第132話 お館様は兵糧攻めがお好き
文字数 2,019文字
オグマリー市東門の前に姿を現したのは陽が傾き始めたころ。
ここで隊を二つに分ける。
ギラン隊計百十とザイーダ弓隊、ベハッチ投石隊を残してさらに南下。
僕ら本隊は南門の前に移動する。
オグマリー市には門が三つあるのだけれど、最後の一つは第一先の村へ続く西門だ。
こちらは明日にはその第一先の村を制圧したハンジー町からの軍が押し寄せる予定になっている。
門から一時間ほど離れた場所に陣取って野営の準備を始めた頃、チカマックからの飛行手紙が届いた。
「第一先の村攻略の報告ですか?」
と、ルビレルが訊ねてくる。
「いや」
と、そこで言葉を区切ると一緒に控えていたルビンスが心配そうな顔をする。
表情に出やすいなぁ……。
「先発隊が西門に到着した報告だ」
「は?」
「夜討ち朝駆けってやつかな? 報告によれば、『本日早朝、第一先の村急襲。すでに第二先の村制圧の報が届いていたらしく無条件降伏。騎兵と足の速い兵合わせて五十を率いて先ほど所定の野営地に到着せり』ってことだ」
「すでに黄昏 時ですから煮炊きを気づかれる可能性も低いかもしれませんね」
「ということは、明日は朝一から三方同時に攻められるということですか?」
「いや、戦端は東門の飛び道具部隊に開いてもらう」
僕は魔法の灯りを頼りに返事の飛行手紙を書く。
内容は明日の作戦行動の確認だ。
「西門側には予定通りタイミングを見計らって攻撃を仕掛けてもらう」
「守備兵力が東門に集中するのを待って急襲するのでしたか」
「そうだ。明日は飛行手紙がバンバン飛び交うぞ」
ついでに移動用電話も大活躍だ。
「力押しで攻め落とさない作戦だとか」
信用していないらしいね、ルビンスは。
「力押しするには兵力差が小さいからね。落とせなくはないんだろうけど、犠牲が大きすぎる。こんなところでそんなリスクは取らないよ」
まだまだてんで足りない戦力をたかがオグマリー制圧で失いたくないし、それで多くの民衆から恨まれるなんてたまったものじゃない。
僕はまだまだ国力を蓄えるフェーズにいる。
極力国力を落としたくないんだ。
「で、持久戦は何日続く想定ですか?」
「十日から十五日」
兵糧には一月 、二十五日分用意している。
最悪二十日は攻囲戦が継続できる計算をしたつもりだ。
「それで落ちますか?」
「落とす」
(自信満々ね)
と、リリムが僕の肩に乗ってささやく。
(心の内なんで言動に出しちゃ士気にかかわる)
(あら、じゃあ自信ないの?)
(まったくないわけじゃないけどさ、絶対の自信なんてものはないよ)
(なにが心配なの?)
僕はリリムに答える代わりに二人に話す。
「不安があるとすればオグマリー市の食料備蓄量が想定より多い可能性だ」
このタイミングで出兵したのは徴税直前のもっとも備蓄量の少なくなっているオグマリー市を兵糧攻めにするためだった。
だから計算以上に備蓄がある可能性が怖い。
「しかし、何度も何度もオギンたちを潜入させて見積もったものだからさ、間違っているとも思いたくない」
「そうですね、ワタシも父も経験上それほど間違っていないと思います」
「そうか、今日は夜襲はないだろう。見張りは最低限にして、兵に十分な休息を与えてくれ。あさって以降はここが最激戦区になる予定だ」
「直接攻めるのは東西の各門ですが、なぜここが一番の激戦になるのでしょう?」
「ルビンス。そなたが守兵の総大将として囲まれたと考えて、どんな手を打つ」
「戦力差は攻め手の方が多く、打って出るのは不利ですからとりあえず門を閉じて堅く守りに徹します」
お?
父から息子へのレクチャーか?
