第259話 内政について 3

文字数 2,454文字

「チカマック、なにかあるか?」

「はい、そうですねぇ…魔法使いの数が五十人を超えました。未成年は数に入れてませんから総数百人は超えてるかな?」

 相変わらず話し方がフランクだな。
 これで左遷らしいけど元々町の代官任されてた貴族の一人だってんだから、やっぱ前世の影響は絶大だな。

「魔力感応力が魔道具を使用できる水準に達しているものは千人を超えてます。魔法部隊だけで戦が起こせますね」

 魔法が使える人間は先天的に魔力を発動、制御できるものだけと言われていた。
 それをマチカマックとチャールスが異端(ダーク)ナルフのラバナルの協力で潜在的適性を判断する手段を生み出し、教育によってそれを引き出すことに成功した。
 これはおそらく僕の領内だけだろう。
 その結果、魔法の発動行使ができるレベルには達しなかったが、魔力を制御することができるという人材が一定数生まれたので、彼らのことを魔力感応力者と名付けた。
 領内でしか通じない名称だ。
 領外には存在しないからね。

「それだって、ピンキリだろうよ」

 ルダーの言うとおりだ。
 小銃(ライフル)は魔法陣を刻んだ筒に椎の実型の弾丸を籠めて射出させる魔道具だけど、撃つのに魔法陣を起動するための魔力を流し込まなきゃいけない。
 魔力は体力同様無尽蔵じゃないし個人差がある。
 ある程度鍛えることができるといってもその結果、魔法使いに届かなかった人たちが魔力感応力者なのだから、そう何発も打てるわけじゃない。
 それに飛び道具は携帯できる弾数に限りがあるので、魔法銃兵だけで戦争する気はない。

「新しい魔法、魔道具はできたか?」

「お館でも使われているのでご存じでしょうが、照明(ライト)の光量がずいぶん明るくなりました」

 照明(ライト)は水に溶け込んだ魔力を魔法陣を刻み込んだ宝石に吸い出し、宝石を発光させて明かりを灯す魔道具だ。
 ラバナル曰く「魔力は水に溶ける」。
 ラバナルは水に多くの魔力を溶かし込む研究と魔法陣の改良をチャールズとずっと続けていたようで、僕がまだ三ヶ村の支配で四苦八苦しているときに開発された照明は当時コップ一杯の魔力水から四〇w《ワット》の裸電球相当の光量で一時間ほど照らせる魔道具だった。
 それが今は六〇w《ワット》相当で五時間くらい点灯できるものになっている。

「発光に使う宝石はおよそ手に入る限りの材料を試してみましたが、これ以上明るくすることができません。魔力水も飽和状態みたいです」

「電球から蛍光灯くらいのブレイクスルーが必要だな」

「なんです? それ」

 おっといけない、思考が口をついちまったらしい。
 不思議そうなアンミリーヤを適当に誤魔化してチカマックに話をふりなおす。

「ああ、攻城兵器として大砲(キャノン)の開発に成功しました」

 ズラカルト男爵との攻城戦では投石機に爆弾(ボム)をのせて射ってたんだけど、時限式の爆弾は爆発のタイミングがシビアで威力を最大化できなかった。
 そこで、小銃のように高速度で弾を飛ばして破壊力を生む魔道具の開発を指示した。
 それが大砲だ。
 砲弾が高速に撃ち出すためのエネルギーで射出時に壊れてしまう欠陥がなかなか改善できないと聞いていたから、ちょっと諦めていたんだけど完成してよかったよかった。

「あの欠点、どうやって克服したんだ?」

「直接魔力で撃ち出すんじゃなく、間に爆弾のようなものを挟んだみたいですよ」

 元込め式のまさにカノン砲だな。
 なんか、デジタルでなんでも解決しようとして結局アナログに戻ってきたみたいな。

(その例え、全然判らないんだけど)

 えー、絶妙な例えだと思うんだけどなぁ。

「しかし、この世界の魔法はなかなかめんどくさいですよね」

 前世が魔法でなんでもやっちゃう世界だったチカマックと違って、魔法の魔の字もない科学文明世界の地球から転生し()ている僕には文明の発展にトライアンドエラーはつきものだと思ってるから、その感覚よく判らないんだよね。

「科学と同じだろ? チカマックも実験、好きだろ」

「あー、そう考えればいいのか」

「で、科学技術の方は?」

「いくつもの発明品が生まれているけど、特筆すべきものは」

 ないのか。
 確かに僕の知識は前世のネットで漁ったもの、ルダーや政商のジョーサン・スヴァート(ジョー)の前世知識は使っていた道具の記憶、クレタの記憶に至っては高度すぎて今は再現不可能な医療機器がほとんどだ。
 前世の記憶を頼りにこの世界の技術力で再現しようってんだから試行錯誤がなかなか身を結ばないのも仕方ない。
 それでも蒸気機関や蒸気機関を使った農耕機など、実用化に漕ぎ着けたものは少なくない。
 けど、この二年はブレイクスルーと言えるようなものが生まれていないのは、やっぱなにか足りないんだろうな。

「クレタからの報告はないのか?」

「いっぱいあるんだけど、なにせ会議のための資料を整理する時間がなくて……」

 …………。

「チカマック」

「なにか?」

「クレタに優秀な事務官を四、五人見繕ってくれ」

「ははは、かしこまりました」

「で? どうしても言わなきゃならないことくらい覚えてないか?」

 そう訊ねたら、ややしばらく唸った後に

「鉱山の町、名前忘れちゃったけどあそこの衛生環境が全然改善されないっていうから、ちゃんと政策が進められているかみてきてもらえないかしら。順調に進んでいれば今頃は下痢を訴える人の数が半減しているはずなんだけど……」

 文明レベルが低いこの世界では仕方ないことなんだけど、占領したどの町でも衛生観念が皆無だったため、お世辞にもきれいとは言えない水が飲料水として飲まれていたので毎年何人もの人が命を落としていた。
 前世を医師として過労死するほど働いていたクレタを厚生大臣に任命したのは、そんな衛生環境を改善するため。
 彼女は見事にその期待に応えてくれているのだけど、鉱山の町(今はイデュルマと名付けられている)だけはどれだけ指示を出しても改善の兆候が見えてこないというのだ。
 あそこは確かに群を抜いて酷かったけど、二年もあって改善されないのは裏がありそうだな。

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