第274話 最新魔道具がいっぱい
文字数 2,528文字
さすがに旅慣れている三人だ。
スケさんもカクさんも起き抜けに剣を構えて僕の両脇を固めているし、ヤッチシは外の様子をうかがっている。
(リリム)
(斥候役ね、任せて)
リリムは転生者にしか見えない妖精だ。
これほど適任な存在はいない。
ヤッチシがどれほど優秀でもこと偵察任務に関してはリリムの方がずっと安全かつ確実で早い。
神様から使わされたリリムは僕との結びつきが深く、視認できる範囲なら音声でのやり取りができる。
「ヤッチシ、判るか?」
とカクさんが訊ねたのは人数のことだろう。
「確実なのは前に六人後ろに六人の合わせて十二人。うち四人は気配を殺していやすから、奴らより手練でうまく気配を殺している奴があと何人かいるんじゃねぇかな?」
気配を殺している奴が判るのか!?
すげぇな。
自分の気配感知力だと十人感じられるから……うん、僕もそこそこできている。
箱車から様子をうかがうと、光がひらひらと左右に揺れているのが見えた。
(ジャン、聞こえる?)
(ああ、良好だ)
(前方から八人、後方に七人。頭領はホルスに跨ってる傷だらけのごつい男ね)
と、こちらに飛んできながら報告してくる。
てことは、ヤッチシでも知覚できない達人級の人物が前に二人、後ろに一人いるってことだな。
(武器は?)
(だいたい短剣ね。後ろのリーダーっぽい男が戦斧、前の一人が一シャル半の長剣を肩に担いでるから気をつけて)
一シャル半って、相当長いぞ。
この国の長さの単位は三シャッケンで一シャルだ。
僕の領内では僕の手首から肘の長さで一シャッケンと統一している。
四シャッケン半ってことは我が軍が支給している一般的な剣を二シャッケン半と決めてるから、単純に倍近い長さの長剣ってことになる。
もう槍か薙刀だな、それは。
「襲ってきませんね」
スケさんの言うとおりだ。
警告音が鳴り響いたから、こちらが気づいていることは承知しているだろう。
なにかを警戒しているんだろうけど、なにを警戒しているんだ?
考えられるのは奇襲に失敗したので、逆にこちらからの先制攻撃を警戒しているってところだろうか?
ジリジリと気配が近づいてくるのが判る。
人数で四倍差、しかも挟み撃ちという圧倒的に不利に状況だから、戦術的にはこちらから先に仕掛ける以外に勝機はない。
問題はどのタイミングで仕掛けるかだ。
まだこちらから打って出るには距離がある。
しかし慎重になりすぎると相手に先手を取られる危険性も否めない。
どちらがどのタイミングで先に動くかの読み合いになる。
「とりあえずありがたい時間の猶予だ。この間にこちらの戦力を確認しておこう」
僕の装備は士官用の剣と手槍。
ヤッチシの武器は短剣と投擲刀、改良型手榴弾。
スケさんは軍の支給品である剣と、護身用の単発銃。
なに!? なんでそんなもの持ってるの?
「主人にいただいたものです。護身用ですから、持っていて当たり前でしょう?」
とか言われちゃったけど、単発銃は軍功に対する論功行賞で下賜する目的で作ったものだから持っているのは部下の中でも二十人くらいなんだぞ。
あれ? ジョーはどこから手に入れたんだ?
カクさんは手槍と短剣、それと魔道具の閃光弾 。
領内での暴徒鎮圧を目的として開発された改良型手榴弾の派生魔道具だ。
前世の閃光手榴弾同様、光と音で相手を制圧するもので殺傷力はほとんどない。
ありがたいことにまだ一度も目的の用途では利用されたことがないんだけど、これはいいものを持っていてくれた。
これを使えば後の先が取れるぞ。
こんな曇り空の暗い夜は一層効果的に違いない。
「作戦を伝える。まず敵が動き出したら閃光弾を使用する。強い光と大きな音がするので炸裂するまで目と耳を覆うように。その後、敵の混乱に乗じて打って出る。その際、前方の敵に私とカクさん、後方へはスケさんとヤッチシで当たるように。敵はこちらの数倍だ。本来ならケツをまくって逃げるのが最善なんだろうが、状況的にそうもいかない。死力を尽くして道を切り開くぞ」
そういうと、スケさんとカクさんがブワッと強い殺気を放つ。
敵の気配も緊張するのが感じられる。
痺れを切らしたらしい後方の何人かがこちらに向かって走り出した。
それに釣られてか、前方の山賊も走り出す。
「カクさん」
「承知」
安全ピンを抜いて箱車から身を乗り出し、三拍数えて放り出す。
それに合わせて目をがっちりつむり、耳を手で強く塞ぐ。
目を瞑っていてもなお視界が赤く染まる閃光と腹まで響くドォンという大音量が狭隘な地形を圧する。
山賊どもの悲鳴とホルスの嘶き。
あ、ホルスの対処を忘れてた。
目を開けると、三人はすでに箱車を飛び出している。
遅れたっ!
