第12話 さらっとあっさり

文字数 1,883文字

 商隊長さんは、僕らを残してキャラバンの輪に入っていく。

 あれ?
 これってばていのいい厄介払い的な?

 とか思わなくもないのだけれど、とりあえず似たような境遇の八人は傷口をえぐらない程度に身の上話をして時間を潰していく。

「で? 君はこれからどうするつもりなんだい?」

 そう聞いてきたのはジャスさん。

 …………。

 めんどくさいので敬称は略そう。

「とりあえずしばらくはここにいようと思うんだ」

「何もないぞ、ここ」

 とか失礼にことを言うのはジャリだ。
 ……まぁ、事実なんだけど。
 それにしたって僕がジャンでジャリにジャスとは……紛らわしいことこの上ない。

「んーん……そうなんだけど、今の暮らしも嫌いじゃないし。ここを出ても生きていけそうにないし」

 僕の目標はとりあえず生き抜くことだ。
 それが神様から与えられたミッションだから。

「一緒に来ればいいのに」

 と言ったのはカルホ。
 気楽でいいよね。

「キャラバンに加わるのはちょっとねぇ」

「何が問題なんだ?」

 大人の配慮で言葉を濁したのにジャリが突っ込んでくる。
 こいつ、僕より四つ年上のくせに思慮が足りないな。

「逆に聞くけど、いつまでキャラバンにいるつもりなんだ?」

「え?」

「居候だろ?」

「イソーロー?」

 やべ、この単語は日本語か。

「つまり、好意でタダ飯食わせてもらってるってことだろ?」

 と、フォローしたのはルダー。

「確かに、これだけあちこちの村が襲われているんじゃ商売も厳しいだろうな。言うなりゃ俺たちゃ(ごく)(つぶ)しだ。手伝うにしたって商売のことはわかんねぇし護衛なんて務まらねぇ」

 さすがルダーさんはわかってらっしゃる。
 ジャリもジャスも下を向く。

「あの……」

 と、控えめに言うのはヘレンさん。
 美人じゃないけどやつれた横顔が艶っぽい。
 これが未亡人の色気ってやつか。

「この村に住まわしちゃもらえないかい?」

「ヘレンねぇさん」

 ねぇさん!? これはあれか? 「姐さん」と書いて「ねぇさん」と読むあれなのか?

「いやね、わたしゃ旅暮らしはどうも性に合わないって言うか、水がなじまないって言うか、このまま旅を続けていたら病気になっちまいそうでさ」

 確かにやつれ具合がそんな感じだな。

「あたしも遊びたぁい!」

 うん、アニーちゃんの年齢ならその気持ちわからなくもない。

「わたしもずっと馬車に乗ってるのは退屈」

 同調すんのはカルホじゃなくクレタかよ。

「一人は寂しい時もあるから住むのは別にいいんだけど、何にもないとこだから大変だよ? まず家作らなきゃなんないし」

「ジャンの家で寝ればいいっしょ」

「いやいや、狭いから」

 カルホ軽いな。
 つか、今のニュアンスは北海道弁か?

「住むとこは考えなきゃならないかもしれないが、俺もここらでキャラバンから降りたいと思っていたんだ」

「ルダーさんも?」

「何か問題でも?」

 いや、問題ないっす。

「俺は前世でも百姓だったんだ。春になったことだし、畑を耕したい」

 あ・今この人しれっと「前世」言うたよ。

「前世?」

「ん? ああ、ヘレンさんたちには言ってなかったが、俺は前世の記憶があるんだ」

「すげーすげー!」

 カルホ、喜び方が小学生男子だぞ。

「どうかね? ジャリ、ジャス」

 疲れた顔して訊ねるヘレンに互いに顔を見合わせ考え込む二人。
 そこにクレタがお気楽に言う。

「八人いればなんとかなるっしょ。いんでない?」

 あ、これやっぱり北海道弁のニュアンスだ。
 つか、八人全員残ること前提かよ。

「そうだな。オレたちにできることなんて畑仕事くらいか」

「そうっすね」

 あれ? このまま決まる感じ?
 これ完全に隊長さんの思惑通りだろ?
 くそっ、やられたな。
 明日はふんだくれるだけふんだくってやる。

「そうと決まれば善は急げだ。隊長さんに話つけてこよう」

「ああ、それならわたしが……」

「ねぇさん付き合います」

 と、アニーを連れ立って四人が席を離れると、ルダーが小さく耳打ちしてきた。

「お前も前世記憶持ってんだろ? つーか、オレが転生者だって気づいてたろ?」

「……ええ、ルダーさんの妖精は?」

「そんな奴はいねぇよ」

 辺りをキョロキョロ見回す僕に呆れた顔を見せるルダーさん。
 リリムは苦い顔をしている。

「こいつはリリムって言うんですけど、この妖精が見えるのは転生者だけらしいですよ」

「へぇ……」

「ついでにいうと、クレタ。彼女も転生者です」

「何!?

 今日イチの驚きをもって受け入れたぞ、この人。

「まだ、前世記憶は目覚めてないみたいですけどね。どうやら前世記憶は十五歳になると蘇るらしいです」

「なるほど……確かに俺も十五で前世記憶が蘇ったわ」
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