。金なら商人仲間に出させるぞ」

 それはこちらにとっても願ってもない申し出だからありがたくお願いする。
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