第113話 お館様はオグマリー区攻略に動き出す
文字数 2,336文字
「夏の間に領地を拡げるですって!?」
と、ルビンスが驚くのも無理はない。
ちなみに今はセザン村視察からの帰りで一泊したボット村を朝早くに出発し、二の宿を越えたあたりだ。
街道整備の恩恵でバロ村からセザン村までホルスで片道二日。
歩きでも健脚なら三日で着くそうだから、五日もかかっていたのが嘘見たいだろ?
あの日から僕の旅のお供はルビンスと相場が決まっている。
視察はとても順調だった。
どちらの村も村人の数が増えたのでスムーズに種蒔を終えていた。
ルダーの見立てでは今年は天災などがなければ大豊作が見込めるそうだ。
嬉しいじゃないか。
ルダーの前世知識で農業の近代化に成功し、平年並みでも収穫量が二割から三割増しの我が領内にあって大豊作が見込めるとか、こんな嬉しいことはない。
判ってくれるよね、ララァにはいつでも会いに……じゃない。
ファースト世代はすぐにこれだ。
こんなタイミングに領地を拡張しない手はない。
「オギンたちの報告じゃ、僕の支配下に入りたい村が多いっていうだろ?」
「報告書には目を通しています。オグマリー市に遠い一町三村の集落 とセザン村との距離が近い第四中の村が帰順の意志を内々に示しているとか」
「そう。そこでこの夏の間に無血で編入しようと思うんだ」
「それが可能であれば他の村もこちらになびきそうですが、一昨年第三中の村行きを断念したのは人材不足が理由ではありませんでしたか?」
口調がすっかり僕の部下って感じになったね。
「確かに人材不足は今も課題だけれど、揃うのを待っていたら時代に取り残されてしまう。乱世で取り残されるということがどういうことかは想像できるだろう?」
「それは……お館様には勝算がおありということですか」
「うん、話によればズラカルト男爵は今年も税率を上げる決定をしたそうじゃないか」
特に軍備を強化するでもなく毎年税率を上げていて、今年ついに収穫の七割五分を徴収する布令が回ったと報告があった。
これさ、僕が原因の一端なんだよね。
三村分の収入がなくなった分を他の村に割り当てたんだろ?
年が明けて早々にそういう布令が出されたのは予想以上に減収が響いているということな気がするんだ。
「だから西側コロニーを抱き込めば、東側も雪崩を打って帰順してくるんじゃないかと……」
「なるほど。西のコロニーの先は山脈を挟んでブチーチン帝国。戦力の分散を極力抑える観点からも先に攻略すべき地域です。それが流血なしで支配下に収めることができるなら、これ以上の戦果はありません」
さすがにオグマリー区で男爵の代官オルバック家の騎士だった人物だ。
戦略意図、要諦をよく理解している。
「コロニーの中心に町があるんだろう?」
「はい。三村を監督し農繁期に人材を提供するなどの目的で作られた町で、確か人口が六百人ほどだったかと」
「五、六十人うちの村に来ているそうだけどね」
それでも五百人以上いるってことだ。
「でも、繁忙期の農作業の手伝いにそんなに人いる?」
「いりませんよ」
じゃあなんで六百人もの人口をため込んでいるんだ?
「セザン村と第三中の村との間にグリフ族のテリトリーがあるのはご存知ですよね?」
「ああ」
「西の山脈には頻繁に山から降りてくるモンスターが複数種います」
「町ってのは駐屯地なのか」
「そういう側面もあるということです。三つの村はおそらく問題なく吸収できるでしょう」
「問題は町か」
「ええ、荒くれた傭兵なども常駐していたりします。指導者が恭順の意思を示したからと言って町全体が帰順するとは限りません」
それは厄介だ。
「ルビンスは西のコロニーに詳しいようだな」
「いえ、ほとんどが父の受け売りです」
ルビレルの?
