第52話 ルダーのアジ、村人を焚きつける
文字数 2,309文字
日が沈む頃、村の宴は始まった。
まぁ、準備ができたところから待ちきれない人たちが勝手に始めてあとは流れでお願いしますって感じだったので、僕が中央広場に着いた頃には始まっていたと言うのが正解だ。
くそっ!
みんな浮かれすぎだよ。
なにかあったらどうするんだ!?
……ないだろうけど。
「おつかれさま! はい、どうぞ」
僕を見つけてカルホが飲み物を持ってきてくれた。
お手伝いってやつか?
ウエイトレスを買って出ているようだ。
お盆に飲み物を乗せてあっちこっちと飲み物を運んで、おじさんおばさんたちからなんかもらってる。
ちゃっかりしてんな。
この村は意図的に集められた人たちで構成されているためか、人口構成がいびつで女子供が極端に少ない。
未成年(十五歳未満)はクレタとカルホ、アニーの他はロット・バロさん家 のブロロくん四歳しかいない。
ちなみにお母さんはマッハさん。
すでにクレタは大人に混じって仕事をしている。
時代や地域性もあるけど、二十一世紀日本で過ごした前世を持つ身としてはちょっと考えちゃうよね。
各家庭で作ってきた自慢の料理を少しづついただきながらぐるりと村人をねぎらい歩く。
一緒に歩いているのはヘレンとルダーが忙しく立ち働いていて暇そうだったアニー。
連れ出して歩いてたらなんかいっぱいもらってる。
子供は得だな。
村人には普段からの働きに対する感謝の言葉を送り、昨日の戦闘に参加した男たちには自慢話をさせる。
部下の手柄はちゃんと聴いて、正当に評価して褒めてあげる。
これって結構大事なことなんだ。
人間、叱るより褒めた方がずっと伸びる。
日本じゃとかく減点評価が幅を聞かせていて学生時代も社会人になってからも苦労させられた。
叱るのも必要なんだけどさ。
それにしたってこの世界、酒を水代わりに飲むよな。
売り物に手をつけんじゃないぞ。
大事な収入源なんだから。
…………。
そういえば今年はまだダリプ酒仕込んでいないんだっけ?
醸造技術が未熟で甘くてアルコール度数の低い果実酒だし、保存技術が確立していないから残ってんのは飲み切った方がいいのか。
うん、じゃ、ま・いっか。
全部飲み尽くしても。
……そうか、醸造技術を洗練させれば長期保存のきく輸出用の酒ができるんだな。
フレイラやポモイトでも酒が作れないかな?
穀物酒は果実酒より日持ちしないんだっけ?
…………。
どっちにしても僕の知識の中に醸造技術はないや。
ルダーならひょっとして……後で聞いてみよう。
一通り食べ歩いて腹も膨れた頃、そのルダーがみんなの注目を集める。
「みんな、聞いてくれ!」
それまでの浮かれた喧騒が一度落ち着く。
すでに陽は落ちて肌寒い。
焚き木で暖と灯りをとっている。
「野盗に襲われお館様以外すべてを失ったここで、再び村を作り始めてから二度目の秋を迎えた。村は復興し、俺たちはこうして楽しく穏やかに暮らせている」
そこで少し間を開ける。
村人から「そうだそうだ」などとはやし立てる声と笑い声が上がる。
「これもお館様のおかげだと思わないか?」
賛同の声の奥の方でピリリと空気の変わる場所があった。
「リリム」
僕は小声で妖精の名を呼んだ。
「なに?」
「僕の村長就任を快く思っていない人たちを数えておいてくれないか?」
「判ったわ」
さて、ルダーはどう持っていくつもりだろう?
