第152話 緊急招集 転生者会議 1

文字数 2,382文字

「魔道具はラバナルとチャールズに作ってもらうんだろ?」

「二人より才能のある魔法使いがいるのか?」

「いない」

 愚問だろ、じゃあ。

「あの二人なら話が早いし、気にしてるのはそこじゃない」

 じゃあどこよ?

「問題なのは科学の方だ」

 なるほど。

「ここでも人材不足か」

「ここでも?」

「ああ、もう全面的に人材不足なんだよ」

「私はあきらめたがお前……お館様はこの世界全体の文明レベルを爆上げする気なんだな?」

 僕が再三これ見よがしに嫌な顔したんで、ようやく「お館様」と呼んでくれた。

「どうやらそれが神様から与えられた使命らしいからね」

 そういうと、チカマックはニンマリと笑みを浮かべる。

「どこまでも文明を進化させられるのか?」

「僕らの知識に技術が追いついてくる限り」

「っいい!! それは最高だ!」

 なまら食いついた!!

「じゃあ、まず大臣としてお館様に要求する」

 あ?

「な、なにを要求する気だよ?」

 すげーあくどいニヤリ顔したぞ、こいつ。

「転生者会議の招集だ」

「お、おお……」

「それは許可の返事ととっていいんだな?」

 あ・こいつ今すぐにでも招集する気だ。
 けど、その案は悪くない。
 いや、名案だ。

「……判った、この場で飛行手紙を出せばいいんだろ」

「さすがお館様、お早い決断。このチカマックお館様にお使えできて光栄でございます」

 よく言うよ。
 僕はサラを呼んで飛行手紙の用意をしてもらうと、現在判明している転生者三人全員に緊急招集の手紙を書く。
 チカマックは書いたその場から紙飛行機を折ってはホイポイと投げに行く。
 すべて投げ終わると

「じゃあ、今日はこれで」

 と、さっさと退出して行っちまいやがんの。
 かぁ……もっと話したいことあったのに。

(でも、まあ今ここで話し合っても会議でひっくり返るかもしれないじゃない?)

(そりゃそうだ)

「もうお帰りになられたのですね?」

 飲み物の片付けに入ってきたサラが気抜けたみたいに訊いてくる。

「残念だったか?」

「ええ、少し」

 ちょっと妬けるな。

「だって、せっかくイゼルナたちと腕によりをかけてお料理していたのに、無駄になってしまったんですもの」

 ……かわいいかよ。

「それはチカマックの分も責任持って食べなきゃいけないな」

 そういえば、食事の方も改善したいな。
 ルダーが色々田舎料理を開発してくれているから、おかずのバリエーションは増えたけど、食文化としてはまだ貧しい。
 この世界で生まれ育っているから、なきゃなくてもいいんだけど、やっぱ和洋中にエスニックまで揃っていた前世の記憶があるから時々無性にジャンクフードとか食べたくなるんだよね。
 この世界だと、ジャンクフードも豪勢な食事扱いされそうだ。
 そんなことを考えていたらひょっこりとルダーが現れた。

「なんだよ、これ」

 と、日本語で書かれた飛行手紙をひらひらとふる。

「いたのか?」

「ついさっきこの村に来たところだった」

「忙しいのにすまないな。チカマックがな……」

 と、僕がルダーにことの成り行きを説明している間に飛行手紙の返事が返ってくる。
 どれも日本語で書かれていた。
 日本語、暗号として使えるんじゃね?
 それにしても……世代なんだろう、ジョーは達筆すぎて読みにくいし、クレタはびっくりするくらいかわいらしい丸文字だった。
 日本語なんてこの世界に来てからほとんど書いてないはずなのに、手が覚えてるもんなんだね。
 ともかく、どちらも了解と数日中に来てくれると(したた)められていた。
 それをのんびりと待つチカマックと畑の様子を見て回るルダー。
 僕はといえば、午前中の剣稽古、午後からは情報精査と案件決裁の日々を過ごした。
 で、手紙を出した六日後にクレタが、十一日後にジョーがやってきた。
 第一回転生者会議はその翌日に開かれることになった。
 会場は僕の館の囲炉裏の間。
 当日はこれもたまたま村に戻っていたオギンをサラの護衛につけて外に追い出す。
 囲炉裏の間は我が家一階の中央部にあるんで、これで秘密会議が外部に漏れることはまずないだろう。
 チカマック以外は全員日本からの転生者なので、必然的に上座に座ることになった僕がまぁ座長ってことになるよね。

「みんな、忙しいところを集まってくれてありがとう。手紙にも書いた通り、今日は転生者として知識を出し合ってもらいたい。チカマック、集めた経緯を」

「はい。お館様によるとこの世界の神はこの世界の文明の進化を望んで多くの転生者を同時代に集めたのではないかということだったので、いっそのことどこまで文明を発展させられるのか、とことん語り尽くそうと私が緊急招集をお願いしました」

「文明の進化な。それは本当か?」

 ジョーの疑問はもっともだ。

「この世界の神は顕現しないんで『おそらく』としかいえないが、リリムとの会話やこれまでの経緯なんかを考え合わせると、この考察はあながち間違いじゃないと思う」

 転生者全員の視線がリリムに向かう。

「こんなに一気に視線が集まるの初めてだから戸惑っちゃうわ」

 リリムから視線を外さず、ルダーが僕に言う。

「とりあえずその考察とやらを聞こうじゃないか」

 おうよ。
 僕はできるだけ簡潔に考察の経緯を話す。
 この世界には多くの神がいて、人族の神は過去に何度も転生者を送り込んでいること。
 それが人族の文明を作ってきたこと。
 今回、これだけ一度に何人もが同時代に転生していることを考えると文明を一気に進めるべく僕らは転生したんじゃないかという考え方をだ。

「なるほど、それでヨーロッパ様式の文化がベースになっているのね?」

「他の国がどうかは判らないけど、この王国の文化は中世ヨーロッパ的だろ? そのタイミングで結構な転生者がこの世界に呼ばれてるんじゃないかと思うんだ」

「まだらに文化水準が進んでいるものもあるが、そこはどう考えているんだ?」

「いい質問だ、ジョー」
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