「父は若い頃、守備隊の騎兵隊長をしていたそうですから」
ありがたい情報提供だ。
バロ村に戻った僕は早速ルビレルを呼び出して打ち合わせを始める。
やがて報告に戻ってきたオギンたちとも協議して日取りを決め、盛夏で青々と萌えるフレイラ畑の中を二台の二頭立てホルス車で出発した。
先頭のホルス車には御者にチロー、ルビレルとルビンス、それに護衛のサビーとガーブラが乗っている。
台車は広く五人が寝られるように作られているのは去年のうちに発注していた使者用だ。
僕の乗っている二台目はもう少し豪華に造られている。
豪華なのは示威 目的だよ。
御者は護衛を兼ねてザイーダが勤めてくれている。
台車の中には僕とサラ、そしてサラの身の回りの世話係としてセザン村からカルホを連れてきている。
これも格式の強調のためだ。
普段は館で深窓の令嬢として過ごしているサラを連れ出したのはぶっちゃけ政治利用である。
先触れにくノ一衆(オギン、キャラ、キキョウ、コチョウ、ホタル)を送り込んでいる。
第三中の村はくノ一だけでも用は足せると思う。
問題はその先の町だな。
町さえ降せばさらに先の第一中の村、第二中の村は手中に収めたも同然だ。
セザン村までは当たり前につつがなく通過する。
「久しぶりの旅だけど、疲れないかい?」
ここまで二日、この二年近く普段はイゼルナを付き人になに不自由なく暮らしてきたサラである。
突然の長旅を心配して声をかけると、彼女は屈託のない笑顔でこう答えた。
「旅は久しぶりですけれど、普段から体は動かしていますから、むしろ体が鈍ってしまわないか心配です」
あー、かわいい。
婚約をした日からしばらくはぎこちなかった関係も今では日常会話もギクシャクしないくらいにはなった。
それ以上の進展はないんだけどね。
今の所婚約して同じ家(館)には住んでいるけれど、清く正しい交際をしている男女関係だ。
恋愛しているという実感には乏しいけどね。
(ご愁傷様)
うっさいわっ!
と、ルビンスが驚くのも無理はない。
ちなみに今はセザン村視察からの帰りで一泊したボット村を朝早くに出発し、二の宿を越えたあたりだ。
街道整備の恩恵でバロ村からセザン村までホルスで片道二日。
歩きでも健脚なら三日で着くそうだから、五日もかかっていたのが嘘見たいだろ?
あの日から僕の旅のお供はルビンスと相場が決まっている。
視察はとても順調だった。
どちらの村も村人の数が増えたのでスムーズに種蒔を終えていた。
ルダーの見立てでは今年は天災などがなければ大豊作が見込めるそうだ。
嬉しいじゃないか。
ルダーの前世知識で農業の近代化に成功し、平年並みでも収穫量が二割から三割増しの我が領内にあって大豊作が見込めるとか、こんな嬉しいことはない。
判ってくれるよね、ララァにはいつでも会いに……じゃない。
ファースト世代はすぐにこれだ。
こんなタイミングに領地を拡張しない手はない。
「オギンたちの報告じゃ、僕の支配下に入りたい村が多いっていうだろ?」
「報告書には目を通しています。オグマリー市に遠い一町三村の
「そう。そこでこの夏の間に無血で編入しようと思うんだ」
「それが可能であれば他の村もこちらになびきそうですが、一昨年第三中の村行きを断念したのは人材不足が理由ではありませんでしたか?」
口調がすっかり僕の部下って感じになったね。
「確かに人材不足は今も課題だけれど、揃うのを待っていたら時代に取り残されてしまう。乱世で取り残されるということがどういうことかは想像できるだろう?」
「それは……お館様には勝算がおありということですか」
「うん、話によればズラカルト男爵は今年も税率を上げる決定をしたそうじゃないか」
特に軍備を強化するでもなく毎年税率を上げていて、今年ついに収穫の七割五分を徴収する布令が回ったと報告があった。
これさ、僕が原因の一端なんだよね。
三村分の収入がなくなった分を他の村に割り当てたんだろ?
