第153話 転生者会議 2 前世ジェネレーションギャップ
文字数 2,238文字
「王国の文明のベースを作ったのはたぶん十世紀から十二世紀の支配階級のヨーロッパ人だ」
「王国成立前の話だな?」
王国建国前史の文献(大半が伝説・伝承)はジョーからもらって何度も読み返した。
その蛮勇とも言える英雄譚や奇跡の表現はまるで魔法(……いや、ここには実際に魔法があるのか)。
周りの人間には思いもつかない発想で窮地を脱するみたいな話が多い。
数世代文明水準が違ったらそんな風にも思えるだろう。
火縄銃が日本の戦争を根本的に変えたみたいな話だ。
「その後も主にヨーロッパ人が転生者として選ばれたんじゃないかと思う。十三世紀以降の発明品である望遠鏡とか糸車がそれを示唆している」
「しかしだな、単独で転生したとしてももうちょっと文明を進歩させられるんじゃないか?」
「それは戦後日本に生きたからの思い込みよ、ルダー。よっぽどの学者でもなきゃそんなに知識を得られるものじゃないんだから」
「クレタの言う通りだと思う。僕らだって前世の仕事柄、専門知識を持っているけど、それ以外の知識は文献やネットの引用だろ?」
「単なる農夫とか、靴磨きに文明を進化させるほどの科学知識はなかったってことか?」
「残念ながら」
そう答えたのはリリムだった。
クレタが補足する。
「ヨーロッパだと活版印刷で本が大量生産されるようになるまで文字を読めるのは一部特権階級だけだったし、産業革命期でも少年少女は貴重な労働力として利用されてたの。ホームズの小説とか読むとよく出てくるでしょ?」
「確かに、俺のおふくろも『学校に通えなかったから手紙も満足に読めない』ってずいぶん読まされたっけ」
ルダーのお母さんなら明治の生まれだろうし、田舎がどこか聞いてないけど農村は都会と比べて識字率が低く、女子は学校に通わせてももらえないことがあったとか。
よく聞く話だ。
時代物のドラマエピソードじゃテッパンのひとつだったわ。
「それに国家体制が強固だったってのも理由だろうな」
と、チカマックが割って入ってくる。
「特に君主の匙加減で政治が行われている時期は文明の進歩が緩やかになると言われている」
ああ、江戸時代とかそんな感じだ。
織 豊 時代とか世界水準だったのに幕末には二周遅れくらい置いてかれてた。
「ともかく、戦乱に乗じてここらで文明水準をググッと進めようってのが神様の意図だろうから、そのビッグウェーブに乗ってやろうってのが僕の考えだ」
「びっぐうぇーぷってなんだ?」
むむ、チカマックには通じないか。
ルダーが説明してくれるんでそこは無視する。
「そう言うわけだから、心置きなく文明を進めていこうってことで、チカマックがみんなの意見を聞きたいんだと」
「そりゃあ、できるんなら前世の生活水準まで進歩させたいんじゃねぇのか?」
ジョーの知っている文明水準ってどの辺までなんだべな?
「その前世の水準ってのをまず話し合おうか」
「いやいやチカマック、話すこと多すぎて一日二日じゃ終わらないだろ?」
「ルダーの言う通りね」
「いや、いつ頃死んだか話し合えば地球の文明水準は一人分ですむぞ」
おお、さすがは年の功(前世)。
ジョーの提案に従って僕ら地球組は自分の死んだ時期を話すことになった。
ルダーは以前話してくれた通り、新世紀まであと半年。
クレタは僕より十歳以上年上、昭和の頃から医者として働いていたのだけれど、過労でポックリ逝ったのが五十過ぎって言うんだから十年代初頭くらいか。
「東日本大震災って知ってる?」
「え? 阪神淡路じゃなく?」
「ってことはやはりジャンが一番長生きしたんだな」
と、昭和のうちに亡くなったというジョーが言う。
年齢で言ったら七十まで生きてたジョーが一番長生きだったわけだけど……。
「東日本大震災ってのは是非とも詳細が知りたいところだが、そこはあとで個人的に。だな」
「俺は阪神淡路って方が気になるがな。大震災ってんだろ?」
「それは後でやってくれ。そうだな、まずはどんなことができたか教えてくれ」
チカマックに促されるまま、僕は自分の身の回りの話、生活様式を語り出す。
新三種の神器(3C)から始まってデジタル三種の神器にパソコン、スマホなどなど。
ちょいちょい入る三人からの興味津々の質問ツッコミ感想はチカマックにも有益だったようだ。
半日以上話しただろうか?
「──とりあえずこんなとこかなぁ?」
驚きすぎて疲れ切ってる四人の中で、チカマックだけは目が爛々と輝いていた。
「こんなことができるとか、科学だって魔法に匹敵する技術じゃないか! これを軽視、あまつさえ禁止するなんて、あの世界の人間はなんて愚かなんだろう」
とか、メモを見ながら慨嘆している。
「で? どこまでできる?」
と、ジョーが聞く。
「知識総動員したって、ジャンの語った文明水準には十年経っても到達しないね」
チカマックの言う通りだと僕も思う。
「まず僕の前世の魔法でも再現できないものがちょいちょいあって原理がまったく理解できないものがある。ぱそこんで検索ってどこの図書館の情報を検索するんだよ? 家に居ながらってなに? 誰が調べてくれるんだ? デンシショセキってなんだよ? 本とどこがどう違うんだ?」
ネット検索はともかく電子書籍の説明はし難いな。
「判った。じゃあどこまで時間を遡れば再現可能になる?」
「じゃあ今度は文明の歴史を辿ろうか」
「え? 歴史の勉強始めるの? 勘弁」
さてはカルホ歴史の授業嫌いだったな?
