第41話 村長、視察に繰り出す1 畑と牧場と
文字数 2,005文字
ストゥラー夫妻が後片付けをする間、サビーとイラードがさりげなくもう一杯というていで僕の側によってくる。
「男爵配下の指図というのは本当でしょうか?」
「たぶんフェイクだね。三人はそのつもりかもしれないけど、|
「それでオギンに指示を?」
「そうだよ」
「イラードは判ってたのか?」
「いや、『一人酒量が少ないのがいるな』くらいの認識だった。思惑があるだろうくらいに用心するつもりだったが、村長はそこまで読まれていたのですね」
フフフ、もっと褒めていいよ。
…………コホン。
「サビーもイラードも明日以降、あいさつ程度でなるべく近寄らないように」
「なぜです?」
「相手を警戒させるからだよ。特にサビーは雰囲気に出るから十分注意してね」
「だそうだ」
「ひどいな……」
「ジャン様、片付け終わりました」
と、手を拭きながらカーゲが台所から出てくる。
「ありがとう。遅くまでご苦労だったね。もう、帰ってもいいよ」
「そうします。ガーブラ一人にいつまでも倉庫を任せているのは心配ですし」
どういう意味で言ったんだろう?
色々考えられる物言いだな。
客室に四人を案内したザイーダが戻ってくると、サビーがカップを抱えて台所へ向かう。
「オレたちも帰るとしよう」
「そうですね。ワタシたちがいると|
「そうだな」
こっちは含まれている意味が判ったぞ。
「ではうちも帰らせていただきます」
と、ザイーダが頭を下げると、オギンもそれに続く。
もっとも、二人とも今日は家には戻らないけどね。
そして誰もいなくなった……いやいや、オヤジくさい物言いだった。
僕は歯を磨いて明かりを手 燭 に移して二階に上がる。
寝床でまんじりともせずに目を閉じていると、やがて階下で人の動き出す音が聞こえてきた。
「動き出したね」
リリムがいう。
「想定通りだよ」
「でもでも、私に尾行させればよかったんじゃない?」
「ん?」
「だって私、前世持ちにしか見えないんだよ? 尾行するのにこれ以上の人材はいないんじゃないかなぁ?」
人材って……。
「だろうね」
「じゃあどうして?」
「君の存在が認知できる人が少なすぎるからだよ」
「どういうこと?」
「君に尾行を頼んだとする」
「ウンウン」
「間違いなく君は任務を完璧に遂行するだろう」
「当然よ」
「完璧すぎて村人が困るんだよ」
「そこが意味判らないんだよね」
「……判んなきゃいいよ。リリムにもみんなにも説明するのが難しくてめんどくさいんだよ!」
「ま!」
プイッと怒ってそっぽを向く。
チッ! かわいいな、性格良くないくせに。
「なんか言った!?」
「いーや」
僕はオギンたちを信頼して、寝ることにした。
酒が入ってることもあってか、寝ると決めたらあっという間だった。
目覚めたのはお日様が完全に昇ってから。
今日の予定は視察。
村の復興が一段落して次の計画を立てるために村の現状と課題を拾い上げるのが目的だ。
たまたま来訪者が来たタイミングなのが引っかかるけど、これはいい方に考えよう。
今日の視察、午前中はルダーと一緒に農業方面を見て回る。
畑は去年使った土地は休ませているけど、それ以外はすべてなにかしらを育てている。
面積としてはフレイラが全体の半分を占めている。
これは主食となる穀物だからだ。
春蒔きと秋蒔きがあって今は春蒔きのフレイラがすくすくと育っている。
秋の収穫分からは一部備蓄に回せるはずだ。
ポモイトは冬の主食だ。
おやつにもなる。
ただ、倉庫がなかったんで春までにほとんどが芽を出してしまって全量種ポモイトに回してしまった。
ルダーには長期保存の方策を考えてもらっている。
とはいえフレイラのような長期保存は難しいだろう。
野菜は根菜を中心に現在六種類植えている。
葉物をあと二、三種類作る計画で、ジョーに種子を仕入れてもらえるよう手配している。
こっちは村の畑じゃなく、各家で自分たちが食べる分として育てる用だ。
村の中は街のように家を立てれば百五十人くらいは住めるだろう。
もっとも、そんなに住んだら食料の確保が難しい。
今の畑で完全自給自足、誰にも食料を奪われないことを前提として最大人口百人までと計算している。
ルダーもおおむね同意してくれた。
南東の畑を後にして北の放牧地に移動すると、ジャスの指揮の下とり小屋作りが進んでいた。
成鳥のクッカーは七羽だけど、雛が九羽生まれていて、順調に増えているといえそうだ。
春に生まれた仔ホルスが一頭、元気に跳ねている。
荷車を引いていたホルスで今は農耕ホルスとして活躍している他のホルスたちものんびりと草を食んでいる。
酪農用に飼育する予定のジップはジョーのキャラバンに十頭頼んである。
「酪農はいつ頃軌道にのるかな?」
ルダーに尋ねると、
「早くて二年。まぁ三年は見て欲しいな」
という返事。
仕方ないな。
「男爵配下の指図というのは本当でしょうか?」
「たぶんフェイクだね。三人はそのつもりかもしれないけど、|
彼
は判ってるよ。いや、最初からグルの可能性の方が高いかな?」「それでオギンに指示を?」
「そうだよ」
「イラードは判ってたのか?」
「いや、『一人酒量が少ないのがいるな』くらいの認識だった。思惑があるだろうくらいに用心するつもりだったが、村長はそこまで読まれていたのですね」
フフフ、もっと褒めていいよ。
…………コホン。
「サビーもイラードも明日以降、あいさつ程度でなるべく近寄らないように」
「なぜです?」
「相手を警戒させるからだよ。特にサビーは雰囲気に出るから十分注意してね」
「だそうだ」
「ひどいな……」
「ジャン様、片付け終わりました」
と、手を拭きながらカーゲが台所から出てくる。
「ありがとう。遅くまでご苦労だったね。もう、帰ってもいいよ」
「そうします。ガーブラ一人にいつまでも倉庫を任せているのは心配ですし」
どういう意味で言ったんだろう?
