第140話 オグマリー市攻城戦 8

文字数 2,321文字

 治療を終え、チャールズはでていった。
 だるさは残っているが、痛みはすっかり取れている。

(だるいのは、魔力を消費しているからね)

(魔力って魔法が使えない人間も持っているものなのか?)

(さっきも言った通り気と魔力は生命力の根源でこの世界の万物はどちらも持っているのよ。それをコントロールできるものが魔法使いってだけ)

 …………。

(それってもしかして、訓練次第で魔法が使える人が増える可能性ない?)

 これまでは生まれつき(ナチュラルボーン)でなければ魔法使いになれないと言われてきた。
 けれど、修行次第で魔力を感知できるようになるというのならその先に魔法を扱えるようになる存在が生まれる。
 ペギーが魔力感応力で魔道具糸電話(テレフォン)の使用者に選ばれたように。
 少なくともペギーレベルの感応力を持った人間が育成できるようになれば通信兵が組織できるようになる。
 情報の正確性と速報性は競争の勝敗を左右する。
 勝敗の決定的要素にはなり得なくても戦略の成功確率を向上させる。

(……そうね、試してみる価値はあるかもね)

 そんな話をしていると、一通の飛行(エア)手紙(メール)が届いた。

(誰から?)

 手紙を開くと、それはオギンからだった。

『オグマリー市の食料事情極めて悪し。本日、食糧を要求する暴動発生。一部傭兵のボイコットもあり。軍部も継戦派と停戦派に分かれつつある模様。ただし、停戦派は降伏派と休戦を主張するグループがある。我、明日停戦派に接触を試みるつもり』

 僕はサッと飛行手紙を取り出して

『接触は一日待て』

 とだけしたためて紙飛行機を折り、天幕を出る。

「すまないがチャールズを呼び戻してくれ」

 と、護衛兵に指示を出して飛行手紙を飛ばす。
 ほどなくチャールズが戻ってきた。

「疲れているだろうが、チカマックに連絡を取りたい。移動(モバイル)電話(テレホン)で呼び出してくれ」

「かしこまりました。移動電話をとってきますので今しばらくお待ちください」

 ああ、護衛兵に先に指示しておかなかったせいで二度手間になったか。
 僕はその間にざっと明日の計画を書いた手紙をしたためてザイーダ宛に飛ばす。
 チャールズは戻ってくると慣れた手つきで連絡の準備をする。

「どれくらい話せる?」

 今日は戦闘に治療にと魔法を使い続けている。
 今、倒れられて一番困るのは僕よりチャールズだ。

「そうですね。四半時間といったところでしょうか」

 だらだら話しているとあっという間に過ぎてしまう時間だな。
 僕は、連絡を取るのを少し待ってもらって、紙に連絡事項を書き出していく。
 時折チャールズに助言を求めながら修正を加えて読み返す。
 伝えるだけなら日本時間で二、三分ってとこだろう。
 実際、連絡をとって概要を話し、質問に答えても八半時間を少し超えたくらいで連絡を終了できた。
 実家に長距離電話した時はこんなだったなぁ……なんて、前世を懐かしく思い出したりする。

 翌日。
 オグマリー市を包囲して十日目だ。
 今日は警戒態勢だけはおこたっていないが、なにもないだろう。
 朝イチで西陣のチカマックに降伏勧告をさせている。
 東陣のザイーダには今日は敵から仕掛けない限り戦闘はしないようにと指示を出している。
 日暮れ前、一通の飛行手紙が届く。
 期待に胸を膨らませて手紙を開くと、送り主はベハッチだった。

『あと、数日で落とせそうですか?』

 で始まり、農作物の収穫時期の懸念とズラカルト男爵の徴税官がくることの不安が綴られていた。

(うわっ……すっかり忘れていた)

 僕の軍は基本足軽農民兵で構成されている。
 日本の歴史にならって軍制をしいているからだ。
 そうしないとまとまった軍団を編成できない事情もある。
 にもかかわらず失念していたこの事実。
 ベハッチは収穫を気にして兵の士気が下がるぞとご注進してくれたわけだ。

(どうするの?)

(どうするもこうするもないよ。まずは降伏勧告にどう反応するか待つ。降伏を受け入れなかったらその時改めて別の策を考える)

 その時は少し強引な戦術を取らざるを得ないか?
 と、戦々恐々としているともう一通の飛行手紙が送られてきた。
 祈る思いで手紙を読み始めると、明日の正午に停戦の使者が来るという連絡だった。

(よし! 運はある。まだ神には見放されてない)

 と、心の中でガッツポーズを決めたら涼しい顔でリリムがこういった。

(そりゃしょうでしょ、誰があなたをこの世界に転生させたと思ってるのよ)

 あ、そうか。

 チカマックは使者をこちらに寄越させると書いてきた。
 今日、わざわざチカマックに降伏勧告をさせたのは、彼がオルバックにとって裏切り者であっても一群を任せた行政官だったから、チカマックからの勧告なら検討するだろうと思ったからだ。
 案の定、オルバックは停戦協定に応じる構えを見せてきた。
 おそらくだけど、オルバックはそのままチカマックと有利な条件で停戦しようと企んだに違いない。
 ところがオルバックよりチカマックの方が一枚上手で、協議の相手は僕であると振ってきた。
 めんどくさいことをぶん投げてきたってのもあるんだろうけど、僕との主従関係をはっきり示すためでもあったに違いない。
 絶対僕より交渉力あるだろ、あいつ。
 次からは外交関係でこき使ってやる。

 開戦十一日目。
 戦場になった場所をさらに進めた場所に会談場を設けて僕は待っていた。
 臨席するのはルビレル、ガーブラとチャールズ。

(私は?)

 ……と、リリム。
 正午が近づいてオグマリー市からホルスの一団がやってきた。

「チャールズ、ルビレルに交渉相手を確認させてくれ」

「かしこまりました」

「ルビレル、どうだ?」

「ご安心ください。Jr(ジュニア).ではございません。オクサ・バニキッタですな」

 よし、とりあえず第一関門突破だ!
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