年が明けて早々にそういう布令が出されたのは予想以上に減収が響いているということな気がするんだ。
「だから西側コロニーを抱き込めば、東側も雪崩を打って帰順してくるんじゃないかと……」
「なるほど。西のコロニーの先は山脈を挟んでブチーチン帝国。戦力の分散を極力抑える観点からも先に攻略すべき地域です。それが流血なしで支配下に収めることができるなら、これ以上の戦果はありません」
さすがにオグマリー区で男爵の代官オルバック家の騎士だった人物だ。
戦略意図、要諦をよく理解している。
「コロニーの中心に町があるんだろう?」
「はい。三村を監督し農繁期に人材を提供するなどの目的で作られた町で、確か人口が六百人ほどだったかと」
「五、六十人うちの村に来ているそうだけどね」
それでも五百人以上いるってことだ。
「でも、繁忙期の農作業の手伝いにそんなに人いる?」
「いりませんよ」
じゃあなんで六百人もの人口をため込んでいるんだ?
「セザン村と第三中の村との間にグリフ族のテリトリーがあるのはご存知ですよね?」
「ああ」
「西の山脈には頻繁に山から降りてくるモンスターが複数種います」
「町ってのは駐屯地なのか」
「そういう側面もあるということです。三つの村はおそらく問題なく吸収できるでしょう」
「問題は町か」
「ええ、荒くれた傭兵なども常駐していたりします。指導者が恭順の意思を示したからと言って町全体が帰順するとは限りません」
それは厄介だ。
「ルビンスは西のコロニーに詳しいようだな」
「いえ、ほとんどが父の受け売りです」
ルビレルの?
「父は若い頃、守備隊の騎兵隊長をしていたそうですから」
ありがたい情報提供だ。
バロ村に戻った僕は早速ルビレルを呼び出して打ち合わせを始める。
やがて報告に戻ってきたオギンたちとも協議して日取りを決め、盛夏で青々と萌えるフレイラ畑の中を二台の二頭立てホルス車で出発した。
先頭のホルス車には御者にチロー、ルビレルとルビンス、それに護衛のサビーとガーブラが乗っている。
台車は広く五人が寝られるように作られているのは去年のうちに発注していた使者用だ。
僕の乗っている二台目はもう少し豪華に造られている。
豪華なのは
御者は護衛を兼ねてザイーダが勤めてくれている。
台車の中には僕とサラ、そしてサラの身の回りの世話係としてセザン村からカルホを連れてきている。
これも格式の強調のためだ。
普段は館で深窓の令嬢として過ごしているサラを連れ出したのはぶっちゃけ政治利用である。
先触れにくノ一衆(オギン、キャラ、キキョウ、コチョウ、ホタル)を送り込んでいる。
第三中の村はくノ一だけでも用は足せると思う。
問題はその先の町だな。
町さえ降せばさらに先の第一中の村、第二中の村は手中に収めたも同然だ。
セザン村までは当たり前につつがなく通過する。
「久しぶりの旅だけど、疲れないかい?」
ここまで二日、この二年近く普段はイゼルナを付き人になに不自由なく暮らしてきたサラである。
突然の長旅を心配して声をかけると、彼女は屈託のない笑顔でこう答えた。
「旅は久しぶりですけれど、普段から体は動かしていますから、むしろ体が鈍ってしまわないか心配です」
あー、かわいい。
婚約をした日からしばらくはぎこちなかった関係も今では日常会話もギクシャクしないくらいにはなった。
それ以上の進展はないんだけどね。
今の所婚約して同じ家(館)には住んでいるけれど、清く正しい交際をしている男女関係だ。
恋愛しているという実感には乏しいけどね。
(ご愁傷様)
うっさいわっ!