オヤジ組は待ってましたって顔してんのに。
「王国成立前の話だな?」
王国建国前史の文献(大半が伝説・伝承)はジョーからもらって何度も読み返した。
その蛮勇とも言える英雄譚や奇跡の表現はまるで魔法(……いや、ここには実際に魔法があるのか)。
周りの人間には思いもつかない発想で窮地を脱するみたいな話が多い。
数世代文明水準が違ったらそんな風にも思えるだろう。
火縄銃が日本の戦争を根本的に変えたみたいな話だ。
「その後も主にヨーロッパ人が転生者として選ばれたんじゃないかと思う。十三世紀以降の発明品である望遠鏡とか糸車がそれを示唆している」
「しかしだな、単独で転生したとしてももうちょっと文明を進歩させられるんじゃないか?」
「それは戦後日本に生きたからの思い込みよ、ルダー。よっぽどの学者でもなきゃそんなに知識を得られるものじゃないんだから」
「クレタの言う通りだと思う。僕らだって前世の仕事柄、専門知識を持っているけど、それ以外の知識は文献やネットの引用だろ?」
「単なる農夫とか、靴磨きに文明を進化させるほどの科学知識はなかったってことか?」
「残念ながら」
そう答えたのはリリムだった。
クレタが補足する。
「ヨーロッパだと活版印刷で本が大量生産されるようになるまで文字を読めるのは一部特権階級だけだったし、産業革命期でも少年少女は貴重な労働力として利用されてたの。ホームズの小説とか読むとよく出てくるでしょ?」
「確かに、俺のおふくろも『学校に通えなかったから手紙も満足に読めない』ってずいぶん読まされたっけ」
ルダーのお母さんなら明治の生まれだろうし、田舎がどこか聞いてないけど農村は都会と比べて識字率が低く、女子は学校に通わせてももらえないことがあったとか。
よく聞く話だ。
時代物のドラマエピソードじゃテッパンのひとつだったわ。
「それに国家体制が強固だったってのも理由だろうな」
と、チカマックが割って入ってくる。
「特に君主の匙加減で政治が行われている時期は文明の進歩が緩やかになると言われている」
ああ、江戸時代とかそんな感じだ。
「ともかく、戦乱に乗じてここらで文明水準をググッと進めようってのが神様の意図だろうから、そのビッグウェーブに乗ってやろうってのが僕の考えだ」
「びっぐうぇーぷってなんだ?」
むむ、チカマックには通じないか。
ルダーが説明してくれるんでそこは無視する。
「そう言うわけだから、心置きなく文明を進めていこうってことで、チカマックがみんなの意見を聞きたいんだと」
「そりゃあ、できるんなら前世の生活水準まで進歩させたいんじゃねぇのか?」
ジョーの知っている文明水準ってどの辺までなんだべな?
「その前世の水準ってのをまず話し合おうか」
「いやいやチカマック、話すこと多すぎて一日二日じゃ終わらないだろ?」
「ルダーの言う通りね」
「いや、いつ頃死んだか話し合えば地球の文明水準は一人分ですむぞ」
おお、さすがは年の功(前世)。
ジョーの提案に従って僕ら地球組は自分の死んだ時期を話すことになった。
ルダーは以前話してくれた通り、新世紀まであと半年。
クレタは僕より十歳以上年上、昭和の頃から医者として働いていたのだけれど、過労でポックリ逝ったのが五十過ぎって言うんだから十年代初頭くらいか。
「東日本大震災って知ってる?」
「え? 阪神淡路じゃなく?」
「ってことはやはりジャンが一番長生きしたんだな」
と、昭和のうちに亡くなったというジョーが言う。
年齢で言ったら七十まで生きてたジョーが一番長生きだったわけだけど……。
「東日本大震災ってのは是非とも詳細が知りたいところだが、そこはあとで個人的に。だな」
「俺は阪神淡路って方が気になるがな。大震災ってんだろ?」
「それは後でやってくれ。そうだな、まずはどんなことができたか教えてくれ」
チカマックに促されるまま、僕は自分の身の回りの話、生活様式を語り出す。
新三種の神器(3C)から始まってデジタル三種の神器にパソコン、スマホなどなど。
ちょいちょい入る三人からの興味津々の質問ツッコミ感想はチカマックにも有益だったようだ。
半日以上話しただろうか?
「──とりあえずこんなとこかなぁ?」
驚きすぎて疲れ切ってる四人の中で、チカマックだけは目が爛々と輝いていた。
「こんなことができるとか、科学だって魔法に匹敵する技術じゃないか! これを軽視、あまつさえ禁止するなんて、あの世界の人間はなんて愚かなんだろう」
とか、メモを見ながら慨嘆している。
「で? どこまでできる?」
と、ジョーが聞く。
「知識総動員したって、ジャンの語った文明水準には十年経っても到達しないね」
チカマックの言う通りだと僕も思う。
「まず僕の前世の魔法でも再現できないものがちょいちょいあって原理がまったく理解できないものがある。ぱそこんで検索ってどこの図書館の情報を検索するんだよ? 家に居ながらってなに? 誰が調べてくれるんだ? デンシショセキってなんだよ? 本とどこがどう違うんだ?」
ネット検索はともかく電子書籍の説明はし難いな。
「判った。じゃあどこまで時間を遡れば再現可能になる?」
「じゃあ今度は文明の歴史を辿ろうか」
「え? 歴史の勉強始めるの? 勘弁」
さてはカルホ歴史の授業嫌いだったな?
オヤジ組は待ってましたって顔してんのに。