第43話 事件ですか? 事故ですか?
文字数 2,057文字
ジャスの家に駆けつけると、ちょうどサビーとイラードが家を出てくるところだった。
「容体は?」
中に入る前にサビーに尋ねると
「左上腕骨と左大腿骨の骨折。肋骨も何本かヒビが入っているかも知れないな」
という返事だった。
「詳しい状況を教えてくれ」
「それはワタシがご説明します。村長の指示通り、正面門の左右に物見櫓を建設しておりました。右の櫓はすでに運用中で現在左の櫓を建設中です」
そこは僕も把握している。
足場を組んで骨組み中だった。
「その足場が何かの拍子にぐらりと揺れたらしく、投げ出されたジャスともう一人が九シャッケンほどの高さから地面に落ちたそうです」
「もう一人の安否は?」
「両足の複雑骨折でした」
うわっ……。
「そっちはがザイーダが付いています」
「二人とも歩けるようになるか?」
「ジャスの方は問題ないと思いますが、チャールズの方はうまく骨接ぎ出来なければあるいは……」
チャールズか……。
確か三十代の頭髪が薄い男だった。
多少魔力感応力がある男で、若いうちから修行していれば魔法が使えていたかも知れないと連れてきたときにジョーが紹介していた。
「チャールズの処置が終わったら教えてくれ。あとで見舞いに行く」
「判りました」
ジャスの家に入る際、ふと気になったので僕はリリムに小声で頼みごとをする。
中に入ると、ジャリがやってきた。
「村長」
最近はジャリも僕のことを村長と呼ぶ。
「様子はどうだ? 面会できそう?」
「痛みで唸ってますが、受け答えはできてる」
ひとまず大丈夫かな?
ジャリに案内されて寝室に入ると、彼のいう通り痛みに脂汗を浮かべてベッドで痛みに耐えているジャスがいた。
「村長……」
「災難だったな」
「ええ、午前中まではしっかり組まれていたんですけど、どうも縄が緩んでいたみたいです」
…………。
「今までもそんなことはあったの?」
「塀や蔵を作るときに村長やルダーが口を酸っぱくして言ってたんで、ちゃんと二人以上で確認していたんですけど……」
つまり、今回が初めてってことかな?
「思い出せる範囲でいいから落ちる前のことを詳しく教えてくれないか」
「詳しくですか? ……えーと…………」
説明下手のジャスの話を整理すると、ざっとこんな感じだ。
作業中に例の四人組が見にきて右の物見櫓に登ったりしていた。
どんな風に作っているか見てみたいと一人が言うんで足場にあげて色々と説明した(自慢したかったんだね)。
その男が降りたあと、作業を再開しようと昇ったらぐらりと大きく揺れて投げ出された。
なるほどね。
四人のうち誰が登ると言い出したのか聞いてみたら、思った通りの男だった。
推理ものなら「犯人はお前だ!」ってふん縛 るのもアリだけど、それをやっても仕方ないしな。
「しばらくは病 むだろうが、しっかり養生してまた働いてくれ」
「ありがとうございます」
部屋を出たあと、ジャリと二、三話しをする。
腫れが引くまで冷やすこと、腫れが引いたら適度に体を動かすこと、バランスの良い食事をとることだ。
もっとも栄養成分は知りようがないのでバランスってのをどうとればいいかは僕にも判んない。
よく言うのは一汁三菜か……。
ルダーの奧さんになったヘレンに作ってもらえるように頼んどこう。
ジャリに任せるのは無理筋だろうからね。
田舎なせいで医療レベルはびっくりするほど遅れてる。
これは仕方ないことだ。
前世と比べちゃいけないことは重々承知の上でなにか対策を練らなきゃいけない。
ま・なにかもなにもないんだけど。
一にも二にも魔法使い、それも治癒魔法師を仲間に引き入れなきゃダメだ。
魔法さえあれば現代医療もびっくりの治療ができる。
人体構造は治癒魔法の技術に直結しているから相当なレベルまで研究されている。
今回サビーたちが素早く処置に当たれたのもそのおかげだ。
彼らは戦闘任務についてたんで怪我は日常茶飯事だったから、そこらへんに精通していたみたい。
とはいえこの世界、治療は基本魔法任せ。
魔法がなければ自然治癒力任せだ。
チャールズの見舞いに行くと、彼はベッドで眠っていた。
折れた骨を元の位置に戻す処置の痛みに耐えかねて気を失ったと言うのが正解だろう。
「お館様」
「ザイーダ、どうだ?」
「右足は多分完治しますが……」
「しますが?」
「左の骨折は複雑すぎて元の位置に戻せきれていないんです」
切開手術なんて、この世界の医療技術じゃ無理だもんな……仕方ないって言っていいのか悩むけど、他に言葉が浮かばない。
(命があっただけでも儲けもの)
──って昔、長老が言ってた。
「チャールズは一人暮らしだったか?」
「ええ、でもガブリエルという恋人が」
ほぅ。
「じゃあ、ガブリエルに面倒を見てもらおう」
……ん?
魔法感応力の高いチャールズにガブリエル?
