第135話 オグマリー市攻城戦 3
文字数 2,243文字
オグマリー市攻略戦二日目。
この日は東西時を同じくして戦端を開く。
僕らは腹いっぱいに朝食を食べさせて全軍を昨日の戦場まで前進する。
今日は夜まで食事はお預けだ。
「お館様」
ルビレルが昼を前にホルスを寄せてくる。
「軍気が動いています」
なんだそれ、そんなことまで判るのか?
いや、僕も直接対峙していれば攻める気守る気強気に弱気、そんなものは判るぞ。
だけど、直接視認できるところに敵はいないじゃないか。
これはなんだ、経験値の差か?
それとも特殊能力か?
「報告」
直後にチャールズが西門からの報告を入れる。
「『城内で動きがある模様。注意されたし』とのことです。あ、待ってください。……東門からも伝令です。『守りの矢幕が無意味に厚い。動いてくるぞ』だそうです」
実際に戦っているやつらも同じものを感じているってことだな。
「よし、こちらも迎撃態勢を取れ」
「はっ」
ルビレル自身が伝令に走る。
心なしか嬉々とした後ろ姿だ。
戦うのが待ち遠しいんだろうか?
僕はできれば戦いたくないんだけど。
それから一時間半が過ぎた。
人の集中力は長くは続かない。
かといって一度集中を解くと再度集中するのはなかなか難しい。
どうしようかと悩んていると、今度はガーブラがホルスを寄せてくる。
「来ますぜ、お館様」
まじか。
前方に目を凝らすと土煙が上がっている。
すげーな、みんな。
「構え!」
ドン、と太鼓を打ち鳴らす。
合図に合わせて兵たちが臨戦態勢に入る。
土煙の向こうから軍の生み出す音が聞こえてきた。
タイミングを見極めるのは難しい。
どの兵種をどのように運用すればいいのか?
敵の軍容が掴めないので決めかねる。
ええい、ままよ。
向こうにもこちらの気配は伝わっているだろう。
あ、そうだ。
「チャールズ」
「はい」
「望遠鏡 の魔法で敵を確認できないか?」
これも僕とチカマックが前世の知識で理論を伝え、ラバナルとチャールズで開発した新魔法だ。
もともと拡大鏡 という空気を使って凸レンズを作る魔法は存在していたのだけれど、主に手元の小さなものを観察するのに使うものだった。
地球世界でも水晶などの宝石を磨いて作られる凸レンズが十三世紀には利用されている。
この世界でも同様のものがあるけれど、このレンズでは透明度が低く遠くを見るには適さない。
地球では十四世紀からガラスの製造が盛んになり透明度の高いレンズが普及し、一六〇八年にオランダのリッペルスハイという人物が屈折望遠鏡を発明したことになっている。
「お待ちを」
凹凸二つのレンズを組み合わせ、倍率と焦点を合わせる仕組みの地球世界でいうガリレオ式望遠鏡を魔法で再現するのは非常に繊細な制御が必要で、当初とても難航していたのだけれど、なにもすべてを魔法で再現する必要はないと筒を用意したことであっという間に完成した。
ただし、現在はまだ魔力の消費が激しく術者が魔力を提供し続けなくてはいけないのと、倍率二十倍固定でまだまだ改良の余地がある。
「騎兵二十騎、剣兵百以上。百二十はくだらないかと思われます。八半時間とかからず接敵します」
余談だけどこの世界は一日二十時間、一時間をさらに細かく区切る単位は存在していなくて半時間、四半時間、八半時間と区切る。
しかし、敵の参謀もやりますねぇ。
南門側にも相当数の軍勢がいると見越した軍容だ。
これだけの軍勢で攻めれば、救援の使者を一人は送り出せると踏んだんだろう。
確かにこちらは使者を一人も通したくないから無理をせざるを得ない。
仮に使者の阻止ができたとしても損害は大きいに違いない。
(そもそも分が悪い勝負だよなぁ)
昨日の一戦でこちらは十八騎が戦った。
だから二十騎揃えてきたんだろう。
でも、残念ながらこちらの騎兵が全部で十八騎とは限らないんだなぁ。
騎兵隊十八騎の他にカシオペアの五人にホルスを与えている。
全部で二十三騎いるんだ。
もっとも、槍兵と歩兵を指揮するカイジョーとシメイは騎兵戦には参戦できないだろうから二十一対二十か。
「よいか、この一戦はオグマリー区制圧における最重要の戦いだ。死力を尽くして奮戦せよ! 一兵たりとも討ち漏らすな、突撃ーっ!!」
号令一下、突撃の銅鑼 がなり全軍が走り出す。
「騎兵、数が近い。狙いを報告せよ」
ホルスを駆りながら叫ぶと、次々と自分が狙う騎兵の特徴を叫ぶ。
「ペギー、ウータは二人で一騎だ」
「では、ペギー殿にお任せします」
判断が早い。
(ジャンは一人で大丈夫?)
