第221話 戦争はやはり文明を進化させる動力なのだろうか
文字数 2,486文字
オクサの見立て通り、トゥウィンテル軍は午には丘から見える距離にまで近づいてきた。
数千人規模の軍勢を見た経験があると二百人なんて怖くないな。
軍の動揺も小さいようだ。
オクサはまだ動かない。
なにかを測っているんだろうか?
トゥウィンテルは丘まで一時間くらいだろう距離で軍を止め、陣を敷き始めた。
早くね?
お天道さん的に一合戦できるくらいの余裕はあるけど。
「こちらから急襲できるほどの距離でもありませんし、なかなかうまい用兵ですな」
と、チカマックが僕の隣で解説だ。
「人数的に我が軍の方が有利。その有利な側が地形的にも有利な位置に陣を構えているのですから、挟撃の軍が到着するのを待つつもりなのでしょう」
戦術は色々考えられるけど、チカマックの言う通り地理的有利な状況にあるのだからむざむざ手放す策はあるまい。
オクサもその辺りは心得ているようで、お伺いをたてるでも独断で打って出るでもなく静観の構えを続けている。
日暮れが近づく頃になってラビティアが放った斥候が帰ってきた。
到着は明日の夕暮れ近くになるだろうと言うことだった。
と言うことは決戦は明後日だな。
そして、宵闇の中を飛行手紙が届けられた。
このタイミングで飛ばしてくるのはチローの差配だろう。
いくら手のひらサイズの紙飛行機だと言っても、さすがに昼のうちだと目立つからな。
ハングリー区からの手紙はタイミングを見計らうなんてできないけど、陣から一日ほどの距離にある町からなら最適なタイミングでやり取りできる。
「なんと書いてきたのですか?」
読むとトゥウィンテル軍の背後を突きたいので、最適なタイミングを連絡して欲しいという内容だった。
「いい作戦ですな」
「いい作戦だけど、僕は過去に二度同じ作戦でズラカルト軍を破っているからな。敵だって馬鹿じゃない。あえて籠城した軍を無視してこちらに向かっていることだし、背後は意識しているだろう」
「意識しているからといって対応できるとは限りませんよ」
そういうものか。
確かに二百ほどの軍勢だ。
オクサ隊二百とがっぷり四つに組み合えば後ろを気にしている余裕はないかもしれない。
実は僕も草原に点在しているブッシュのひとつにバンバたち遊撃隊を伏せている。
機に応じて横撃 するための伏兵だ。
カイジョーたちがトゥウィンテル軍を背後から攻めるのであれば、こちらはリゼルド軍の側面にぶつけてやればいいだろう。
「ヤッチシ」
「ここに」
と、音もなくどこかからともなく現れる。
オギンといいこのヤッチシといい、ほんと超人だよな。
本当にこの世界にはチートはないのかと疑いたくなる。
「敵は馬鹿正直に正攻法で来ると思うか?」
「この陣容を見れば、丘の背後に回るくらいはするかもしれやせんね。しかし、彼我の戦力比を考えれば多くは割 けやせんし、あまりにも少数では奇襲にでも成功しない限り効果は薄いんじゃあないでしょうか?」
そこだな。
「頼めるか?」
「やりましょう」
具体的になにを頼めるかひとっ事も言ってないのに判ってくれてるみたいなんだけど、どんだけ優秀なんでしょうね?
翌日もトゥウィンテル軍との睨み合いが続く。
そして、斥候からの報告より少々早くリゼルド軍が到着した。
早速、リゼルド軍から伝令がトゥウィンテル軍へ走らされる。
トゥウィンテルよりリゼルドの方が地位が上なんだな。
伝令と共に数騎の騎士がリゼルド軍に向かった。
きっと、軍議が開かれるんだろう。
意外と敵軍の動きって見えるもんなんだねぇ。
大河や時代小説なんかだとこういうところは端折 られるから判らなかったけど、なるほど、情報通信技術の進歩は軍事から進むと言われる理由が体感として納得できた。
打ち合わせの後に軍が動き出せばそこには意志が感じ取れるわけで、どういう連携がしたいのか、する気なのかがある程度読めてしまう。
というか、意図が読めなきゃ敵の術中にはまって負けてしまうことになる。
そういう意味では敵軍のリゼルドもトゥウィンテルもできる指揮官ということか。
オルバックJr. なんかなんの策もなしに突っ込んできたからな。
あいつ、どうしてるかな?