色々考えられる物言いだな。
客室に四人を案内したザイーダが戻ってくると、サビーがカップを抱えて台所へ向かう。
「オレたちも帰るとしよう」
「そうですね。ワタシたちがいると|
何かと気を使う
でしょうから」「そうだな」
こっちは含まれている意味が判ったぞ。
「ではうちも帰らせていただきます」
と、ザイーダが頭を下げると、オギンもそれに続く。
もっとも、二人とも今日は家には戻らないけどね。
そして誰もいなくなった……いやいや、オヤジくさい物言いだった。
僕は歯を磨いて明かりを
寝床でまんじりともせずに目を閉じていると、やがて階下で人の動き出す音が聞こえてきた。
「動き出したね」
リリムがいう。
「想定通りだよ」
「でもでも、私に尾行させればよかったんじゃない?」
「ん?」
「だって私、前世持ちにしか見えないんだよ? 尾行するのにこれ以上の人材はいないんじゃないかなぁ?」
人材って……。
「だろうね」
「じゃあどうして?」
「君の存在が認知できる人が少なすぎるからだよ」
「どういうこと?」
「君に尾行を頼んだとする」
「ウンウン」
「間違いなく君は任務を完璧に遂行するだろう」
「当然よ」
「完璧すぎて村人が困るんだよ」
「そこが意味判らないんだよね」
「……判んなきゃいいよ。リリムにもみんなにも説明するのが難しくてめんどくさいんだよ!」
「ま!」
プイッと怒ってそっぽを向く。
チッ! かわいいな、性格良くないくせに。
「なんか言った!?」
「いーや」
僕はオギンたちを信頼して、寝ることにした。
酒が入ってることもあってか、寝ると決めたらあっという間だった。
目覚めたのはお日様が完全に昇ってから。
今日の予定は視察。
村の復興が一段落して次の計画を立てるために村の現状と課題を拾い上げるのが目的だ。
たまたま来訪者が来たタイミングなのが引っかかるけど、これはいい方に考えよう。
今日の視察、午前中はルダーと一緒に農業方面を見て回る。
畑は去年使った土地は休ませているけど、それ以外はすべてなにかしらを育てている。
面積としてはフレイラが全体の半分を占めている。
これは主食となる穀物だからだ。
春蒔きと秋蒔きがあって今は春蒔きのフレイラがすくすくと育っている。
秋の収穫分からは一部備蓄に回せるはずだ。
ポモイトは冬の主食だ。
おやつにもなる。
ただ、倉庫がなかったんで春までにほとんどが芽を出してしまって全量種ポモイトに回してしまった。
ルダーには長期保存の方策を考えてもらっている。
とはいえフレイラのような長期保存は難しいだろう。
野菜は根菜を中心に現在六種類植えている。
葉物をあと二、三種類作る計画で、ジョーに種子を仕入れてもらえるよう手配している。
こっちは村の畑じゃなく、各家で自分たちが食べる分として育てる用だ。
村の中は街のように家を立てれば百五十人くらいは住めるだろう。
もっとも、そんなに住んだら食料の確保が難しい。
今の畑で完全自給自足、誰にも食料を奪われないことを前提として最大人口百人までと計算している。
ルダーもおおむね同意してくれた。
南東の畑を後にして北の放牧地に移動すると、ジャスの指揮の下とり小屋作りが進んでいた。
成鳥のクッカーは七羽だけど、雛が九羽生まれていて、順調に増えているといえそうだ。
春に生まれた仔ホルスが一頭、元気に跳ねている。
荷車を引いていたホルスで今は農耕ホルスとして活躍している他のホルスたちものんびりと草を食んでいる。
酪農用に飼育する予定のジップはジョーのキャラバンに十頭頼んである。
「酪農はいつ頃軌道にのるかな?」
ルダーに尋ねると、
「早くて二年。まぁ三年は見て欲しいな」
という返事。
仕方ないな。