リリムの心配はもっともだ。
(悔しいけど、僕は男なんだな)
(またガンダムネタ?)
(よくお判りで)
(ま。余裕あるのね)
(逃げ出したいのを誤魔化してるだけさ)
騎兵同士が激突する。
この世界の主兵装が剣で本当によかった。
これがランス兵だったら抜かれていただろう。
内股でホルスを強く挟み、左手の手綱で巧みに操りながら敵の攻撃をかいくぐって反撃する。
正直いって目の前の処理にいっぱいいっぱいで、先を読むなんててんで無理だ。
何合撃ち合ったかも覚えていないけど、忘れるほどの回数じゃなかったに違いない。
「助太刀!」
「ぬっ! 卑怯な」
と、聞こえて僕の相手は血を吹いた。
ルビンスだった。
もう、自分の相手を倒して合力にきてくれたのか。
「お館様、ご無事でなにより。ワタシは苦戦しているものの助力に参ります」
いって颯爽と駆けていく。
惚れる。
カッコよすぎだろ。
戦場じゃもしかしたら我が軍随一なんじゃねーの?
この日は東西時を同じくして戦端を開く。
僕らは腹いっぱいに朝食を食べさせて全軍を昨日の戦場まで前進する。
今日は夜まで食事はお預けだ。
「お館様」
ルビレルが昼を前にホルスを寄せてくる。
「軍気が動いています」
なんだそれ、そんなことまで判るのか?
いや、僕も直接対峙していれば攻める気守る気強気に弱気、そんなものは判るぞ。
だけど、直接視認できるところに敵はいないじゃないか。
これはなんだ、経験値の差か?
それとも特殊能力か?
「報告」
直後にチャールズが西門からの報告を入れる。
「『城内で動きがある模様。注意されたし』とのことです。あ、待ってください。……東門からも伝令です。『守りの矢幕が無意味に厚い。動いてくるぞ』だそうです」
実際に戦っているやつらも同じものを感じているってことだな。
「よし、こちらも迎撃態勢を取れ」
「はっ」
ルビレル自身が伝令に走る。
心なしか嬉々とした後ろ姿だ。
戦うのが待ち遠しいんだろうか?
僕はできれば戦いたくないんだけど。
それから一時間半が過ぎた。
人の集中力は長くは続かない。
かといって一度集中を解くと再度集中するのはなかなか難しい。
どうしようかと悩んていると、今度はガーブラがホルスを寄せてくる。
「来ますぜ、お館様」
まじか。
前方に目を凝らすと土煙が上がっている。
すげーな、みんな。
「構え!」
ドン、と太鼓を打ち鳴らす。
合図に合わせて兵たちが臨戦態勢に入る。
土煙の向こうから軍の生み出す音が聞こえてきた。
タイミングを見極めるのは難しい。
どの兵種をどのように運用すればいいのか?
