第217話 ヒロガリー区侵攻 4
文字数 2,022文字
城壁に守られた城塞都市。
これまでのそれと大きく違わないその町で、大きく違っていたのは頑強な抵抗だった。
もちろん予想はしていた。
最初の町を制圧した時、町の代官たちは町を逃げることを選択した。
逃げた先は一本道の街道の先、当然この目の前の町となる。
当たり前のこととして僕らの存在が知らされていて、対抗策が練られていたとしても不思議ではない。
「これはなかなか」
と、チカマックが僕の隣で唸るのも無理はない。
実に五十人以上の弓兵を城壁の上に配置して矢の弾幕を降らせてくるのだから、鉄製の大楯に守られた魔法部隊とて簡単には近づけない。
「でもまぁ、こんな領境でもない地方都市に、いつまでもあんな弾幕が張れるほどの矢はありませんよね」
チカマックの言う通り、二時間も撃ち続けているとパタリと矢の雨が止んだ。
ラビティアは、慎重に軍を前進させて門に取り付いた。
言動や戦闘の荒々しさと違って戦闘指揮は理性的なんだね。
「チャールズ。念の為カイジョー隊を町の反対側へ移動させてくれ」
「かしこまりました」
魔道具移動用 電話 でカイジョー隊に連絡させる。
カイジョー隊が動くと、命令もしていないのにオクサ隊も布陣を変えるあたりさすがはオクサって感じだね。
その間にラバナルによって門が破壊される。
ラビティアは前回のオクサとは違ってドッと街中に兵を雪崩れ込ませることはしない。
門の裏手からの不意打ちを警戒したようだ。
斥候を送り込んで周囲を警戒しながら中に入っていく。
「少し前進させよう」
と、本隊を町に寄せている途中にカイジョー隊からの連絡が入った。
「お館様。どうやら逃げられたみたいです」
「どう言うことだ」
「兵を率いて撤退したんです」
その後ラビティア隊からも同様の連絡が入る。
「とりあえず入城しようか」
部隊を町の中、中央広場に向かわせるとラビティア隊とキャラに付き添われた一人の騎士に出迎えられた。
彼の説明によると、ありったけの矢を射かけた守備隊はトゥウィンテルという武将に率いられ、全財産を抱えた代官どもを守りながら民衆を置き去りに町を脱出したのだという。
「計画的な脱出だったのだな」
「その通りです」
騎士は憤懣やるかたないという態度を隠そうともしない。
一本筋の通った男のようだ。
でも、自身の安全を図り戦力を最大限温存して次に備えるのは、戦術としては決して間違ってもいないけどな。
最大の目的が自分たちの財産だったっぽいところは擁護する気ないけど。
「で、お前はなぜ残った」
「あんな卑怯で自分勝手な奴らの元で、命を捨てるなどまっぴらごめんです」
「私の元ならどうだ?」
「!?」
「私の部下としてなら命をかける気はあるかと訊いている」
「卑怯な主でないのであれば」
率直な物言いで。
「なら今より我が配下として精進せよ」
人材は一人でも多いに越したことはない。
有能なら尚いいんだけど。
さて、この男はどうかな?
「名は?」
「メゴロマ・シードゥと申します」
「では、メゴロマ。早速だがこの町の治安維持に手を貸せ。チャールズ、アンヌとジーンをここへ」
と、二人を呼び出し
「町の臨時代官だ」
「女が、ですか?」
やっぱそう言うのね。
「性別は関係ない。有能有意な人材ならな」
「逆に言えば、無能であるならたとえ貴族であっても要職にはつけないと言っていますからね」
と、またまた二人についてきたイラードが付け加える。
「なるほど。この町の貴族どもは大半が代官と共に落ち延びた。無能な人間は官職に残ってはいないでしょう。御二方のお手並み拝見致しましょう」
「それで、兵はまったく残っていないのか?」
「荒くれた傭兵が十人ばかり」
と、報告したのはキャラ。
「単なる荒くれものではもはや我が軍には居場所がありませんな」
と応じたのはカイジョーだ。
「では、この町からは六十人を徴兵せよ」
「平民を戦に連れていくのですか!?」
と、メゴロマが気色ばむ。
「ズラカルト男爵は平民を徴兵しないのか?」
と問えば
「いや、大軍を催す際は徴兵もいたしますが……」
「それと同じこと。我が軍はその大半が徴兵された者たちだ。なまじな騎士や傭兵よりずっと強いぞ」
「それは……確かに聞き及んでおります」
ギリと奥歯を噛み締めて上目遣いに僕を睨みつけたメゴロマはアンヌとジーンを連れて去っていった。
ちょっと腹に一物の登用だったかな?
