第220話 慰安って大事だよね
文字数 2,035文字
本陣を移動して一日、コチョウから飛行手紙が届く。
「やはり、伝令は向かっていたか」
「はい。軍と傭兵に動員がかけられていて明日にも出撃してくるかもと」
トゥウィンテル軍の方も今日明日中には出撃するとキキョウから連絡が来ている。
優秀な諜報部員と先進の連絡手段はありがたい。
トゥウィンテルのいる町から陣を敷いているこの丘まで三日、リゼルドの町からも三日ほどの距離にある。
トゥウィンテル軍が途中でカイジョーたちと当たることを計算に入れると、むしろリゼルド軍の方が早く到着する可能性すらあるな。
どのみちどれほどホルスを飛ばしても一日では到着しない。
「よし、今日明日は最低限の見張りを残して全軍に休息を取らせよ」
と言っても娯楽がないのよね。
兵士はどうやって暇を潰すのやら。
これはあれかね?
やっぱ呑む、打つ、買うなんだろうか。
呑むは全然いいんだけど、買うは人道的にどうなんだろうと前世持ちとしては思うし、打つにいたってはちょっと認められないぞ。
だいたい博打は喧嘩の元だからな。
町での乱暴狼藉は厳禁にしているけど、それゆえに休息はむしろ兵のストレスになりかねないか。
領地防衛戦なら親兄弟、家族や恋人を守る気概で我慢できることも侵攻戦となれば箍 が外れることがある。
遠征中の福利厚生も考えなきゃな。
仕方ない。
「イラード、輜重隊を町へ送って酒を仕入れてこい。明日一日は兵に浴びるほど飲ませてやるんだ」
「やることがなければ暇を持て余してしまいいらないいざこざがおこるでしょうから、悪くない案です。しかし、あまり痛飲してもいらないいざこざが起きる可能性がありますよ」
あー、その心配もあるな。
「それを収めるのは隊長の仕事だろう」
「人使いの荒いことで」
丘の上の大宴会の翌日はみんな二日酔いで寝て過ごし、三日目には改めて気を引き締めさせる。
僕は命令するだけ。
いやぁ、やっぱり上司っていいね。
…………。
いや、あんまりブラック上司だとよくないな、もう少し中間管理職に配慮しないと。
翌日早朝、伝令兵がホルスを夜通し駆けて到着した。
オクサに連れられ目通りした伝令兵は、大きく肩で息をしている。
「カイジョー様からの伝令でございます」
「聞こう」
「昨日、トゥウィンテル軍が町に到達。お館様の命令通り一戦もせず籠城いたしました」
「判った。よくぞ知らせてくれた。下がって休むがよい」
それにしたって、カイジョーはどうしてわざわざ伝令を?
「……オクサ」
「はっ」
「斥候を放ってみてくれないか」
「かしこまりました」
天幕から彼らが去ると、入れ替わりでチカマックが入ってくる。
「わざわざ伝令がきたそうですね」
「ああ、チカマックも引っかかったか」
「おそらくなんらか意図的に伝令を使ったものでしょう」
そこなんだよ。
それがなんなのか意図をはかりかねてるんだ。
チカマックはいるが、いつものアレをやってみよう。
「リリム」
僕はあえて声に出してリリムを呼んでみた。
「なによ?」
彼女もあえて声に出して答えてきた。
「いつものやつだ。考えをまとめるのに協力してくれないか」
「いいわよ」
「飛行手紙という便利な連絡手段があるのにわざわざ伝令なんていう旧来の手段をあえて使うからにはなんらかの意図がそこにあるはずだ」
「でしょうね」
「伝令にメリットがあると思うか?」
「メリット?」
「伝令を使うと得をすることさ」
「飛行手紙に対して? 特にないんじゃない?」
「じゃあ、デメリット。損になることは?」
「それはいっぱいあるわよ。まず遅い。道に迷ったり敵に見つかって届かないこともあるでしょ? 敵に見つかったら捕まって情報が敵の手に落ちる危険性も……」
「それだ!」
と、チカマックが手をひとつ叩く。
「判ったのか」
「はい、あえて伝令を出すことで、敵に見つかるように仕向けたのです」
「なぜ」
「敵に早くここを見つけてもらうため」
なるほど、下手に籠城戦に持ち込んでトゥウィンテルが僕の意図を読み取れずに長期戦になることを回避するためか?
いや、しかし、挟撃される方が被害が大きくなるリスクが高いんだけどなぁ。
あ、でも、町への被害を減らすことを考えると町人感情的にも経済的損失を見てもずっといいかもしれない。
……カイジョーの案じゃないな、おそらくチローの入れ知恵だろう。
策士め。
「チカマック。北への斥候はオクサに出させた。リゼルドの、南への斥候をラビティアに送らせろ」
「伝えましょう」
程なくしてオクサからトゥウィンテル軍が本陣目指して進軍中との報告を届けにきた。
「敵の斥候と交戦したようです」
「被害は?」
「死者はおりません」
それはよかった。
「いつ到着する」
「午 には軍容が見えるかと」
「見えたら迎撃体制を整えよ。トゥウィンテル軍はオクサ隊に任せる」
「ということは、リゼルド軍はラビティア隊にあたらせるのですか?」
「不服か?」
「いえ、弟に勝てるものなどワタシかダイモンドくらいでしょうからな」
はは、すごい自信だ。
「やはり、伝令は向かっていたか」
「はい。軍と傭兵に動員がかけられていて明日にも出撃してくるかもと」
トゥウィンテル軍の方も今日明日中には出撃するとキキョウから連絡が来ている。
優秀な諜報部員と先進の連絡手段はありがたい。
トゥウィンテルのいる町から陣を敷いているこの丘まで三日、リゼルドの町からも三日ほどの距離にある。
トゥウィンテル軍が途中でカイジョーたちと当たることを計算に入れると、むしろリゼルド軍の方が早く到着する可能性すらあるな。
どのみちどれほどホルスを飛ばしても一日では到着しない。
「よし、今日明日は最低限の見張りを残して全軍に休息を取らせよ」
と言っても娯楽がないのよね。
兵士はどうやって暇を潰すのやら。
これはあれかね?
