第20話 お主も悪よのぅ
文字数 1,927文字
「それにしたってオレたちは三人で一組なんですよ。弟のいない間に勝手に決めないでくださいよ」
ジョーとの話に割って入ってきたのは、なんの相談もなく村人に指名されちゃった三人の一人、確かザビーって言ったっけ。
「ん? 心配すんな。イラードもお前らと仲のいいザイーダも戻り次第こっちに来てもらうから」
「そう言う問題じゃありゃあせんぜ、旦那」
ガーブラも不服そうだな……。
「じゃ何が問題なんだよ?」
「定住出来なくてキャラバンに入ったワシらにする仕打ちじゃないぞい」
「そうか? キャラバンにいるよりも退屈しないと思うんだけどなぁ」
「どうしてそう言えるんです?」
「ん? んーん……これは俺の勘なんだがな? 二、三年後にはここが騒乱の中心地になるぜ?」
…………。
やばい。
この人、ここを騒乱の中心地にする肚づもりだ。
きっとそうに違いない。
そして、やめろ。
三人ともキラキラした目でジョーを見るな。
僕は出来るだけ平穏に暮らしたいんだ。
…………。
中期展望聞いたら誰も信じてくれそうにないだろうけど。
「判りました。でも、必ずイラードとザイーダは呼び寄せてくださいね」
「ああ、約束するよ」
と、三人に頷いた後、彼は僕に向き直ってこう付け加えた。
「他にも道中良さげな人材がいたらスカウトしとこう。さしあたって村の規模はどれくらいを考えているんだい?」
「え?」
考えてなかった……。
「八人でやりくりすることしか考えてなかったんだけど……」
「じゃあ、次に来るときまでにあと四、五人見繕っとこう。今年はとりあえず村の復興ってことで冬までに三十人規模の集落にするってのでいいか?」
三十人規模といえば村が野盗に襲われる前と同程度だ。
「じゃ、じゃあそうすることにしようかな?」
「決まり。じゃあ、三人は今から彼の指示に従うんだ……ああ、村長 は君ってことでいいんだな?」
「ええ、とりあえず暫定ですけどね」
「彼は、ジャン・ロイ。ざっと村人を見た限り、この村唯一の生存者だ」
さすが商人、何気なく会話しているだけだと思っていたけどしっかり観察していたということだろうか?
「ところで、商売は出来るんだろうか?」
うん、商魂たくましい。
「僕らも欲しいものがいっぱいあるからここで商売してくれると助かるよ。物々交換になると思うけど」
「物々交換はいつものことさ。今年はデストロじいさんの干しピサーメとかショカばあさんの漬物がないのが残念だよ」
心底残念そうだ。
確かにどちらも絶品だった。
「ま・一番残念なのはダリプ酒なんだけどな」
ジョー曰く(というかまぁちょっと考えれば判ることだけど)、「酒はどこでも高値で売れる」そうで、ダリプ酒はこの村の主要な商品であり貴重な収入源だったそうだ。
「ダリプの木は残ってるのか?」
「ええ。僕はお酒は仕込めないので干しダリプにして食べてますけど」
「そいつはいい。ここのダリプは酒造りに適しているからな。うん、酒の仕込めるやつを見繕って連れてこよう。干しダリプも残ってるなら買おう」
ええ、ええ、売りますよ。
「他にはどんなものがある?」
「この間獲れたデヤールの革やハム。まだ品質が良くないんですけど、炭も焼いてます」
「炭!?」
お! やけに食いついたぞ。
「はい、煮炊きに使うように作ってみたんです」
「どうやって作った? 伏せ焼きか?」
「あ・いえ、焼窯を作って……」
「ってことは荒炭か……」
さすがと言っていいのか、随分詳しいな。
でも、惜しいんだな。
「いえ、黒炭です」
「黒炭!? ……質が良くないと言ってたがどの程度なんだ?」
「完全に火が熾きるまで煙が出るのと、たまに爆跳するんですよね」
「普通だろ?」
そうなのか?
