第99話 早とちりの抜け作
文字数 2,045文字
奥の村を出立して、僕はいよいよ外宇宙へ……いや、外の世界へと旅立つ。
僕の現世でのもっとも遠い旅先がこの村だったのだから、このワクワクとドキドキは当然の現象だ。
実は、ここから先も特になにか冒険的なことがあるというわけじゃない。
もちろん、夜営は野宿だし獣が襲ってくる可能性はあるんだけど、モンスターが頻繁に襲ってくるということもない。
「なんで?」
当然の疑問だと思わない?
普通に考えたら人の手が入っていない場所ほど野生の王国なわけで、獣が出てくるならモンスターも出てきそうなもんだ。
「そんな危険生物がしょっちゅう出てきたら国が維持できないじゃありませんか」
と、オギンが醒めた目で答えてくる。
む・確かにそうなんだけど、RPGオタクとしては、血湧き肉躍る冒険譚に憧れがないわけがないってもんだ。
(モンスターに勝てる気でいるんだ。へー)
…………。
「モンスターも人間がそうカテゴライズしているだけですからね。他の野生動物とそう変わりません。むしろ希少生物ですから植物系以外は滅多に遭遇しません。単にこの辺りに生息しているモンスターがいないだけです」
と、ルビレルが補足情報をくれる。
なるほど、そういうことかぁ。
「時々大発生する種はいますけどね」
それは文献から知ってるぞ。
大体は虫系のモンスターだったな。
たまに植物系モンスターが大発生することもあるとか。
「いずれにせよ、この辺りには出ませんから、ご安心を」
まぁ、この道を何度も行き来している二人が言うんだから間違いないか。
第 五 中 の村 までは徒歩でも二日の旅程だ。
みんながよく使う野営地を通り過ぎたのが昼過ぎ、村についたのは夕暮れ前だった。
第五中の村は山間 の奥の村と違ってなだらかな山の麓にあった。
耕作地も奥の村の倍はありそうだ。
畑から帰ろうとしていた農夫の一人が僕らに気付いて村長を呼びに行ってくれた。
「これはこれはようこそおいでくださいましたルビンス様。ささ、どうぞどうぞ」
と、ルビンスを先導する。
…………。
(くくくくくっ)
リリムの隠す気のない忍び笑いが腹立つ。
困惑の表情を浮かべているルビンスの様子なんか気にも留めない村長が僕らを無視してルビンスに話しかける。
「秋の戦で囚われていたと聞き及んでおりましたが、開放されたのですね。よろしゅうございましたなぁ。冬の戦は散々だったようで、我が村に軍が戻られた時には半分ほどになっておりましたよ。ずいぶん激しい戦だったようですな」
「大勝利でしたよ」
と、言っておこう。
「そうなんですか? 噂では男爵軍が負けただの引き分けたのと様々な話が飛び交っておりますが……」
引き分け?
誰がそんな話してるんだ?
あ・察し。
「あー……いや、村長。話が噛み合っていない」
「へ?」
ルビンスが律儀に話出しそうだったので、僕はいたずら心を刺激される。
「立ち話もなんです。席を設けて改めてお話ししましょう」
「おやか……」
と、なにかを言いかけたルビンスの言葉を遮るように村長が僕ではなくルビレルに話しかける。
「それもそうですな。長旅でお疲れでしょう。まずは我が家で一息ついてからにいたしましょう」
…………。
そこ、リリム、ゲラゲラ笑わない!
村長の家について旅装を解くと、村長の奥さんが果物を出してくれた。
疲れた体に甘味が染みる。
この村の長は壮年のようだが農作業には向いていない感じの体型で、奥さんのふくよかさとの対比がマンガ的だ。
「ルビンス様がお一人で来られるのは初めてですな」
とかいうけど、僕は? オギンは?
「で、今日はどんなご用件でしょうか? またズラカルト様の増税ですか?」
嫌そうな言い方だ。
ま、仕方ないけどな。
というか、やってきた方向考えてズラカルト男爵関係なかろうよ。
「あ・いや、今日はズラカルト男爵とは関係ない」
おーおー、すげぇほっとした表情だ。
顔に出過ぎじゃないかね?
そして、チラチラと僕を見るルビンス。
無表情で背筋を伸ばしたままのオギン。
ルビンスに見えないのをいいことに彼の周りをニヨニヨしながら飛び回るリリム。
絶対僕に対するパフォーマンスだ。
それらを見ている僕は一体どんな顔してるんだろう?
すました顔してるつもりだけどなんとなくニヤけてる気がする。
「お館様、そろそろお戯れをやめてください」
どう説明したらいいものか判らなくなったのか、ついにルビンスが降参した。
そこはちょっとお役人的に事務的説明をすればいいのにさ。
「親方様?」
漢字が違っているのがニュアンスで伝わってるよ、村長。
「すまないね、私が今回の代表者だ」
咳払いで表情を改めてそういうと、村長の顔がさらにポカーンとしたものになる。
そこにオギンが追い討ちをかける。
「この方が噂のズラカルト男爵に喧嘩を売った男だよ。てゆうか、あたいを覚えてないのかい?」
アゴが落ちた。
ホントにカクーンって落ちるんだね。
「改めまして、反乱勢力の代表ジャン・ロイです。以後、お見知り置きを」
僕の現世でのもっとも遠い旅先がこの村だったのだから、このワクワクとドキドキは当然の現象だ。
実は、ここから先も特になにか冒険的なことがあるというわけじゃない。
もちろん、夜営は野宿だし獣が襲ってくる可能性はあるんだけど、モンスターが頻繁に襲ってくるということもない。
「なんで?」
当然の疑問だと思わない?
