第308話 戦後処理は粛々と 2
文字数 2,179文字
「ここに端切れが落ちております」
と、近衛兵がしゃがんで指差したのは、昨日隠し扉の隙間に挟んでおいた布の切れ端だ。
それが落ちていたということは襲撃を試みたということだ。
寝込みを襲うのは暗殺の常套手段だからな。
何年か前に時代劇の主人公みたいに寝込みを襲われた際にかっこよく撃退できるか試したことがある。
オギンの手下に寝込みを襲ってもらったら何度試しても、来ると判っていても回避できなかったんで逃げの一手に徹することにした。
だって、僕以外の誰がやっても成功したやつはいないんだもん。
どだいどこかのアニメの主人公じゃあるまいし後ろに目がついている訳じゃないから、返り討ちにできるタイミングを図るなんて無理ってことだ。
僕をはじめとしてだいたいの挑戦者がギリギリまで引きつけるつもりが遅すぎて暗殺ミッションに成功されてしまう。
一度失敗した次は、迎撃のタイミングが早すぎて逃げられてしまう。
おかげで忍者部隊の暗殺スキルが無駄に上がったっぽい。
とまぁ、そんな経緯があるので今回は暗殺襲撃があると想定して部屋を変えた訳だけど、それが功を奏したってことだ。
「はぁ、以前、襲撃撃退法を色々試していたことがありましたが、こういうことを想定した訓練だったのですな。けったいなことをさも真面目にやっていたので正気を疑っていたのですがね」
ひどい言い様だ。
「試した結果はほぼ不可能。襲撃されない方策を考えた方が万倍もいいという結論は間違っていなかったろう?」
「ですね」
「さて、お館様。そろそろ軍議の時間です」
近衛の一人に促され、僕は一階の大広間へと向かう。
華美で大きな長テーブルに、主だった武将が集まっている。
「遅くなったか?」
「いえ、問題はございません」
「では、報告から聞こう」
まずは、敵味方の損害と貴族街の様子。
逃げ落ちた貴族たちの財産は館ごと接収し、残った貴族から武器を取り上げているところだという。
「抵抗はないのだな?」
とは、残った貴族たちのことだ。
「はい、粛々と進められていると報告が上がっています」
「残っているのは下級貴族ばかりのようです」
「ウータ殿のいうとおり、アシックサルの下では出世の見込めないものたちでしょう」
「ヘンペイについていっても益がないとの判断でしょうか?」
「貴族どもの考えそうなことだ」
と、吐き捨てるガーブラに
「ところでガーブラ」
と、水を向ける。
「地下牢を発見したそうだな」
「ええ。朝からイラードに見聞してもらいました」
「政治犯が多かったのですがずいぶんと劣悪な環境でした。ひどい拷問も受けていたようで魔法による治療を施しても社会復帰が望めるかどうか」
「そんなにひどい有り様だったのか」
という問いにガーブラもイラードも無言で頷いた。
「他にも地下通路を発見したと言っていたな」
その問いにはトーハがこう答えてきた。
「その件はイラード殿から聞き及び、すでにニンジャー隊を送っております。他に抜け穴がないかニンプー隊に館内を探らせております」
みんななにも言わずにやることやってるのすごくない?
「オレから報告だ。昨日、お館様がお休みになる予定だったアシックサルの寝室に賊が侵入した形跡があった」
サビーの報告にあるものは気色ばみ、あるものは「だろうな」というように腕を組んで頷いた。
「どこから侵入したのか判っているのですか?」
「ああ、お館様が見当をつけていたようだ」
「では、ニンプー隊が戻り次第その隠し扉を探らせましょう」
「ニンニン隊はどうした?」
「ニンニン隊は引き続き市中で任にあたっておりますぞ、ガーブラ殿」
「ああ、なるほど」
その後もいくつかの事案で報告を聞き、必要に応じて指示を出す。
多くは占領統治のための施策と人選についてである。
「貴族どもの積極登用ですか?」
「貴族に限るつもりはない。いつも通り、身分問わずだ」
「そうは言っても教育を受けていないものでは即戦力とはなりませんし、貴族どもの反感を買って占領統治が危うくなりましょう」
「特に残っているのは下級貴族どもだからな。ああいうのは自分たちの身分が低い分、さらに低い身分に対して差別意識が強い傾向がある」
サビーの主張も一理ある。
「とはいえ、占領統治にあまり兵を割くわけにもいかないのではありませんか?」
「どうしてだ? イラード」
「お館様はこの戦の目標をなんと定めたか覚えていないのか、ガーブラ」
「ええと、たしか『アシックサルの居城を陥落させるのが当面の目標』じゃなかったか?」
「そう、当 面 の 目標だ」
イラードにそう言われたガーブラは一瞬きょとんとした顔になったが、やがて合点がいったのが不適な笑みが浮かんでくる。
「つまり、まだ先があるんだな?」
「そのとおりだ。数日のうちにも砦攻略に向かったオクサの軍がここに到着しよう。到着次第南下を開始する。それまでに兵の英気を養い、占領統治の道筋をつけるべく、皆全力でことにあたるように」
そう宣言すると集まっていた一同皆頭を下げて「御意」と、短く返事を返してきた。
その後、僕は傷病兵を見舞いに臨時の病室を回り、捕虜の接見をするなどで午前中を使い、午後からは接収した戦利品の目録に目を通すなどして一日を過ごした。
どうでもいいけど、国庫に金が全然なかったなぁ。
これはやっぱりあれか、戦争にはお金がかかるってことなのか?
