第35話 もうすぐ春ですね♪

文字数 2,694文字

 春になった。
 年始である。
 冬の間に村はずいぶんと発展した。
 まず僕以外の全員分の家が建った。
 何人かでシェアしている家があるので二十数人で十軒ではあるけれど。
 うち北東に建てられた一棟がジョーのキャラバンが使う倉庫兼邸宅だ。
 ジョーのこの村に滞在するときに使う家ってことになる。
 倉庫はあと二棟建てる予定でいる。
 倉庫の管理としてジョーの使用人というカーゲ・ストゥラー、ベル・ストゥラー夫妻が常駐する。
 また前世の記憶をくすぐる名前だ。
 余談だけど夫妻にはカーゲマンと言う今年十五歳になる息子がいて、彼はキャラバンに同行するとこになっているそうだ。
 サビー、イラード兄弟とガーブラは倉庫の側に建てた家で暮らすことになったし、オギンとザイーダが村長(ぼく)の家予定地の西隣に家を建てて暮らしている。
 ちなみに僕の家は中央広場から北へ続く道の突き当たり、村の範囲を北側五百シャル削ったのでそこはある意味村はずれだ。
 縄張りだけは済んでいる。
 平安京をイメージしてくれると判りやすいかもしれない。
 村を守る高さ十シャッケンの塀を背にした場所だ。
 塀といっても丸太を地面に打ち込んでばらけないようにツナで縛っている程度なんだけどね。
 この塀は村をぐるっと囲んでいて南側中央に正面門、北側東端に裏門を開けている。
 北側旧村域は予定通り牧場にして今は農耕や荷運びに使っているホルスとキャラバンのホルスが放牧されている。
 他にもキャラバンが商品として運んでいたクッカーという飛べない鳥をいるだけ(七羽)飼うことになった。
 クッカーには簡易のとり小屋を作った。
 暇を見てちゃんとした飼育小屋を作ってもらう計画だ。
 ルダーとの話し合いで五十羽規模にする計画になっている。
 春になってキャラバンが動き出したらジップを仕入れる計画もある。
 乳を利用するのが目的だけど、食肉としてもわりかし美味い。
 そういえば冬の間にメスのホルスが妊娠していてそろそろ出産予定だ。
 出産で思い出したけど、ルダーがヘレンと結婚した。
 ルダーにとって連れ子ってことになるアニーもよく懐いているのでいいことだと思うんだけど、ジャリとジャスがなんか複雑そうだった。
 二人が結婚したことで、ヘレンたちがルダーの家に移り住み、ヘレンたちが一緒に住んでいたクレタとカルホの家は二人の家になった。
 姉のクレタでもまだ十二歳。
 ルダーは二人にも「一緒に住まないか?」と誘ったんだけど断られたようだ。
 用水路から村の中に水を引く事業は、塀の建設に合わせて北側の塀沿いに村の中に引き込み、村長用地を通り中央広場に池を作って溢れる水を南西に広がる畑に向かわせるルートを作った。
 そんなに水量を必要としないので簡単にできた。
 あ、ちなみにこの水道は僕が一人で作ったよ。
 他のみんなは家建てたり塀を作ったりで忙しそうだったからね。
 なあに、剣道の素振りみたいなもんだったよ。
 そうなるようにちょっと加工した道具を特注したからね。
 加工といえば、ジャリの鍛冶屋がなかなか上達した。
 また武器の質はギリ及第点かな? くらいだけど、その成果なのか農器具工具の類はルダーが合格のお墨付きを下した。
 前世知識が刀鍛冶と野鍛治は別スキルと囁いてくるのが不安材料かな?
 前世知識といえばその前世知識の中から鋳造技術を教えて鉄管を作ってもらい井戸掘りを開始。
 溶接技術の知識はちょっと中世レベルに落とし込めなかったんで教えられなかったんだけど、現在某TV番組で記憶した井戸掘り技術で井戸の掘削作業をしている。
 掘削作業に必要だった滑車などの道具はルダー指揮の元、数人の腕に覚えのある男たちの手によって作られた。
 素人目に見ても素晴らしい出来だったあたり、木工は田舎の百姓なら当然のスキルってことだろうか?
 ちなみに鋳造した鉄管は用水路から引いてきた水道にも水道管として利用している。
 もう一つ、鋳造に興味を示した村人がいたので鋳造の方はそのおじさんに任せてジャリには鍛治に専念してもらうことになった。
 木工と違って金属器はある程度の専門性が必要だからね。
 もちろん木工も質のよいものを作るには匠の技術が必要なんだけど。
 叩き出しの鍋釜もいいけど鋳物の生活用品はいいものだ。
 鉄瓶が欲しい……。
 冬の間は基本的に農作業ができないので村人は案外暇なんだけど、村を再建中のここではみんな朝から忙しく働いてくれた。
 その上で合間を縫って軍事調練もするんだから、多分みんな不平不満を募らせていたんじゃないかと思うけど、特に愚痴を言うわけでもなく黙々と日々を過ごしていた。
 そうこうするうちに雪が溶けて川になって流れてゆく頃、春のキャラバン隊が再びやってきた。
 このキャラバンはルダーたちをこの村に連れてきた隊だから、廃村になったなんて世間の噂に惑わされずにいつもの通り村を訪れたってわけだ。

「一年ぶりに来たが、見違えるようだな」

 元々おじいさん商隊長さんだったけど、めっきり白髪も増えてひとまわり小さくなったみたいだ。
 この一年、だいぶん苦労したみたいだな。

「荷車が減りましたね」

 五台編成だったはずなのに三台しかない。
 三頭のホルスがただ()かれて歩いている。

「野盗に襲撃されてね。ホルスも一頭失った。隊のメンバーも三分の一が殺されたよ」

 それは……。

「なんと声をかければいいか……」

「商売柄危険とは常に隣り合わせだが、この一年は野盗に襲われる回数が倍近くになった」

 そんなに!?

「三割は王侯貴族の正規軍だがね」

「話には聞いていましたが、王国内はそんなに乱れているんですか?」

「うむ、ちょっとした小競り合いから本格的な軍事衝突に発展する事案も増えているよ」

 そんな話をしているところにジョーがやってくる。
 この村では同時期にキャラバンが来ることはほとんどないので知りようはなかったんだけど、二人は面識があるようだ。

「ジョーじゃないか」

 驚く商隊長に会釈をするとジョーは親しげに話しかける。
 しばらくは二人で旧交をあたためつつ近況を話していたので、僕は感情のない表情でぼーっとキャラバンを眺めつつ、聞くとはなしにその話を聞いていた。

「なるほどな、ここに拠点を……。それでこんなものものしい村になっているのかい?」

「いえいえ、村を塀で囲もうと提案したのは村長ですよ」

 おっと、ここで話が僕の方に飛んできたぞ。
 僕は愛想笑いで二人に返す。

「ほぅ、興味深い。今晩の宴の時にでも詳しく聞かせてもらえんかの?」

「ええ、喜んで」

 僕はリリムと視線を交わしてため息をついた。
 なんかやな予感がしたんだ。
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