第131話 異世界で孫子の兵法
文字数 2,218文字
軍議の翌日、第五先の村へ出発。
寝返った兵は一つの塊にしてセイとホークに指揮を任せる。
町には臨時代官をたのんだジョーとキャラバンの他にルダー、チロー、ジャスとジャリを残し、剣兵五十人を治安維持においてきた。
大工の棟梁として人を使うことに慣れているジャスに三十人、ジャリに十人、治安維持の見回りを任せ、ルダーには治安維持と護衛を兼ねて十人預けている。
チローはルダーの副官扱いだ。
名前通りというか、目端がよく利く男なので適任だろう。
第五先の村に着くと、イラード隊がすでに到着していたので、早速軍の再編成を開始する。
投石隊の隊長をザイーダからベハッチに変更して副隊長にサイコップをつける。
女性部隊の様相だったからずっとザイーダに隊長を任せていたんだけど、セザン村の村長であるベハッチなら大丈夫だろう。
そのザイーダには新たに増えた三十人の弓兵を与えた。
ここにはラバナルも入っている。
カイジョー隊は槍隊だが、剣兵五十人を組み込む。
カイジョーは直ちに副長格だったシメイにまるっと剣兵を与え、第二隊にしたようだ。
ギラン隊にも剣兵三十人を割り振った。
こちらは副隊長のドブルが第二隊を指揮するらしい。
本陣はセイ、ホーク、ウータと十騎の騎兵が編入された。
その後二日間の習熟訓練で足並みだけは揃えられるようにする。
二日目の日暮れ前にはチカマックから飛行手紙で第三先の村に入村した報せが届く。
計画通りに作戦は進行しているようだ。
翌日、予定通り第五先の村を出発、野営予定地に着く前に飛行手紙で第二先の村入村の報せが届く。
「順調ですな」
打ち合わせで僕の天幕にいたルビレルがにこりと笑いかける。
「怖いくらいにね」
「明日、ハンジー軍は予定通り第一先の村攻略ですな」
第二、第三先の村は去年の秋から食糧支援で懐柔していたけれど、第一先の村はオグマリー市の隣村だったこともあって懐柔政策をとっていなかった。
自然、素通りというわけにはいかない。
もっとも、まったくと言っていいほど軍事力のないだろう農村に百人以上の軍勢が攻めてくるんだから、戦闘など起こるとは思えないけどね。
(どうなると思っているわけ?)
「無条件降伏に三千点」
「は?」
あ、やべ……思わず心の声が外に出ちゃった。
(誰に賭ける気よ)
(もちろん篠沢教授に)
(誰、それ?)
さすがにネタが古すぎか。
咳払いを一つして話題を変える。
「ルビレル、オグマリー市について改めて説明してくれ」
「はい。オグマリー市はオグマリー区最大の人口千五百人を誇った領都です」
過去形なのは我が領内に随分と流入したからに違いない。
「石積みの城壁は高さ七シャル以上、我々が攻め入ろうとしている北門は過去の拡張によって外門、内門の二つの門がございますが、内門は先代の統治下に二度暴動が起きていて破壊されています。当代当主オルバック様はいまだ門を直していないと思われます」
二度も暴動が起きてるとか、統治能力を疑うぞ。
「常備軍は正規兵で約二百。傭兵次第ですが総兵力三百を超えるか超えないかと言ったところでしょうか?」
「攻城戦はやっぱきついかなぁ?」
孫子謀攻篇には
故 に上 兵 は謀 を伐 ち
其 の次 は交 を伐 ち
其 の次 は兵 を伐 ち
其 の下 は城 を攻 む
攻 城 の法 は
已 むを得 ざると為 す。
とある。
ぶっちゃけ戦争なんてやらないに越したことはないんだけど、こちらとしてもそうもいかない事情がある。
最低でもオグマリー区くらいは支配していないと、どんな戦に巻き込まれるか分かったもんじゃない。
実際、ジョーのキャラバンからの報告によると、去年の冬ついにズラカルト男爵領に攻め入った軍があったそうだ。
幸いなのか、撃退したらしいんだけど、早晩この地区にも戦火は飛んでくるに違いない。
ようやく危機感を持った男爵は軍備強化を始め、その原資としてこの秋さらなる重税を課してきたという。
僕も反旗を翻していなければこの冬はうっすい味付けの大根飯で飢えをしのがなきゃならなくなっていたかも知れない。
(ダイコンメシってなによ?)
(団塊ジュニア以上の世代には貧乏飯の代名詞なんだよ)
(知らないわよ、おしんなんて)
知ってんじゃん!
リリム、お前さては地球出身だろ?