チラリと視線の端に入れたホルス車のホルスは思っていたより落ち着いている。
(灯りの魔法の反転魔法に闇って魔法があるのよ)
リリム、グッジョブ!
山賊のところまで駆けつけると、カクさんはもう二人目の男の腹を手槍で突いていた。
僕も耳鳴りに頭を抱えているのだろう男のこめかみめがけて手槍をフルスイング。
しっかりした手応えを感じつつ、槍をこんな使い方しちゃダメだなと反省して次の男の背中に槍を突き入れる。
「ジャン! 伏せて!!」
リリムの声に咄嗟に身を屈めると、頭の上をブンとうなりをあげて長剣が通り過ぎた。
(助かった)
目は見えていないし耳も使い物になっていないはずだけどと長剣を振り回している男を見れば、文字通り盲滅法で振り回している。
おかげで山賊仲間が二人胴を真っ二つにされていた。
これで、こちら側は暴れるホルスを押さえつけている山賊の頭領と長剣を振り回している男だけになった。
とはいえ、手槍より長い長剣を振り回されていてはこちらからの攻撃というのもなかなか容易じゃないぞ。
「チッ!」
と、舌打ちが聞こえたので音の方へと振り向くと、山賊の頭領がこちらに向けた憎悪のこもった視線とかち合った。
「!?」
見覚えがある。
いや、忘れもしない村を壊滅させた盗賊団の頭目じゃないか!
「覚えておくぞ、若造」
捨て台詞を残して傷だらけのごつい男はホルスをかって逃げていく。
そっちこそ、次は絶対逃さないからな。
スケさんもカクさんも起き抜けに剣を構えて僕の両脇を固めているし、ヤッチシは外の様子をうかがっている。
(リリム)
(斥候役ね、任せて)
リリムは転生者にしか見えない妖精だ。
これほど適任な存在はいない。
ヤッチシがどれほど優秀でもこと偵察任務に関してはリリムの方がずっと安全かつ確実で早い。
神様から使わされたリリムは僕との結びつきが深く、視認できる範囲なら音声でのやり取りができる。
「ヤッチシ、判るか?」
とカクさんが訊ねたのは人数のことだろう。
「確実なのは前に六人後ろに六人の合わせて十二人。うち四人は気配を殺していやすから、奴らより手練でうまく気配を殺している奴があと何人かいるんじゃねぇかな?」
気配を殺している奴が判るのか!?
すげぇな。
自分の気配感知力だと十人感じられるから……うん、僕もそこそこできている。
箱車から様子をうかがうと、光がひらひらと左右に揺れているのが見えた。
(ジャン、聞こえる?)
(ああ、良好だ)
(前方から八人、後方に七人。頭領はホルスに跨ってる傷だらけのごつい男ね)
と、こちらに飛んできながら報告してくる。
てことは、ヤッチシでも知覚できない達人級の人物が前に二人、後ろに一人いるってことだな。
(武器は?)
(だいたい短剣ね。後ろのリーダーっぽい男が戦斧、前の一人が一シャル半の長剣を肩に担いでるから気をつけて)
一シャル半って、相当長いぞ。
この国の長さの単位は三シャッケンで一シャルだ。
僕の領内では僕の手首から肘の長さで一シャッケンと統一している。
四シャッケン半ってことは我が軍が支給している一般的な剣を二シャッケン半と決めてるから、単純に倍近い長さの長剣ってことになる。
もう槍か薙刀だな、それは。
「襲ってきませんね」
スケさんの言うとおりだ。
警告音が鳴り響いたから、こちらが気づいていることは承知しているだろう。
なにかを警戒しているんだろうけど、なにを警戒しているんだ?
