第222話 二正面作戦だって戦力さえ整っていれば戦えるものさ

文字数 2,937文字

 三日目、今日は魔法部隊を使わず弓隊のみで応戦する。
 午前中は敵も弓隊だけの攻撃に様子見していたようだ。
 魔法部隊が魔道兵器を使わないことを罠と疑っていたのかもしれない。
 引き合いに出して悪いがオルバックJr.なら構わず突撃してきただろうなぁ。
 「あまり長時間矢合わせしていても矢を消耗するだけなんだよな」などと算盤勘定してしまうのは貧乏領主の性なんだろうか?
 オクサの陣で矢の数がまばらになっていく。
 まだ残数に余裕があるはずなんだけど、なんて思っていたらラビティア陣の方でもまばらになっていく。
 そして、オクサ隊から二回ほど魔法部隊の一斉掃射が行われて、以降ぱたりと飛び道具での攻撃をやめてしまう。
 と、ラビティア隊も魔法部隊の一斉掃射を一度行って飛び道具は店じまいだ。
 ご丁寧に槍隊に大楯構えさせてがっちり防御の姿勢を見せる。
 ははぁ、これはオクサが業を煮やして敵を誘い込もうと罠を仕掛けたんだな。
 それを察してラビティアもそれに乗っかったと。
 敵軍は互いに伝令を飛ばしてリゼルド軍の銅鑼の音に合わせて一斉に騎兵突撃を敢行してくる。

「突撃ぃ!」

 と、味方の左右の陣からも計ったように同時に号令がこだまして、騎兵が丘を駆け下る。
 これはもう単純な力比べだ。
 けれど、それは我が軍に有利な騎馬戦である。
 あ、馬じゃなくてホルスだけどね。
 丘を登ってくる騎兵と降ってくる騎兵、どちらに勢いがつくかは自明の理ってやつだ。
 しかも、こちらはともに我が軍で三本の指に入る剛の者が揃って先陣切って駆けているのだから、当たり負けようはずがない。
 どっと突き入り騎兵同士の乱戦になる。
 まったく、両翼の大将が指揮を放り出してなにやってんの!?
 副指揮官はどうなっているかと陣地を見れば、大楯構えている兵を指揮しているのはイラードとザイーダである。
 あれ? あいつら弓兵の指揮官じゃなかったっけ? と、槍兵の指揮官を探すと後方に。
 よくよく見れば、槍隊がそこにいるじゃあないですか。
 つまりあれか? 盾を構えているのが弓隊で、後方待機しているのが槍隊?
 そんな作戦だったかな?
 と、首をひねったところに「わー」と歓声が上がる。
 見るとやや優勢だったはずの味方がなぜか敗走を始めているではありませんか。
 おお、そういうことか!
 敵軍からまた銅鑼が鳴り響く。
 ここを勝負所と歩兵に突撃指示が出されたものと思われる。

「チャールズ、キャラ」

 ここはこちらも勝負所。
 チャールズはカイジョー隊に移動電話で、キャラはバンバ隊に飛行手紙で突撃指示を出す。
 こちらも狼煙や鳴り物鳴らせば一発で指示が伝わりそうなものだけど、あえて時間差のある通信手段を使って指示を出している。
 退却戦は難しいと言われている。
 が、オクサもラビティアも非常に巧みに敵の進軍速度を殺しながら丘を登って戻ってくる。
 なので突撃してきた歩兵部隊が騎兵に邪魔をされてこれまた速度を殺され渋滞が起こった。

「ラバナル」

「よしきた」

 拡声(ラウド)の魔法で増幅されたラバナルの声が響く。

「突撃ぃ!!