無理言って引き受けてもらった手前、僕は事の成り行きを黙って見守ることに徹する。
「豊かな村は襲われるぞ!」
そう声をあげたのはイラードだった。
「そこだ!」
と、ルダーがその懸念を引き受ける。
「実際、昨日この村も襲われた。だが! 思い返してもらいたい。お館様は事前に狙われていることに気がついて、俺たちを守るために力を尽くしてくれた」
「戦ったのは村人みんなだ!」
と、反論を試みたらしい声が上がる。
それにはガーブラが睨みを利かせて再反論。
「その戦いで誰一人死んでないのはお館様のおかげじゃないか?」
どうやらぐぅの音 も出ない論破だったようだ。
「そうだそうだ」の声が強くその意見を支持する。
実際、野盗に襲われるとどこの村でも被害は甚大で、命が助かれば儲けもんというのがこの世界の村人の諦観 だ。
女たち、特に夫や恋人を持つものたちはある種の覚悟を持って戦いに送り出したのだ。
そんな中で、ガーブラたち歴戦の戦士がいたとはいえ、村人たちが戦って一人の死者も出さず、村にほとんど被害損害を出さずに勝利した。
この事実は鮮烈に村人たちの胸に刻まれている。
反対派だってそんな実績を無視できるわけがない。
ルダーが再び演説を始める。
なんのかんのと器用にこなす。
あれかな?
安保闘争とか通ってきた組なのかな?
前世の世代的には団塊よりちょっと上の世代なはずだけど……。
「そこでだ。改めてお館様にこの村の代表として今後とも指導してもらうことをみんなに賛成してもらいたい」
煽動 がうまかったのか、酔いも手伝ってだろうけど一斉に賛同の声が上がる。
過半数どころかこりゃ九割がたの承認が得られた雰囲気だ。
この雰囲気の中ではさすがに反対の声はあげにくいだろうな。
僕もそれとなく村人の表情を観察して、快く思っていない人を数えてみる。
人間、三十何人も集まっていると合わない奴もいるもんだ。
それでもなんとか折り合いつけてコミュニティを形成するのが人間ってもんだ。
そして、上に立つ人間はこの人間関係に留意できなきゃならない。
彼らが孤立しないよう配慮する必要もあるし、反旗を翻させないようにも注意しなきゃならない。
まったく、生まれ変わったってやるこた変わんねーな。
まぁ、準備ができたところから待ちきれない人たちが勝手に始めてあとは流れでお願いしますって感じだったので、僕が中央広場に着いた頃には始まっていたと言うのが正解だ。
くそっ!
みんな浮かれすぎだよ。
なにかあったらどうするんだ!?
……ないだろうけど。
「おつかれさま! はい、どうぞ」
僕を見つけてカルホが飲み物を持ってきてくれた。
お手伝いってやつか?
ウエイトレスを買って出ているようだ。
お盆に飲み物を乗せてあっちこっちと飲み物を運んで、おじさんおばさんたちからなんかもらってる。
ちゃっかりしてんな。
この村は意図的に集められた人たちで構成されているためか、人口構成がいびつで女子供が極端に少ない。
未成年(十五歳未満)はクレタとカルホ、アニーの他はロット・バロさん
ちなみにお母さんはマッハさん。
すでにクレタは大人に混じって仕事をしている。
時代や地域性もあるけど、二十一世紀日本で過ごした前世を持つ身としてはちょっと考えちゃうよね。
各家庭で作ってきた自慢の料理を少しづついただきながらぐるりと村人をねぎらい歩く。
一緒に歩いているのはヘレンとルダーが忙しく立ち働いていて暇そうだったアニー。
連れ出して歩いてたらなんかいっぱいもらってる。
子供は得だな。
村人には普段からの働きに対する感謝の言葉を送り、昨日の戦闘に参加した男たちには自慢話をさせる。
部下の手柄はちゃんと聴いて、正当に評価して褒めてあげる。
これって結構大事なことなんだ。
人間、叱るより褒めた方がずっと伸びる。
日本じゃとかく減点評価が幅を聞かせていて学生時代も社会人になってからも苦労させられた。
叱るのも必要なんだけどさ。
それにしたってこの世界、酒を水代わりに飲むよな。
売り物に手をつけんじゃないぞ。
大事な収入源なんだから。
…………。
そういえば今年はまだダリプ酒仕込んでいないんだっけ?
