第34話 今日も今日とて会議です
文字数 2,987文字
村に戻って、村の再建・復興作業が再開された。
ちなみに西の山では最終日にラバトやデヤールを狩って戻ってきてる。
いわゆるついでってやつだ。
基本的には狩りの上手なジャリとジャス、サビーやオギンたちが狩猟したものだ。
僕もラバトを一羽弓で仕留めたぞ。
西の山は植物型怪物スクリトゥリの生息地だからか、獲物は少し少なめだった。
村に戻った僕らは改めて役割分担を割り振って仕事を始める。
冬用の炭焼き、ルンカー作りに二人ずつ。
サビーたちには北の森で狩猟。
ジャスに建築現場の監督を任せ、僕はルダーとジャリを交えてジョーと話し合う。
会場は僕の小屋。
ジャリを呼んだのはもちろん武器の品質強化の件。
ルダーは前世知識持ちだから内政問題のアドバイザーとしてだ。
すでにジャリがむくれてる。
無理もない。
ジョーに強烈なダメ出しをくらったんだから。
師匠もなく見 様 見 真似 で打った刀の品質をどうこう言われたって、僕もむくれるよ。
とはいえだ。
「鉄器の良し悪しは見分けられるのか?」
僕が訊ねると、むすっとしたまま頷いてみせる。
それを額面通りに信じるわけにもいかないので、スクリトゥリ退治に僕が使った剣と、僕が野盗の襲撃にあった時に唯一身につけていたナイフを彼の前に置く。
「せめてこれくらいの品質で作れるようになってもらわなきゃ困るんだ」
ジャリは二つを手にとって眉間にしわを寄せながら見比べると、すげー敗北感を浮かべて一言「努力する」とつぶやいた。
たぶんジャリも鍛治の腕が未熟なんてもんじゃないことを自分自身で痛感していたと思う。
だって、彼が使った剣はスクリトゥリを倒す前にポッキリ折れちゃってたんだから。
そういえば僕が使った剣はグニャグニャに曲がってたな。
同じ剣を作っているはずなのにまだまだ品質がバラバラだった。
たぶん理屈は教えられる。
前世の記憶を掘っていけば刀鍛冶の文献知識なら確実にある。
なんたって僕の前世は歴史オタクだ。
でも、理論と実践は別物だ。
こればっかりはトライ&エラーを繰り返してもらう以外にない。
師匠がいれば上達も早かったかもしれないけど、それは無い物ねだりというやつだ。
「剣もいいが、何人か才能のないのがいただろ」
あー……うん、いたねぇ。
「俺も戦いは得意とはいえなかった」
「無理して剣を振るう必要はないかなって思うんだ」
「剣じゃなきゃなにを使えってんだ?」
「斧とか? 槍とか」
「ヤリ?」
ん?
ジャリは槍を知らないのか?
