第158話 黄金色のお菓子の話なんかしてみる
文字数 1,795文字
「今年から本格的に商い税を取ろうと思っているんだ」
僕の領内は現在、前世の律令制度を参考に公地公民化していて、基本は農作物で税を徴収する。
去年は領内統一が収穫直前だったんで農村部からの年貢は徴収したけど、行政を掌握しきれなかったこともあって商人と貴族階級からは徴税していない。
統一する前から乗合ホルス車を運営しているジョーとギランからは領民の義務である農業労働免除の代わりに徴税してるけどね。
ということで、行政官採用試験が行われ(まだ採点中なので正式採用はもう少し先だけど)秋にはとりあえず体制が整う見込みだから、ゼニナルを拠点にしている商人たちにも課税しようってわけ。
「俺は元々昭和を知ってるからたいして抵抗ないし、ギランは農民上がりでその辺の知識がなかったから俺が払えば『そんなもんか』と払っただろうが、この世界の商人どもはそうはいかんぞ」
「やっぱり?」
「当たり前だろ。鎌倉末期には商人階級が誕生している日本だって、本格的に税制に組み込めたのは明治維新の後だぞ」
「運上金ってのは?」
「あれは権利を売って得たもんだ。漁業権とか営業権とか……そうか、商い税。営業権か……それならありだな」
よかった。
「しかし、権利売買となると累進課税とはいかないぞ」
「僕はそこまで急進的じゃないよ。ちゃんと考えてるつもりだ。それに……」
と、区切って笑ってみせる。
絶対悪代官スマイルに違いない。
「農業労働免除代わりの徴税は別件だし」
ジョーは一瞬ぽかんとした表情を浮かべはしたものの、得心いったのか豪快に笑い出した。
「悪党め」
「褒め言葉と受け取るよ」
「貴族連中はどうするんだ?」
「領内に残っている貴族なんて能無しで爵位のない下級貴族ばかりだし、禄 を与えるなんてしないよ。あ、文武官は別ね」
「上から強制的に下剋上させるようなやつは漸進 派 とは言わんよ。どう繕って見せたって急進派の急先鋒だろうが」
「いやいやいや」
二人でひとしきりニヤニヤしていたら、ジョーが急に真顔になって顔を近づけてきた。
「それでもゼニナルの商人組合による自治は崩せないぞ」
「そこでジョーにお願いなんだよ」
「本題だな?」
「商業ギルドを弱体化させるために正式に御用商人になってもらいたい」
「御用商人? 正式に?」
ん? ピンとこないか?
「俺は元々御 用達 みたいなもんだろ」
あ、やっぱりその意味でしか取ってないのか。
「言い直すよ。政商になってくれないか? ジョーがなってくれれば他の商人たちがごねても商品調達に支障がなくなる」
言い直したら表情がピリッと変わった。
「なるほどピンときた。『政商』にゃいいイメージがないからあえて『御用商人』って言ったんだな。しかし、そりゃお前、諸刃の剣だぜ?」
「その件は理解している。本当ならあと二人は確保したいところなんだけど、信頼できる商人がいない」
「判ってりゃいい。いつまでも独り占めさせるなよ」
商品の調達チャンネルを一つに絞ると言うことはジョーに依存することでなにかの拍子に仲違いでもした場合、政権維持も難しくなる僕にとっても諸刃の剣だけれど、ジョーにとっても諸刃の剣だからね。
御用商人を独り占めできるならこの領内でこれほど絶大な後ろ盾はない。
しかし、莫大な利益と引き換えに一身に商人からのヘイトを集めることにもなる。
「そこはそれ、ジョーが信頼できる商人を紹介してくれればすむ話じゃないのか?」
「紹介してやりたいところだが、信頼にたる商人なんてゴロゴロ転がってるわけないだろ。一人いるにはいるんだが、あいつん所は規模が小さくて領主の御用達には……」
「いや、むしろ願ったりの人材だろ? そう言う人材を大抜擢させれば、ゼニナルにいて肩で風切ってる連中の頭を押さえられる」
「本当に悪党だな、お前」
「『お館様』と呼びたまえ」
そう言ったら、
「これはこれは失礼いたしました
って、芝居がかった……いや、完全に三文芝居を始めやがった。
ここは同じルーツの前世持ちとして、いっちょうこの茶番劇に乗ってやらなきゃならんべな。
「越後屋、そちも悪よのぅ」
芝居の続きで二人して悪い笑いをしていたんだけど、やがて本気でおかしくなってひとしきり腹を抱えて笑いこけましたとさ。
