第214話 ヒロガリー区侵攻 1
文字数 2,792文字
「あとは頼むぞ」
僕は見送りに出てきた使用人たちの中で執事のコンドー・ノレマソに声をかける。
「お任せください」
「サラもな」
「ご武運を」
チラリと随行するキャラに視線を向けて下を向かれる。
多少後ろ暗いがこればっかりは仕方ないのだよ、なにせオギンのいない領内でキャラ以外に忍者部隊(諜報部隊という以上の仕事があって適切な表現がこの国になかったので、そう呼ぶことにした)を指揮できるものがいないのだから。
僕はあえてキャラへと視線が行かないようにだいぶ重くなったミリィを抱き上げる。
「またしばらく留守にするけど、いい子にしているんだぞ」
「あい!」
女の子は男親に似るというが、ほっぺはサラにそっくりだ。
「行ってくる」
ミリィを下ろすとサッとひるがえって館を後にする。
春の農繁期が一段落すると同時に、僕は出征の軍勢を催した。
秋の収穫時期までにヒロガリー区の半分を手中に収める計画だ。
そのヒロガリー区は八町三十六ヶ村。
男爵領だった頃のオグマリー区三町十三ヶ村と商都ゼニナルや、ハングリー区二町六ヶ村と比較するまでもなく豊かな土地だ。
これを五百人足らずの軍勢で攻略しようというのだからなかなか大胆な計画だろう。
斜面に建てられた館を下りて城下を通り、最近兵たちが難関門と呼ぶオグマリー区の蓋である関門へ。
すでに軍勢は集まっている。
あとは僕の号令を待って出陣するだけの状態だ。
関門の司令塔に登ってラバナルの拡声 の魔法を使って軍に檄を飛ばす。
「みな、よく集まってくれた。この戦はオグマリー区を守るための戦いだ。誰もがそう思っているだろう。だがそれだけではない。知っての通りズラカルト男爵は重い税を課し、民百姓を苦しめる。この戦は昔の君たちのように重税に苦しむ者たちを解放する戦いでもあるのだ」
こんなのはきれいごとだ。
けど、大義名分には人を動かす力がある。
自分達を正当化する方便でもある。
社会情勢が混沌とする乱世を生き残るためにはより強い力が必要なんだ。
まずは男爵領を完全に手中に収める。
他の群雄に対抗するためには絶対条件だ。
でなければいずれ大きな勢力に飲み込まれてしまう。
僕の使命は生きること。
リリムはそう言っていた。
たぶん大枠ではその通りだろう。
でも、神が望んでいるのは文明の進歩だ。
僕が生きて、あがいて、世の流れに抗うことで生まれるその発展を期待しているんだと、僕は思っている。
だから僕は戦う。
それこそが運命なんだとしてもだ。
「諸君、私に命を預けてくれ。君たちの誰かが血を流すことで、君たちの家族や恋人、多くの仲間たちが救われる。勇をふるえ! 雄叫びを上げよっ!!」
ドッと雄叫びが上がる。
たった五百人だというのにビリビリと空気が震える。
「出陣!」
関門が開かれ、軍勢が出陣する。
僕の軍は十人一組を最小単位に五組で一隊という兵制だ。。
先鋒はオクサ・バニキッタ。
先鋒には騎兵四組、弓兵五組、槍兵十組の三部隊百九十人がホーク・サイ、ザイーダ・ベック、ギラン、ジャミルトを隊長に配属されている。
槍隊の隊長であるギランとジャミルトは僕がまだ最奥の村の村長だった頃からの反お館派で、ザイーダはその頃から飛び道具の指揮を任せていた。
もちろんホークはオルバック家がオグマリー区を支配していた頃からの由緒正しき騎士である。
これに魔法部隊が二隊、そしてラバナルが組み込まれている。
次鋒はオクサの弟ラビティア・バニキッタ。
騎兵四組、弓兵五組、槍兵八組でそれぞれノサウス・クレインバレー、イラード・タン、ガーブラ・ウォウウォウが隊長だ。
イラードもガーブラも最奥の村以来の信頼できる旧臣だ。
ノサウスは二の町(現ハンジー町)でチカマックの武官として任務に当たっていた騎士である。
槍兵八組は実質二部隊なのでガーブラには副隊長としてセイ・シャーラックをつけた。
魔法部隊三隊、旧来の魔法使い五人が随行している。
本隊は当然僕を大将に騎兵二組、槍兵二組、魔法部隊一隊だが少数精鋭だ。
チカマックとドブルそれにチャールズがそれぞれの部隊を指揮する。
本体に所属しているが忍者部隊約二十人はキャラに率いられて隠密裡に先発している。
殿 にはカイジョー。
カシオペア隊のカイジョー、シメイ、オーダイ、ペギー、アーシカ、電撃隊のバンバ・ワン、カレン、ブンター、フィーバー隊のジャパヌ、フラヌス、ケーニャ、クッサーク、アメリア、それにチロー・トーキが各一組を指揮していて、ここに旧来の魔法使いが五人いる。
今回、ルビンス・ヨンブラムは居残りで関門守備兵二百人と魔法使い五人を預けている。
まぁ、敗走でもしない限り、ルビンスの出番はないはずだ。
そして、ハングリー区にはルビレル・ヨンブラムとダイモンド・アイザー、サビー・タンがいる。
現有戦力としてはあと百数十人は動員できるけど、指揮官が足りない。
組長は務まっても隊長が務まるほどの人材が育っていないのは、実践経験が乏しいからだろう。
そもそもほとんどが農民兵だしな。
騎兵には何十人かの騎士がいるけど、彼らをみんな隊長にしたら騎兵隊が崩壊してしまう。
そうそう、本隊と殿の間には輜重隊と衛生部隊がいる。
さすがに数ヶ月では改良型が完成するわけもなく、蒸気機関アシスト車をホルスに引かせているけどな。
「のどかですな。進軍しているとは思えないですよ」
なんてドブルがいう。
春のぽかぽか陽気もあってピクニック気分なのだろうか?
