第284話 領主たるもの舌っ足らずではいけない
文字数 1,872文字
外交部会は参加人数が少なめだ。
外務大臣のケイロ・ボットと通商大臣のチロー・トーキ、政商のジョーサン・スヴァート。
それに僕の執事コンドー・レノマソ。
議題はドゥナガール仲爵との会談の成果から始まって、商売の現況と見込みについて推移していく。
「ケイロ殿に聞いておりますぞ。お館様自らトップセールスにお励みくださったようで」
と、ジョーにお世辞を言われる。
「とっぷせーるす?」
「おほん」
耳慣れない言葉を聞き咎めたチローに向けて咳払いをすると、ケイロがぬるっと割って入ってきた。
「ジョー殿はお館様と昵懇の間柄ゆえに一番にお話しいたしましたが……」
「判ってます。抜け駆けなど致しませんよ」
と、右の口角だけ上げてみせるの悪徳商人然としててつい、一言注意したくなる。
すると、その意を汲んでか絶妙のタイミングでチローが諫言に及んだ。
「ケイロ殿。商売上の必要以上の優遇は他の商人の不興を買い、いらぬ敵を増やしますぞ」
「これは確かに不用意でしたな。以後気をつけます」
「ところで……ジョーのキャラバンだが、王国内をくまなく回っているのか?」
「いや、王国は広いからな。一年で回れる道筋にある決まった町や村を通るだけだ。確かに戦乱で廃村になったり領主が変わって商いの出来なくなったところはあるから、販路拡大に道筋を変えたところもあるので全体で見ればそれなりの領地で顔は利く。まぁ、主に東側だな。特に王国南西部には行ったことがない」
僕の領地は最奥の僻地。
王国の地図上で言えば北西の端である。
ジョーの故郷であるラシュリアナ王国は大陸東端にある大陸最大の半島を領土として治めている。
陸続きで国境を接しているのはリフアカ王国の北方にあるハッシュシ王国のみ。
そんなラシュリアナ王国がなぜリフアカ王国と交易できているかといえば、半島の北端がリフアカ王国から帆船で一日ほどの距離にあるからだ。
そして、交易のためにリフアカ王国の東の海岸に町を拓き飛び地のラシュリアナ領として扱われている。
ジョーのキャラバンは以前この交易都市ラシュリアカとバロ村の間を一年かけて往復していたのだ。
それが村が盗賊に襲われるまでの話。
今は拠点を僕の城下町に移し、領内の生産品を近場で捌きつつ数年に一度ラシュリアカに商品を買い付けに行くという商売に変わっている。
ジョー曰く、
「日用品の需要が高く、多少高価なものでも欲しいとなれば買えるほど庶民に購買力のあるお前の領内だけでも十分稼げるからな。たまに遠出するのは昔馴染みの客のためさ」
だそうだ。
「南方に出かける商人は?」
「南方な」
歯切れが悪い。
辛抱強く言葉が紡がれるのを待っていると
「アシックサル領を通るのが難しくなったんで販路を変更するか、遠回りしているようだ。行ってる奴らはなかなか戻ってこられないから、声をかけるのも時間がかかるぞ」
「いや、むしろ好都合だ」
「どうして?」
「販路を変更した奴らはまだ領内中心に商売をしているんじゃないのか?」
「うむ、新規開拓は相手からの信用や同業者の縄張り問題などあって難しいからな」
「お館様」
「どうした? コンドー」
「なぜ南方に商いに行く者が必要なのかおっしゃっておりませぬので、意図が伝わっておらぬようです」
「お主には判っておるのか?」
と、チローが問うと、目を伏して小さく頭を下げた。
『はい』の意味だろうな。
「ではお訊きする。お館様はどうして南方へ商いに行く者を必要としていると言うのか?」
ん? ちょっと詰問調だな。
なにが気に入らないのか?
「お館様はいよいよアシックサル領へ攻め込む心づもりでございます」
たったそれだけでチローは理解したらしい。
「なるほど。土地勘のあるものを必要としていると言うことか」
合点がいったとチローが膝を叩くと、ジョーも腕を組み顎に手を当て「うんうん」と頷いた。
「そう言うことなら手すきの商人たち全員に声をかけてやろう」
「そうしてくれ。ケイロ」
「はい」
「この件、そなたに任せる。オギンに話を通して忍者部隊を一隊都合してもらえ。安全な進軍ルート……行軍路を割り出すんだ」
「期限は?」
そうだな。
「春の農繁期が終わるまで」
今は秋の収穫が一段落 ついたところだ。
春の終わりまでならそれなりの準備期間を取れるだろう。
「では出兵は来年の夏」
と、チロー。
「そのつもりだ。まずは秋までにアシックサル領に橋頭堡を築き、収穫が終わったら本格的に攻める」
「そのための評定でしたか」
と、言ったのはケイロなんだけど、君、ドゥナガール仲爵との会談の場にいたよね?