「長い棒の先に刃物がついている武器のことだ」
説明してくれたのはジョーだ。
よくご存知で。
と言っても人類の歴史(前世)では古代から使われている戦闘兵器だ。
きっとこの世界でも一般的な武器だと思う。
田舎の農民として平凡に暮らしていたら知る機会も少ないだろうけどね。
寝物語に話してもらった英雄たちはほとんど例外なく剣で戦ってたし。
「槍はいい! 俺でも扱えそうだ」
「なんでルダーも知ってるんだよ!?」
前世持ちだからだな。
「槍の穂先なら剣ほど品質も問われないか」
と、ジョーはしれっというけど、そんなことはない。
ここ一番で信用ならないものに命を預けるなんて不安だよ。
「ま・まぁ、始めたばかりの鍛治師にすぐすぐ逸品を望むなんて僕も非道じゃない。上達には期待してるけどね」
「じゃあ、武器の話は一旦置いといて……家造りもそろそろ先が見えてきただろ? 村長の家はどうするんだ?」
うん、そこだ。
ルンカー造りの家は有事を想定して進めたことなんだけど、どうもこの小屋に住み慣れちゃったせいで合わないんだよね。
前世の記憶も影響してるかもしれないんだけど……。
「場所は決めてるんだけど、ちょっと迷ってるんだ」
「何を?」
「大きさとか諸々……」
他の民家と差別化するってのは、曲がりなりにも民主主義国家で生きた前世の知識が「それはどうか?」と自問してくるんだけど、封建的王国で世の中が乱れていることを考えると歴史オタクとしての前世がこれまた囁いてくる。
「それより倉庫の方が優先順位高いだろ?」
「今年の冬もこの小屋で過ごす気か?」
「ん? んーん……多少手直しすればもう一冬くらい大丈夫でしょ」
「村長がそういうなら他にもやることは多いし?」
ジョーはちゃんと僕を村長として立ててくれる。
「他で思い出したんだけど、井戸を掘り直したい」
と、鉄器生産ができるようになったらと、先延ばしにしてきた懸案事項を提案する。
「村の中に水が出るのか? ならありがたいが」
ルダーがありがたがるのも当然だ。
人も増えたし、各家庭で水を使うようになったもんだから、水汲みは重要かつ重大な労働になっている。
「もともとこの村には街中に井戸があったんだ。野盗に襲われて使えなくなったから埋め戻しちゃったんだけどね」
「そいつはいい。村の中に井戸があれば有事の際もなにかと助かる」
それは僕も思った。
思ったけど、それって籠城するってことだぞ。
「それとは別に用水路から村に水を引こうと思ってる」
「なんでまた?」
「んーん……なんとなく?」
いや、説明しても理解してもらえないと思ったからなんだけど。
「まぁ、手段は一つより二つのほうがいい。三つ四つとあればなおさらいいけどな」
「どこまで引く気だ?」
おや、興味がおありですか? ジャリくん。
「中央広場まで。その後は用水路の下流域に引き戻す計画だ」
「それなら、畑の近くを通してくれるとありがたい」
なるほど。
そもそも畑のための用水路だけど、そこから引き込むんならもっと便利に使うってのは悪くない。
さすがは「農業担当大臣 」だ。
「いつから始める?」
もうじき雪が降り出す。
「水を引き込むのはすぐにやろう。この時期は水が少なくなる時期だから」
「井戸は?」
「専用の工具を作らなきゃならないからそれ待ち。あ。作るのは任せたよ、ジャリ」
「どんなものか教えてくれればすぐにでも」
「助かるよ」
「じゃあ、武器の製作の前に工事道具を揃えてもらおう」
ルダーが皮紙にツルハシやらシャベルなどの絵を描いていく。
その中に日本の鋤鍬などの農耕具を混ぜていくのはどうかと思うけど。
「一人で作れるのか?」
ジョーの懸念も判らなくはない。
結構な量になるぞ。
「作る」
意固地よねー。
「どれくらい日数がかかるもんかね?」
ルダーの問いにしばらく考えて出した返事が、
「……十日くれ」
十日か……。
一日三本作れば十日で人数分作れる計算ってことかな?