元々反お館派のメンバーである彼はやはりどこか抜けている。
村の権力争いだった頃はそれでもいいんだけど、今や領土を拡大しようっていう局面でこんな呑気じゃ困るんだよね。
ガーブラも陽気で似てるとこはあるけど、ちょっと違うんだなぁ。
いざという時の実力にも差があるし、近衛には本当はガーブラにいて欲しいんだけど、ドブルじゃ隊長は務まんないしな。
「一応は敵地なんだから、適度な緊張感を持ってもらいたい」
と、釘を刺しておこう。
関門から最初の集落までは三日、これは整備の行き届かない街道を進む日程だ。
距離で言うとバロ村からボット村くらいの距離だから、領内のように整備されれば一日で到着できるだろう。
この間、何事もなく進軍を続けて村を通る。
不意に現れた軍勢に村人が縮こまるのはいつものこと。
チローに交渉を任せて、村の少し先に野営をする。
次の村まで一日、その一日先に最初の町がある。
事前情報によれば、町の人口四百人。
そこから推測して傭兵がいて、民兵を含めても兵力で百人から多くても百二十人程度だろう。
昨年の関門戦の戦死者数を考えると、もっと少ないかもしれない。
少なくともこの緒戦で負けることは万に一つもあり得ない。
この町を陥せば周囲五ヶ村が勢力圏に入ることになる。
さて、やりますか。
僕は見送りに出てきた使用人たちの中で執事のコンドー・ノレマソに声をかける。
「お任せください」
「サラもな」
「ご武運を」
チラリと随行するキャラに視線を向けて下を向かれる。
多少後ろ暗いがこればっかりは仕方ないのだよ、なにせオギンのいない領内でキャラ以外に忍者部隊(諜報部隊という以上の仕事があって適切な表現がこの国になかったので、そう呼ぶことにした)を指揮できるものがいないのだから。
僕はあえてキャラへと視線が行かないようにだいぶ重くなったミリィを抱き上げる。
「またしばらく留守にするけど、いい子にしているんだぞ」
「あい!」
女の子は男親に似るというが、ほっぺはサラにそっくりだ。
「行ってくる」
ミリィを下ろすとサッとひるがえって館を後にする。
春の農繁期が一段落すると同時に、僕は出征の軍勢を催した。
秋の収穫時期までにヒロガリー区の半分を手中に収める計画だ。
そのヒロガリー区は八町三十六ヶ村。
男爵領だった頃のオグマリー区三町十三ヶ村と商都ゼニナルや、ハングリー区二町六ヶ村と比較するまでもなく豊かな土地だ。
これを五百人足らずの軍勢で攻略しようというのだからなかなか大胆な計画だろう。
斜面に建てられた館を下りて城下を通り、最近兵たちが難関門と呼ぶオグマリー区の蓋である関門へ。
すでに軍勢は集まっている。
あとは僕の号令を待って出陣するだけの状態だ。
関門の司令塔に登ってラバナルの
「みな、よく集まってくれた。この戦はオグマリー区を守るための戦いだ。誰もがそう思っているだろう。だがそれだけではない。知っての通りズラカルト男爵は重い税を課し、民百姓を苦しめる。この戦は昔の君たちのように重税に苦しむ者たちを解放する戦いでもあるのだ」
こんなのはきれいごとだ。
けど、大義名分には人を動かす力がある。
自分達を正当化する方便でもある。
社会情勢が混沌とする乱世を生き残るためにはより強い力が必要なんだ。
まずは男爵領を完全に手中に収める。
他の群雄に対抗するためには絶対条件だ。
でなければいずれ大きな勢力に飲み込まれてしまう。
僕の使命は生きること。
リリムはそう言っていた。
たぶん大枠ではその通りだろう。
でも、神が望んでいるのは文明の進歩だ。
僕が生きて、あがいて、世の流れに抗うことで生まれるその発展を期待しているんだと、僕は思っている。
だから僕は戦う。
それこそが運命なんだとしてもだ。
「諸君、私に命を預けてくれ。君たちの誰かが血を流すことで、君たちの家族や恋人、多くの仲間たちが救われる。勇をふるえ! 雄叫びを上げよっ!!」
ドッと雄叫びが上がる。
たった五百人だというのにビリビリと空気が震える。
