第108話 そんなつもりじゃないからぁ!!!!

文字数 2,458文字

 第五中の村についた日、ベハッチは僕らの人数に驚いていた。
 そりゃそうだ。
 行きは三人帰りは五倍、五倍ながらも通りゃんせってなもんだ。
 村を立つ前に町に飛行(エア)手紙(メール)で食糧の件を頼んでおいたのが二日前に届いていたようだけれど、村長宅に泊まれる人数じゃないからだろうな。

「寝泊りはキャラバンと同じ扱いでいいよ」

 と、いった時の安堵の表情ったらホント、笑っちゃうくらいの胸のなでおろしっぷりだった。

「ここも、お館様の領地なんですか?」

 と、訊ねてきたのはデミタである。
 植物研究家の彼女には植生などいろいろ興味もあるのだろう。

「まぁ、一応領地になる話はついているんだけどね」

 なんとも歯切れの悪い僕に代わってオギンが新人さんたちに事細かに説明してくれる。
 なんたる敏腕秘書っぷり。

「お館様の家臣たちを見ると、ワタシはなにを学んできたのかと落ち込むことが多くて……」

 その気持ち、よく判るよルビンス。
 でも、ルビンスもこと戦闘力では僕の家臣で五指に入る実力者だよ。
 しかも我流ではなく騎士として指南役から教わったものらしいきれいな太刀筋のおかげで、僕の剣術稽古が捗る捗る。
 (前世)の勘をようやく取り戻せたから感謝感謝だよ。
 第五中の村から中一日で奥の村へ。

「よぉ! ようやく帰ってきましたね」

 と、ルダー一家に迎えられ。

「なんですか、この無駄に立派な建物は!?

 と、開口一番びっくりしていたのはアンミリーヤだ。
 そういや、この国では高額納税者だけがルンカー造りの家に住めるんだっけね。

「僕の領地では基本、新規建設分は百パーセント全戸ルンカー造りだ」

「てことは、ワシらの家もルンカー作りにしてくれるということかね?」

「もちろんだよ」

 僕の領地に来た移住者が最初に僕に感謝するのはやっぱコレよね。

「あ・もちろん希望するなら木造でもいいよ」

 そこは自由と平等の民主主義を(前世で)学んできた人間として保証しないとね。

 ルダーの住む代官屋敷で夕食の饗応を受けた後、僕はルダー一家とイラードを含めてスカウトしてきた人たちの割り振りについて話し合うことにした。

「割り振り……ですか?」

 と、訝しそうに聞いてきたのはイラードだった。

「そう。町にだけ人材を集めてもダメだからね」

「なるほど」

 ここに来るまでの七日ほどの間、僕は出来る限りコミュニケーションをとって人となりや能力の把握に努めてきた。
 それを基に町と村どちらに割り振るかを大体決めては見たんだけど、今日ここでルダーとイラードに試案を精査してもらおうと決めていたわけだ。

「で? どう割り振ってみたんです?」

 やっぱりルダーの頭の回転は速いらしい。

「まず、文学者であるアンミリーヤと鍛冶屋のサイコップ、医者のソルブ・ドーザーと奥さんのジャンヌに植物研究家のデミタをこの村に残そうと思っている」

「植物研究家! そりゃいい」

 と喜んだあたり、百姓の血でもうずいたか?

「植物学に興味があるの? 嬉しいね。わたしは街中(まちなか)で評価されずに鬱屈してたから、子供たちに読み書き教える気はないか? って、ジャンヌに誘われてさ、もうそれもいいかと思ってついてきたんだけど」

「なんてもったいない! 植物の研究がどれほど人類に有意か判らないなんて、この世界の人間はなんて愚かなんだと思っているんだ」

 …………。

「意気投合して盛り上がるのはまた後でやってくれないか?」

 二人が盛り上がりまくって話が進まなくなったので、二人の話の腰を折る。

「ああ、すまんすまん」

「お館様の人選にはどんな理由が?」

 知的興味か、実務の都合か、イラードが訊いてくる。

「アンミリーヤには読み書き算盤の先生を、医者を残すのは町には魔法が使えるチャールズがいるから。植物研究家は今見た通りだ。ついでに貨幣経済導入促進のためもある」

「なるほど。治療費は金で払えと……。しかし、金がかかるとなれば読み書き算盤など習わせないと考えるものも多いかと思われますが?」

 ここを出るときはイラードちょっとどうなの? って思ってたけど、思考の怜悧さはこういう時には遺憾なく発揮されるね。

「うん、義務教育として僕が払う」

「は?」

 なんて間の抜けた声を出したのは金がらみで存在を否定されかけたアンミリーヤ。
 他の人も意味が判っていないようだ。
 一人ルダーだけはにたにたと笑っている。

「読み書き算盤は僕の考える国づくりの基礎の基礎だ。すでに成人してしまっているものには無理強いはできないけど、子供たちには学びたいと思う子たちに学びの機会を作る。そのための費用を国で出すのも僕の国づくり。大人たちには子供たちに学びの機会を提供する義務がある」

「子供たちに読み書き算盤を教えるとどんないいことがあるんですか?」

「いい質問だよ、ホタル。子供たちを教え育むと実に多くが優れた人間になるのだ。これを教育という」

「足りない人材を他所から連れてくるのではなく、自分たちで作るというのですね」

 さすがはサラ。

「町の方はどうするのです?」

「大丈夫、ウォルターは歴史学者だ。当然読み書き算盤を教えられる」

「読み書き算盤くらい助手の二人で十分じゃよ」

「じゃああんた、なにやんだよ?」

「ワシか? ワシはもちろん歴史の研究じゃよ。最奥の村は我が国建国の歴史に関わっておると言われておるでの。来てくれと言われて一も二もなく話に乗ったわ」

 言ってウォルターはガハハと笑う。
 歴史(ラバナル)に触れたら腰を抜かすだろうね。

「で? 残りの女性陣は全部後宮行きか?」

 ゔはっ!!

「ルダー!?

「いいじゃねぇか。一国一城の主人(あるじ)になんだろ? そろそろ嫁もらわねぇとカッコもつかないだろう」

 イラード、ヘレン! うんうんとうなずかない!
 アニーも一緒になってうなずかなくていいから!!
 そこ! ルダー以外に見えないからって腹抱えて笑うんじゃない!

「彼女たちはオギンの下で働いてもらう諜報員だから! 違うからね!?

「わ、わたしに諜報は無理です」

「サ、サラぁ!?

「後宮に入るのはサラ様だけですかね?」

「ルビンスーっ!!
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