第7話 先人の知恵(ただし、前世世界の)

文字数 2,630文字

 と、とりあえずDIYの知識を呼び出さなきゃ。
 ッツーカ、先に思い出しとけばもっとマシな小屋が建てられたんじゃなかろうか?
 ジト目ってやつでリリムを見ると満面の笑顔を返してくる。
 チッ! こいつ、妖精らしく顔だけは可愛いんだよな。
 まぁいい。
 小屋は大体八畳一間サイズ。
 天井高七シャッケン半ってとこか。
 出入り口は今んとこ戸板立ててるだけだけど、これは蝶番(ちょうつがい)なんて便利なものは再現が難しいから引き戸にするか。
 でも敷居と鴨居を作るのって大変だよなー。
 きっと立て付けの悪い戸ができあがるぞ、きっと。
 これ、ほっとくか?
 イヤイヤ、雪が降るこの地で立て掛けるだけの戸なんてヤバすぎるでしょ。
 ムムム……。
 僕はDIY関連の脳内インデックスから生まれ育った北海道のインデックスに知識を漁る場所を変える。
 北海道には玄関フードっていう文化があった。
 正式名称「風除室(ふうじょしつ)」玄関の前に一見無意味に作られた小部屋だ。
 結構重要な部屋で、屋内と屋外の緩衝空間としての役割がある。
 無菌室に入る前に滅菌する部屋があるようなものだと極端に考えてくれてもいい。
 あれ? そういえば、玄関フードみたいって思った家があったな。
 あれは確か……そうだ、アイヌの(チセ)だ。
 そうか、あれを参考に作ればいいんだ。
 あれこそまさに寒冷地における先人の知恵。
 記憶によると僕はネットでチセの検索を何度かしている。
 チセの構造は一間の家で中央に炉が切られ、セムと呼ばれる物置兼玄関が別に作られている。
 やっぱりこのセムが玄関フードに似ていると思ったのが検索し始めた動機っぽい。
 そして、ありがたいことに寒さ対策についてのヒントもあった。
 炉で火を焚き続けると土間が熱を蓄えてくれるらしい。
 蓄えた熱を逃げないようにする工夫が必要らしいけど、ここは前世の子供時代を過ごした北海道ほど寒くない。
 いけるっしょ。
 あれ? これは北海道弁か?
 ということで、僕は早速作業に取り掛かる。
 まずは炉を切ってそこにカマドから火を移す。
 本格的な冬場は火力を調節しないといけないっぽいけど今は燃えてればとりあえずいい。
 炉に薪を突っ込んどいてから、斧を持って雑木林に入る。
 一本切り倒して小屋まで持ってくる。
 これで丸一日仕事。
 それをとりあえず小屋の横に置いといて今度は雑木林から草を刈ってくる。
 前世知識によれば、葦だの茅だの蒲だのといった植物の名前が出てくるわけだけど、異世界で植生の違うこの辺にそんなものはなく、一応それっぽいものを選んで持ち帰った。
 それを土間に敷き詰め、茅っぽい硬めのもので格子状に編んだものを上に乗せる。
 チセではその上にさらに敷物を敷くわけだけどそんなものがホイホイとできるわけがない。
 事実、すげぇ荒い格子状のものを編むのに三日もかかった。
 それも自分の寝るスペース分編むだけでだ。
 切り倒してきた木は斧で枝を切り払い、適度な長さに切りそろえて二本を柱として入り口前に立てる。
 玄関フードの柱だ。
 これに切り払った枝を縦横に組んでその周りを茅葺き。
 「茅」じゃないけどね。
 そんなこんなで小さな掘っ建て小屋をとりあえず住める、冬を越せるものにするのにひと月近くかかった。
 ああ、ちなみにこの世界にも満ち欠けする月があって、朔から次の朔までの約二十五日をひと月と数える。
 年の概念もあって一年は通常十二ヶ月。
 うるう月のある年が何年かに一度ある。
 ここら辺は前世世界で過去に使われていた太陰暦みたいなもんだ。

 さて、一人(と、一匹?)のサバイバル生活もひと月過ぎたら季節もぐっと深くなってそろそろ雪が降るんじゃないかって季節だ。
 玄関フードには吊るした干しピサーメとダリプ。
 干しピサーメは渋い方の実を使うのがいいと言ってたのでそうしている。美味い方は旬が過ぎたのでもう食べられない。
 ダリプはそのままおやつ代わりに食べてるけど、一部は保存用にこれも干しダリプにしてる。
 本来は大人たちのお酒の材料であまり食べさせてもらえなかったものだ。
 好きなだけ食べられるってのは嬉しいけど、ちょっぴりさみしい。
 そろそろマルルンが食べ頃なはずだから明日あたり採集に行こうと思う。
 そろそろサバイバルミッション・ツーに移行だな。

「リリム」

「何?」

「何したらいい?」

「またざっくりとした質問ね。そんなの答えられるわけないじゃない」

 だよねー。
 考えろ?
 僕に必要なものはなんだ。
 外のかまどは簡易なもので、いつ壊れても不思議じゃない。
 家の中に囲炉裏を作ったからここで煮炊きもできるからいいか。
 いやいや、かまどの火力は捨てがたい。玄関フードに作り直すか。
 次は服だな。
 着た切り雀ってやつでひと月過ごしたからなぁ。
 冬用の装備にしないと外で活動できなくなる。
 でも、材料が全くないな。
 麻的なもので布を織るにしたって時間かかるし、防寒着にはなりそうにない。

「防寒着になりそうな素材でこの辺で手に入りそうなものってなんかないかな?」

「そうね、獣の毛皮なんていいんじゃない?」

 なるほど。
 雑木林の中には鳥や獣もいるな。

「それには狩りをしなきゃダメだよなぁ」

「そうね」

「道具が必要だ」

「そうね」

「何がいいと思う?」

「安全なのは遠くから獲物を狙える弓だろうけど、弓を作るのは素人には難しいし弦の材料がないわね。仮に作れたとしても弓を射るには技術が必要よ」

 なるほど。

「でも接近戦は難しいわね。小動物は逃げちゃうだろうし、大型獣との近接は危険だし」

 うん、やりたくないね。

「あなた歴史オタクなんでしょ? 何か自分で考えなさいよ」

 そうきますか。
 それもそうだよね。
 ということで、僕は再び前世記憶を手繰り寄せる。
 火縄銃……いやいや、作れません。
 弓矢はダメ、クロスボウも作れない。
 そういえばテレビ番組で害獣駆除に罠を仕掛けるってのがあったな。
 アレをメインに手持ちの得物も用意しよう。

 …………!

 投げてよし振るってよしの手槍かな?
 太平洋戦争末期、帝国は国民に竹槍持たせて飛行機と戦えと言ったそうだが、そんな無茶はともかく戦国時代、弓や刀と違ってたいして訓練をしなくても扱える簡便な武器として重宝したと言われてる。
 穂先きは金属がいいけど、村に残っているのは焼き鈍しのナマクラしかない。
 前世知識によれば槍は投石とともに人類最古の狩猟道具で、教科書に石器が紹介されてたな。
 よし、石の穂先で槍作ろう。
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