いつもの通り町の外に軍を野営させて翌日、本陣の騎馬隊を一組チカマックに与えて町の東にある村へ派遣する。
チロー同様、通り道にない村から兵を徴発するためだ。
さて、一番の問題はこの町の立地である。
この町は三つの町と繋がっている町だ。
一つはすでに占領した西北西の町。
もう一つがこれから占領しようとしている南西の町。
最後が南南東にある町。
そう、ここにはどうしても守備隊を置いていかなければいけないのだ。
どれだけの兵を残し、誰に兵権を預けるのか。
目下最大の懸案である。
これまでのそれと大きく違わないその町で、大きく違っていたのは頑強な抵抗だった。
もちろん予想はしていた。
最初の町を制圧した時、町の代官たちは町を逃げることを選択した。
逃げた先は一本道の街道の先、当然この目の前の町となる。
当たり前のこととして僕らの存在が知らされていて、対抗策が練られていたとしても不思議ではない。
「これはなかなか」
と、チカマックが僕の隣で唸るのも無理はない。
実に五十人以上の弓兵を城壁の上に配置して矢の弾幕を降らせてくるのだから、鉄製の大楯に守られた魔法部隊とて簡単には近づけない。
「でもまぁ、こんな領境でもない地方都市に、いつまでもあんな弾幕が張れるほどの矢はありませんよね」
チカマックの言う通り、二時間も撃ち続けているとパタリと矢の雨が止んだ。
ラビティアは、慎重に軍を前進させて門に取り付いた。
言動や戦闘の荒々しさと違って戦闘指揮は理性的なんだね。
「チャールズ。念の為カイジョー隊を町の反対側へ移動させてくれ」
「かしこまりました」
カイジョー隊が動くと、命令もしていないのにオクサ隊も布陣を変えるあたりさすがはオクサって感じだね。
その間にラバナルによって門が破壊される。
ラビティアは前回のオクサとは違ってドッと街中に兵を雪崩れ込ませることはしない。
門の裏手からの不意打ちを警戒したようだ。
斥候を送り込んで周囲を警戒しながら中に入っていく。
「少し前進させよう」
と、本隊を町に寄せている途中にカイジョー隊からの連絡が入った。
「お館様。どうやら逃げられたみたいです」
「どう言うことだ」
「兵を率いて撤退したんです」
その後ラビティア隊からも同様の連絡が入る。
「とりあえず入城しようか」
部隊を町の中、中央広場に向かわせるとラビティア隊とキャラに付き添われた一人の騎士に出迎えられた。
彼の説明によると、ありったけの矢を射かけた守備隊はトゥウィンテルという武将に率いられ、全財産を抱えた代官どもを守りながら民衆を置き去りに町を脱出したのだという。
「計画的な脱出だったのだな」
「その通りです」
騎士は憤懣やるかたないという態度を隠そうともしない。
一本筋の通った男のようだ。
でも、自身の安全を図り戦力を最大限温存して次に備えるのは、戦術としては決して間違ってもいないけどな。
最大の目的が自分たちの財産だったっぽいところは擁護する気ないけど。
「で、お前はなぜ残った」
「あんな卑怯で自分勝手な奴らの元で、命を捨てるなどまっぴらごめんです」
「私の元ならどうだ?」
「!?」
「私の部下としてなら命をかける気はあるかと訊いている」
「卑怯な主でないのであれば」
率直な物言いで。
「なら今より我が配下として精進せよ」
人材は一人でも多いに越したことはない。
有能なら尚いいんだけど。
さて、この男はどうかな?
「名は?」
「メゴロマ・シードゥと申します」
「では、メゴロマ。早速だがこの町の治安維持に手を貸せ。チャールズ、アンヌとジーンをここへ」
と、二人を呼び出し
「町の臨時代官だ」
「女が、ですか?」
やっぱそう言うのね。
「性別は関係ない。有能有意な人材ならな」
「逆に言えば、無能であるならたとえ貴族であっても要職にはつけないと言っていますからね」
と、またまた二人についてきたイラードが付け加える。
「なるほど。この町の貴族どもは大半が代官と共に落ち延びた。無能な人間は官職に残ってはいないでしょう。御二方のお手並み拝見致しましょう」
「それで、兵はまったく残っていないのか?」
「荒くれた傭兵が十人ばかり」
と、報告したのはキャラ。
「単なる荒くれものではもはや我が軍には居場所がありませんな」
と応じたのはカイジョーだ。
「では、この町からは六十人を徴兵せよ」
「平民を戦に連れていくのですか!?」
と、メゴロマが気色ばむ。
「ズラカルト男爵は平民を徴兵しないのか?」
と問えば
「いや、大軍を催す際は徴兵もいたしますが……」
「それと同じこと。我が軍はその大半が徴兵された者たちだ。なまじな騎士や傭兵よりずっと強いぞ」
「それは……確かに聞き及んでおります」
ギリと奥歯を噛み締めて上目遣いに僕を睨みつけたメゴロマはアンヌとジーンを連れて去っていった。
ちょっと腹に一物の登用だったかな?
いつもの通り町の外に軍を野営させて翌日、本陣の騎馬隊を一組チカマックに与えて町の東にある村へ派遣する。
チロー同様、通り道にない村から兵を徴発するためだ。
さて、一番の問題はこの町の立地である。
この町は三つの町と繋がっている町だ。
一つはすでに占領した西北西の町。
もう一つがこれから占領しようとしている南西の町。
最後が南南東にある町。
そう、ここにはどうしても守備隊を置いていかなければいけないのだ。
どれだけの兵を残し、誰に兵権を預けるのか。
目下最大の懸案である。