「作るだけならそれでいいのかもしれないが、使って三日でダメになるようなものはいらないぞ。畑と違って柔らかい土を耕すわけじゃないからな」
ずいぶん辛辣だな、ジョーは。
「……努力する」
他に言いようないよね。
でもジャリって案外自分の力量をちゃんと理解してるよね。
むくれはしてもダメなことは自覚していて素直に認めてるし。
「じゃあその間、北の森から木材を伐採してこよう」
「また?」
「冬の木は乾燥していて切りやすいと言われている。まだまだ大量に必要なわけだし。今のうちに村の中に積み上げとくのは悪くない案だ」
賛同ありがとう、ルダー。
「雑木林の手入れは酒造りのおじさんとルダーに頼みたいんだけど」
「任せておけ」
「村長は何をする?」
「僕? 僕はイラードとオギン連れて測量しようかな?」
水道引いたり井戸掘るためのね。
ちなみに西の山では最終日にラバトやデヤールを狩って戻ってきてる。
いわゆるついでってやつだ。
基本的には狩りの上手なジャリとジャス、サビーやオギンたちが狩猟したものだ。
僕もラバトを一羽弓で仕留めたぞ。
西の山は植物型怪物スクリトゥリの生息地だからか、獲物は少し少なめだった。
村に戻った僕らは改めて役割分担を割り振って仕事を始める。
冬用の炭焼き、ルンカー作りに二人ずつ。
サビーたちには北の森で狩猟。
ジャスに建築現場の監督を任せ、僕はルダーとジャリを交えてジョーと話し合う。
会場は僕の小屋。
ジャリを呼んだのはもちろん武器の品質強化の件。
ルダーは前世知識持ちだから内政問題のアドバイザーとしてだ。
すでにジャリがむくれてる。
無理もない。
ジョーに強烈なダメ出しをくらったんだから。
師匠もなく
とはいえだ。
「鉄器の良し悪しは見分けられるのか?」
僕が訊ねると、むすっとしたまま頷いてみせる。
それを額面通りに信じるわけにもいかないので、スクリトゥリ退治に僕が使った剣と、僕が野盗の襲撃にあった時に唯一身につけていたナイフを彼の前に置く。
「せめてこれくらいの品質で作れるようになってもらわなきゃ困るんだ」
ジャリは二つを手にとって眉間にしわを寄せながら見比べると、すげー敗北感を浮かべて一言「努力する」とつぶやいた。
たぶんジャリも鍛治の腕が未熟なんてもんじゃないことを自分自身で痛感していたと思う。
だって、彼が使った剣はスクリトゥリを倒す前にポッキリ折れちゃってたんだから。
そういえば僕が使った剣はグニャグニャに曲がってたな。
同じ剣を作っているはずなのにまだまだ品質がバラバラだった。
たぶん理屈は教えられる。
前世の記憶を掘っていけば刀鍛冶の文献知識なら確実にある。
なんたって僕の前世は歴史オタクだ。
でも、理論と実践は別物だ。
こればっかりはトライ&エラーを繰り返してもらう以外にない。
師匠がいれば上達も早かったかもしれないけど、それは無い物ねだりというやつだ。
「剣もいいが、何人か才能のないのがいただろ」
あー……うん、いたねぇ。
「俺も戦いは得意とはいえなかった」
「無理して剣を振るう必要はないかなって思うんだ」
「剣じゃなきゃなにを使えってんだ?」
「斧とか? 槍とか」
「ヤリ?」
ん?
ジャリは槍を知らないのか?
