第246話 決戦前の軍議
文字数 2,371文字
進軍は万事問題なく、順調に進む。
目標のズラカルト城までの途中にある町はすべて無視しての進軍だ。
領都のあるズラカリー区は町と町の間が近く、人も多いと聞いている。
そこをいちいち攻略していたら日数ばかりが積み重なって、兵糧が底をつく。
帰りの食料を計算に入れると、戦闘可能な日数は十日とない。
ちらりと各都市での略奪も頭をよぎったけれど、それをやると住民の恨みを買って占領後の統治に支障をきたす。
はぁ、戦争には金がかかるとは本当だな。
いや、それ以上に兵糧が驚くほど必要になる。
こりゃあ近代的野戦食 の開発を進める必要がありそうだ。
差し当たって缶詰か?
究極的にはレトルト食品とかフリーズドライかな?
けど、レトルトの容器は今の技術水準じゃハードル高いだろうな。
とにかく今回のズラカルト領攻略戦が一段落ついたら数年は内政に励むことにしよう。
なんて皮算用をしているうちに領都ズラカリーの南東に築かれた西洋風の城を望むところまで到着した。
高い城壁で守られたルンカー造りの城である。
斥候によれば、既に僕らの進軍は知られており(まぁ、これだけの大軍で行軍していれば気づかれない訳ないか)、城塞都市とはいえ住民も暮らしている町ではなく、戦闘防衛に特化した城にこもるという選択をしたようだ。
戦闘防衛特化とはいうけれど、僕から見れば攻め所はいくつもある。
それはともかく、まずは降伏勧告だ。
前回同様、拡声の魔法を使ってガーブラに降伏勧告をさせてみたのだけど返答はなく、攻城戦は避けられないことになった。
この攻城戦は短期決戦を強いられる。
収穫後の潤沢な食料を城に貯め込んでいることは既に情報を得ている。
敵兵力はおよそ二千二百。
砦防衛に五、六百割いたようだけど、それでも味方の千五百と比べて五割増だ。
条件同じならこんな博打みたいな攻城戦はしない。
まずは飛び道具戦で相手の反撃能力を確かめる。
味方弓兵六百足らずに一斉射を命じる。
相手からの反撃はこちらより少ないくらいだった。
思ったより弓兵は少ないのか?
城の狭間は縦に細長く、敵弓兵を狙い撃つのは難しい。
そして、反撃の間隔が少し長かった。
狭間の防御力と攻撃力のバランスはトレードオフの関係だ。
壁の向こうの様子は判らないけど狭間の開口部が狭いことで連射が効かないのかも知れない。
僕は一度の一斉射でその日の戦闘を早々に取りやめ、軍を三つに分けて南を開けた形で城を取り囲む。
右翼の大将をオクサ、副将ラビティアに任せて兵四百。
主な武将としてチカマック、ウータ、ホーク、ノサウスを配置。
左翼はダイモンドを大将に副将サビーと兵五百を任せ、イラード、ガーブラ、ザイーダ、ギラン、ジャミルト、ドブルを回す。
中央は総大将の僕の下にカイジョーとバンバ、ジャパヌの三人を副将格として配置、カシオペア隊、電撃隊、フィーバー隊が実働部隊六百の兵を指揮するという布陣だ。
その日の夜。
大将、副将を集めての軍議を開く。
ちなみにチャールズとラバナルも軍議には参加している。
「城攻めは力押しが一般的ですが、籠城兵が多いことを考えますと少々無理筋かと愚考いたします」
口火を切ったのはラビティア。
珍しく改まった言い方だった。
「お館様も正攻法では勝利できないことなど重々承知であろう。承知の上で城攻めを決断したのだ」
「それはともかくお館様。城を囲むのになぜ、三隊に分けたのですか? 確かに彼我の戦力差ではこれ以上分散するのは得策ではないというのは判るのですが、さであれば全軍を一箇所に集めるべきだと思うのですが」
「チャールズのいうことももっともではあるのだが、ちゃんと戦略的意図があるのだ。明日の戦術を説明するぞ」
と、城と周辺の見取り図に駒を配置しながら僕は説明を始める。
