第195話 仕掛けと読み合い

文字数 1,999文字

 そりゃあね、攻め手が中世で守備側が近代手前の軍装じゃ勝負になるわけがない。
 これが攻守逆ならまだいい勝負ができたかもしれないけどね。
 ズラカルト軍は小銃の威力に撤退。
 誰が指揮をとっているのか知らないけれど、いい判断だ。
 無理に力押しすれば人的被害ばかりがいたずらに増えるばかりでいいことはない。
 これで完全に撤退してくれればなおありがたかったんだけど、そこまで甘くはなかった。
 翌日は攻めてくることがなかったものの斥候を飛ばした結果もたらされたのは引き続き陣を構えているという報告だった。
 一日おいて開戦と同時に関門に迫ったのは人ではなくて石だった。
 一抱えもある大きな石が断続的に飛んでくる。
 まあ当然、あるよな。
 投石機(カタパルト)
 テコの原理でものを遠くへ飛ばす攻城兵器の代表だ。
 弓の有効射程外どころか小銃の射程よりも遠いところから打ち出される石の重さは三、四十ラッタタくらいだろうか?
 城壁に当たるたびに振動が伝わってくる。
 人に当たったらひとたまりもないぞ。

「お館様。安全のため、本陣にご避難を」

 そうさせてもらおう。

「対策はあるのか?」

「攻城戦に投石機はつきもの。対策はございます。それより、お館様に万が一でもございましたら一大事。速やかに本陣にお戻りください」

 今日も櫓で戦況を見守りたかったんだけど、仕方ない。
 本陣に戻った僕は一時間に一度入る定時報告で戦況を見守ることになった。
 この世界の投石機のサイズ感は定かじゃないけど、森林地帯ということもあってか投石機は大きいものじゃないようで、城壁を大きく破壊できるほどの威力はない。
 代わりに僕のイメージよりずっと早いペースで連射できるようだ。
 なので敵は投石機で牽制しつつ歩兵を前進させる戦術をとってくる。
 迎え撃つ我が軍は城壁の上にわずかな兵を残して、一旦退避。
 残っているのは精兵を集めた五十人の弓兵と魔法部隊の一部隊、それにラバナル。
 まずは魔法部隊が迫り来る歩兵を狙撃して数を減らす。
 命中率を確認すると弓の射程外で一割強、射程内に入ると二割五分に上昇した。
 弓の命中率も有効射程内で大体三割だから照準器のない小銃としては上出来だろう。
 もちろん至近になれば命中率も上がるんだけどさ。
 とはいえ当たったからといって敵が死ぬとも限らない。
 この世界には治癒魔法があるので特に飛び道具では人はなかなか死なないものだ。
 地球世界でも急所を狙われない限り一矢や二矢では死なないしな。
 魔法使いと弓兵合して七十数人では敵歩兵を打ち散らすところまではとてもじゃないが叶わない。
 ついに城壁に取り付かれてしまった。
 ()(じょう)(つい)が城門を叩き、ゴーンという衝突音が本陣にまで届いてくる。
 しかし、取りつかれてしまえば敵軍の投石機は友軍(フレンドリー)誤射(ファイア)を生むため使えなくなる。
 投石が止むのを確認して全弓兵と魔法部隊を投入して城壁に取りついた敵兵を撃ち下ろす。
 被害が拡大し始めたところで日暮れを前に今日もズラカルト軍は軍を引いた。

 …………。

(浮かない顔ね)

(うん、あっさり引きすぎだと思ってね)

 攻城戦はどう考えたって消耗戦だ。
 ある程度の犠牲を払わなければ城壁など抜けない。
 にもかかわらず敵軍はちょっと味方に被害が増えるとあっさり引いていく。
 先日の小銃初使用の際は新兵器の脅威を鑑みて一時撤退を選択したことをいい判断だと評価したけど、今日の撤退は淡白にすぎる。
 なにかを試しているのか?
 それとも作戦の内なのか?

「キャラ」

(おん)(まえ)に」

 呼べばすぐくるのホントすごい。

「森の中を探索に出せる者は何人いる?」

 この三年でオギン一党はその数を増やし、二十数名を数えるまでになっている。
 とはいえ、全幅の信頼で隠密行動を任せられる人間はまだまだ限られている。

「あたしたちを除けば二、三人いますかどうか……」

 少なくともキャラを送り出すのは得策じゃない。
 キキョウとコチョウにも陣にいて欲しいけど、それでは任務の遂行に差し障るか……。

「敵の挙動が気になる。キキョウとコチョウに一人ずつつけて左右の森に探りを入れろ。別働隊が裏に回ろうとしているかもしれない」

「かしこまりました」

「敵もお館様と同じことをお考えと?」

 チャールズが訊ねてくる。

「自分が考えつくことは相手も考えつくに違いないと考えておくのが、危機管理というものだ」

「では、本陣から見張りの人員を増やしておきましょう。この辺りの森で夜襲は考えられませんが、昼夜交代で見張らせます」

 サビーが速やかに陣幕を出ていく。
 自分が逐一命令を出さなくても必要な対処がされるのはとてもありがたい。
 しかも、行動に移す前に報告連絡がなされるから僕もしっかり把握できている。
 やっぱり当たり前の話、優秀な人材は一人でも多いほうがいいに決まってるよね。
 この五年間の人材発掘、育成方針は間違っていなかった。

「明日は四日目……」
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