普通に考えたら人の手が入っていない場所ほど野生の王国なわけで、獣が出てくるならモンスターも出てきそうなもんだ。
「そんな危険生物がしょっちゅう出てきたら国が維持できないじゃありませんか」
と、オギンが醒めた目で答えてくる。
む・確かにそうなんだけど、RPGオタクとしては、血湧き肉躍る冒険譚に憧れがないわけがないってもんだ。
(モンスターに勝てる気でいるんだ。へー)
…………。
「モンスターも人間がそうカテゴライズしているだけですからね。他の野生動物とそう変わりません。むしろ希少生物ですから植物系以外は滅多に遭遇しません。単にこの辺りに生息しているモンスターがいないだけです」
と、ルビレルが補足情報をくれる。
なるほど、そういうことかぁ。
「時々大発生する種はいますけどね」
それは文献から知ってるぞ。
大体は虫系のモンスターだったな。
たまに植物系モンスターが大発生することもあるとか。
「いずれにせよ、この辺りには出ませんから、ご安心を」
まぁ、この道を何度も行き来している二人が言うんだから間違いないか。
みんながよく使う野営地を通り過ぎたのが昼過ぎ、村についたのは夕暮れ前だった。
第五中の村は
耕作地も奥の村の倍はありそうだ。
畑から帰ろうとしていた農夫の一人が僕らに気付いて村長を呼びに行ってくれた。
「これはこれはようこそおいでくださいましたルビンス様。ささ、どうぞどうぞ」
と、ルビンスを先導する。
…………。
(くくくくくっ)
リリムの隠す気のない忍び笑いが腹立つ。
困惑の表情を浮かべているルビンスの様子なんか気にも留めない村長が僕らを無視してルビンスに話しかける。
「秋の戦で囚われていたと聞き及んでおりましたが、開放されたのですね。よろしゅうございましたなぁ。冬の戦は散々だったようで、我が村に軍が戻られた時には半分ほどになっておりましたよ。ずいぶん激しい戦だったようですな」
「大勝利でしたよ」
と、言っておこう。
「そうなんですか? 噂では男爵軍が負けただの引き分けたのと様々な話が飛び交っておりますが……」
引き分け?
誰がそんな話してるんだ?
あ・察し。
「あー……いや、村長。話が噛み合っていない」
「へ?」
ルビンスが律儀に話出しそうだったので、僕はいたずら心を刺激される。
「立ち話もなんです。席を設けて改めてお話ししましょう」
「おやか……」
と、なにかを言いかけたルビンスの言葉を遮るように村長が僕ではなくルビレルに話しかける。
「それもそうですな。長旅でお疲れでしょう。まずは我が家で一息ついてからにいたしましょう」
…………。
そこ、リリム、ゲラゲラ笑わない!
村長の家について旅装を解くと、村長の奥さんが果物を出してくれた。
疲れた体に甘味が染みる。
この村の長は壮年のようだが農作業には向いていない感じの体型で、奥さんのふくよかさとの対比がマンガ的だ。
「ルビンス様がお一人で来られるのは初めてですな」
とかいうけど、僕は? オギンは?
「で、今日はどんなご用件でしょうか? またズラカルト様の増税ですか?」
嫌そうな言い方だ。
ま、仕方ないけどな。
というか、やってきた方向考えてズラカルト男爵関係なかろうよ。
「あ・いや、今日はズラカルト男爵とは関係ない」
おーおー、すげぇほっとした表情だ。
顔に出過ぎじゃないかね?
そして、チラチラと僕を見るルビンス。
無表情で背筋を伸ばしたままのオギン。
ルビンスに見えないのをいいことに彼の周りをニヨニヨしながら飛び回るリリム。
絶対僕に対するパフォーマンスだ。
それらを見ている僕は一体どんな顔してるんだろう?
すました顔してるつもりだけどなんとなくニヤけてる気がする。
「お館様、そろそろお戯れをやめてください」
どう説明したらいいものか判らなくなったのか、ついにルビンスが降参した。
そこはちょっとお役人的に事務的説明をすればいいのにさ。
「親方様?」
漢字が違っているのがニュアンスで伝わってるよ、村長。
「すまないね、私が今回の代表者だ」
咳払いで表情を改めてそういうと、村長の顔がさらにポカーンとしたものになる。
そこにオギンが追い討ちをかける。
「この方が噂のズラカルト男爵に喧嘩を売った男だよ。てゆうか、あたいを覚えてないのかい?」
アゴが落ちた。
ホントにカクーンって落ちるんだね。
「改めまして、反乱勢力の代表ジャン・ロイです。以後、お見知り置きを」