第11話 ぼろっちくて悪かったね

文字数 2,057文字

 僕は女の子二人を連れて家に戻る。
 道すがらお姉ちゃんの方、クレタが僕に訊ねてきた。

「ねぇ」

「何?」

「肩のあたりを飛んでいる妖精は何?」

 え?

「君、見えるの?」

 そりゃあびっくりするでしょ、だって転生者しか見えないって言う妖精が見えてるって言うんだから。
 妹のカルホは

「え? どこどこ? 私も見たぁ〜い」

 てな具合なんだから。
 僕だって前世の記憶が蘇って初めて目撃したもんだ。
 もっとも、ずっとそばにいたわけじゃなさそうだけど……。
 僕はリリムを見る。

「何よ? 転生者にしか見えないわよ」

 ってことはつまり……。

「そう言うことね」

 そう言うことね。

「前世の記憶は戻っているの?」

 と、聞いてみたら

「前世って何よ?」

 と聞き返される始末。
 リリムに助けを求めると

「例外はあるみたいだけど、基本的に前世記憶は十五歳にならなきゃ目覚めないわよ」

 って言うんだからそんなもんなんでしょーよ。

「あー……えーと、後で話す」

 と、逃げを打った。
 もちろん家に着いたからでもある。

「ぼろっち」

 カルホの最初の一言だ。
 正直者め。
 でも仕方ないじゃん。
 道具も材料もない中一人で作ったんだから。
 これでもひと冬越せたぞ。
 さて、家に着いた僕は、クレタとカルホに手伝ってもらってハムやベーコン、魚の干物などをカゴに放り込む。
 毛皮・なめし革は売り物になりそうな品質ではなかったので家に残したけど、食べ物だけでカゴいっぱいにしてもなおたくさん残っている。
 もう一回戻ってこようかな?
 なんて考えながら村跡に戻ってくると日の沈みかけた薄暗い中、テントの準備があらかた終わっていて晩御飯の準備もできつつあった。

「おお、戻ってきたな」

 商隊長さんがこっちに手を振ってくれる。
 大きめのランタンと焚き火でそこはかなり明るい。
 僕らが隊長さんの前にカゴを下ろすと早速見聞を始めた。

「ずいぶんあるじゃないか、味見しても?」

「高くても安くても売るつもりなんでどうぞ」

「なるほど……ほぅ、ハムにベーコンだな。この村にレシピなんかなかったはずだが……」

 うん、この村にはなかったね。
 ちょっとづつ切り取って味見をする隊長さん。

「……味もまぁまぁだ。香りがイマイチだがこのあたりの木を使った燻製なら仕方ない。うむ、これなら売れるだろう。魚の干物は悪くない。干しピサーメはよくできてる。流石にダリプ酒は仕込めなかったか……。この村の酒はなかなか評判が良かったんだがなぁ……。ほぅ、干しダリプか。珍しいな。大抵は酒にしてしまうからな」

 などと一品一品淀みなく金額を言いながら瞬く間にソロバンを弾いていく。
 ソロバンといってもこの世界のソロバンは前世日本の算盤とはちょっと違うけどね。

「こんな感じでどうかな?」

 と、提示したソロバンを見て僕が眉間にしわを寄せると

「ああ、読み方がわからないか?」

 とか聞いてくる。
 確かに前世記憶とごっちゃになっていていくらになっているのかよくわからないけど合計金額は分かっている。
 前世では子供の頃そろばん塾に通わされていたから頭の中に算盤があるんだ。
 そして、現世の記憶にあるキャラバンが毎年持ってきてくれていた物の値段と比較して、隊長さんが提示した金額が決して不当なものじゃないこともなんとなく理解できた。

「それでいいよ」

「よし、商談成立だな。で? 何が欲しいんだ?」

「それはとりあえずいつも通り明日ってことで。飯にしよう」

 と、提案する。
 そう、キャラバンは商習慣として到着した日は村人との交流会を兼ねて宴を開き、翌日店開きをすることになっていた。

「ふむ、そうだな」

 ささやかな、本当にささやかな宴が開かれた。
 なにせ村人は僕一人。
 ほとんどおもてなしもできないので、家にとって戻ってハムを一つ持ってきて振る舞った
 隊長さんには

「自分で食う分は残っているのか?」

 なんて心配されたけど大丈夫、もし足りなくなったら狩りに出ればいいしね。
 宴の終わり頃、隊長さんは僕に七人の人を紹介してくれた。
 村を焼け出された人たちだ。

 先に紹介されていたクレタ(十一歳)とカルホ(九歳)。
 夫に死なれた未亡人ヘレン・ボイサーさん(二十四歳)とその娘アニーちゃん(六歳)。
 同じ村の出身でヘレンさんたちを助けたジャリ・バン(十九歳)とその友達ジャス・オン(十六歳)。
 二人はヘレンさんの旦那だったアランさんの弟分だったようだ。
 そして、襲撃のあった三つ目の村にいられなくなったらしいルダー・メッタさん(二十八歳)。

 彼らの村は僕の村ほど徹底的に焼かれたわけじゃないらしいけど、それぞれ事情があってキャラバンに厄介になっているんだっていう話だ。
 っていうか、気のせいかもしれないけどクレタとカルホ以外メタルなヒーローの匂いしかしねーな、おい。
 それも気になるんだけど……。

 …………。

 ルダーさん、なんか僕の肩あたりをじっと睨んでいるみたいだけど、そこには…………。

「ん? なに?」

 あー、やっぱリリムがいた。
 ってことは、あの人も転生者か。
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