第237話 上に立つ者、任せることも仕事のうちよ
文字数 2,340文字
仮の新庁舎は町の外、街道脇に駐留軍の兵舎を併設した形で建設を始めさせる。
ルンカーは用意できなかったので木造建築だ。
また、大量に木を伐採することになるけど仕方ない。
ギリギリまで町の運営方針と最優先事項の話し合いをして、僕は駐留する文官たちを引き連れて庁舎を訪れる。
「本当に想像を絶する状況ですね」
オルドブーリッジが口をできるだけ開かないようにつぶやく。
「アキじゃあ卒倒してたかもしれませんね」
と、まだ十代に見えるイディが言う。
ほんとに十代だとしたら相当優秀だな。
一応、掃除された執務室で待つこと八半時間、ソーリコミットが一昨日とは違う格好でやってきた。
後ろには皮紙の束を抱えた四、五人の従者らしき女たち。
「お約束通り庁舎を清掃し、必要書類を揃えておきました」
挨拶もそこそこに自慢げに言ってきたのだけれど、いやいやドヤ顔できるほどの仕事してないよ?
そもそも、人にやらせただけだべ?
つーか、揃えた書類ってそれだけじゃないだろうな?
もしかして大日本帝国ばりに都合の悪いものを焼却とかしてないだろうな?
「町の代官に任命したユルマーと副代官のイディにオルドブーリッジ、そして進駐軍の隊長ライトルーパだ」
「よろしくお願いします」
「私は実力主義だ。能力があればスラムの住人でも取り立てる。しかし、無能な者と不正な輩は貴族だろうと必要ない。容赦なく切り捨てるから肝に銘じておけ。町の役人どもが有能であることを願っているぞ」
「は。……精進いたします。代官様たちはこのまま町にお止まりになるのでしょうか?」
「町の外に仮庁舎を建てているので、完成次第そこに入るが、それまでは今の野営を続ける予定だ」
それを聞いてあからさまに安堵の表情を浮かべるソーリコミット。
頭を下げるソーリコミットの薄くなった頭頂部を一瞥した後、ユルマーたちを振り返り
「明日からは任せた」
と、いえば、
「御意」
と、返答が返ってくる。
「今日は顔合わせだけだ。手間をかけさせたな」
「もったいなきお言葉」
野営陣に戻るとすでに伐採された木材が積まれている。
「乾燥させていない木材は歪んだりで建築には向いてないんですけど、いいんですか?」
ジャス組のメンバーとして顔を覚えていた男が棟梁として建設の差配をしているようだ。
「織り込み済みだ。ここはあくまでも仮庁舎、町が綺麗になれば中に戻す」
いや、でもオグマリー区は今や城壁を取り払って周辺の村と一体にしていることを考えれば、ここもそうなるよな。
そう考えると、新本庁舎は町の中じゃないことも考えられるか。
ま、場所は代官が都合のいい場所を選べばいいか。
「伐採が住んだのであれば、全軍の人員はいらないな?」
「そうですね、多すぎても邪魔になるだけですから、二、三十いれば十分です」
「ならば、進駐軍がいれば十分だな」
「そうですね、その中に大工の経験のある者が二、三人いれば突貫でもそれなりのものに仕上げて見せましょう」
それを聞いて安心した。
僕は翌日陣を引き払い進軍を再開することにする。
わずか二日の滞在中にイラードは如才なくチローとオギンの助けを借りて周辺四ヶ村に領主の変更を通知させていた。
ま、支配者が変わったって急にどうこうはないから、村人にとっては「はいそうですか」ってな具合だろう。
基本的にやることは変わらない。
せいぜいが頭を下げる相手が変わるだけ。
一夜明けて陣を畳む。
僕らは軍を再編し、町を通過してその先の村も(領主が変わったことは通知済みだから)素通りして街道を進む。
四日も進軍すれば次の町だ。
ここにはワングレンという武将がいるらしい。
オギンの情報によれば町の人口は八百六十人、動員兵力百八十。
傭兵の人数次第だけれど、二隊減らしてもまだ十隊五百人いる我が軍の方が有利だ。
村を抜けると森林地帯が草原地帯になる。
水の手当ては考える必要があるとはいえ、これだけの平野が広がっているのなら今の倍以上の人口の食い扶持を生産できるぞ。
まぁ、そんな人口は存在していないんだけど。
てゆうか、潜在生産力ありすぎじゃないか?