じゃあ様子を見ることにするか。
「兵糧は心もとない。兵だけでなく民もいるぞ」
「なるほど、もともと満足に食えない下層民の反乱も心配ですね。援軍を呼びたいが、東西から攻められていることを考えればオグマリー区の他の町がすでに落ちていることは容易に想像が尽きます」
「ジュニアにだって考えが及ぶだろうな」
おっといけね、余計なことを言ったみたいだ。
二人に睨まれちゃった。
(笑うなよ。兵がみてる)
(見てないわよ、誰も)
ガノタの友が欲しい……。
「とすれば、あと打てる手は一つと思わんか?」
「南門からズラカルト男爵に救援を要請する……!? 南門には本陣がいる。ここを抜くには武力突破をするしかないということか」
「そうだ。敵は一人でもこの陣を突破できればいいが、我々は誰一人通してはいけない」
そう、全滅させなければならないのだ。
それも、いつ、どれだけの人数が来てもいいように備えなければいけないなかなかのハードモードなんだ。
あるときは夜陰に紛れて一人で抜けようとするかもしれない。
あるときは軍を編成して決死の突撃を敢行してくるかもしれない。
できれば野営はもっと門の近くに張りたい。
けれど、軍が半時間で到着するような距離では軍による急襲に対して対応が遅れかねない。
厄介極まりないよね。
まぁ、対策はとるけどね。
ここで隊を二つに分ける。
ギラン隊計百十とザイーダ弓隊、ベハッチ投石隊を残してさらに南下。
僕ら本隊は南門の前に移動する。
オグマリー市には門が三つあるのだけれど、最後の一つは第一先の村へ続く西門だ。
こちらは明日にはその第一先の村を制圧したハンジー町からの軍が押し寄せる予定になっている。
門から一時間ほど離れた場所に陣取って野営の準備を始めた頃、チカマックからの飛行手紙が届いた。
「第一先の村攻略の報告ですか?」
と、ルビレルが訊ねてくる。
「いや」
と、そこで言葉を区切ると一緒に控えていたルビンスが心配そうな顔をする。
表情に出やすいなぁ……。
「先発隊が西門に到着した報告だ」
「は?」
「夜討ち朝駆けってやつかな? 報告によれば、『本日早朝、第一先の村急襲。すでに第二先の村制圧の報が届いていたらしく無条件降伏。騎兵と足の速い兵合わせて五十を率いて先ほど所定の野営地に到着せり』ってことだ」
「すでに
「ということは、明日は朝一から三方同時に攻められるということですか?」
「いや、戦端は東門の飛び道具部隊に開いてもらう」
僕は魔法の灯りを頼りに返事の飛行手紙を書く。
内容は明日の作戦行動の確認だ。
「西門側には予定通りタイミングを見計らって攻撃を仕掛けてもらう」
「守備兵力が東門に集中するのを待って急襲するのでしたか」
「そうだ。明日は飛行手紙がバンバン飛び交うぞ」
ついでに移動用電話も大活躍だ。
「力押しで攻め落とさない作戦だとか」
信用していないらしいね、ルビンスは。
「力押しするには兵力差が小さいからね。落とせなくはないんだろうけど、犠牲が大きすぎる。こんなところでそんなリスクは取らないよ」
まだまだてんで足りない戦力をたかがオグマリー制圧で失いたくないし、それで多くの民衆から恨まれるなんてたまったものじゃない。
僕はまだまだ国力を蓄えるフェーズにいる。
極力国力を落としたくないんだ。
「で、持久戦は何日続く想定ですか?」
「十日から十五日」
兵糧には
最悪二十日は攻囲戦が継続できる計算をしたつもりだ。
「それで落ちますか?」
「落とす」
(自信満々ね)
と、リリムが僕の肩に乗ってささやく。
(心の内なんで言動に出しちゃ士気にかかわる)
(あら、じゃあ自信ないの?)
(まったくないわけじゃないけどさ、絶対の自信なんてものはないよ)
(なにが心配なの?)
僕はリリムに答える代わりに二人に話す。
「不安があるとすればオグマリー市の食料備蓄量が想定より多い可能性だ」
このタイミングで出兵したのは徴税直前のもっとも備蓄量の少なくなっているオグマリー市を兵糧攻めにするためだった。
だから計算以上に備蓄がある可能性が怖い。
「しかし、何度も何度もオギンたちを潜入させて見積もったものだからさ、間違っているとも思いたくない」
「そうですね、ワタシも父も経験上それほど間違っていないと思います」
「そうか、今日は夜襲はないだろう。見張りは最低限にして、兵に十分な休息を与えてくれ。あさって以降はここが最激戦区になる予定だ」
「直接攻めるのは東西の各門ですが、なぜここが一番の激戦になるのでしょう?」
「ルビンス。そなたが守兵の総大将として囲まれたと考えて、どんな手を打つ」
「戦力差は攻め手の方が多く、打って出るのは不利ですからとりあえず門を閉じて堅く守りに徹します」
お?
父から息子へのレクチャーか?
じゃあ様子を見ることにするか。
「兵糧は心もとない。兵だけでなく民もいるぞ」
「なるほど、もともと満足に食えない下層民の反乱も心配ですね。援軍を呼びたいが、東西から攻められていることを考えればオグマリー区の他の町がすでに落ちていることは容易に想像が尽きます」
「ジュニアにだって考えが及ぶだろうな」
おっといけね、余計なことを言ったみたいだ。
二人に睨まれちゃった。
(笑うなよ。兵がみてる)
(見てないわよ、誰も)
ガノタの友が欲しい……。
「とすれば、あと打てる手は一つと思わんか?」
「南門からズラカルト男爵に救援を要請する……!? 南門には本陣がいる。ここを抜くには武力突破をするしかないということか」
「そうだ。敵は一人でもこの陣を突破できればいいが、我々は誰一人通してはいけない」
そう、全滅させなければならないのだ。
それも、いつ、どれだけの人数が来てもいいように備えなければいけないなかなかのハードモードなんだ。
あるときは夜陰に紛れて一人で抜けようとするかもしれない。
あるときは軍を編成して決死の突撃を敢行してくるかもしれない。
できれば野営はもっと門の近くに張りたい。
けれど、軍が半時間で到着するような距離では軍による急襲に対して対応が遅れかねない。
厄介極まりないよね。
まぁ、対策はとるけどね。