第298話 攻める場所

文字数 2,138文字

 砦攻略の後始末が一段落ついたので、主だった武将を集めた軍議を開く。
 大きなテーブルには忍者部隊が集めてきたアシックサル領の絵図面が拡げられ、集落や町、自然が書き込まれていく。
 城を構えた領都の他に町が十六ヶ所、砦が五ヶ所。
 さらに旧ヒョートコ男爵領が十四ヶ町、オッカメー季爵領でアシックサルが占領しているのが五ヶ町ある。
 これらの情報が集まるのをゆっくり戦後処理しながら待っていたのだ。
 今日の軍議ではこの情報をもとにどこを攻略するかを話し合う。

「町を一つづつ攻略するのではないんですか?」

 と、聞いてきたのはガーブラだ。

「すべての町を攻略するなんて時間も無駄にするだけでいいことはなにもないですからね」

 と、答えたのはチロー。

「その通りだ。なにより敵も味方もいたずらに死傷者が増えるだけで占領統治にも支障をきたす。叶うのならば極力戦闘は避けたい」

「アシックサルの居城を陥落させるのが当面の目標として、手強い援軍が来ないように陥しておかなければいけない町を拾いだすのですな?」

「カイジョーのいう通りだ。トーハ、各町の常備軍は?」

「はい」

 忍者部隊の頭領トーハは部下からもたらされた情報が頭にきっちり入っているのか、澱みなく主だった武将の名前や数字を出しながら黒く塗られた駒を置く。
 この駒、今回から使うようになった新アイテムだ。
 まぁ、そんな大した物じゃない。大中小のサイズに作られた駒は戦力を判りやすく表している。
 大きい駒が五百人の単位、中位の駒が百人単位、そして最も小さい駒は指揮官を表している。
 ちなみに黒く塗られているのが敵で味方は木地塗りと分けられている。
 砦にはおおむね百五十から三百人の兵士が詰めているようだ。
 町はだいぶばらついているようで、場所によっては町の治安を守れる最低限の守備兵しかいないところもあるが、これは他領に兵を出しているからだろう。

「我が忍者部隊の情報収集力はすごいですな」

「お褒めいただきありがとうございます、オクサ殿。探った詳報にどれだけの確度があるかは実際に当たってみなければ判りませんがな」

 なとどトーハは謙遜するが、うちの忍者部隊の報告が大きく違っていたことはない。

「この情報の通りだとすると、予備兵力を持っているのはここと、この町だけということになりますな」

 と、地図を指差し確認しながらダイモンドがいえば、サビーが

「となれば攻めるのはその二つの町だけでいいってことか?」

 と、聞いてくる。

「町の攻略はそれでいいんじゃないかと思いますが、砦はどうします?」

「魔道具があれば攻略するのは造作もないことでしょうが、砦は他領との領境にありますからね。どうなんでしょう?」

「アンデラス殿、その件は心配ないと思いますよ」

「どうしてですか? ルビレル殿」

「ドゥナガール仲爵とは同盟関係にあり、今回のアシックサル季爵領攻略には不干渉との約束を取り付けているし、オッカメー季爵は今まさにアシックサルの侵略を受けている最中。領地を侵されでもしない限り手出しをしてくる余力はないと考えられる」

「なるほど」

 ほー、ルビンスも随分と大局を見る目が肥えたようだ。
 ひと昔前なら今のアンデラスみたいに無駄に色々考えて消極的な策を考えていたよ。

「では、砦も攻略いたしますか?」

 と、ジャパヌが僕に訊ねてくる。

「そうだな、すべての砦を陥す必要はないが、陥しておくべき砦というのもあろう」

「陥しておくべき砦、ですか」

 そう言ってチローが絵図面に目を落とす。

「同盟領とはいえ、ドゥナガール仲爵は油断ならないお方、この二つの砦は陥すにしても破壊は最小限にしたいですな」

 山脈側の山間にあるこの砦と違い、対ドゥナガール砦の二ヶ所はいくらか開けた場所に築かれているので、攻めるとなれば取り囲むこともできる。
 いくら大手門が立派でも搦手門に穴が空いているのでは守るものも守れない。

「いや、ノサウス殿。この砦は我が領との境でもある三つ巴の場所。ここを陥したとて、我らの砦から兵を繰り出すことができましょう」

 と、ホークが指差したのは今いる砦のとなりの砦だ。

「そうだな……よし」

 色々出てきた意見を書き出した黒板を眺めながら僕は決断を下す。

「部隊を三つに分けて進軍する。ノサウス」

「は」

「お前には兵一千を与える。右軍の将としてこの……」

 と、将が三人兵が三百人駐屯している町を指す。

「町を十日以内に陥せ」

「七日で陥して見せましょう」

 ここから町まで五日はかかりそうなのにずいぶんと大きく出たな。

「オクサ」

「はい」

「お前は兵を千五百とダイモンド、ラビティアを従えて左軍として我が領境と接しているこの砦を跡形もなく破壊せよ」

 そういうと、ラバナルが僕を呼び捨ててこう言う。

「ジャン、そこに行けば加減せずに魔法が使えるのか? 使えるのだろう? ならばその戦場にはワシも行かせろ!」

 もう!
 僕はこれでも領主だよ。
 立場ってものがあるんだけどなぁ……。

「判った判った。残る二千五百は本軍として私が率いてアシックサルの居城を陥しに行く。イラード、オクサ、将の割り振りは二人に任せる。進軍開始は明後日早朝とする。よいな」

「かしこまりました」

 一同が頭を下げたことで軍議はお開きとなった。
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