第79話 緒戦、所詮はボンボンが頭のボンクラ軍さ

文字数 2,303文字

「開けろ! ええい、門を開けんかっ!」

 それでハイそうですかと門を開けるくらいなら、こんな態度に出ちゃいないよ。
 僕が門の裏で指示を出し、左右の櫓に隠れていたサビーとイラード、シメイとアーシカが姿を現す。
 もちろん弓を引き絞り使節団に狙いをつけさせる。
 外の様子は上空にいるリリムによって逐一報告が入るから手に取るように判るんだから便利だよ、ホント。
 警備の騎士がホルスをなだめ、人夫が逃げ出そうとするのをオルバックJr(ジュニア).が叱咤する。
 まぁ、叱咤は門のこっち側にも聞こえてくるけどね。

「貴様ら、こんなことをしてタダで済むと思っているのか!?

「まさか、一戦交える覚悟でやってるさ」

「なっ、なにっ!?

 こっちは覚悟が決まっている。
 でも、あっちは覚悟がついてないようだ。
 そりゃそうだ。
 代々ずっと百姓は黙って税を納めるものと思っていたんだろうからね。
 税を取り立てに来て拒否されるなんて青天(せいてん)霹靂(へきれき)てなもんだろうよ。
 さてさて、問答なんてまどろっこしいので本日は早々にお引き取り願おうか。
 僕はシメイに指示を出して威嚇のために荷車に一矢射ってもらう。

「こら! 逃げるな! 臆病者!!

 と、声が聞こえる。
 リリムの報告を待つまでもなく、人夫が逃げ出したんだろう。
 二、三言葉が交わされた後、ジュニアが忌々しそうに

「覚えておれ!」

 と捨て台詞を吐いて帰っていった。
 さ、もう少し屈辱を与えておこう。
 僕は念のため集めていた男たちに(とき)の声を上げさせる。
 勝ち誇って見せたのだ。
 これできっと次に来るのもオルバック家になる。
 それも大将にジュニアを立ててさ。
 功立て名を挙げてこそ騎士ってもんだ。
 辺境の集落から税を取り立てられずに逃げ帰ってきたなんて、こんな不名誉ないからね。
 騎士の名誉ってのはこの世界でも重要だろ?
 完全に見えなくなるのを確認させてから、次の指示を出す。
 畑に木の置き盾を設置するのだ。
 障害物としてね。
 戦闘になったらどうしても被害は覚悟しなきゃいけないんだけど、できればあんまり畑を荒らされたくない。
 こうしておけばホルスで荒らされることはなくなるんじゃないかと思ってさ。
 もちろん味方の盾としても使うんだけど。

「ジョー」

「なにか?」

「次に来るのは何日後になるかな?」

「ホルスを飛ばして片道五日……そうさな、十四、五日ってところか」

 また僕の誕生日くらいか……。
 呪われてんのか? 誕生日。

「じゃあ、明日から十日間はいつも通りに過ごしてもらおう。クレタとカルホに回覧板を作って回すように言ってくれ」

「かしこまりました」

 と、その場を後にしたのはザイーダ。
 残りのメンバーはじっと僕を見ている。
 ?
 なんか言わなきゃダメ?

「念のため、今日は見張りを四人にして、明日以降通常の二人体制に戻す。解散」

 さて、そのいつも通りの十日ってのもダラダラできるわけもなく、フレイラを脱穀したり粉に挽いたり(用水路の水車大活躍)、保存食の仕込みをしたり雑木林で木の実やキノコを採集したりと、まぁ主に食い物周りで大忙しなわけだ。
 他には裏の畑の拡張もする。
 今年の表の畑はフレイラを秋蒔きできないから、少しでも開墾しとかないとね。
 あっという間に十日が過ぎて、十一日目は休息日にした。
 肉体労働で疲れた体を休ませて、決戦に備えるためだ。
 十二日目からは櫓の見張りを四人に増強しての戦時体制に突入。
 十五日目、まだ来る気配がない。
 そして、僕の誕生日である十六日目、ついにオルバック軍が姿を現した。
 チッ、やっぱり僕の誕生日に事件は起きるのか。

(呪われてる?)

(どうかしらね?)

 リリムにははぐらかされたけど、どう考えても天の配剤ってやつじゃねーの?
 とにかく今は対オルバック軍に全力集中だ。
 まず、物見の報告によると、軍勢は想定より多い十八人。
 うち弓兵が五人、剣兵が六人、ホルスに騎乗しているのが七人だそうだ。
 ちょっと多いな。
 騎兵は四、五騎の予定だったんだ。

 …………。

 誰かの助言を受けている節があるな。

(リリム)

(なに?)

(ルビレルはいるか?)

(いないみたいね)

 それは朗報。
 僕は前回同様の四人を櫓に登らせ、騎兵に狙いを定めるように指示を出して矢を射らせる。
 まだ緒戦。
 ここで消耗品を無駄撃ちさせるなんて愚の骨頂だ。
 少数精鋭で撃たせて有効射程内で三騎を射落す。
 優秀。
 流れ矢に当たった剣兵が二人。
 騎兵に気を取られている間に相手の弓兵が射程に入ったようで、矢が飛んできた。
 四人は素早く標的を弓兵に変更して一人を射殺し、三人を負傷させて射程の外に追い出したようだ。

「退け! 撤退だ!」

「退くな! これ以上オレに恥をかかせる気か!!

 それはいくらなんでも酷ってもんだよジュニアくん。
 地の利はこちらに一方的だし、不用意に接近したせいで先制を許して早々に死傷者出しちゃってるじゃない。
 勝ち目はないんだよ。
 冷静に考えることだね。
 あー……いや、ここで冷静になられても困るから、もうちょっと煽ってやろうか。

「これ以上恥をと言われるが、これ以上恥のかきようがあるのか?」

 さん、はいっ!
 門の内側に集まっている男たちが笑い囃し立てる。

「ぐぬっ……言わせておけば……」

「若っ! これ以上は若のお命に関わります。ここは一旦退いてくださりませ!」

 誰だろう?
 冷静な判断ができてるやつがいる。
 ルビレル以外にも人材がいるのか。
 僕は櫓に繋がっている糸電話で声の主の生け捕りを指示する。

「難しいと思いますけど、やってみよう」

 とシメイが応えてくれたけど、結局願いは叶わずオルバック軍は撤退していった。
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