第115話 町の代官との交渉 1

文字数 2,339文字

 村長の歓待を受けて、翌日には町に向けて出発。
 ちなみに僕の乗るホルス車にはこの村での用が済んだキャラも同乗している。
 本当は二、三日逗留したいところなんだけれど、この国の慣習として村長は旅人を饗さなければいけないことになっているんで負担を考えてのことだ。
 ああ、なんて優しい領主(候補)なんでしょう。

(なに自画自賛してんのよ)

 いいべや、誰も褒めてくれないんだから。
 どん詰まりの僕の故郷と違って耕作適地の広いこの辺りは集落が密集していて町を中心に三ヶ村拓かれている。
 ということはとても隣接しているということだ。
 第三中の村から町までは半日ちょっとの距離にあった。
 本当近いね。
 町は高さ二シャル半ほどの石造りの壁で囲われていたけれど、出入口には門番らしき人員は配置されていなかった。
 なんのための城壁なのか?
 町の中に入るとホタルが出迎えてくれた。

「オギンたちは?」

「はい、代官チカマック様と代官館でお待ちです」

「首尾は?」

「上々かと。少なくとも交渉には差し支えがございません」

 あれ? ホタルってこんな物言いだったかな?
 とか、思ってたらキャラがこうそっと耳打ちしてくれる。

「人の目のあること、ホタルとて言葉遣いには当然気をつけていますよ」

 オギンかキャラの指導のたまものってことか。

「では、このまま進ませます」

 と、先頭車のチローが声をかけ出発だ。
 代官館はボット村やセザン村で僕が建てた代官館より豪華な作りだった。
 築年数は相当経過しているようだけれど、丁寧に使われていたようで今も偉容を誇っている。
 とはいえ、石壁で囲われた城塞都市の景観は前世の海外映画でよく観たものよりずっと不衛生で、これなら農村地域の方が開放的で水まわりも潤沢な分まだマシだ。
 町人は男の比率が高く目つきのよくないあらくれた感じの奴らが大半だった。
 これは町の機能による傾向なんだろうか?

「この町はずいぶん治安が悪そうですね」

 と、サラがいうところを見ると、これが一般的というわけじゃないってことか。
 そうだな、ゼニナルは大きな商都で町としての成立過程が違っているのを()()いてもここまで不衛生じゃなかった。
 到着した代官館の門前で、オギンたちが一人の男と待っていた。
 今日は出発前から正装だったので、そのままサラをエスコートして車を降りる。

「お待ちしておりました。さ、こちらへどうぞ」

 と、男が案内に立つ。
 ちらりとオギンを見ると小さく頷くので、そのままついていくことにする。

「お館様」

 と、声をかけられて振り向くと、車から出ようとするルビンスの姿が。

「オギンたちがいるから大丈夫だ。待機していてくれ」

「私はご同行いたします」

 キャラがサラにかしずくように付き従う。
 女性ばかりとはいえ錬磨の戦闘集団だ。
 実力で言えばオギンとキャラが僕より上でキキョウとコチョウが同等レベル、一格落ちるとは言えホタルもそこそこ戦える。
 それに今日は戦いに来たわけじゃなく交渉に来たんだからこれで問題ないでしょ。
 ま・ある意味戦いではあるけれど。

(単にハーレム主人公したいだけじゃなく?)

 …………。

(あ、察し)

 応接室に案内されて待つことしばし、ルビレルより若いがそれなりに貫禄のある男が若い二人の従者を連れて入ってきた。
 なるほど、これが代官チカマックか。
 従者の一人が僕を見て一瞬目を見張る。
 なに? なんなのよ。

「待たせたな」

 む、さっそくマウントの取り合いか。
 交渉ごとは当然自分に有利に進むように行うもんだ。
 もちろん一方的にこちらが利益を得るようなやり方は禍根の元だけど。
 さて、まずはどう攻めるか。
 そう言えば名乗ってないな。

「お初にお目にかかる」

 とだけ言っておこう。
 ちょっと目を細めただけで着席をうながす男。

「前任の代官から申し送りがあったのでとりあえず会うだけあってみたが……」

 そうくるか。

「なるほど、交渉する気はない、と」

「そうは言ってない。だが、そなたらは我々にとっては叛逆者だ。キンショー様はなにを思ってこの交渉を進める気になったのか、そなたらと手を組んでどんな得があると踏んだのか判らんのでな」

 「様」?
 いや、そこはとりあえず置いといて、僕はオギンを振り返る。
 オギンは黙して目を閉じるだけ。
 くぅ……。

「では、まずこちらのことでご存知のことをお聞きしましょうか?」

「三年前だったか? 最奥の寒村の分際で恐れ多くもズラカルト男爵様に反旗をひるがえし、奥の村を小賢しい策を弄して収奪、一昨年秋には第五中の村を急襲してこれもまた男爵様から奪った反逆者であろう」

 ……間違っちゃないけど、なんか腹立つ言い方だな。

「そうですね。オルバック軍どころか男爵軍も戦で退けた新興領主だと認識して欲しいところですが?」

「なに?」

「なにか?」

 すごむ男にとぼけて見せると、さっき目を見張ってた若い従者がぷっと吹き出す。
 男がむすっとした後で咳払いをすると真面目な顔を作って背筋を伸ばす。
 それを見て今度はサラがクスッと笑うのでこちらも咳払いでごまかす。

「いいだろう。確かに一寒村と侮って二度も戦に敗けているのば事実だ。しかし、調子に乗って領主を名乗るとはおこがましい」

「いえいえ、第五中の村、今はセザン村と名を改めていますがその村を我が軍が接収した後、オルバック家は軍をおこせなかったと聞き及んでおります。キンショー様は村の叛乱一つ抑えられない領主など取り替えてしまった方が民のためだと、そうお考えになられて帰順の打診をされたのだと考えておりましたよ?」

「む……」

「ところで……」

 短くうめく男を無視して、僕は後ろに控えている従者の目を見る。

「いつまで茶番に付き合わせるつもりなのでしょう?」
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