「開戦は左右の軍が同時に行う。これで正面の本軍に対する射撃圧力が多少なりとも緩和するだろう。左右が撃ち合いを続けているのを見計らって電撃隊が破城槌を押し出す。カシオペア隊、フィーバー隊は兵を温存しつつこれを守れ」
「なかなか無理なことを命じる」
「傭兵時代ならいつものことじゃないか、ジャパヌ」
「破城槌で正門を破壊したら魔法部隊の弾幕で敵弓兵を牽制しつつ雪崩込め」
「門の破壊が成功し、本軍が城に入ったら我らはどうすればよいのですか?」
「臨機に応変せよ」
「兄者、腕が鳴るのぅ」
「いたずらに兵を散らすなよ」
「なぁに、オレたちが前面に出れば兵の損失などないも同様でしょうよ」
ラビティアが言うと納得してしまいそうだ。
実際、能力向上 魔法の効果もあったとはいえ、難関門攻防戦の時は某ゲームばりの無双をやってのけてたし、兄弟二人いればあながち大言壮語ともいえないんだよな。
これにホークやノサウスもいるってんだから好き勝手やらせた方が勝率上がりそうだと踏んでいるわけで。
「お館様」
「どうした、ダイモンド」
「能力向上魔法の使用許可はいただけるのでしょうか?」
「お!」
中学生男子みたいに目をキラッキラさせるんじゃないよ、ラビティア。
「『極み』は禁止だ」
あからさまに残念そうな表情はやめなさいってば。
全能感、無敵感と引き換えに効果が切れた後行動不能になっちゃうでしょ。
指揮官が戦線を離脱しちゃったら作戦が遂行できなくなるかもとか考えないのか?
それはそうと、みんなして俺たちにも使わせろ的視線を僕に向けてくるの勘弁してよ。
「ジャン」
領主になって久しいのに名前で呼ぶのは、でもまぁラバナルだし仕方ないか。
「ア レ は使ってよいのじゃろうな」
「ああ。ただし、味方を巻き込まないでくれ」
「努力しよう」
努力じゃなくて確約して欲しいな。
まぁ、戦場で絶対はない訳だけど。
「明日の一戦でズラカルト領を手中に収めるぞ。みんな、死んでくれるなよ」
目標のズラカルト城までの途中にある町はすべて無視しての進軍だ。
領都のあるズラカリー区は町と町の間が近く、人も多いと聞いている。
そこをいちいち攻略していたら日数ばかりが積み重なって、兵糧が底をつく。
帰りの食料を計算に入れると、戦闘可能な日数は十日とない。
ちらりと各都市での略奪も頭をよぎったけれど、それをやると住民の恨みを買って占領後の統治に支障をきたす。
はぁ、戦争には金がかかるとは本当だな。
いや、それ以上に兵糧が驚くほど必要になる。
こりゃあ近代的
差し当たって缶詰か?
究極的にはレトルト食品とかフリーズドライかな?
けど、レトルトの容器は今の技術水準じゃハードル高いだろうな。
とにかく今回のズラカルト領攻略戦が一段落ついたら数年は内政に励むことにしよう。
なんて皮算用をしているうちに領都ズラカリーの南東に築かれた西洋風の城を望むところまで到着した。
高い城壁で守られたルンカー造りの城である。
斥候によれば、既に僕らの進軍は知られており(まぁ、これだけの大軍で行軍していれば気づかれない訳ないか)、城塞都市とはいえ住民も暮らしている町ではなく、戦闘防衛に特化した城にこもるという選択をしたようだ。
戦闘防衛特化とはいうけれど、僕から見れば攻め所はいくつもある。
それはともかく、まずは降伏勧告だ。
前回同様、拡声の魔法を使ってガーブラに降伏勧告をさせてみたのだけど返答はなく、攻城戦は避けられないことになった。
この攻城戦は短期決戦を強いられる。
収穫後の潤沢な食料を城に貯め込んでいることは既に情報を得ている。
敵兵力はおよそ二千二百。
砦防衛に五、六百割いたようだけど、それでも味方の千五百と比べて五割増だ。
条件同じならこんな博打みたいな攻城戦はしない。
まずは飛び道具戦で相手の反撃能力を確かめる。
味方弓兵六百足らずに一斉射を命じる。
相手からの反撃はこちらより少ないくらいだった。
思ったより弓兵は少ないのか?