やっぱ呑む、打つ、買うなんだろうか。
呑むは全然いいんだけど、買うは人道的にどうなんだろうと前世持ちとしては思うし、打つにいたってはちょっと認められないぞ。
だいたい博打は喧嘩の元だからな。
町での乱暴狼藉は厳禁にしているけど、それゆえに休息はむしろ兵のストレスになりかねないか。
領地防衛戦なら親兄弟、家族や恋人を守る気概で我慢できることも侵攻戦となれば
遠征中の福利厚生も考えなきゃな。
仕方ない。
「イラード、輜重隊を町へ送って酒を仕入れてこい。明日一日は兵に浴びるほど飲ませてやるんだ」
「やることがなければ暇を持て余してしまいいらないいざこざがおこるでしょうから、悪くない案です。しかし、あまり痛飲してもいらないいざこざが起きる可能性がありますよ」
あー、その心配もあるな。
「それを収めるのは隊長の仕事だろう」
「人使いの荒いことで」
丘の上の大宴会の翌日はみんな二日酔いで寝て過ごし、三日目には改めて気を引き締めさせる。
僕は命令するだけ。
いやぁ、やっぱり上司っていいね。
…………。
いや、あんまりブラック上司だとよくないな、もう少し中間管理職に配慮しないと。
翌日早朝、伝令兵がホルスを夜通し駆けて到着した。
オクサに連れられ目通りした伝令兵は、大きく肩で息をしている。
「カイジョー様からの伝令でございます」
「聞こう」
「昨日、トゥウィンテル軍が町に到達。お館様の命令通り一戦もせず籠城いたしました」
「判った。よくぞ知らせてくれた。下がって休むがよい」
それにしたって、カイジョーはどうしてわざわざ伝令を?
「……オクサ」
「はっ」
「斥候を放ってみてくれないか」
「かしこまりました」
天幕から彼らが去ると、入れ替わりでチカマックが入ってくる。
「わざわざ伝令がきたそうですね」
「ああ、チカマックも引っかかったか」
「おそらくなんらか意図的に伝令を使ったものでしょう」
そこなんだよ。
それがなんなのか意図をはかりかねてるんだ。
チカマックはいるが、いつものアレをやってみよう。
「リリム」
僕はあえて声に出してリリムを呼んでみた。
「なによ?」
彼女もあえて声に出して答えてきた。
「いつものやつだ。考えをまとめるのに協力してくれないか」
「いいわよ」
「飛行手紙という便利な連絡手段があるのにわざわざ伝令なんていう旧来の手段をあえて使うからにはなんらかの意図がそこにあるはずだ」
「でしょうね」
「伝令にメリットがあると思うか?」
「メリット?」
「伝令を使うと得をすることさ」
「飛行手紙に対して? 特にないんじゃない?」
「じゃあ、デメリット。損になることは?」
「それはいっぱいあるわよ。まず遅い。道に迷ったり敵に見つかって届かないこともあるでしょ? 敵に見つかったら捕まって情報が敵の手に落ちる危険性も……」
「それだ!」
と、チカマックが手をひとつ叩く。
「判ったのか」
「はい、あえて伝令を出すことで、敵に見つかるように仕向けたのです」
「なぜ」
「敵に早くここを見つけてもらうため」
なるほど、下手に籠城戦に持ち込んでトゥウィンテルが僕の意図を読み取れずに長期戦になることを回避するためか?
いや、しかし、挟撃される方が被害が大きくなるリスクが高いんだけどなぁ。
あ、でも、町への被害を減らすことを考えると町人感情的にも経済的損失を見てもずっといいかもしれない。
……カイジョーの案じゃないな、おそらくチローの入れ知恵だろう。
策士め。
「チカマック。北への斥候はオクサに出させた。リゼルドの、南への斥候をラビティアに送らせろ」
「伝えましょう」
程なくしてオクサからトゥウィンテル軍が本陣目指して進軍中との報告を届けにきた。
「敵の斥候と交戦したようです」
「被害は?」
「死者はおりません」
それはよかった。
「いつ到着する」
「
「見えたら迎撃体制を整えよ。トゥウィンテル軍はオクサ隊に任せる」
「ということは、リゼルド軍はラビティア隊にあたらせるのですか?」
「不服か?」
「いえ、弟に勝てるものなどワタシかダイモンドくらいでしょうからな」
はは、すごい自信だ。