第143話 ジャン、結婚の意思を固める

文字数 2,490文字

 戦後処理は大変だ。
 オルバック家が町を出ていくまでの三日間に募集された開拓団は町の人口の実に四割に上った。
 実際にどれだけ集まるかはともかく、それを二つに分けて一団をハンジー町に残りを一の町に送り出す計画だ。
 団長にはそれぞれサイとホークがあたる。
 食料はオルバック家が出発した二日後にジョーのキャララバンによって届けられた。
 ゼニナルに買い付けに行ってくれたらしい。
 おお、ゼニナル!

「ゼニナルの処遇も考えなきゃならないのか」

「なんだ? 考えてなかったのか?」

「失念してた。ところで、一の町を離れてきていいのか?」

「本当はダメなんだろう? 

に断りなく出てきたからな。しかしだな、これだけの食料を買い付けるとなると俺が出張らないとまとまらない」

 だろうね。

「治安は安定しているし、ルダー、あいつなかなかどうしてやり手だぞ」

「あー、やっぱり」

「なんだ? 気付いてたのか?」

「とぼけた顔して相当な策士だよなぁ」

 とだけ感想を漏らすと、ジョーはガハハと笑って

「気をつけろよ」

 と食料捌きに戻っていった。

(野心はなさそうだけどなー)

 軍の再編は専門家に任せた。
 傭兵は基本的に一息つくまで雇ってカイジョーの下に組み入れ、居残る騎士たちをどう割り振るかはルビレルに一任した。
 そうそう、農民兵を返すにあたって主兵装である槍は置いていってもらっている。
 サビーなんかはホクホクとしながらガーブラと槍の取り回しを稽古していた。
 もちろん僕の幕下に入ったダイモンドたちと激しい実践稽古に励んでる。
 僕も日課にしているので毎日朝だけ参加しているけど、とてもじゃないがついていけない。
 あいつらバケモンだよ、ホント。
 サビーにアテられてなのかルビンスもガーブラも、相手をさせられていると思っていたダイモンドやオクサ、ラビティアまで目をキラッキラさせて槍で殴り合ってんだから神経疑うね。
 毎日がそんなだから必然稽古に参加する人数も増えて、さながら戦闘狂の合宿の様相を呈している。
 お試しで誰が強いか決定戦でも開催するか?

 …………。

 そんなジャンプ展開は望まれてないか。

(むしろ、少林寺よろしく精神修行を導入した方がいいかもしれない)

 なんて、ラビティアに一度になぎ払われて気絶している騎士たちを流し見ながら思う今日この頃。

「人族の中にはいたくない」

 そう言って普段主の森にこもっているラバナルだ。
 正確には「愚かな人族」なわけだけど。
 人族と行動を共にするのは魔法絡みの時だけだ。
 オグマリー区攻略の最終戦が終わったんで帰ると言われたところを無理を言って残ってもらっている。
 もちろん

で対価を支払っているわけだけど。
 正直な話、僕から言わせて貰えば全然等価じゃないけどねー。
 最初は迎賓館の最上階をすべてあてがって。
 それから接収して僕の仮の館となった旧オルバック邸の敷地にある離れで、チャールズを助手に攻撃魔法の研究中だ。
 威力の強い攻撃魔法は「諸刃の剣」なんだよね。
 今は僕との関係性で友好的な仲だけど、知恵の切れ目が縁の切れ目……なんてことになりかねない。
 そんな時、人族が対抗できないほどの魔法を行使するような大魔法使いになっていたら恐ろしいじゃない?
 けど、いろいろな意味で背に腹は変えられなかったわけよ。
 ラバナルに教えたのは魔道具手榴弾(グレネード)
 今は布製の袋に砂を詰め込み魔法の力で中心から炸裂させて砂を飛散させる研究中だ。
 袋の強度や炸裂のタイミングで試行錯誤を続けているけど、早々に完成させちゃうに違いない。
 詰め物が殺傷力の高い石に変わるのも時間の問題だ。
 まぁ、とりあえずの完成目標がそこなんだから、それはそれでいいんだけど……なんだかなぁ。
 いや、これができるとズラカルト軍が攻めてきたときの攻城戦でかなりの威力を発揮するわけで、期待半分不安半分ってのが正直な気持ちだ。
 誰もが使える魔道具にでもできたらこの世界の戦争を変えちゃうかも。
 あ、でもでも、地球では銃の原型は手榴弾って話もある。
 実際、元寇でモンゴル軍が使った「鉄炮(てつはう)」がそれらしいし。
 まだまだ戦後処理は続きそうなんだけど、そろそろやんなきゃダメでしょ?
 僕とサラの結婚。
 もともとオグマリー区を制圧したら結婚すると決めていた。
 春から少しずつサラの生存を喧伝していたし、僕が後見しているとも宣伝してきた。
 オルバックは知っていたからそれなりに広まっているとみられる。
 そこで堂々と派手だねに結婚宣言をしてやろうって思惑だ。
 これが王国内に流布されれば賛否両論わきおこって僕の知名度が一気に広がるという目論見を持っている。

 …………。

 ま、賛辞より批難の方が強いだろうことは覚悟の前だ。
 で、どこで披露宴を行うかをずっと考えていたんだけど、やっぱりバロ村だろうね。
 僕の生まれ故郷だし、原点の地だし、本拠地だし。
 そんなことをあれやこれや考えて日を過ごしていたら、いつの間にか開拓団の出発日が三日後に迫り、ついでなので僕もバロ村に引き上げることにした。
 披露宴に参加してもらうメンバーとオグマリー市の防衛に残ってもらうメンバーを考えていたら急報がもたらされた。

「ズラカルト軍が来ました!」

「来たか!」

 僕より先に気色満面、離れから駆けつけたラバナルがそういった。

「軍勢は?」

「軍容は判りませんが、我が軍の倍はいるかと……」

「ジャン! ワシに任せろ。あー、人族の軍などいらん。チャールズ一人……従者を二、三人つけてくれればそれでよい」

 手榴弾の開発に成功したから実戦で使いたくてうずうずしているってことだろう。
 相変わらずマッドサイエンティスト然としている。

「いらんと言われても市民の不安解消のためにも軍は出すから」

 僕は、チャールズにサビーとガーブラをつけて先に南門へ出発させた。

(なんだあの荷車いっぱいの手榴弾は。作りすぎじゃないのか?)

 気になるから今回は僕が将になろう。
 すぐに動員できたのは弓兵三十と傭兵隊三十。
 念のためルビレルに五十人規模の軍をよこすように指示を出して押っ取り刀で駆け出した。
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