と、近衛兵がしゃがんで指差したのは、昨日隠し扉の隙間に挟んでおいた布の切れ端だ。
それが落ちていたということは襲撃を試みたということだ。
寝込みを襲うのは暗殺の常套手段だからな。
何年か前に時代劇の主人公みたいに寝込みを襲われた際にかっこよく撃退できるか試したことがある。
オギンの手下に寝込みを襲ってもらったら何度試しても、来ると判っていても回避できなかったんで逃げの一手に徹することにした。
だって、僕以外の誰がやっても成功したやつはいないんだもん。
どだいどこかのアニメの主人公じゃあるまいし後ろに目がついている訳じゃないから、返り討ちにできるタイミングを図るなんて無理ってことだ。
僕をはじめとしてだいたいの挑戦者がギリギリまで引きつけるつもりが遅すぎて暗殺ミッションに成功されてしまう。
一度失敗した次は、迎撃のタイミングが早すぎて逃げられてしまう。
おかげで忍者部隊の暗殺スキルが無駄に上がったっぽい。
とまぁ、そんな経緯があるので今回は暗殺襲撃があると想定して部屋を変えた訳だけど、それが功を奏したってことだ。
「はぁ、以前、襲撃撃退法を色々試していたことがありましたが、こういうことを想定した訓練だったのですな。けったいなことをさも真面目にやっていたので正気を疑っていたのですがね」
ひどい言い様だ。
「試した結果はほぼ不可能。襲撃されない方策を考えた方が万倍もいいという結論は間違っていなかったろう?」
「ですね」
「さて、お館様。そろそろ軍議の時間です」
近衛の一人に促され、僕は一階の大広間へと向かう。
華美で大きな長テーブルに、主だった武将が集まっている。
「遅くなったか?」
「いえ、問題はございません」
「では、報告から聞こう」
まずは、敵味方の損害と貴族街の様子。
逃げ落ちた貴族たちの財産は館ごと接収し、残った貴族から武器を取り上げているところだという。
「抵抗はないのだな?」
とは、残った貴族たちのことだ。
「はい、粛々と進められていると報告が上がっています」
「残っているのは下級貴族ばかりのようです」
「ウータ殿のいうとおり、アシックサルの下では出世の見込めないものたちでしょう」
「ヘンペイについていっても益がないとの判断でしょうか?」
「貴族どもの考えそうなことだ」
と、吐き捨てるガーブラに
「ところでガーブラ」
と、水を向ける。
「地下牢を発見したそうだな」
「ええ。朝からイラードに見聞してもらいました」
「政治犯が多かったのですがずいぶんと劣悪な環境でした。ひどい拷問も受けていたようで魔法による治療を施しても社会復帰が望めるかどうか」
「そんなにひどい有り様だったのか」
という問いにガーブラもイラードも無言で頷いた。
「他にも地下通路を発見したと言っていたな」
その問いにはトーハがこう答えてきた。
「その件はイラード殿から聞き及び、すでにニンジャー隊を送っております。他に抜け穴がないかニンプー隊に館内を探らせております」
みんななにも言わずにやることやってるのすごくない?
「オレから報告だ。昨日、お館様がお休みになる予定だったアシックサルの寝室に賊が侵入した形跡があった」
サビーの報告にあるものは気色ばみ、あるものは「だろうな」というように腕を組んで頷いた。
「どこから侵入したのか判っているのですか?」
「ああ、お館様が見当をつけていたようだ」
「では、ニンプー隊が戻り次第その隠し扉を探らせましょう」
「ニンニン隊はどうした?」
「ニンニン隊は引き続き市中で任にあたっておりますぞ、ガーブラ殿」
「ああ、なるほど」
その後もいくつかの事案で報告を聞き、必要に応じて指示を出す。
多くは占領統治のための施策と人選についてである。
「貴族どもの積極登用ですか?」
「貴族に限るつもりはない。いつも通り、身分問わずだ」
「そうは言っても教育を受けていないものでは即戦力とはなりませんし、貴族どもの反感を買って占領統治が危うくなりましょう」
「特に残っているのは下級貴族どもだからな。ああいうのは自分たちの身分が低い分、さらに低い身分に対して差別意識が強い傾向がある」
サビーの主張も一理ある。
「とはいえ、占領統治にあまり兵を割くわけにもいかないのではありませんか?」
「どうしてだ? イラード」
「お館様はこの戦の目標をなんと定めたか覚えていないのか、ガーブラ」
「ええと、たしか『アシックサルの居城を陥落させるのが当面の目標』じゃなかったか?」
「そう、
イラードにそう言われたガーブラは一瞬きょとんとした顔になったが、やがて合点がいったのが不適な笑みが浮かんでくる。
「つまり、まだ先があるんだな?」
「そのとおりだ。数日のうちにも砦攻略に向かったオクサの軍がここに到着しよう。到着次第南下を開始する。それまでに兵の英気を養い、占領統治の道筋をつけるべく、皆全力でことにあたるように」
そう宣言すると集まっていた一同皆頭を下げて「御意」と、短く返事を返してきた。
その後、僕は傷病兵を見舞いに臨時の病室を回り、捕虜の接見をするなどで午前中を使い、午後からは接収した戦利品の目録に目を通すなどして一日を過ごした。
どうでもいいけど、国庫に金が全然なかったなぁ。
これはやっぱりあれか、戦争にはお金がかかるってことなのか?