考えられるのは奇襲に失敗したので、逆にこちらからの先制攻撃を警戒しているってところだろうか?
ジリジリと気配が近づいてくるのが判る。
人数で四倍差、しかも挟み撃ちという圧倒的に不利に状況だから、戦術的にはこちらから先に仕掛ける以外に勝機はない。
問題はどのタイミングで仕掛けるかだ。
まだこちらから打って出るには距離がある。
しかし慎重になりすぎると相手に先手を取られる危険性も否めない。
どちらがどのタイミングで先に動くかの読み合いになる。
「とりあえずありがたい時間の猶予だ。この間にこちらの戦力を確認しておこう」
僕の装備は士官用の剣と手槍。
ヤッチシの武器は短剣と投擲刀、改良型手榴弾。
スケさんは軍の支給品である剣と、護身用の単発銃。
なに!? なんでそんなもの持ってるの?
「主人にいただいたものです。護身用ですから、持っていて当たり前でしょう?」
とか言われちゃったけど、単発銃は軍功に対する論功行賞で下賜する目的で作ったものだから持っているのは部下の中でも二十人くらいなんだぞ。
あれ? ジョーはどこから手に入れたんだ?
カクさんは手槍と短剣、それと魔道具の
領内での暴徒鎮圧を目的として開発された改良型手榴弾の派生魔道具だ。
前世の閃光手榴弾同様、光と音で相手を制圧するもので殺傷力はほとんどない。
ありがたいことにまだ一度も目的の用途では利用されたことがないんだけど、これはいいものを持っていてくれた。
これを使えば後の先が取れるぞ。
こんな曇り空の暗い夜は一層効果的に違いない。
「作戦を伝える。まず敵が動き出したら閃光弾を使用する。強い光と大きな音がするので炸裂するまで目と耳を覆うように。その後、敵の混乱に乗じて打って出る。その際、前方の敵に私とカクさん、後方へはスケさんとヤッチシで当たるように。敵はこちらの数倍だ。本来ならケツをまくって逃げるのが最善なんだろうが、状況的にそうもいかない。死力を尽くして道を切り開くぞ」
そういうと、スケさんとカクさんがブワッと強い殺気を放つ。
敵の気配も緊張するのが感じられる。
痺れを切らしたらしい後方の何人かがこちらに向かって走り出した。
それに釣られてか、前方の山賊も走り出す。
「カクさん」
「承知」
安全ピンを抜いて箱車から身を乗り出し、三拍数えて放り出す。
それに合わせて目をがっちりつむり、耳を手で強く塞ぐ。
目を瞑っていてもなお視界が赤く染まる閃光と腹まで響くドォンという大音量が狭隘な地形を圧する。
山賊どもの悲鳴とホルスの嘶き。
あ、ホルスの対処を忘れてた。
目を開けると、三人はすでに箱車を飛び出している。
遅れたっ!
チラリと視線の端に入れたホルス車のホルスは思っていたより落ち着いている。
(灯りの魔法の反転魔法に闇って魔法があるのよ)
リリム、グッジョブ!
山賊のところまで駆けつけると、カクさんはもう二人目の男の腹を手槍で突いていた。
僕も耳鳴りに頭を抱えているのだろう男のこめかみめがけて手槍をフルスイング。
しっかりした手応えを感じつつ、槍をこんな使い方しちゃダメだなと反省して次の男の背中に槍を突き入れる。
「ジャン! 伏せて!!」
リリムの声に咄嗟に身を屈めると、頭の上をブンとうなりをあげて長剣が通り過ぎた。
(助かった)
目は見えていないし耳も使い物になっていないはずだけどと長剣を振り回している男を見れば、文字通り盲滅法で振り回している。
おかげで山賊仲間が二人胴を真っ二つにされていた。
これで、こちら側は暴れるホルスを押さえつけている山賊の頭領と長剣を振り回している男だけになった。
とはいえ、手槍より長い長剣を振り回されていてはこちらからの攻撃というのもなかなか容易じゃないぞ。
「チッ!」
と、舌打ちが聞こえたので音の方へと振り向くと、山賊の頭領がこちらに向けた憎悪のこもった視線とかち合った。
「!?」
見覚えがある。
いや、忘れもしない村を壊滅させた盗賊団の頭目じゃないか!
「覚えておくぞ、若造」
捨て台詞を残して傷だらけのごつい男はホルスをかって逃げていく。
そっちこそ、次は絶対逃さないからな。