第29話 村の短期防衛計画1 仮想敵の設定
文字数 2,011文字
「まず、神様から与えられた使命はこの時代を生き抜くこと」
「そうね」
「ところが時代は乱世に突入している」
「そもそも、そうじゃなきゃわざわざ転生なんかさせないわよ」
……確かに。
いやいや、そこはいい。
「こんな田舎でも野盗に襲われた。ジョーが領主に頼んで廃村手続きはしてもらっているから、しばらくは村の再建に集中できるんだけど……」
「実際、今年は租税の取り立てがなかったでしょ?」
「そうだね。おかけで余裕で冬を越せる備蓄ができそうだ」
穀物類はちょっと心許ないけど、この間の狩りで干し肉の量は申し分ない。
仮に足りなくなってもその時は狩りに出れば新鮮な肉にありつけるはずだ。
「なにもなければ生きていくには困らない生活ができる目処はたった」
「村長の目から見てそう思えるならいいんじゃない?」
「やだなぁ、リリムまで僕のこと村長って呼ぶのかい?」
「村長は村長じゃない?」
「そうなんだけど、できれば肩書きで読んでほしくないんだよ、せめてリリムにはさ」
リリムは腕を組んで僕の周りを二、三周回ってため息をついた。
「しょうがないな……」
ありがたい。
二人きりの時間でさえ肩書きで呼ばれちゃうと公私の切り替えができない。
公私の区別はストレスの軽減にも有効なんだよ。
特に責任ある立場の人間ってのにはさ。
「でも、今はその責任者って立場でもの考えてるんでしょう?」
あ・また心の声を聞いてやがる。
……まぁ、確かにそうなんだけどさ。
「……まぁ、いい。ジョーのキャラバンの隠れ家的拠点になることになっているから、村の防衛ってのは考えなきゃならない」
「ふむふむ」
「じゃあ、どんな防備をすればいいか?」
「どうするの?」
「それを考えるために状況を整理するんだよ」
僕はそう言っていくつかの巻物を広げる。
巻物は面倒だなぁ……書籍ってなかなかに便利なんだな。
そして皮紙はもったいなさすぎてメモには使えない。
それ以上に紙が高価すぎでヤバイ。
ちょっと考えて、僕は枯葉をひと抱え雑木林から取ってくる。
これを付箋のように使おうって魂胆だ。
インクはキャラバンからもらっている。
羽ペンだと枯葉が破れて文字が書けそうにないから、毛皮からひとつまみ毛を切って束ねた簡易の筆を作る。
さて、準備ができたから思考実験再開だ。
「まず、他国の心配はとりあえずしなくていい。国内は王位継承問題で内乱勃発……」
と、枯葉に書いていく。
「乱に乗じて野盗が跋扈 」
「難しい言葉使うのね」
「まあね」
「後で証拠隠滅したほうがいいわよ」
「? どういうこと?」
「それ、日本語でしょ?」
見ると、確かに日本語だ。
うん、終わったら囲炉裏で燃やそう。
「この村の領主ズラカルト男爵がどう動くかは全く判らないから、とりあえず野盗から村を守るとこに集中して計画を立てよう」
「それでいいの?」
「うーん……どうだろう? あらゆる可能性を考えるのもいいんだけど、それで対策が遅れるのは問題だと思わない?」
「遅れると思ってんだ」
「うん、思ってる」
「根拠があるの?」
「あるよ」
キャラバンが拠点を移したら、この村に頻繁にキャラバンが出入りすることになる。
そうするとどうしたって目立つだろ?
最初に目をつけるのは領主じゃなく、盗賊だと見てる。
いつの時代もお役所より民間の方が目ざとく耳ざとい。
決断も実行速度も圧倒的に野盗の方が早いだろう。
そして慎重さも持っている。
特に犯罪行為を自覚している場合、リスクをできる限り潰してから行動に移す。
それが自分を守ることにつながっているからだ。
「なるほど」
いいタイミングで相槌をうつね。
「ということで、来年の春までには野盗対策が済んでなきゃダメだと思うんだ」
「なんで春? 春になったら襲われる?」
「いいや。たぶん襲われるとしたら収穫期だろうね。去年みたいに」
「じゃあ『秋までに』でいいんじゃない?」
「いやいや、春になったら畑仕事が始まるだろ? どうしたってそっちを優先しなきゃならないからね。それに、野盗に襲われるってことは戦わなきゃならないってことだろ? 夏場はそっちの準備に充てたいんだ」
武器を用意して、戦闘訓練をする。
付け焼き刃で経験豊富な野盗にどこまで対抗できるか判らないけど、やらないであの時みたいに蹂 躙 されるのは嫌だ。
「そうね。あなたには生きてもらわなきゃいけないんだから」
「そういうこと」
さて、そこで具体的にどんな防御策を考えればいいか?
