第62話 ただでさえ領主対策に頭悩ませてるのに
文字数 1,940文字
事件は起きた。
そう、バカが三人テリトリーに侵入したんだ。
テリトリーを侵した奴が三人いると報告を受けた僕は、雑木林の巡回をしていたメンバーだけでなく、ルンカー職人と炭焼き職人も村へ引き揚げさせた。
直後に「主の咆哮」が森から響く。
鬱蒼と繁る森から聞こえてくるいつもの低く長いものじゃない。
村の中まで振動する激烈な音だ。
なぜ、僕が主の咆哮と判るかって?
そりゃ、聞いたことがあるからだよ。
町人 が何事かと中央広場に集まってくる。
「お館様」
誰かが僕を見つけたことで町人の視線が僕に集まる。
「なにがあったんですか?」
「誰かが主のテリトリーを侵したらしい」
サビーからの報告を受けている僕はその誰かを知っているわけだけど、町人たちは知らない。
すぐさま安否確認が始まった。
増えたといっても百人足らずの小さな町だ。
あっという間に誰がいないか判明する。
バンブル、ビービー、ガルムの三人だ。
三人とも反お館派で、町の不良グループでもある。
三人とも一応成人してるけどね。
イゼルナが過呼吸で倒れる。
ガルムと付き合っているって噂だった。
ガルムといえば、ドブルの弟だったな。
「年をとってからの子だったこともあって、親父のデジンが猫っ可愛がりしている」と、よくドブルが愚痴ってた。
そういうドブルもたいがい甘やかしていたからこういう事態になったとも言える。
「助けに行こう!」
ドブルがいうと、三人の親族を中心に賛同の声が上がる。
「お館様」
町人の視線が改めて僕に注がれる。
そんな目で見てもダメだよ。
「無茶だよ。これ以上被害を増やすわけにはいかない」
「まだ死んだと決まったわけじゃない!」
確かに村の過去の記録には何人かの生還事例があるけれど、生還率は数%。
それも五体満足で戻ってきたものはいない。
僕の記憶にある三件は誰も戻ってきていない。
──ったく、間違って領域に迷い込んだだけでもお怒りになるという主の森に、わざと入っていったんだから自業自得もいいところじゃないか。
「とにかく! これ以上犠牲者を出すわけにはいかない」
僕はかなり強い口調で捜索隊を否定する。
「集まったみんなにも改めて言うけど、雑木林の奥の森は主の森だ。何度でも言うぞ! 森には絶対入るな!」
それだけ言うと、解散を命じる。
ちくしょう、ヘタか!
まったく説得してないじゃないか。
これで納得するやついるか?
こんなん僕だって納得しないぞ。
とはいえ、感情が前面に出ている相手を理詰めで説得しようったって、そんなこと不可能だ。
今は少し冷静になるのを待って理性的な話し合いができることを期待するしかない。
(リリム)
「なに?」
僕はルダーとクレタを見る。
二人ともリリムにちらりと視線を向ける。
声が聞こえたんだろうな。
(この念話っての? リリムも声に出さないでできるの?)
(できるわよ)
うおっ!
なんか変な感覚だ。
心地良いとは絶対言えないけど、嫌な感覚とも言えない。
それにしたって随分クリアに聞こえるもんだ。
(そりゃ、雑音なしの思考の塊だものクリアに決まってるじゃない)
……個人的感想にまで返事しなくてもいいよ。
(で、なに?)
(きっと一部の人たちが、集まって話し合いをすると思うんだ。ちょっと探りたい)
(おっけー)
…………。
(なに?)
(リリムって魔法使えたよね?)
僕の知っている限り、明かりを灯す魔法と眠りの魔法が使えるはずだ。
ってことは、他にも使えるんじゃないかと考えたっていいだろ?
(例えばだけど、リリムが見聞きしたものを直接僕が見聞きできるとか、そんな素晴らしい魔法が使えたりしない?)
(スマホのビデオ通話みたいな?)
地球世界のこと詳しいな……。
(そんな感じ)
(さすがにそんな都合のいい魔法は使えないなぁ)
(だよねぇ)
(音声だけだったら魔法じゃなくて私とジャンの関係性 でなんとかなるけどね)
まじで!?
(ただし、私が見える範囲にいないと繋がらないし、長時間は無理よ)
(充分だ)
「オギン」
僕が呼ぶと、僕の背後から声がする。
!? 心臓に悪い。
「たぶん納得いかない奴らが密会すると思う。集まり出したら僕を呼びにきてくれ」
「かしこまりました」
…………。
「そのあとは、僕が館にいるていを装ってほしいんだ」
「留守番ですか?」
「そうとも言う」
「かしこまりました」
僕はその後、サビーたちに町の周りを警戒するように指示を出し、自分の館に戻る。
夜も更け、みんなが寝静まった頃にオギンが屋敷に現れる。
「場所は?」
挨拶抜きに僕が問うと
「ギランの家です」
ギラン関係なくない?