(……まったく、この転生者たちときたら……)
なんて、リリムに言われる始末だ。
僕の領内は現在、前世の律令制度を参考に公地公民化していて、基本は農作物で税を徴収する。
去年は領内統一が収穫直前だったんで農村部からの年貢は徴収したけど、行政を掌握しきれなかったこともあって商人と貴族階級からは徴税していない。
統一する前から乗合ホルス車を運営しているジョーとギランからは領民の義務である農業労働免除の代わりに徴税してるけどね。
ということで、行政官採用試験が行われ(まだ採点中なので正式採用はもう少し先だけど)秋にはとりあえず体制が整う見込みだから、ゼニナルを拠点にしている商人たちにも課税しようってわけ。
「俺は元々昭和を知ってるからたいして抵抗ないし、ギランは農民上がりでその辺の知識がなかったから俺が払えば『そんなもんか』と払っただろうが、この世界の商人どもはそうはいかんぞ」
「やっぱり?」
「当たり前だろ。鎌倉末期には商人階級が誕生している日本だって、本格的に税制に組み込めたのは明治維新の後だぞ」
「運上金ってのは?」
「あれは権利を売って得たもんだ。漁業権とか営業権とか……そうか、商い税。営業権か……それならありだな」
よかった。
「しかし、権利売買となると累進課税とはいかないぞ」
「僕はそこまで急進的じゃないよ。ちゃんと考えてるつもりだ。それに……」
と、区切って笑ってみせる。
絶対悪代官スマイルに違いない。
「農業労働免除代わりの徴税は別件だし」
ジョーは一瞬ぽかんとした表情を浮かべはしたものの、得心いったのか豪快に笑い出した。
「悪党め」
「褒め言葉と受け取るよ」
「貴族連中はどうするんだ?」
「領内に残っている貴族なんて能無しで爵位のない下級貴族ばかりだし、
「上から強制的に下剋上させるようなやつは
「いやいやいや」
二人でひとしきりニヤニヤしていたら、ジョーが急に真顔になって顔を近づけてきた。
「それでもゼニナルの商人組合による自治は崩せないぞ」
「そこでジョーにお願いなんだよ」
「本題だな?」
「商業ギルドを弱体化させるために正式に御用商人になってもらいたい」
「御用商人? 正式に?」
ん? ピンとこないか?
「俺は元々
あ、やっぱりその意味でしか取ってないのか。
「言い直すよ。政商になってくれないか? ジョーがなってくれれば他の商人たちがごねても商品調達に支障がなくなる」
言い直したら表情がピリッと変わった。
「なるほどピンときた。『政商』にゃいいイメージがないからあえて『御用商人』って言ったんだな。しかし、そりゃお前、諸刃の剣だぜ?」
「その件は理解している。本当ならあと二人は確保したいところなんだけど、信頼できる商人がいない」
「判ってりゃいい。いつまでも独り占めさせるなよ」
商品の調達チャンネルを一つに絞ると言うことはジョーに依存することでなにかの拍子に仲違いでもした場合、政権維持も難しくなる僕にとっても諸刃の剣だけれど、ジョーにとっても諸刃の剣だからね。
御用商人を独り占めできるならこの領内でこれほど絶大な後ろ盾はない。
しかし、莫大な利益と引き換えに一身に商人からのヘイトを集めることにもなる。
「そこはそれ、ジョーが信頼できる商人を紹介してくれればすむ話じゃないのか?」
「紹介してやりたいところだが、信頼にたる商人なんてゴロゴロ転がってるわけないだろ。一人いるにはいるんだが、あいつん所は規模が小さくて領主の御用達には……」
「いや、むしろ願ったりの人材だろ? そう言う人材を大抜擢させれば、ゼニナルにいて肩で風切ってる連中の頭を押さえられる」
「本当に悪党だな、お前」
「『お館様』と呼びたまえ」
そう言ったら、
「これはこれは失礼いたしました
お代官様
。では後ほどお詫びの菓子折り
でもお持ちいたしましょう」って、芝居がかった……いや、完全に三文芝居を始めやがった。
ここは同じルーツの前世持ちとして、いっちょうこの茶番劇に乗ってやらなきゃならんべな。
「越後屋、そちも悪よのぅ」
芝居の続きで二人して悪い笑いをしていたんだけど、やがて本気でおかしくなってひとしきり腹を抱えて笑いこけましたとさ。
(……まったく、この転生者たちときたら……)
なんて、リリムに言われる始末だ。