それはさておき、孫子はこう続く
故に用兵の法は
十なれば、すなわちこれを囲み
五なれば、すなわちこれを攻め
倍すれば、すなわちこれを分かち
敵すれば、すなわちよくこれと戦い
少なければ、すなわちよくこれを逃れ
しかざれば、すなわちよくこれを避く
城内見積もり最大戦力三百、味方は三百七十。城攻めには三倍は用意しろとか何かで読んだ。
出典を思い出すのはめんどくさいのでやめるけど、数字だけ見ると城攻めするべきじゃない兵力差だ。
「しかし、避けて通れない戦でありましょう?」
その通りだ。
「明後日には西門からハンジー町の百七十が攻め寄せます。うまくいけばその日のうちに……」
「攻め落とせましょう」とでも続けるつもりだったと思うそれをさえぎった。
「いや、ハンジー町の軍が到着しても作戦通りにやるから」
「しかし……」
「敵を傷つけずに降伏させるのが上策で、打ち破って屈服させるのは下策だよ」
孫子謀攻篇の冒頭の言葉だ。
「こんなところで大事な戦力を失いたくない」
「肝に銘じておきましょう」
「明日のために兵たちには十分な休息を取らせるように」
ルビレルは頭を下げて天幕を出て行った。
寝返った兵は一つの塊にしてセイとホークに指揮を任せる。
町には臨時代官をたのんだジョーとキャラバンの他にルダー、チロー、ジャスとジャリを残し、剣兵五十人を治安維持においてきた。
大工の棟梁として人を使うことに慣れているジャスに三十人、ジャリに十人、治安維持の見回りを任せ、ルダーには治安維持と護衛を兼ねて十人預けている。
チローはルダーの副官扱いだ。
名前通りというか、目端がよく利く男なので適任だろう。
第五先の村に着くと、イラード隊がすでに到着していたので、早速軍の再編成を開始する。
投石隊の隊長をザイーダからベハッチに変更して副隊長にサイコップをつける。
女性部隊の様相だったからずっとザイーダに隊長を任せていたんだけど、セザン村の村長であるベハッチなら大丈夫だろう。
そのザイーダには新たに増えた三十人の弓兵を与えた。
ここにはラバナルも入っている。
カイジョー隊は槍隊だが、剣兵五十人を組み込む。
カイジョーは直ちに副長格だったシメイにまるっと剣兵を与え、第二隊にしたようだ。
ギラン隊にも剣兵三十人を割り振った。
こちらは副隊長のドブルが第二隊を指揮するらしい。
本陣はセイ、ホーク、ウータと十騎の騎兵が編入された。
その後二日間の習熟訓練で足並みだけは揃えられるようにする。
二日目の日暮れ前にはチカマックから飛行手紙で第三先の村に入村した報せが届く。
計画通りに作戦は進行しているようだ。
翌日、予定通り第五先の村を出発、野営予定地に着く前に飛行手紙で第二先の村入村の報せが届く。
「順調ですな」
打ち合わせで僕の天幕にいたルビレルがにこりと笑いかける。
「怖いくらいにね」
「明日、ハンジー軍は予定通り第一先の村攻略ですな」
第二、第三先の村は去年の秋から食糧支援で懐柔していたけれど、第一先の村はオグマリー市の隣村だったこともあって懐柔政策をとっていなかった。
自然、素通りというわけにはいかない。
もっとも、まったくと言っていいほど軍事力のないだろう農村に百人以上の軍勢が攻めてくるんだから、戦闘など起こるとは思えないけどね。
(どうなると思っているわけ?)
「無条件降伏に三千点」
「は?」
あ、やべ……思わず心の声が外に出ちゃった。
(誰に賭ける気よ)
(もちろん篠沢教授に)
(誰、それ?)
さすがにネタが古すぎか。
咳払いを一つして話題を変える。
「ルビレル、オグマリー市について改めて説明してくれ」
「はい。オグマリー市はオグマリー区最大の人口千五百人を誇った領都です」
過去形なのは我が領内に随分と流入したからに違いない。
「石積みの城壁は高さ七シャル以上、我々が攻め入ろうとしている北門は過去の拡張によって外門、内門の二つの門がございますが、内門は先代の統治下に二度暴動が起きていて破壊されています。当代当主オルバック様はいまだ門を直していないと思われます」
二度も暴動が起きてるとか、統治能力を疑うぞ。
「常備軍は正規兵で約二百。傭兵次第ですが総兵力三百を超えるか超えないかと言ったところでしょうか?」
「攻城戦はやっぱきついかなぁ?」
孫子謀攻篇には
とある。
ぶっちゃけ戦争なんてやらないに越したことはないんだけど、こちらとしてもそうもいかない事情がある。
最低でもオグマリー区くらいは支配していないと、どんな戦に巻き込まれるか分かったもんじゃない。
実際、ジョーのキャラバンからの報告によると、去年の冬ついにズラカルト男爵領に攻め入った軍があったそうだ。
幸いなのか、撃退したらしいんだけど、早晩この地区にも戦火は飛んでくるに違いない。
ようやく危機感を持った男爵は軍備強化を始め、その原資としてこの秋さらなる重税を課してきたという。
僕も反旗を翻していなければこの冬はうっすい味付けの大根飯で飢えをしのがなきゃならなくなっていたかも知れない。
(ダイコンメシってなによ?)
(団塊ジュニア以上の世代には貧乏飯の代名詞なんだよ)
(知らないわよ、おしんなんて)
知ってんじゃん!
リリム、お前さては地球出身だろ?
それはさておき、孫子はこう続く
故に用兵の法は
十なれば、すなわちこれを囲み
五なれば、すなわちこれを攻め
倍すれば、すなわちこれを分かち
敵すれば、すなわちよくこれと戦い
少なければ、すなわちよくこれを逃れ
しかざれば、すなわちよくこれを避く
城内見積もり最大戦力三百、味方は三百七十。城攻めには三倍は用意しろとか何かで読んだ。
出典を思い出すのはめんどくさいのでやめるけど、数字だけ見ると城攻めするべきじゃない兵力差だ。
「しかし、避けて通れない戦でありましょう?」
その通りだ。
「明後日には西門からハンジー町の百七十が攻め寄せます。うまくいけばその日のうちに……」
「攻め落とせましょう」とでも続けるつもりだったと思うそれをさえぎった。
「いや、ハンジー町の軍が到着しても作戦通りにやるから」
「しかし……」
「敵を傷つけずに降伏させるのが上策で、打ち破って屈服させるのは下策だよ」
孫子謀攻篇の冒頭の言葉だ。
「こんなところで大事な戦力を失いたくない」
「肝に銘じておきましょう」
「明日のために兵たちには十分な休息を取らせるように」
ルビレルは頭を下げて天幕を出て行った。