第219話 ジャン、機に臨(のぞ)んで変に応ず
文字数 2,437文字
占領した町の郊外にある陣地に戻ると、キャラ宛の飛行手紙が飛んできた。
サッと目を通したキャラがそのまま僕に手渡してくる。
そこには伝令が既に到着していて、軍を迎え入れる準備が行われていることと、さらに向こうの町まで伝令が飛んでいるようだ、と言うコチョウからの報告がびっくりするほど丸っこい文字で書かれていた。
「やはり、反転攻勢を考えているようだ」
「いかが致しますか?」
僕は改めて飛行手紙に目を通す。
手紙には他に彼女たちが追い越した軍勢の陣容も書かれていた。
それによると騎兵三十五、歩兵六十、弓兵四十に貴族が二十数人と書いてあり、町の守備隊が七十人程度と傭兵二十人が招集されていると言うことだ。
「キャラ、軍議を開く。主だった武将を集めてくれ」
「はい」
集められた武将を天幕に通し、軍議を開く。
そこにはヤッチシが言った通りに馳せ参じたノーシとブローも参加している。
「合して二百二十。問題ないと思われますが」
と答えたのはギラン。
確かに、二百程度であれば問題ない。
「お館様には別のご懸念がおありなのだろう。オレが考えるに差しあたってリゼルドが軍を率いて出撃してこないかが心配だな」
「ラビティアの懸念通りだ。伝令を走らせたのが一ヶ所とは限らない。私なら必ず近隣の町すべてに伝令を走らせる」
「となると挟撃の懸念が出てきますね」
「トゥウィンテルが率いている軍が二百。町の規模から考えてリゼルドも同程度の軍でくるでしょうから、戦力的にも拮抗してきますな」
「そこで陣を移動する」
と、ヤッチシに新しい絵図面を拡げさせる。
「南の街道を半日ほど進むと東側に丘陵がある。この丘に陣を敷く」
「町に立て籠るんじゃないのですか?」
ここらへん、反お館派のガス抜きと人材不足の折から古参のよしみで武将に遇していても、所詮田舎村の大将だ。
ギランには戦の機微、戦術がよく判らないとみられる。
んーん……むしろこう言う軍議などの場で恥をかかすと逆恨みを募らせかねないよな。
かといって降格処分にするようなヘマもしていない。
扱いに困るなぁ。
「籠城でいたずらに兵糧を減らすより、一戦して相手を蹴散らす方が今後の戦略的に我が軍の有利を確立できるとお館様は踏んだのだよ」
と、イラードが説明する。
「少々兵に犠牲を強いることになるが、ここで武威を示すことは我が軍の精強の喧伝にもなり、既に占領した村々への睨みも効かせられる」
と、オクサが言えばノサウスも
「我が軍の戦は攻城戦ばかりだった。一度は野戦も経験しなければならない。ちょうどいい機会だろう」
と、賛同する。
そこにガーブラが
「へぇ、色々考えているんですねぇ」
とやってくれたものだから、自分以外にも僕の意図が判らない者がいたと、ギランの劣等感を少し和らげる効果を与えてくれる。
グッジョブだガーブラ。
論功行賞の時は少し色をつけてやるぞ。
「しかし、ここは敵地です。トゥウィンテル、リゼルド両軍以外の兵にも注意を払わねば」
と、目の前のことで狭くなりがちな視野をチカマックが拡げさせてくれる。
「少々危険だが、ダイモンドにも動いてもらうと言うのはどうでしょう?」
「どう言うことです? オクサ殿」
僕には反発するのにオクサには下手に出るとかどうかと思うよ、ギラン。
まぁ、年下でたまたま村長やってただけと言う僕に対する認識を改めないのと、最初から騎士だったオクサに対しての違いなんだろうけど、いい加減立場ってものを理解してもらいたいものだ。
「トゥウィンテルの向かっている町の先には二つの町がある。そこまでは片道七、八日。その向こうとなればここから片道十日以上だ。連絡を受けて準備をし、軍を催してここまでくるとなれば下手するとひと月以上かかる」
「川を下ればもっと早いんでしょうがね」
と、チカマックが言う。
あー、それは僕も思った。