この世界は、こと戦闘に関していえば中世レベルだ。
野盗なんてのはそもそも高度な戦術で動きはしない。
せいぜいが頭の命令に従う程度。
頭の経験だけが頼りの戦術といってもいいはずだ。
実際、村を襲った野盗は、てんでに村人を襲っていた。
だからこそ、僕は生き延びられたんだ。
あの時の記憶は思い出したくないのか曖昧だけど、村の守りの参考にしなきゃいけない。
次があるなら僕が、この村を守ってみせる。
「そうね」
「ところが時代は乱世に突入している」
「そもそも、そうじゃなきゃわざわざ転生なんかさせないわよ」
……確かに。
いやいや、そこはいい。
「こんな田舎でも野盗に襲われた。ジョーが領主に頼んで廃村手続きはしてもらっているから、しばらくは村の再建に集中できるんだけど……」
「実際、今年は租税の取り立てがなかったでしょ?」
「そうだね。おかけで余裕で冬を越せる備蓄ができそうだ」
穀物類はちょっと心許ないけど、この間の狩りで干し肉の量は申し分ない。
仮に足りなくなってもその時は狩りに出れば新鮮な肉にありつけるはずだ。
「なにもなければ生きていくには困らない生活ができる目処はたった」
「村長の目から見てそう思えるならいいんじゃない?」
「やだなぁ、リリムまで僕のこと村長って呼ぶのかい?」
「村長は村長じゃない?」
「そうなんだけど、できれば肩書きで読んでほしくないんだよ、せめてリリムにはさ」
リリムは腕を組んで僕の周りを二、三周回ってため息をついた。
「しょうがないな……」
ありがたい。
二人きりの時間でさえ肩書きで呼ばれちゃうと公私の切り替えができない。
公私の区別はストレスの軽減にも有効なんだよ。
特に責任ある立場の人間ってのにはさ。
「でも、今はその責任者って立場でもの考えてるんでしょう?」
あ・また心の声を聞いてやがる。
……まぁ、確かにそうなんだけどさ。
「……まぁ、いい。ジョーのキャラバンの隠れ家的拠点になることになっているから、村の防衛ってのは考えなきゃならない」
「ふむふむ」
「じゃあ、どんな防備をすればいいか?」
「どうするの?」
「それを考えるために状況を整理するんだよ」
僕はそう言っていくつかの巻物を広げる。
巻物は面倒だなぁ……書籍ってなかなかに便利なんだな。
そして皮紙はもったいなさすぎてメモには使えない。
それ以上に紙が高価すぎでヤバイ。
ちょっと考えて、僕は枯葉をひと抱え雑木林から取ってくる。
これを付箋のように使おうって魂胆だ。
インクはキャラバンからもらっている。
羽ペンだと枯葉が破れて文字が書けそうにないから、毛皮からひとつまみ毛を切って束ねた簡易の筆を作る。
さて、準備ができたから思考実験再開だ。
「まず、他国の心配はとりあえずしなくていい。国内は王位継承問題で内乱勃発……」
と、枯葉に書いていく。
「乱に乗じて野盗が
「難しい言葉使うのね」
「まあね」
「後で証拠隠滅したほうがいいわよ」
「? どういうこと?」
「それ、日本語でしょ?」
見ると、確かに日本語だ。
うん、終わったら囲炉裏で燃やそう。
「この村の領主ズラカルト男爵がどう動くかは全く判らないから、とりあえず野盗から村を守るとこに集中して計画を立てよう」
「それでいいの?」
「うーん……どうだろう? あらゆる可能性を考えるのもいいんだけど、それで対策が遅れるのは問題だと思わない?」
「遅れると思ってんだ」
「うん、思ってる」
「根拠があるの?」
「あるよ」
キャラバンが拠点を移したら、この村に頻繁にキャラバンが出入りすることになる。
そうするとどうしたって目立つだろ?
最初に目をつけるのは領主じゃなく、盗賊だと見てる。
いつの時代もお役所より民間の方が目ざとく耳ざとい。
決断も実行速度も圧倒的に野盗の方が早いだろう。
そして慎重さも持っている。
特に犯罪行為を自覚している場合、リスクをできる限り潰してから行動に移す。
それが自分を守ることにつながっているからだ。
「なるほど」
いいタイミングで相槌をうつね。
「ということで、来年の春までには野盗対策が済んでなきゃダメだと思うんだ」
「なんで春? 春になったら襲われる?」
「いいや。たぶん襲われるとしたら収穫期だろうね。去年みたいに」
「じゃあ『秋までに』でいいんじゃない?」
「いやいや、春になったら畑仕事が始まるだろ? どうしたってそっちを優先しなきゃならないからね。それに、野盗に襲われるってことは戦わなきゃならないってことだろ? 夏場はそっちの準備に充てたいんだ」
武器を用意して、戦闘訓練をする。
付け焼き刃で経験豊富な野盗にどこまで対抗できるか判らないけど、やらないであの時みたいに
「そうね。あなたには生きてもらわなきゃいけないんだから」
「そういうこと」
さて、そこで具体的にどんな防御策を考えればいいか?
この世界は、こと戦闘に関していえば中世レベルだ。
野盗なんてのはそもそも高度な戦術で動きはしない。
せいぜいが頭の命令に従う程度。
頭の経験だけが頼りの戦術といってもいいはずだ。
実際、村を襲った野盗は、てんでに村人を襲っていた。
だからこそ、僕は生き延びられたんだ。
あの時の記憶は思い出したくないのか曖昧だけど、村の守りの参考にしなきゃいけない。
次があるなら僕が、この村を守ってみせる。