夜がしらむ頃、敵陣に炊事の煙が上がった。
味方からも炊事の煙が上がる。
腹を満たしていよいよ合戦……だな。
野戦とはいえ戦力が拮抗している今回の戦は、一日で決着がつかないかもしれないけれど、逆になにかの拍子に一気に均衡が一方に傾くのが怖い。
敵の両軍が歩調を合わせるように進軍を開始した。
同時に攻めるつもりか。
まぁ、敵の兵力を分散させるにはいいかもしれないけど、僕の軍は元々オクサ隊とラビティア隊に分かれててそれぞれがそれぞれの軍に当たる予定だったから、こちらの対応は変わらない。
初日は矢の撃ち合いで終わった。
野戦なのに白兵戦が始まる前に敵軍が陣に戻ったのだ。
「夜襲をかけましょうか?」
その夜、ラビティアが進言してきたが成功率が低そうだったので却下した。
二日目は大楯構えて進軍してきたので魔法部隊を中心に射撃、丘の下まで寄せてきたところを槍兵に突撃させて揉み合うこと三時間余り、双方決め手を欠いて終わった。
「早かったな」
敵が退くのがである。
「やはりなにかを探っているのか、攻城戦の時のように仕掛けを待っているようですね」
チカマックもそう思うか。
でも、今の所ヤッチシから報告は受けていない。
「明日はこちらから仕掛けてみるか」
僕はオクサとラビティアに移動電話で、カイジョーとバンバには飛行手紙で作戦を指示してキャラを呼び出す。
「それぞれの町からなにか報告はあったか?」
「特筆すべきことはなにも……」
と、そこへ飛行手紙が届いた。
開くとそれはドゥナガール仲爵のもとにいるケイロからの手紙だった。
それによると、約定通り軍をズラカルト男爵領との境に動かしてくれたことと、アシックサル季爵領でなにか動きがあったようだという報告だった。
さすがに季爵領での動きがなんなのかまでは掴めなかったようだけど、わざわざ手紙に認めるなんてなにか気になる動きなんだろうか?
数千人規模の軍勢を見た経験があると二百人なんて怖くないな。
軍の動揺も小さいようだ。
オクサはまだ動かない。
なにかを測っているんだろうか?
トゥウィンテルは丘まで一時間くらいだろう距離で軍を止め、陣を敷き始めた。
早くね?
お天道さん的に一合戦できるくらいの余裕はあるけど。
「こちらから急襲できるほどの距離でもありませんし、なかなかうまい用兵ですな」
と、チカマックが僕の隣で解説だ。
「人数的に我が軍の方が有利。その有利な側が地形的にも有利な位置に陣を構えているのですから、挟撃の軍が到着するのを待つつもりなのでしょう」
戦術は色々考えられるけど、チカマックの言う通り地理的有利な状況にあるのだからむざむざ手放す策はあるまい。
オクサもその辺りは心得ているようで、お伺いをたてるでも独断で打って出るでもなく静観の構えを続けている。
日暮れが近づく頃になってラビティアが放った斥候が帰ってきた。
到着は明日の夕暮れ近くになるだろうと言うことだった。
と言うことは決戦は明後日だな。
そして、宵闇の中を飛行手紙が届けられた。
このタイミングで飛ばしてくるのはチローの差配だろう。
いくら手のひらサイズの紙飛行機だと言っても、さすがに昼のうちだと目立つからな。
ハングリー区からの手紙はタイミングを見計らうなんてできないけど、陣から一日ほどの距離にある町からなら最適なタイミングでやり取りできる。
「なんと書いてきたのですか?」
読むとトゥウィンテル軍の背後を突きたいので、最適なタイミングを連絡して欲しいという内容だった。
「いい作戦ですな」
「いい作戦だけど、僕は過去に二度同じ作戦でズラカルト軍を破っているからな。敵だって馬鹿じゃない。あえて籠城した軍を無視してこちらに向かっていることだし、背後は意識しているだろう」
「意識しているからといって対応できるとは限りませんよ」
そういうものか。
確かに二百ほどの軍勢だ。
オクサ隊二百とがっぷり四つに組み合えば後ろを気にしている余裕はないかもしれない。
実は僕も草原に点在しているブッシュのひとつにバンバたち遊撃隊を伏せている。
機に応じて
カイジョーたちがトゥウィンテル軍を背後から攻めるのであれば、こちらはリゼルド軍の側面にぶつけてやればいいだろう。
「ヤッチシ」
「ここに」
と、音もなくどこかからともなく現れる。
オギンといいこのヤッチシといい、ほんと超人だよな。
本当にこの世界にはチートはないのかと疑いたくなる。
「敵は馬鹿正直に正攻法で来ると思うか?」
「この陣容を見れば、丘の背後に回るくらいはするかもしれやせんね。しかし、彼我の戦力比を考えれば多くは
そこだな。
「頼めるか?」
「やりましょう」
具体的になにを頼めるかひとっ事も言ってないのに判ってくれてるみたいなんだけど、どんだけ優秀なんでしょうね?
