第228話 頼もしい毒舌家きたる

文字数 2,215文字

 夏も盛りを過ぎ、収穫後の再出兵の計画を主だった武将たちと詰めていた頃だ。
 僕の館を一人の女性が訪ねてきた。
 彼らにはそのまま計画策定を進めてもらい、謁見をする。

「お久しぶりでございます、お館様」

「オギン」

「まずは紹介したい者がございます」

「待たせているのだな?」

「はい」

 一つ返事をすると、その紹介したい者と言う者を呼ぶ。
 入ってきたのはなかなかの()(じょう)()である。

「あたしの伴侶となりましたトビー・ダ・ルゥと申します」

「お初にお目にかかる」

 はー……僕はてっきりジョーのところの助さん(ブロー)と一緒になるんじゃないかと勝手に思ってたんだけど、そっちかぁ。
 まあ、又八じゃないだけマシか。

中名(ミドルネーム)があると言うことは」

「お察しの通り、帝国の出でございます」

 コンドーよくそんなこと知ってるな。
 いや、山奥の百姓出の僕があまりにも世界情勢に無知なだけか。

「で? わざわざ婿を自慢しに戻ってきたわけでもなかろう?」

「はい。王国全土に諜報網を網羅いたしましたのでご報告を。それと……」

 と、同席していたキャラに一瞥する。

「配下にお手を付けられたとか」

 あー……ね?

「懐妊ともなれば忍び働きだけでなく配下をまとめるのも難しくなりましょう?」

 どう受ければいいかとキャラに視線を向けると、視線の合ったキャラが頬を染めてうつむく。
 え?
 えっ!?

「キャラ」

「……はい。そのために戻ってもらいました」

「そうか。いや、めでたいな」

「領主ともなれば、お世継ぎをもうけられるのも大事なお役目。あと二、三人、側室をもうけられるが宜しかろう」

 トビーはそういうが、候補がいない。
 いいなと思ったのは……。

(ウータね)

 そうだね。

(じゃなくて!)

(なによ、いつも美人だなぁって思ってるくせに)

 そりゃ、美人だなぁとは思ってるけどね。
 僕は、一つ咳払いをして話題を変える。

「他領の情勢はどうだ」

 オギンとトビーの話によれば、従来の領主に下剋上豪族が跋扈(ばっこ)して一時は五百人以上の実効支配者がいたが、豪族の一部は滅ぼされ、臣下に降った方が得だと見て地域の有力者に臣従するものもいるらしい。
 当たり前だけど徐々に上下関係などが生まれているようだ。

「中には爵位を(せん)(しょう)して貴族ぶっている者もいるようですが、お館様はどういたしますか?」

 戦国時代の日本もよく官位を勝手に名乗っている武将がいたけど、あれは土地の実効支配者であるという権威づけであって爵位とはちょっと違うからなぁ。

「爵位など名乗ってなんになる」

 そう(うそぶ)いたらトビーが感心したように

「いやはや、お館様はその先を見据えておいでのようだ」

 と、勝手に解釈してくれた。
 そこまでは望んでないんだけど、腹の中を曝け出してもいいことなんてないしな。
 否定も肯定もしないでおこう。

「二人に問う。この戦乱、どれほど続くと思う?」

「あっしは向こう二十年は戦が続くと見ております」

「そうですね。あたしも十年や二十年では治らないものと見ております。現在、僭称王だけで十人いますが、彼らがリフアカ王国を平定できるとは思えません」

 王家が変わって国名が変わるのは既定路線と見るとしても、それはそれで問題だな。
 この国は大陸の一部で周囲を四つの国と接している。
 王朝の盛衰を好機と見て他国が侵略してこないとも限らない。
 王国内に交易用の土地を与えられているラシュラリア王国と山脈に阻まれているブチーチン帝国は無視できるとしても、北のハッシュシ王国とキューブリア公国は国内政治にかまけているといつ攻め込まれるか判らない。
 いや、ラシュラリアも下手に資金援助などを乞う勢力が新王朝を立てたりした場合には属国、植民地にされかねないか。
 下克上に名乗りを挙げた以上、最低目標は天寿真っ当だとしても忍従を強いられる環境に落ち着いたのでは意味がない。
 二十年か……。
 最低でも向こう五年以内にズラカルト男爵領はすべて支配下に治めてておかなきゃ話にならなそうだ。
 いや、アシックサル季爵のハングリー区砦に対する攻撃を見ていると一、二年は前倒しで計画できなきゃ、男爵領を取り切る前に一部を奪われかねない。
 ハングリー区は荒野だ。
 砦を抜かれると僕が一気に支配下に収めたようにアシックサルに一気に持ってかれてしまう危険性は十分にある。
 今回はオルバックとルビレルの活躍で死守したが、今のままではいつまで守り通せるかしれたもんじゃない。
 多くの兵を割いて防衛するにヒロガリー区の人員と収穫物が必要になる。
 特にこの秋は要注意だな。
 同盟を結んているドゥナガール仲爵だって男爵領を切り取りにこない保証はどこにもない。
 むしろ男爵より僕を手強いと見て積極的に僕を抑えにかかるだろう、くらいに思っておかなきゃ生き抜くのはむずかしかろう。

「判った。長旅で疲れているだろうことは承知の上で早速だが、今秋の出兵計画を練っているところだ。二人にも評定に参加してもらいたい」

「かしこまりました。その前に」

「旅装を解きたく存じます」

「それもそうか。コンドー」

「風呂は準備させております。客間にお通しして、風呂にご案内致しましょう」

 もう、準備万端なのか。
 あ。
 退席しようとする二人を呼び止めて聞いておきたいことを確認する。

「二人に子供は?」

「本当はそろそろと思っていたのですが、キャラの子育てが一段落する頃に」

「それでは三十過ぎるのじゃないか?」

「お館様のせいですけどね」

 ぐぬっ……。
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