第28話 実りの秋、読書の秋

文字数 2,497文字

 収穫期を前に、村人総出で少し離れた別の森に木材の伐採に出かける。
 季節はまだ暖かいので数日林の中で過ごす予定だ。
 荷車二台にホルスが四頭、村人二十一人(うち、男手は十三人)。
 ついでに大掛かりな狩りもする。
 雑木林の動物たちはすっかり僕らを警戒して森の奥に入ってしまったようで、最近はとんと成果が上がらない。
 冬になれば、餌不足で雑木林に降りてくるんだろうけど……。
 少し山を登れば実りを迎えた果樹などもあるかもしれないので、女性陣にはそっちをお願いした。
 結果、それなりの成果があった。
 ここで活躍したのはキャラバン組だ。
 元々キャラバンに帯同していて荒事慣れしていた五人が中心となって獲物を見つけ、追い込み、狩っていく。
 この森には雑木林にはいないボワールがいた。
 大型で気性の荒い草食獣で畑や人を襲うこともあるらしい。
 畑は食い荒らすため、人は身を守るために襲うらしい。
 けど、肉は美味いそうだ。
 それと、仕留めたラバトを横取りしようとしたナルフも一匹仕留めた。
 こっちは警戒心が強く滅多に人前に姿を現さない肉食獣だけど、その希少性から毛皮が高値で売れるそうだ。

「木材はどうやって運ぶんだ?」

 そろそろ戻ろうとなった時、村人が僕に訊ねてきた。

「馬そりに乗せて……あーいや、そりを作ってホルスに引かせる」

 うん、そりって判るのか?

「なんだよ、それ?」

 わかんないか、やっぱり。

「俺が知ってる」

 と、ルダーが説明をしてくれる。
 さすが戦中世代。
 多分、実物を使っているのも見たことあるんだろう。
 瞬く間にみんなと協力して二台のそりを作り上げた、

「先に言ってくれよ、こんな森の中で急場で作った簡易なそりなんていつ壊れるか判らんぞ」

 ……うん、反省する。
 荷車の方は人手で押し、ホルスの扱いに長けたルダーとイラードが木材をホルスに引かせる。
 この遠征で切ってきた木は春まで放置だ。
 村に戻ってきた僕らは総出で春に蒔いたフレイラの収穫作業。
 それが終わると、秋蒔きのフレイラのために畑を耕す。
 この作業は四頭のホルスが大活躍で、瞬く間に畑が耕かされた。
 人間がいかに非力なのか、それともホルスがすごいのか。
 フレイラの種を蒔いたら次はポモイトの収穫。
 ポモイトは豊作だった。
 どちらも長期保存ができる大事な食料だ。
 秋の収穫はまだまだ続く。
 本当は冬になる前に一軒でも多く建てたいのだけど、収穫は時期を外すとできなくなるから仕方ない。
 雑木林からピサーメ、ダリプの収穫。
 渋いピサーメは干して保存食に。
 甘いピサーメは旬のうちに食べきれない分を煮詰めてこちらも保存食に。
 ダリプは半分を干して、残りで酒を仕込む。
 ありがたいことにジョーの連れて来てくれた人の中に酒造りの名人がいて(というか、意図的に選抜されたんだろう)ホクホクしながら仕込み始めた。

「なかなか良質なダリプだ。いい酒になるぞ」

 とか言ってた。
 その名人に二人助手をつけて酒造りをお願いしている間に女性陣にマルルン拾いをお願いする。
 サビーとガーブラには少し離れたところにある採掘場で岩塩を取って来てもらう。
 僕はその塩で肉を加工。
 新しい村人の中に一人釣り名人がいて、彼に干物作り、干し肉・ハム作りを伝授する。
 これで僕の仕事が少し減った。
 そして、家づくり再開だ。
 住人が増えたんで仕事を分担できるのが嬉しい。
 ジャリはルンカーの作り方を新人二人に伝授して、新居に設けた工房で念願の鍛治を始めた。
 工房横で和炭(にこずみ)を作りながらの作業だ。
 木炭は製造方法でいくつかの種類に分けられるんだけど、鍛治に適しているのは不純物が多く炎の上がる和炭がいいそうだ。
 というか、この世界では炭といえばこの和炭らしい。
 どうりで黒炭が高値で売れるはずだ。
 その黒炭用にルンカー用の窯とは別の場所に炭焼き小屋が作られた。
 ここにも二人、炭焼き職人が配置された。
 二人にはルダーから黒炭と白炭の焼き方が伝授された。
 もっとも、こっちは経験が必要なようで、大事なところはまだルダー頼りみたいだ。
 電子機器とかあるなら経験を数値化するとかできるのになぁ……科学文明を享受した記憶がある転生者としてはもどかいし。

「そろそろ村長は頭脳労働中心に動いたらどうだ?」

 イラードにそう言われたのはジョーが再訪する三日前だった。
 いつものように建築作業をしている時だ。

「え?」

「肉体労働は頭も疲労するからな、ここのところ村長から先の展望の話を聞かないぞ」

 お・おおっ!
 それはやばいな。
 村の再建は順調だし、そろそろ次のフェーズに移ってもいいか。

「ありがとう。イラードって冷静だね。サビーとどっちが年上か判らなくなるよ」

「よく言われる」

 ははは、言われるんだ。
 僕は、お言葉に甘えてイラードに現場監督を任せて、小屋に戻る。
 小屋の中は木炭の副産物、木酢液から蒸留したアルコールを使ったランプを照明に利用するくらいに文明化されている。
 まだまだ希少なので使えるのは村長の僕だけ。
 権力者特権だ。
 まだ十六歳なんだけどね。
 まずは汚部屋と化している小屋の掃除から。
 小屋を作った時からそのままだった寝床を脱穀後の麦わらなどと取り替える。
 ヘレンさんに作ってもらっていた新しい敷物で覆いゴワゴワペタペタになっていた寝床は以前より快適になった。
 ついでに忙しさにかまけて土間のままにしていた室内も藁を敷いてゴザを敷く。
 これでこの小屋に人が呼べる。
 部屋が片付くと僕は無造作に積み上げられている書物の整理に取り掛かる。
 ここら辺は伊達に前世をオタクで過ごしていない。
 いくつかの分類にカテゴライズしてまとめて積み上げる。
 こうなると部屋の一角に棚が欲しくなる。
 でも、それは明日の仕事にしよう。
 まずはこの村の短期目標の再設定の計画を立てなきゃだからね。

「リリム」

「何?」

「これから思考実験をするんだけど、協力してくれないか?」

「どんなことするのか知らないけど、私はあなたの決断を促す知識と助言をするために神様から遣わされてるのよ」

「それはありがたい」

 それじゃあ、始めようか。
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