「長い棒の先に刃物がついている武器のことだ」
説明してくれたのはジョーだ。
よくご存知で。
と言っても人類の歴史(前世)では古代から使われている戦闘兵器だ。
きっとこの世界でも一般的な武器だと思う。
田舎の農民として平凡に暮らしていたら知る機会も少ないだろうけどね。
寝物語に話してもらった英雄たちはほとんど例外なく剣で戦ってたし。
「槍はいい! 俺でも扱えそうだ」
「なんでルダーも知ってるんだよ!?」
前世持ちだからだな。
「槍の穂先なら剣ほど品質も問われないか」
と、ジョーはしれっというけど、そんなことはない。
ここ一番で信用ならないものに命を預けるなんて不安だよ。
「ま・まぁ、始めたばかりの鍛治師にすぐすぐ逸品を望むなんて僕も非道じゃない。上達には期待してるけどね」
「じゃあ、武器の話は一旦置いといて……家造りもそろそろ先が見えてきただろ? 村長の家はどうするんだ?」
うん、そこだ。
ルンカー造りの家は有事を想定して進めたことなんだけど、どうもこの小屋に住み慣れちゃったせいで合わないんだよね。
前世の記憶も影響してるかもしれないんだけど……。
「場所は決めてるんだけど、ちょっと迷ってるんだ」
「何を?」
「大きさとか諸々……」
他の民家と差別化するってのは、曲がりなりにも民主主義国家で生きた前世の知識が「それはどうか?」と自問してくるんだけど、封建的王国で世の中が乱れていることを考えると歴史オタクとしての前世がこれまた囁いてくる。
「それより倉庫の方が優先順位高いだろ?」
「今年の冬もこの小屋で過ごす気か?」
「ん? んーん……多少手直しすればもう一冬くらい大丈夫でしょ」
「村長がそういうなら他にもやることは多いし?」
ジョーはちゃんと僕を村長として立ててくれる。
「他で思い出したんだけど、井戸を掘り直したい」
と、鉄器生産ができるようになったらと、先延ばしにしてきた懸案事項を提案する。
「村の中に水が出るのか? ならありがたいが」
ルダーがありがたがるのも当然だ。
人も増えたし、各家庭で水を使うようになったもんだから、水汲みは重要かつ重大な労働になっている。
「もともとこの村には街中に井戸があったんだ。野盗に襲われて使えなくなったから埋め戻しちゃったんだけどね」
「そいつはいい。村の中に井戸があれば有事の際もなにかと助かる」
それは僕も思った。
思ったけど、それって籠城するってことだぞ。
「それとは別に用水路から村に水を引こうと思ってる」
「なんでまた?」
「んーん……なんとなく?」
いや、説明しても理解してもらえないと思ったからなんだけど。
「まぁ、手段は一つより二つのほうがいい。三つ四つとあればなおさらいいけどな」
「どこまで引く気だ?」
おや、興味がおありですか? ジャリくん。
「中央広場まで。その後は用水路の下流域に引き戻す計画だ」
「それなら、畑の近くを通してくれるとありがたい」
なるほど。
そもそも畑のための用水路だけど、そこから引き込むんならもっと便利に使うってのは悪くない。
さすがは「
「いつから始める?」
もうじき雪が降り出す。
「水を引き込むのはすぐにやろう。この時期は水が少なくなる時期だから」
「井戸は?」
「専用の工具を作らなきゃならないからそれ待ち。あ。作るのは任せたよ、ジャリ」
「どんなものか教えてくれればすぐにでも」
「助かるよ」
「じゃあ、武器の製作の前に工事道具を揃えてもらおう」
ルダーが皮紙にツルハシやらシャベルなどの絵を描いていく。
その中に日本の鋤鍬などの農耕具を混ぜていくのはどうかと思うけど。
「一人で作れるのか?」
ジョーの懸念も判らなくはない。
結構な量になるぞ。
「作る」
意固地よねー。
「どれくらい日数がかかるもんかね?」
ルダーの問いにしばらく考えて出した返事が、
「……十日くれ」
十日か……。
一日三本作れば十日で人数分作れる計算ってことかな?
「作るだけならそれでいいのかもしれないが、使って三日でダメになるようなものはいらないぞ。畑と違って柔らかい土を耕すわけじゃないからな」
ずいぶん辛辣だな、ジョーは。
「……努力する」
他に言いようないよね。
でもジャリって案外自分の力量をちゃんと理解してるよね。
むくれはしてもダメなことは自覚していて素直に認めてるし。
「じゃあその間、北の森から木材を伐採してこよう」
「また?」
「冬の木は乾燥していて切りやすいと言われている。まだまだ大量に必要なわけだし。今のうちに村の中に積み上げとくのは悪くない案だ」
賛同ありがとう、ルダー。
「雑木林の手入れは酒造りのおじさんとルダーに頼みたいんだけど」
「任せておけ」
「村長は何をする?」
「僕? 僕はイラードとオギン連れて測量しようかな?」
水道引いたり井戸掘るためのね。