「出陣!」
関門が開かれ、軍勢が出陣する。
僕の軍は十人一組を最小単位に五組で一隊という兵制だ。。
先鋒はオクサ・バニキッタ。
先鋒には騎兵四組、弓兵五組、槍兵十組の三部隊百九十人がホーク・サイ、ザイーダ・ベック、ギラン、ジャミルトを隊長に配属されている。
槍隊の隊長であるギランとジャミルトは僕がまだ最奥の村の村長だった頃からの反お館派で、ザイーダはその頃から飛び道具の指揮を任せていた。
もちろんホークはオルバック家がオグマリー区を支配していた頃からの由緒正しき騎士である。
これに魔法部隊が二隊、そしてラバナルが組み込まれている。
次鋒はオクサの弟ラビティア・バニキッタ。
騎兵四組、弓兵五組、槍兵八組でそれぞれノサウス・クレインバレー、イラード・タン、ガーブラ・ウォウウォウが隊長だ。
イラードもガーブラも最奥の村以来の信頼できる旧臣だ。
ノサウスは二の町(現ハンジー町)でチカマックの武官として任務に当たっていた騎士である。
槍兵八組は実質二部隊なのでガーブラには副隊長としてセイ・シャーラックをつけた。
魔法部隊三隊、旧来の魔法使い五人が随行している。
本隊は当然僕を大将に騎兵二組、槍兵二組、魔法部隊一隊だが少数精鋭だ。
チカマックとドブルそれにチャールズがそれぞれの部隊を指揮する。
本体に所属しているが忍者部隊約二十人はキャラに率いられて隠密裡に先発している。
カシオペア隊のカイジョー、シメイ、オーダイ、ペギー、アーシカ、電撃隊のバンバ・ワン、カレン、ブンター、フィーバー隊のジャパヌ、フラヌス、ケーニャ、クッサーク、アメリア、それにチロー・トーキが各一組を指揮していて、ここに旧来の魔法使いが五人いる。
今回、ルビンス・ヨンブラムは居残りで関門守備兵二百人と魔法使い五人を預けている。
まぁ、敗走でもしない限り、ルビンスの出番はないはずだ。
そして、ハングリー区にはルビレル・ヨンブラムとダイモンド・アイザー、サビー・タンがいる。
現有戦力としてはあと百数十人は動員できるけど、指揮官が足りない。
組長は務まっても隊長が務まるほどの人材が育っていないのは、実践経験が乏しいからだろう。
そもそもほとんどが農民兵だしな。
騎兵には何十人かの騎士がいるけど、彼らをみんな隊長にしたら騎兵隊が崩壊してしまう。
そうそう、本隊と殿の間には輜重隊と衛生部隊がいる。
さすがに数ヶ月では改良型が完成するわけもなく、蒸気機関アシスト車をホルスに引かせているけどな。
「のどかですな。進軍しているとは思えないですよ」
なんてドブルがいう。
春のぽかぽか陽気もあってピクニック気分なのだろうか?
元々反お館派のメンバーである彼はやはりどこか抜けている。
村の権力争いだった頃はそれでもいいんだけど、今や領土を拡大しようっていう局面でこんな呑気じゃ困るんだよね。
ガーブラも陽気で似てるとこはあるけど、ちょっと違うんだなぁ。
いざという時の実力にも差があるし、近衛には本当はガーブラにいて欲しいんだけど、ドブルじゃ隊長は務まんないしな。
「一応は敵地なんだから、適度な緊張感を持ってもらいたい」
と、釘を刺しておこう。
関門から最初の集落までは三日、これは整備の行き届かない街道を進む日程だ。
距離で言うとバロ村からボット村くらいの距離だから、領内のように整備されれば一日で到着できるだろう。
この間、何事もなく進軍を続けて村を通る。
不意に現れた軍勢に村人が縮こまるのはいつものこと。
チローに交渉を任せて、村の少し先に野営をする。
次の村まで一日、その一日先に最初の町がある。
事前情報によれば、町の人口四百人。
そこから推測して傭兵がいて、民兵を含めても兵力で百人から多くても百二十人程度だろう。
昨年の関門戦の戦死者数を考えると、もっと少ないかもしれない。
少なくともこの緒戦で負けることは万に一つもあり得ない。
この町を陥せば周囲五ヶ村が勢力圏に入ることになる。
さて、やりますか。