城の狭間は縦に細長く、敵弓兵を狙い撃つのは難しい。
そして、反撃の間隔が少し長かった。
狭間の防御力と攻撃力のバランスはトレードオフの関係だ。
壁の向こうの様子は判らないけど狭間の開口部が狭いことで連射が効かないのかも知れない。
僕は一度の一斉射でその日の戦闘を早々に取りやめ、軍を三つに分けて南を開けた形で城を取り囲む。
右翼の大将をオクサ、副将ラビティアに任せて兵四百。
主な武将としてチカマック、ウータ、ホーク、ノサウスを配置。
左翼はダイモンドを大将に副将サビーと兵五百を任せ、イラード、ガーブラ、ザイーダ、ギラン、ジャミルト、ドブルを回す。
中央は総大将の僕の下にカイジョーとバンバ、ジャパヌの三人を副将格として配置、カシオペア隊、電撃隊、フィーバー隊が実働部隊六百の兵を指揮するという布陣だ。
その日の夜。
大将、副将を集めての軍議を開く。
ちなみにチャールズとラバナルも軍議には参加している。
「城攻めは力押しが一般的ですが、籠城兵が多いことを考えますと少々無理筋かと愚考いたします」
口火を切ったのはラビティア。
珍しく改まった言い方だった。
「お館様も正攻法では勝利できないことなど重々承知であろう。承知の上で城攻めを決断したのだ」
「それはともかくお館様。城を囲むのになぜ、三隊に分けたのですか? 確かに彼我の戦力差ではこれ以上分散するのは得策ではないというのは判るのですが、さであれば全軍を一箇所に集めるべきだと思うのですが」
「チャールズのいうことももっともではあるのだが、ちゃんと戦略的意図があるのだ。明日の戦術を説明するぞ」
と、城と周辺の見取り図に駒を配置しながら僕は説明を始める。
「開戦は左右の軍が同時に行う。これで正面の本軍に対する射撃圧力が多少なりとも緩和するだろう。左右が撃ち合いを続けているのを見計らって電撃隊が破城槌を押し出す。カシオペア隊、フィーバー隊は兵を温存しつつこれを守れ」
「なかなか無理なことを命じる」
「傭兵時代ならいつものことじゃないか、ジャパヌ」
「破城槌で正門を破壊したら魔法部隊の弾幕で敵弓兵を牽制しつつ雪崩込め」
「門の破壊が成功し、本軍が城に入ったら我らはどうすればよいのですか?」
「臨機に応変せよ」
「兄者、腕が鳴るのぅ」
「いたずらに兵を散らすなよ」
「なぁに、オレたちが前面に出れば兵の損失などないも同様でしょうよ」
ラビティアが言うと納得してしまいそうだ。
実際、
これにホークやノサウスもいるってんだから好き勝手やらせた方が勝率上がりそうだと踏んでいるわけで。
「お館様」
「どうした、ダイモンド」
「能力向上魔法の使用許可はいただけるのでしょうか?」
「お!」
中学生男子みたいに目をキラッキラさせるんじゃないよ、ラビティア。
「『極み』は禁止だ」
あからさまに残念そうな表情はやめなさいってば。
全能感、無敵感と引き換えに効果が切れた後行動不能になっちゃうでしょ。
指揮官が戦線を離脱しちゃったら作戦が遂行できなくなるかもとか考えないのか?
それはそうと、みんなして俺たちにも使わせろ的視線を僕に向けてくるの勘弁してよ。
「ジャン」
領主になって久しいのに名前で呼ぶのは、でもまぁラバナルだし仕方ないか。
「
「ああ。ただし、味方を巻き込まないでくれ」
「努力しよう」
努力じゃなくて確約して欲しいな。
まぁ、戦場で絶対はない訳だけど。
「明日の一戦でズラカルト領を手中に収めるぞ。みんな、死んでくれるなよ」