「ガブリエルって物覚えいい?」
「村の女の中じゃクレタに次いで優秀です」
「じゃあ、医学的知識を教えてくれ。君たちにおんぶ抱っこじゃなにかあった時に困る」
「かしこまりました」
看護師、ゲットだぜ!
「容体は?」
中に入る前にサビーに尋ねると
「左上腕骨と左大腿骨の骨折。肋骨も何本かヒビが入っているかも知れないな」
という返事だった。
「詳しい状況を教えてくれ」
「それはワタシがご説明します。村長の指示通り、正面門の左右に物見櫓を建設しておりました。右の櫓はすでに運用中で現在左の櫓を建設中です」
そこは僕も把握している。
足場を組んで骨組み中だった。
「その足場が何かの拍子にぐらりと揺れたらしく、投げ出されたジャスともう一人が九シャッケンほどの高さから地面に落ちたそうです」
「もう一人の安否は?」
「両足の複雑骨折でした」
うわっ……。
「そっちはがザイーダが付いています」
「二人とも歩けるようになるか?」
「ジャスの方は問題ないと思いますが、チャールズの方はうまく骨接ぎ出来なければあるいは……」
チャールズか……。
確か三十代の頭髪が薄い男だった。
多少魔力感応力がある男で、若いうちから修行していれば魔法が使えていたかも知れないと連れてきたときにジョーが紹介していた。
「チャールズの処置が終わったら教えてくれ。あとで見舞いに行く」
「判りました」
ジャスの家に入る際、ふと気になったので僕はリリムに小声で頼みごとをする。
中に入ると、ジャリがやってきた。
「村長」
最近はジャリも僕のことを村長と呼ぶ。
「様子はどうだ? 面会できそう?」
「痛みで唸ってますが、受け答えはできてる」
ひとまず大丈夫かな?
ジャリに案内されて寝室に入ると、彼のいう通り痛みに脂汗を浮かべてベッドで痛みに耐えているジャスがいた。
「村長……」
「災難だったな」
「ええ、午前中まではしっかり組まれていたんですけど、どうも縄が緩んでいたみたいです」
…………。
「今までもそんなことはあったの?」
「塀や蔵を作るときに村長やルダーが口を酸っぱくして言ってたんで、ちゃんと二人以上で確認していたんですけど……」
つまり、今回が初めてってことかな?
「思い出せる範囲でいいから落ちる前のことを詳しく教えてくれないか」
「詳しくですか? ……えーと…………」
説明下手のジャスの話を整理すると、ざっとこんな感じだ。
作業中に例の四人組が見にきて右の物見櫓に登ったりしていた。
どんな風に作っているか見てみたいと一人が言うんで足場にあげて色々と説明した(自慢したかったんだね)。
その男が降りたあと、作業を再開しようと昇ったらぐらりと大きく揺れて投げ出された。
なるほどね。
四人のうち誰が登ると言い出したのか聞いてみたら、思った通りの男だった。
推理ものなら「犯人はお前だ!」ってふん
「しばらくは
「ありがとうございます」
部屋を出たあと、ジャリと二、三話しをする。
腫れが引くまで冷やすこと、腫れが引いたら適度に体を動かすこと、バランスの良い食事をとることだ。
もっとも栄養成分は知りようがないのでバランスってのをどうとればいいかは僕にも判んない。
よく言うのは一汁三菜か……。
ルダーの奧さんになったヘレンに作ってもらえるように頼んどこう。
ジャリに任せるのは無理筋だろうからね。
田舎なせいで医療レベルはびっくりするほど遅れてる。
これは仕方ないことだ。
前世と比べちゃいけないことは重々承知の上でなにか対策を練らなきゃいけない。
ま・なにかもなにもないんだけど。
一にも二にも魔法使い、それも治癒魔法師を仲間に引き入れなきゃダメだ。
魔法さえあれば現代医療もびっくりの治療ができる。
人体構造は治癒魔法の技術に直結しているから相当なレベルまで研究されている。
今回サビーたちが素早く処置に当たれたのもそのおかげだ。
彼らは戦闘任務についてたんで怪我は日常茶飯事だったから、そこらへんに精通していたみたい。
とはいえこの世界、治療は基本魔法任せ。
魔法がなければ自然治癒力任せだ。
チャールズの見舞いに行くと、彼はベッドで眠っていた。
折れた骨を元の位置に戻す処置の痛みに耐えかねて気を失ったと言うのが正解だろう。
「お館様」
「ザイーダ、どうだ?」
「右足は多分完治しますが……」
「しますが?」
「左の骨折は複雑すぎて元の位置に戻せきれていないんです」
切開手術なんて、この世界の医療技術じゃ無理だもんな……仕方ないって言っていいのか悩むけど、他に言葉が浮かばない。
(命があっただけでも儲けもの)
──って昔、長老が言ってた。
「チャールズは一人暮らしだったか?」
「ええ、でもガブリエルという恋人が」
ほぅ。
「じゃあ、ガブリエルに面倒を見てもらおう」
……ん?
魔法感応力の高いチャールズにガブリエル?
「ガブリエルって物覚えいい?」
「村の女の中じゃクレタに次いで優秀です」
「じゃあ、医学的知識を教えてくれ。君たちにおんぶ抱っこじゃなにかあった時に困る」
「かしこまりました」
看護師、ゲットだぜ!