第27話 楽しい読書で判ったこと

文字数 2,885文字

 読み書きを習い始めて判ったことは、この国の文字が表音文字だってこと。
 それもアルファベットより仮名文字(いろは)に近い。
 これはすごくありがたい。
 なにがありがたいって表意文字より圧倒的に覚える文字が少なくて済む。
 そして仮名文字の最大の特徴は文字の並びで発音・読み方が変わらないってことだ。
 「knight(ナイト)」で「k」を発音しないとか、ある意味余計なことを覚えなくて済む。
 ただし母音だけで三十あるとか、拗音(ようおん)促音(そくおん)濁音(だくおん)半濁音(はんだくおん)まで発音全部に文字が当てられているのが、二十六文字しかないアルファベットや五十音と呼ばれる仮名文字との違いだ。
 最初はどの文字がどの発音を表しているのかを覚える。
 ザイーダに指さされた文字の発音を答える。
 間違えると罰ゲームで、僕は腕立て伏せや腹筋。
 子供達は広場を一周だ。
 なかなかにスパルタ教育だ。
 次に地面に棒切れで黙々と文字を書いて覚える「書き取り」。
 次に絵物語を読む……といった具合でまさに初等科教育さながらだ。
 三軒目の家が完成する頃には四人とも一通り書物が読み下せるようになっていた。
 なるほど、確かに僕は人よりちょっと優秀にしてもらっている。
 前世の経験も生きているのだろうけど、四人の中で一番物覚えが早かった。
 さて、大量の書物を読んで判ったことは、まずこの国がウズルマサル大陸にある八カ国(と、一自治区)の一つラシュラリア王国だってこと。
 国名は知ってたけどね。
 大陸の南東部に位置していて、四カ国と国境を接している。
 そのうちの一つがジョーの出身国リフアカ王国だ。
 この村は王国内の北北西、二つの山脈の麓に当たる僻地で、山脈を超えればブチーチン帝国。
 まぁ、今まで山脈を超えて行き来が行われた記録はないらしいので必然的に山脈からこっち側が王国で向こう側が帝国という国境線が引かれているようだ。
 詳しい地図がないのでなんとも言えないけど、この村のさらに奥に行くつか集落が確認されている。
 定期キャラバンはここを終点にしているから奥の集落は王国内であっても王国じゃない感じなのかもしれない。
 前世風に言えば未開の少数民族って扱いだろうか。
 王国は封建制で五爵位の貴族階級があるようだ。
 上から(はく)(しゃく)(ちゅう)(しゃく)(しゅく)(しゃく)()(しゃく)(だん)(しゃく)
 この村はズラカルト男爵領内にあるから、まぁそんなもんだ。
 王国の歴史は後継問題で乱世突入してるからもうそんなに重要じゃないんでさらっと読み飛ばしたけど、そこから考察できる文化水準は中世的だ。
 ただし近世に片足突っ込んでいるところがある。
 まぁでもこれは前世の時代区分を適用するのが間違っていると考えるべきだろうか。
 まず、医療が進んでいる。
 魔法頼みではあるけれど、医療水準は近代的レベルにある。
 どうやら魔力を通して人体に働きかけて怪我や病気を治すため、人体構造に関してよく研究されているからだろう。
 病気に関して言えば、科学技術が発達していないので原因が特定できず治療できない事例があるみたいだけど、怪我に関して言えば千切れた腕でも完治させられるようだ。
 もちろん魔法使いの(レベル)によるみたいだけど。
 魔法技術が発達していることによって火器の代わりとして用いられていることも文献から判った。
 火力的には室町末期、戦国時代水準だな。
 魔法使いはその適性者が少なく、ほとんどが国に抱えられているようだ。
 この辺りは誰でも引き金を引けば人が殺せる鉄砲と違って数を揃えられない欠点と言える。
 でも、優れた魔法使いは速射もできるし大火力の攻撃もできるらしい記述があるから侮れない。
 今、この国にはどれだけ魔法使いがいて、どの勢力に所属しているか?
 そこら辺の情報収拾が必要だ。
 伝説の大魔法使いは「空の星を落とした」とか語られてるけど、少なくとも近年の魔法技術では一撃で城壁を壊せるような破壊力はなさそうだ。
 一般的には「火を灯す」とか、「風を生む」くらいの日常魔法が中心だ。
 よかったよ、漫画みたいにバカスカ魔法の飛び交う世界じゃなくて。
 戦闘兵器は前世でもおなじみのファンタジー武器ばかり。
 剣に槍に斧に弓にと前世と大きく変わらない。
 戦術指南書的な文献が見当たらなかったのは用意してくれてないだけか、そもそも存在しないのか。
 軍記物を読むにつけ、魔法のせいで火器がないから矢を射かけてからの接近肉弾戦が主流ってことだろう。
 いずれにしても科学技術を基礎にした前世文明の恩恵を得られる僕は戦略戦術で勝負ができそうだ。
 なにせ神様のおかげで数千年の戦いの歴史が頭の中に入ってる。
 伊達に歴史オタクじゃないぞ。
 専門分野は日本史だけど。
 それから文明を持っているのは人族だけじゃないようで、ナルフ、ドゥワルフ、タルル、グフリ、オルグなどの亜人がいる。
 ちなみにどれもその種族の言葉で「人」を指す単語だ。
 「アイヌ」がアイヌ語で「人間」を意味する単語なのと一緒だ。
 僕ら人族は彼らにとって亜人という位置付けになるんだね、ちょっと混乱しちゃうかも。
 ちなみに大陸を八つの国に線引きしているのは人族なんだけど、それぞれの種族で別の線を引いて国や地域が分けられているらしい。

 …………。

 複雑だね。
 人種以外に知性を持ったグループがいて、魔族ってカテゴライズされているようだけど、外見的に一定のパターンがないらしく、人型の親から鳥型の子が生まれたりするんだって。
 デビルマンのデーモン族的なアレなのかね?
 そうそう、僕が前世の記憶を思い出した時リリムが言ってた神様の話。
 基本的に一つの種族に一柱か二柱の神様が存在しているようだ。
 他にも火の神様、水の神様みたいな存在があるようで、ここら辺りは八百(やお)(よろず)な感じだけれど、大きく違うのは実際に現世利益がある(力を貸してくれる)ことだ。
 各種族は仲が良かったり悪かったりで普段はあまり交流がないらしい。
 人族と一番友好的なのはドゥワルフ族で、魔族は敵対的。
 その魔族とグフリ、オルグ族はある種の同盟を結んでいると文献に書かれている。
 魔族とは別に魔獣という存在もあって、これは通常の動物と違って魔法と密接に関わっている存在を指すようだ。
 具体的にはドラゴン(やっぱりいた)なんかがそれにあたる。
 と、まあこれが五軒の家が建つ頃までに仕入れた知識だ。
 その間ジョーは約束通り一度、新しい村人を連れてきて村の住人は二十人を超えた。
 家が建つスピードと住人が増えるスピードがミスマッチでいつまでたってもテント生活が終わらない。
 新しい住人のためにあと三軒建てなきゃならないし、今年中に村人三十人にする計画だからさらに四、五軒立てる必要があるんだけど、そうなると建築資材が足りないな。
 具体的には柱にする木材だ。
 夏場に伐採した木は建築資材に向かないってどこかで読んだ気がするけど、仕方ないよな。
 雑木林もこのハイペースな建築ラッシュでスカスカになりそうだ。
 奥の森には主がいて入っていくわけにもいかないし……。
 食糧事情も厳しいな。
 春に蒔いたフレイラがそろそろ収穫期を迎えるけど、さて、どうしたもんかねぇ……。
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