現世では使ったことなかったから、そこらへんの品質については前世基準なんだよね。
「炭は貴重品だ。大量生産技術も確立されていないから、特権階級と一部富裕層以外で日常的に使われることはない。そうか……ふふふ、これは金になるぞ」
なかなかに悪徳感のある笑いを洩らしているジョーに越後屋が重なる。
ともあれ、いい取引が出来そうだ。
その日は日暮れの前に建築作業を切り上げて、キャラバンの人たちと宴を始めた。
相変わらずこのキャラバンはノリがいい。
羽振りもいいのか料理も豪華で酒も振舞われる。
酒がすすみほろ酔い気分になった彼らは角笛や太鼓を持ち出してきて、呑めや歌えの大騒ぎになる。
僕も、十五歳になったというので呑まされた。
まぁ、前世ではよく接待なんかで呑んでたし嫌いじゃあなかったんだけど、この世界の酒は野趣溢れる果実酒であんまり呑まされると悪酔いしそうだ。
願わくば前世並みのアルコール耐性があってくれ。
…………。
個人的には焼酎がいいな。
ジョーとの話に割って入ってきたのは、なんの相談もなく村人に指名されちゃった三人の一人、確かザビーって言ったっけ。
「ん? 心配すんな。イラードもお前らと仲のいいザイーダも戻り次第こっちに来てもらうから」
「そう言う問題じゃありゃあせんぜ、旦那」
ガーブラも不服そうだな……。
「じゃ何が問題なんだよ?」
「定住出来なくてキャラバンに入ったワシらにする仕打ちじゃないぞい」
「そうか? キャラバンにいるよりも退屈しないと思うんだけどなぁ」
「どうしてそう言えるんです?」
「ん? んーん……これは俺の勘なんだがな? 二、三年後にはここが騒乱の中心地になるぜ?」
…………。
やばい。
この人、ここを騒乱の中心地にする肚づもりだ。
きっとそうに違いない。
そして、やめろ。
三人ともキラキラした目でジョーを見るな。
僕は出来るだけ平穏に暮らしたいんだ。
…………。
中期展望聞いたら誰も信じてくれそうにないだろうけど。
「判りました。でも、必ずイラードとザイーダは呼び寄せてくださいね」
「ああ、約束するよ」
と、三人に頷いた後、彼は僕に向き直ってこう付け加えた。
「他にも道中良さげな人材がいたらスカウトしとこう。さしあたって村の規模はどれくらいを考えているんだい?」
「え?」
考えてなかった……。
「八人でやりくりすることしか考えてなかったんだけど……」
「じゃあ、次に来るときまでにあと四、五人見繕っとこう。今年はとりあえず村の復興ってことで冬までに三十人規模の集落にするってのでいいか?」
三十人規模といえば村が野盗に襲われる前と同程度だ。
「じゃ、じゃあそうすることにしようかな?」
「決まり。じゃあ、三人は今から彼の指示に従うんだ……ああ、
「ええ、とりあえず暫定ですけどね」
「彼は、ジャン・ロイ。ざっと村人を見た限り、この村唯一の生存者だ」
さすが商人、何気なく会話しているだけだと思っていたけどしっかり観察していたということだろうか?
「ところで、商売は出来るんだろうか?」
うん、商魂たくましい。
「僕らも欲しいものがいっぱいあるからここで商売してくれると助かるよ。物々交換になると思うけど」
「物々交換はいつものことさ。今年はデストロじいさんの干しピサーメとかショカばあさんの漬物がないのが残念だよ」
心底残念そうだ。
確かにどちらも絶品だった。
「ま・一番残念なのはダリプ酒なんだけどな」
ジョー曰く(というかまぁちょっと考えれば判ることだけど)、「酒はどこでも高値で売れる」そうで、ダリプ酒はこの村の主要な商品であり貴重な収入源だったそうだ。
「ダリプの木は残ってるのか?」
「ええ。僕はお酒は仕込めないので干しダリプにして食べてますけど」
「そいつはいい。ここのダリプは酒造りに適しているからな。うん、酒の仕込めるやつを見繕って連れてこよう。干しダリプも残ってるなら買おう」
ええ、ええ、売りますよ。
「他にはどんなものがある?」
「この間獲れたデヤールの革やハム。まだ品質が良くないんですけど、炭も焼いてます」
「炭!?」
お! やけに食いついたぞ。
「はい、煮炊きに使うように作ってみたんです」
「どうやって作った? 伏せ焼きか?」
「あ・いえ、焼窯を作って……」
「ってことは荒炭か……」
さすがと言っていいのか、随分詳しいな。
でも、惜しいんだな。
「いえ、黒炭です」
「黒炭!? ……質が良くないと言ってたがどの程度なんだ?」
「完全に火が熾きるまで煙が出るのと、たまに爆跳するんですよね」
「普通だろ?」
そうなのか?
現世では使ったことなかったから、そこらへんの品質については前世基準なんだよね。
「炭は貴重品だ。大量生産技術も確立されていないから、特権階級と一部富裕層以外で日常的に使われることはない。そうか……ふふふ、これは金になるぞ」
なかなかに悪徳感のある笑いを洩らしているジョーに越後屋が重なる。
ともあれ、いい取引が出来そうだ。
その日は日暮れの前に建築作業を切り上げて、キャラバンの人たちと宴を始めた。
相変わらずこのキャラバンはノリがいい。
羽振りもいいのか料理も豪華で酒も振舞われる。
酒がすすみほろ酔い気分になった彼らは角笛や太鼓を持ち出してきて、呑めや歌えの大騒ぎになる。
僕も、十五歳になったというので呑まされた。
まぁ、前世ではよく接待なんかで呑んでたし嫌いじゃあなかったんだけど、この世界の酒は野趣溢れる果実酒であんまり呑まされると悪酔いしそうだ。
願わくば前世並みのアルコール耐性があってくれ。
…………。
個人的には焼酎がいいな。