醸造技術が未熟で甘くてアルコール度数の低い果実酒だし、保存技術が確立していないから残ってんのは飲み切った方がいいのか。
うん、じゃ、ま・いっか。
全部飲み尽くしても。
……そうか、醸造技術を洗練させれば長期保存のきく輸出用の酒ができるんだな。
フレイラやポモイトでも酒が作れないかな?
穀物酒は果実酒より日持ちしないんだっけ?
…………。
どっちにしても僕の知識の中に醸造技術はないや。
ルダーならひょっとして……後で聞いてみよう。
一通り食べ歩いて腹も膨れた頃、そのルダーがみんなの注目を集める。
「みんな、聞いてくれ!」
それまでの浮かれた喧騒が一度落ち着く。
すでに陽は落ちて肌寒い。
焚き木で暖と灯りをとっている。
「野盗に襲われお館様以外すべてを失ったここで、再び村を作り始めてから二度目の秋を迎えた。村は復興し、俺たちはこうして楽しく穏やかに暮らせている」
そこで少し間を開ける。
村人から「そうだそうだ」などとはやし立てる声と笑い声が上がる。
「これもお館様のおかげだと思わないか?」
賛同の声の奥の方でピリリと空気の変わる場所があった。
「リリム」
僕は小声で妖精の名を呼んだ。
「なに?」
「僕の村長就任を快く思っていない人たちを数えておいてくれないか?」
「判ったわ」
さて、ルダーはどう持っていくつもりだろう?
無理言って引き受けてもらった手前、僕は事の成り行きを黙って見守ることに徹する。
「豊かな村は襲われるぞ!」
そう声をあげたのはイラードだった。
「そこだ!」
と、ルダーがその懸念を引き受ける。
「実際、昨日この村も襲われた。だが! 思い返してもらいたい。お館様は事前に狙われていることに気がついて、俺たちを守るために力を尽くしてくれた」
「戦ったのは村人みんなだ!」
と、反論を試みたらしい声が上がる。
それにはガーブラが睨みを利かせて再反論。
「その戦いで誰一人死んでないのはお館様のおかげじゃないか?」
どうやらぐぅの
「そうだそうだ」の声が強くその意見を支持する。
実際、野盗に襲われるとどこの村でも被害は甚大で、命が助かれば儲けもんというのがこの世界の村人の
女たち、特に夫や恋人を持つものたちはある種の覚悟を持って戦いに送り出したのだ。
そんな中で、ガーブラたち歴戦の戦士がいたとはいえ、村人たちが戦って一人の死者も出さず、村にほとんど被害損害を出さずに勝利した。
この事実は鮮烈に村人たちの胸に刻まれている。
反対派だってそんな実績を無視できるわけがない。
ルダーが再び演説を始める。
なんのかんのと器用にこなす。
あれかな?
安保闘争とか通ってきた組なのかな?
前世の世代的には団塊よりちょっと上の世代なはずだけど……。
「そこでだ。改めてお館様にこの村の代表として今後とも指導してもらうことをみんなに賛成してもらいたい」
過半数どころかこりゃ九割がたの承認が得られた雰囲気だ。
この雰囲気の中ではさすがに反対の声はあげにくいだろうな。
僕もそれとなく村人の表情を観察して、快く思っていない人を数えてみる。
人間、三十何人も集まっていると合わない奴もいるもんだ。
それでもなんとか折り合いつけてコミュニティを形成するのが人間ってもんだ。
そして、上に立つ人間はこの人間関係に留意できなきゃならない。
彼らが孤立しないよう配慮する必要もあるし、反旗を翻させないようにも注意しなきゃならない。
まったく、生まれ変わったってやるこた変わんねーな。