「というか、お館様が謀反を起こしたときオルバック様が川を利用してましたよ」
「あの頃はバコード殿もザバジュ殿もヒロガリー区にいましたな。今は領境の前線に駆り出されていませんが」
「兄者はザバジュに随分苦労させられてましたな。自分の家臣でもないのに色々命令されて」
なんだか、話が脱線しまくってるぞ。
「話を戻せ」
「失礼いたしました。遠いとはいえ、伝令が届けば軍が動きます。攻めに来ているのに次から次と軍を繰り出されては防戦になって、やがて撤退しなければならなくなる可能性もあります」
「ダイモンドとサビーに後方を撹乱してもらってその圧力を和らげると言うのだな?」
「ご賢察通りにございます」
「いいだろう。ダイモンドと、ルビレルにも飛行手紙でダイモンドの支援をするように指示を出そう」
「タイミングが大事だと思われますが」
と言うのはイラード。
もっともだ。
「ハングリー区との境の町にはいつ頃伝令が到着すると思う?」
「ホルスをかけ続けさせたとすれば二日後には到着するやもしれません」
「早いな。今から飛行手紙を送ったとしても、ダイモンドのいる村までは一日以上かかる。それから行動を起こしたとしても……いや、町の軍が出払っているのなら一気に町を制圧することも彼らなら可能かもしれんな」
いずれにしてもここから事細かい指示は出せないわけだし、あとはダイモンドたちを信じて自分たちのできることをするしかない。
「改めて通達だ。明日、一部部隊を残してここの陣を引き払い……」
と、絵図面の一点を指す。
「この丘に陣を敷く。ここに残るのはカシオペア隊五組。トゥウィンテルの軍が来たら町へ退き籠城せよ。明日にもチローが徴発した兵を率いて町に到着する手筈になっているから、町の守備隊と合わせれば数日は籠城可能だろう?」
「お館様が野戦で勝利するまで持ち堪えてご覧に入れましょう」
「いや、町の籠城兵が少ないとみればおそらく斥候を放って本陣を探り出すだろうから、それまで持ち堪えていればよい」
「なるほど。敵が包囲網を解いたあとは好きにさせてもらっても?」
「よい」
サッと目を通したキャラがそのまま僕に手渡してくる。
そこには伝令が既に到着していて、軍を迎え入れる準備が行われていることと、さらに向こうの町まで伝令が飛んでいるようだ、と言うコチョウからの報告がびっくりするほど丸っこい文字で書かれていた。
「やはり、反転攻勢を考えているようだ」
「いかが致しますか?」
僕は改めて飛行手紙に目を通す。
手紙には他に彼女たちが追い越した軍勢の陣容も書かれていた。
それによると騎兵三十五、歩兵六十、弓兵四十に貴族が二十数人と書いてあり、町の守備隊が七十人程度と傭兵二十人が招集されていると言うことだ。
「キャラ、軍議を開く。主だった武将を集めてくれ」
「はい」
集められた武将を天幕に通し、軍議を開く。
そこにはヤッチシが言った通りに馳せ参じたノーシとブローも参加している。
「合して二百二十。問題ないと思われますが」
と答えたのはギラン。
確かに、二百程度であれば問題ない。
「お館様には別のご懸念がおありなのだろう。オレが考えるに差しあたってリゼルドが軍を率いて出撃してこないかが心配だな」
「ラビティアの懸念通りだ。伝令を走らせたのが一ヶ所とは限らない。私なら必ず近隣の町すべてに伝令を走らせる」
「となると挟撃の懸念が出てきますね」
「トゥウィンテルが率いている軍が二百。町の規模から考えてリゼルドも同程度の軍でくるでしょうから、戦力的にも拮抗してきますな」
「そこで陣を移動する」
と、ヤッチシに新しい絵図面を拡げさせる。
「南の街道を半日ほど進むと東側に丘陵がある。この丘に陣を敷く」
「町に立て籠るんじゃないのですか?」
ここらへん、反お館派のガス抜きと人材不足の折から古参のよしみで武将に遇していても、所詮田舎村の大将だ。
ギランには戦の機微、戦術がよく判らないとみられる。
んーん……むしろこう言う軍議などの場で恥をかかすと逆恨みを募らせかねないよな。