これを有効活用できないズラカルト男爵って無能なんじゃね?
「さて」
そう呟いたらオギンとトビーがホルスを寄せてきた。
お前ら有能すぎ。
「ワングレンを釣り出したい」
「配下にリゼルド戦死、町陥落の報せを届けさせましょう」
「流言も町に流させやしょうか?」
「いや、それは時間がない。それにあたら人心を惑わせるとその後の統治が円滑に進まない可能性があるしな。流言飛語が必要なほどの難敵ではないのだろう?」
そう訊ねると二人とも肯定する。
その日の行軍を終えて野営陣を設営していると、飛行手紙が飛んできた。
リゼルドを討ち取り、町に入った夜にラビティア宛に出した飛行手紙の返信だ。
『御戦勝おめでとうございます。
こちらは示威的に街道を離れて進軍し、忍者どもを放ってトゥウィンテルの釣り出しに成功せり。
互いに陣取りを済ませましたので、明日には開戦に及びましょう。
勝利の報告まで今しばらくお待ちください』
手紙には人の配置図と軍勢がなかなか詳細に書き込まれている。
味方は千二百、トゥウィンテル軍が六百。
トゥウィンテルが逃げ込んだ町では人口的に二百人程度の動員力なはずだから、周辺の町や村から徴兵し、傭兵もかき集めたに違いない。
それでも兵力差二倍だ。
よく野戦を挑む気になったなぁと思ったけれど、配陣を見るとラビティアの軍勢しか記載がない。
なるほど、カイジョーの部隊は隠しているのか。
これなら見かけ上は六百対六百だ。
勝負になると踏んだか、雪辱に燃えて無理を押したかだな。
なるべく敵味方損害少なく決着をつけて欲しいものだ。
ルンカーは用意できなかったので木造建築だ。
また、大量に木を伐採することになるけど仕方ない。
ギリギリまで町の運営方針と最優先事項の話し合いをして、僕は駐留する文官たちを引き連れて庁舎を訪れる。
「本当に想像を絶する状況ですね」
オルドブーリッジが口をできるだけ開かないようにつぶやく。
「アキじゃあ卒倒してたかもしれませんね」
と、まだ十代に見えるイディが言う。
ほんとに十代だとしたら相当優秀だな。
一応、掃除された執務室で待つこと八半時間、ソーリコミットが一昨日とは違う格好でやってきた。
後ろには皮紙の束を抱えた四、五人の従者らしき女たち。
「お約束通り庁舎を清掃し、必要書類を揃えておきました」
挨拶もそこそこに自慢げに言ってきたのだけれど、いやいやドヤ顔できるほどの仕事してないよ?
そもそも、人にやらせただけだべ?
つーか、揃えた書類ってそれだけじゃないだろうな?
もしかして大日本帝国ばりに都合の悪いものを焼却とかしてないだろうな?