ね?
外務大臣のケイロ・ボットと通商大臣のチロー・トーキ、政商のジョーサン・スヴァート。
それに僕の執事コンドー・レノマソ。
議題はドゥナガール仲爵との会談の成果から始まって、商売の現況と見込みについて推移していく。
「ケイロ殿に聞いておりますぞ。お館様自らトップセールスにお励みくださったようで」
と、ジョーにお世辞を言われる。
「とっぷせーるす?」
「おほん」
耳慣れない言葉を聞き咎めたチローに向けて咳払いをすると、ケイロがぬるっと割って入ってきた。
「ジョー殿はお館様と昵懇の間柄ゆえに一番にお話しいたしましたが……」
「判ってます。抜け駆けなど致しませんよ」
と、右の口角だけ上げてみせるの悪徳商人然としててつい、一言注意したくなる。
すると、その意を汲んでか絶妙のタイミングでチローが諫言に及んだ。
「ケイロ殿。商売上の必要以上の優遇は他の商人の不興を買い、いらぬ敵を増やしますぞ」
「これは確かに不用意でしたな。以後気をつけます」
「ところで……ジョーのキャラバンだが、王国内をくまなく回っているのか?」
「いや、王国は広いからな。一年で回れる道筋にある決まった町や村を通るだけだ。確かに戦乱で廃村になったり領主が変わって商いの出来なくなったところはあるから、販路拡大に道筋を変えたところもあるので全体で見ればそれなりの領地で顔は利く。まぁ、主に東側だな。特に王国南西部には行ったことがない」
僕の領地は最奥の僻地。
王国の地図上で言えば北西の端である。
ジョーの故郷であるラシュリアナ王国は大陸東端にある大陸最大の半島を領土として治めている。
陸続きで国境を接しているのはリフアカ王国の北方にあるハッシュシ王国のみ。
そんなラシュリアナ王国がなぜリフアカ王国と交易できているかといえば、半島の北端がリフアカ王国から帆船で一日ほどの距離にあるからだ。
そして、交易のためにリフアカ王国の東の海岸に町を拓き飛び地のラシュリアナ領として扱われている。
ジョーのキャラバンは以前この交易都市ラシュリアカとバロ村の間を一年かけて往復していたのだ。
それが村が盗賊に襲われるまでの話。
今は拠点を僕の城下町に移し、領内の生産品を近場で捌きつつ数年に一度ラシュリアカに商品を買い付けに行くという商売に変わっている。
ジョー曰く、
「日用品の需要が高く、多少高価なものでも欲しいとなれば買えるほど庶民に購買力のあるお前の領内だけでも十分稼げるからな。たまに遠出するのは昔馴染みの客のためさ」
だそうだ。
「南方に出かける商人は?」
「南方な」
歯切れが悪い。
辛抱強く言葉が紡がれるのを待っていると
「アシックサル領を通るのが難しくなったんで販路を変更するか、遠回りしているようだ。行ってる奴らはなかなか戻ってこられないから、声をかけるのも時間がかかるぞ」
「いや、むしろ好都合だ」
「どうして?」
「販路を変更した奴らはまだ領内中心に商売をしているんじゃないのか?」
「うむ、新規開拓は相手からの信用や同業者の縄張り問題などあって難しいからな」
「お館様」
「どうした? コンドー」
「なぜ南方に商いに行く者が必要なのかおっしゃっておりませぬので、意図が伝わっておらぬようです」
「お主には判っておるのか?」
と、チローが問うと、目を伏して小さく頭を下げた。
『はい』の意味だろうな。
「ではお訊きする。お館様はどうして南方へ商いに行く者を必要としていると言うのか?」
ん? ちょっと詰問調だな。
なにが気に入らないのか?
「お館様はいよいよアシックサル領へ攻め込む心づもりでございます」
たったそれだけでチローは理解したらしい。
「なるほど。土地勘のあるものを必要としていると言うことか」
合点がいったとチローが膝を叩くと、ジョーも腕を組み顎に手を当て「うんうん」と頷いた。
「そう言うことなら手すきの商人たち全員に声をかけてやろう」
「そうしてくれ。ケイロ」
「はい」
「この件、そなたに任せる。オギンに話を通して忍者部隊を一隊都合してもらえ。安全な進軍ルート……行軍路を割り出すんだ」
「期限は?」
そうだな。
「春の農繁期が終わるまで」
今は秋の収穫が
春の終わりまでならそれなりの準備期間を取れるだろう。
「では出兵は来年の夏」
と、チロー。
「そのつもりだ。まずは秋までにアシックサル領に橋頭堡を築き、収穫が終わったら本格的に攻める」
「そのための評定でしたか」
と、言ったのはケイロなんだけど、君、ドゥナガール仲爵との会談の場にいたよね?
ね?