敵の軍容が掴めないので決めかねる。
ええい、ままよ。
向こうにもこちらの気配は伝わっているだろう。
あ、そうだ。
「チャールズ」
「はい」
「
これも僕とチカマックが前世の知識で理論を伝え、ラバナルとチャールズで開発した新魔法だ。
もともと
地球世界でも水晶などの宝石を磨いて作られる凸レンズが十三世紀には利用されている。
この世界でも同様のものがあるけれど、このレンズでは透明度が低く遠くを見るには適さない。
地球では十四世紀からガラスの製造が盛んになり透明度の高いレンズが普及し、一六〇八年にオランダのリッペルスハイという人物が屈折望遠鏡を発明したことになっている。
「お待ちを」
凹凸二つのレンズを組み合わせ、倍率と焦点を合わせる仕組みの地球世界でいうガリレオ式望遠鏡を魔法で再現するのは非常に繊細な制御が必要で、当初とても難航していたのだけれど、なにもすべてを魔法で再現する必要はないと筒を用意したことであっという間に完成した。
ただし、現在はまだ魔力の消費が激しく術者が魔力を提供し続けなくてはいけないのと、倍率二十倍固定でまだまだ改良の余地がある。
「騎兵二十騎、剣兵百以上。百二十はくだらないかと思われます。八半時間とかからず接敵します」
余談だけどこの世界は一日二十時間、一時間をさらに細かく区切る単位は存在していなくて半時間、四半時間、八半時間と区切る。
しかし、敵の参謀もやりますねぇ。
南門側にも相当数の軍勢がいると見越した軍容だ。
これだけの軍勢で攻めれば、救援の使者を一人は送り出せると踏んだんだろう。
確かにこちらは使者を一人も通したくないから無理をせざるを得ない。
仮に使者の阻止ができたとしても損害は大きいに違いない。
(そもそも分が悪い勝負だよなぁ)
昨日の一戦でこちらは十八騎が戦った。
だから二十騎揃えてきたんだろう。
でも、残念ながらこちらの騎兵が全部で十八騎とは限らないんだなぁ。
騎兵隊十八騎の他にカシオペアの五人にホルスを与えている。
全部で二十三騎いるんだ。
もっとも、槍兵と歩兵を指揮するカイジョーとシメイは騎兵戦には参戦できないだろうから二十一対二十か。
「よいか、この一戦はオグマリー区制圧における最重要の戦いだ。死力を尽くして奮戦せよ! 一兵たりとも討ち漏らすな、突撃ーっ!!」
号令一下、突撃の
「騎兵、数が近い。狙いを報告せよ」
ホルスを駆りながら叫ぶと、次々と自分が狙う騎兵の特徴を叫ぶ。
「ペギー、ウータは二人で一騎だ」
「では、ペギー殿にお任せします」
判断が早い。
(ジャンは一人で大丈夫?)
リリムの心配はもっともだ。
(悔しいけど、僕は男なんだな)
(またガンダムネタ?)
(よくお判りで)
(ま。余裕あるのね)
(逃げ出したいのを誤魔化してるだけさ)
騎兵同士が激突する。
この世界の主兵装が剣で本当によかった。
これがランス兵だったら抜かれていただろう。
内股でホルスを強く挟み、左手の手綱で巧みに操りながら敵の攻撃をかいくぐって反撃する。
正直いって目の前の処理にいっぱいいっぱいで、先を読むなんててんで無理だ。
何合撃ち合ったかも覚えていないけど、忘れるほどの回数じゃなかったに違いない。
「助太刀!」
「ぬっ! 卑怯な」
と、聞こえて僕の相手は血を吹いた。
ルビンスだった。
もう、自分の相手を倒して合力にきてくれたのか。
「お館様、ご無事でなにより。ワタシは苦戦しているものの助力に参ります」
いって颯爽と駆けていく。
惚れる。
カッコよすぎだろ。
戦場じゃもしかしたら我が軍随一なんじゃねーの?