翌日もトゥウィンテル軍との睨み合いが続く。
そして、斥候からの報告より少々早くリゼルド軍が到着した。
早速、リゼルド軍から伝令がトゥウィンテル軍へ走らされる。
トゥウィンテルよりリゼルドの方が地位が上なんだな。
伝令と共に数騎の騎士がリゼルド軍に向かった。
きっと、軍議が開かれるんだろう。
意外と敵軍の動きって見えるもんなんだねぇ。
大河や時代小説なんかだとこういうところは
打ち合わせの後に軍が動き出せばそこには意志が感じ取れるわけで、どういう連携がしたいのか、する気なのかがある程度読めてしまう。
というか、意図が読めなきゃ敵の術中にはまって負けてしまうことになる。
そういう意味では敵軍のリゼルドもトゥウィンテルもできる指揮官ということか。
オルバック
あいつ、どうしてるかな?
夜がしらむ頃、敵陣に炊事の煙が上がった。
味方からも炊事の煙が上がる。
腹を満たしていよいよ合戦……だな。
野戦とはいえ戦力が拮抗している今回の戦は、一日で決着がつかないかもしれないけれど、逆になにかの拍子に一気に均衡が一方に傾くのが怖い。
敵の両軍が歩調を合わせるように進軍を開始した。
同時に攻めるつもりか。
まぁ、敵の兵力を分散させるにはいいかもしれないけど、僕の軍は元々オクサ隊とラビティア隊に分かれててそれぞれがそれぞれの軍に当たる予定だったから、こちらの対応は変わらない。
初日は矢の撃ち合いで終わった。
野戦なのに白兵戦が始まる前に敵軍が陣に戻ったのだ。
「夜襲をかけましょうか?」
その夜、ラビティアが進言してきたが成功率が低そうだったので却下した。
二日目は大楯構えて進軍してきたので魔法部隊を中心に射撃、丘の下まで寄せてきたところを槍兵に突撃させて揉み合うこと三時間余り、双方決め手を欠いて終わった。
「早かったな」
敵が退くのがである。
「やはりなにかを探っているのか、攻城戦の時のように仕掛けを待っているようですね」
チカマックもそう思うか。
でも、今の所ヤッチシから報告は受けていない。
「明日はこちらから仕掛けてみるか」
僕はオクサとラビティアに移動電話で、カイジョーとバンバには飛行手紙で作戦を指示してキャラを呼び出す。
「それぞれの町からなにか報告はあったか?」
「特筆すべきことはなにも……」
と、そこへ飛行手紙が届いた。
開くとそれはドゥナガール仲爵のもとにいるケイロからの手紙だった。
それによると、約定通り軍をズラカルト男爵領との境に動かしてくれたことと、アシックサル季爵領でなにか動きがあったようだという報告だった。
さすがに季爵領での動きがなんなのかまでは掴めなかったようだけど、わざわざ手紙に認めるなんてなにか気になる動きなんだろうか?