かといって降格処分にするようなヘマもしていない。
扱いに困るなぁ。
「籠城でいたずらに兵糧を減らすより、一戦して相手を蹴散らす方が今後の戦略的に我が軍の有利を確立できるとお館様は踏んだのだよ」
と、イラードが説明する。
「少々兵に犠牲を強いることになるが、ここで武威を示すことは我が軍の精強の喧伝にもなり、既に占領した村々への睨みも効かせられる」
と、オクサが言えばノサウスも
「我が軍の戦は攻城戦ばかりだった。一度は野戦も経験しなければならない。ちょうどいい機会だろう」
と、賛同する。
そこにガーブラが
「へぇ、色々考えているんですねぇ」
とやってくれたものだから、自分以外にも僕の意図が判らない者がいたと、ギランの劣等感を少し和らげる効果を与えてくれる。
グッジョブだガーブラ。
論功行賞の時は少し色をつけてやるぞ。
「しかし、ここは敵地です。トゥウィンテル、リゼルド両軍以外の兵にも注意を払わねば」
と、目の前のことで狭くなりがちな視野をチカマックが拡げさせてくれる。
「少々危険だが、ダイモンドにも動いてもらうと言うのはどうでしょう?」
「どう言うことです? オクサ殿」
僕には反発するのにオクサには下手に出るとかどうかと思うよ、ギラン。
まぁ、年下でたまたま村長やってただけと言う僕に対する認識を改めないのと、最初から騎士だったオクサに対しての違いなんだろうけど、いい加減立場ってものを理解してもらいたいものだ。
「トゥウィンテルの向かっている町の先には二つの町がある。そこまでは片道七、八日。その向こうとなればここから片道十日以上だ。連絡を受けて準備をし、軍を催してここまでくるとなれば下手するとひと月以上かかる」
「川を下ればもっと早いんでしょうがね」
と、チカマックが言う。
あー、それは僕も思った。
「というか、お館様が謀反を起こしたときオルバック様が川を利用してましたよ」
「あの頃はバコード殿もザバジュ殿もヒロガリー区にいましたな。今は領境の前線に駆り出されていませんが」
「兄者はザバジュに随分苦労させられてましたな。自分の家臣でもないのに色々命令されて」
なんだか、話が脱線しまくってるぞ。
「話を戻せ」
「失礼いたしました。遠いとはいえ、伝令が届けば軍が動きます。攻めに来ているのに次から次と軍を繰り出されては防戦になって、やがて撤退しなければならなくなる可能性もあります」
「ダイモンドとサビーに後方を撹乱してもらってその圧力を和らげると言うのだな?」
「ご賢察通りにございます」
「いいだろう。ダイモンドと、ルビレルにも飛行手紙でダイモンドの支援をするように指示を出そう」
「タイミングが大事だと思われますが」
と言うのはイラード。
もっともだ。
「ハングリー区との境の町にはいつ頃伝令が到着すると思う?」
「ホルスをかけ続けさせたとすれば二日後には到着するやもしれません」
「早いな。今から飛行手紙を送ったとしても、ダイモンドのいる村までは一日以上かかる。それから行動を起こしたとしても……いや、町の軍が出払っているのなら一気に町を制圧することも彼らなら可能かもしれんな」
いずれにしてもここから事細かい指示は出せないわけだし、あとはダイモンドたちを信じて自分たちのできることをするしかない。
「改めて通達だ。明日、一部部隊を残してここの陣を引き払い……」
と、絵図面の一点を指す。
「この丘に陣を敷く。ここに残るのはカシオペア隊五組。トゥウィンテルの軍が来たら町へ退き籠城せよ。明日にもチローが徴発した兵を率いて町に到着する手筈になっているから、町の守備隊と合わせれば数日は籠城可能だろう?」
「お館様が野戦で勝利するまで持ち堪えてご覧に入れましょう」
「いや、町の籠城兵が少ないとみればおそらく斥候を放って本陣を探り出すだろうから、それまで持ち堪えていればよい」
「なるほど。敵が包囲網を解いたあとは好きにさせてもらっても?」
「よい」