 それを合図に大楯の壁が開き、槍兵が丘を駆け下っていく。
 足止めをしていた騎兵が道を開けるように左右に散開する中を槍兵が突き込んでいく。
 勢いのついた槍兵に騎兵は討たれ、歩兵は倒されていく。
 大楯持ってたのが弓兵だったってのは誰のアレンジか知らないが、これは作戦通りだ。
 これだけ乱戦に持ち込めば弓兵は無力化したも同然だし、そこに後ろからカイジョー隊が奇襲をかける。
 これを狼煙や鳴り物で連絡していたんじゃあ奇襲にならないからね。
 とはいえ、トゥウィンテルも後ろからの奇襲は織り込み済みだったようで、しっかり奇襲を受け止める。
 ま、想定してたよ。
 二度も使った戦法だからね。
 ところが今回の奇襲は一度だけじゃあないんだな。
 がっぷり組み合った側面からバンバ隊が文字通り横槍を入れたことでトゥウィンテル軍の本陣が崩れる。
 ラビティア隊とリゼルド軍の戦況をチラリと確認してみれば、こちらも槍隊がやや押している。
 リゼルドが出撃しない限りこのまま押し切れる気もするし、リゼルドが出てきてもラビティアがなんとかしてくれるに違いない。
 全幅の信頼を寄せて最後の一押しを決断する。

「チカマック」

「はっ! 突撃!」

 ホルス上で槍を小脇に抱え、今か今かと待ち構えていたチカマックが待ってましたとばかりに騎兵隊に号令して、これまた先陣切ってトゥウィンテル軍へ向かって駆けていく。
 本陣が揺らいだことに動揺したトゥウィンテル軍にダメ押しの騎兵隊が突き入ってきたのだ。
 これで軍が崩れなきゃおかしかろう。

「チャールズ、オクサ隊に伝令せよ。『追って追って追い落とせ』と」

 リゼルド軍は町に戻して構わない。
 しかし、トゥウィンテル軍はダメだ。
 今、トゥウィンテル軍へは三百近い軍勢が包囲するように攻め立てている。
 このまま殲滅するのは不可能だし、無理をしては犠牲が大きくなる。
 しかし、ここで一定規模の軍勢を残したまま退却させては後々の占領政策に不安要素を残すことになる。
 ここは是が非でも一気に三つ目の町まで追って占領してしまえ、というのが今回の作戦だ。
 そして、

「ラバナル。出番だ。いくぞ」

「よしよし、この前話した新しい魔法をお披露目してやろう」

「友軍誤射は勘弁だぞ」

「判っとる」

「ドブル、槍隊突撃だ」

「待ってました!」

 トゥウィンテル軍の潰走を確認した僕は、本陣に残っていた槍隊を引き連れてリゼルド軍へと突撃を敢行する。
 僕らが降ってきたことによって戦力の拮抗が崩れたと見るや、リゼルドは全軍に退却を命じたようだ。
 ジャンジャンジャンと銅鑼が鳴らされ、敵軍が退いていく。

「待て! まだワシはなにもしておらんぞ!」

 ラバナルの絶叫虚しく魔法のお披露目はお預けとなってしまったようだ。
 それだけ見事な撤退だったと言えるだろう。
 丘の上の陣地に戻った僕は、被害状況を確認する。
 トゥウィンテル軍を追って行ったオクサ隊、カイジョー隊などの損害はまだ判らないけれど、丘での攻防戦で味方の死者は三十三名、魔法による治療で一命は取り留めたものの継戦不能となった者六名にのぼった。
 敵軍の死体は六十九名、戦場に取り残された者で救命した者三十一名。
 トゥウィンテル軍追撃戦でこの数がどれだけ増えるのか、憂鬱だ。
 僕は敵味方問わず丁重に弔うようにと命令を下して天幕に戻り、各隊からの連絡を待つ。

「戻りやした」

 と、姿を現したのはヤッチシだ。
 ノーシとブローも一緒である。

「勝負がついたようですね」

「ああ。リゼルド軍は町へ退却。トゥインテル軍は潰走中でオクサたちが追っている。そっちの報告を聞こう」

「へい。結論から言えばなにもございやせんでした」

「そうか。なによりだ」

「この後はどうするご予定で?」

「今日一晩様子を見て明日、町へ戻る」

「リゼルド軍は追わないのですか?」

 と質問してきたのはブロー。

「引き際が見事だった。攻城戦ともなれば被害も数倍に膨らもう。あたら兵を損耗するほど愚かではないよ」

 そんな話をしていた僕の下に一通の飛行手紙が届いた。
 それは、ルビレルの戦死を報せるものだった。
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