「町の代官に任命したユルマーと副代官のイディにオルドブーリッジ、そして進駐軍の隊長ライトルーパだ」
「よろしくお願いします」
「私は実力主義だ。能力があればスラムの住人でも取り立てる。しかし、無能な者と不正な輩は貴族だろうと必要ない。容赦なく切り捨てるから肝に銘じておけ。町の役人どもが有能であることを願っているぞ」
「は。……精進いたします。代官様たちはこのまま町にお止まりになるのでしょうか?」
「町の外に仮庁舎を建てているので、完成次第そこに入るが、それまでは今の野営を続ける予定だ」
それを聞いてあからさまに安堵の表情を浮かべるソーリコミット。
頭を下げるソーリコミットの薄くなった頭頂部を一瞥した後、ユルマーたちを振り返り
「明日からは任せた」
と、いえば、
「御意」
と、返答が返ってくる。
「今日は顔合わせだけだ。手間をかけさせたな」
「もったいなきお言葉」
野営陣に戻るとすでに伐採された木材が積まれている。
「乾燥させていない木材は歪んだりで建築には向いてないんですけど、いいんですか?」
ジャス組のメンバーとして顔を覚えていた男が棟梁として建設の差配をしているようだ。
「織り込み済みだ。ここはあくまでも仮庁舎、町が綺麗になれば中に戻す」
いや、でもオグマリー区は今や城壁を取り払って周辺の村と一体にしていることを考えれば、ここもそうなるよな。
そう考えると、新本庁舎は町の中じゃないことも考えられるか。
ま、場所は代官が都合のいい場所を選べばいいか。
「伐採が住んだのであれば、全軍の人員はいらないな?」
「そうですね、多すぎても邪魔になるだけですから、二、三十いれば十分です」
「ならば、進駐軍がいれば十分だな」
「そうですね、その中に大工の経験のある者が二、三人いれば突貫でもそれなりのものに仕上げて見せましょう」
それを聞いて安心した。
僕は翌日陣を引き払い進軍を再開することにする。
わずか二日の滞在中にイラードは如才なくチローとオギンの助けを借りて周辺四ヶ村に領主の変更を通知させていた。
ま、支配者が変わったって急にどうこうはないから、村人にとっては「はいそうですか」ってな具合だろう。
基本的にやることは変わらない。
せいぜいが頭を下げる相手が変わるだけ。
一夜明けて陣を畳む。
僕らは軍を再編し、町を通過してその先の村も(領主が変わったことは通知済みだから)素通りして街道を進む。
四日も進軍すれば次の町だ。
ここにはワングレンという武将がいるらしい。
オギンの情報によれば町の人口は八百六十人、動員兵力百八十。
傭兵の人数次第だけれど、二隊減らしてもまだ十隊五百人いる我が軍の方が有利だ。
村を抜けると森林地帯が草原地帯になる。
水の手当ては考える必要があるとはいえ、これだけの平野が広がっているのなら今の倍以上の人口の食い扶持を生産できるぞ。
まぁ、そんな人口は存在していないんだけど。
てゆうか、潜在生産力ありすぎじゃないか?
これを有効活用できないズラカルト男爵って無能なんじゃね?
「さて」
そう呟いたらオギンとトビーがホルスを寄せてきた。
お前ら有能すぎ。
「ワングレンを釣り出したい」
「配下にリゼルド戦死、町陥落の報せを届けさせましょう」
「流言も町に流させやしょうか?」
「いや、それは時間がない。それにあたら人心を惑わせるとその後の統治が円滑に進まない可能性があるしな。流言飛語が必要なほどの難敵ではないのだろう?」
そう訊ねると二人とも肯定する。
その日の行軍を終えて野営陣を設営していると、飛行手紙が飛んできた。
リゼルドを討ち取り、町に入った夜にラビティア宛に出した飛行手紙の返信だ。
『御戦勝おめでとうございます。
こちらは示威的に街道を離れて進軍し、忍者どもを放ってトゥウィンテルの釣り出しに成功せり。
互いに陣取りを済ませましたので、明日には開戦に及びましょう。
勝利の報告まで今しばらくお待ちください』
手紙には人の配置図と軍勢がなかなか詳細に書き込まれている。
味方は千二百、トゥウィンテル軍が六百。
トゥウィンテルが逃げ込んだ町では人口的に二百人程度の動員力なはずだから、周辺の町や村から徴兵し、傭兵もかき集めたに違いない。
それでも兵力差二倍だ。
よく野戦を挑む気になったなぁと思ったけれど、配陣を見るとラビティアの軍勢しか記載がない。
なるほど、カイジョーの部隊は隠しているのか。
これなら見かけ上は六百対六百だ。
勝負になると踏んだか、雪辱に燃えて無理を押したかだな。
なるべく敵味方損害少なく決着をつけて欲しいものだ。