反お館派は今、ギランを中心に動いてるってことかな?
とにかく僕は、オギンを留守居に闇夜に紛れてギランの家に向かう。
そう、バカが三人テリトリーに侵入したんだ。
テリトリーを侵した奴が三人いると報告を受けた僕は、雑木林の巡回をしていたメンバーだけでなく、ルンカー職人と炭焼き職人も村へ引き揚げさせた。
直後に「主の咆哮」が森から響く。
鬱蒼と繁る森から聞こえてくるいつもの低く長いものじゃない。
村の中まで振動する激烈な音だ。
なぜ、僕が主の咆哮と判るかって?
そりゃ、聞いたことがあるからだよ。
「お館様」
誰かが僕を見つけたことで町人の視線が僕に集まる。
「なにがあったんですか?」
「誰かが主のテリトリーを侵したらしい」
サビーからの報告を受けている僕はその誰かを知っているわけだけど、町人たちは知らない。
すぐさま安否確認が始まった。
増えたといっても百人足らずの小さな町だ。
あっという間に誰がいないか判明する。
バンブル、ビービー、ガルムの三人だ。
三人とも反お館派で、町の不良グループでもある。
三人とも一応成人してるけどね。
イゼルナが過呼吸で倒れる。
ガルムと付き合っているって噂だった。
ガルムといえば、ドブルの弟だったな。
「年をとってからの子だったこともあって、親父のデジンが猫っ可愛がりしている」と、よくドブルが愚痴ってた。
そういうドブルもたいがい甘やかしていたからこういう事態になったとも言える。
「助けに行こう!」
ドブルがいうと、三人の親族を中心に賛同の声が上がる。
「お館様」
町人の視線が改めて僕に注がれる。
そんな目で見てもダメだよ。
「無茶だよ。これ以上被害を増やすわけにはいかない」
「まだ死んだと決まったわけじゃない!」
確かに村の過去の記録には何人かの生還事例があるけれど、生還率は数%。
それも五体満足で戻ってきたものはいない。
僕の記憶にある三件は誰も戻ってきていない。
──ったく、間違って領域に迷い込んだだけでもお怒りになるという主の森に、わざと入っていったんだから自業自得もいいところじゃないか。
「とにかく! これ以上犠牲者を出すわけにはいかない」
僕はかなり強い口調で捜索隊を否定する。
「集まったみんなにも改めて言うけど、雑木林の奥の森は主の森だ。何度でも言うぞ! 森には絶対入るな!」
それだけ言うと、解散を命じる。
ちくしょう、ヘタか!
まったく説得してないじゃないか。
これで納得するやついるか?
こんなん僕だって納得しないぞ。
とはいえ、感情が前面に出ている相手を理詰めで説得しようったって、そんなこと不可能だ。
今は少し冷静になるのを待って理性的な話し合いができることを期待するしかない。
(リリム)
「なに?」
僕はルダーとクレタを見る。
二人ともリリムにちらりと視線を向ける。
声が聞こえたんだろうな。
(この念話っての? リリムも声に出さないでできるの?)
(できるわよ)
うおっ!
なんか変な感覚だ。
心地良いとは絶対言えないけど、嫌な感覚とも言えない。
それにしたって随分クリアに聞こえるもんだ。
(そりゃ、雑音なしの思考の塊だものクリアに決まってるじゃない)
……個人的感想にまで返事しなくてもいいよ。
(で、なに?)
(きっと一部の人たちが、集まって話し合いをすると思うんだ。ちょっと探りたい)
(おっけー)
…………。
(なに?)
(リリムって魔法使えたよね?)
僕の知っている限り、明かりを灯す魔法と眠りの魔法が使えるはずだ。
ってことは、他にも使えるんじゃないかと考えたっていいだろ?
(例えばだけど、リリムが見聞きしたものを直接僕が見聞きできるとか、そんな素晴らしい魔法が使えたりしない?)
(スマホのビデオ通話みたいな?)
地球世界のこと詳しいな……。
(そんな感じ)
(さすがにそんな都合のいい魔法は使えないなぁ)
(だよねぇ)
(音声だけだったら魔法じゃなくて私とジャンの
まじで!?
(ただし、私が見える範囲にいないと繋がらないし、長時間は無理よ)
(充分だ)
「オギン」
僕が呼ぶと、僕の背後から声がする。
!? 心臓に悪い。
「たぶん納得いかない奴らが密会すると思う。集まり出したら僕を呼びにきてくれ」
「かしこまりました」
…………。
「そのあとは、僕が館にいるていを装ってほしいんだ」
「留守番ですか?」
「そうとも言う」
「かしこまりました」
僕はその後、サビーたちに町の周りを警戒するように指示を出し、自分の館に戻る。
夜も更け、みんなが寝静まった頃にオギンが屋敷に現れる。
「場所は?」
挨拶抜きに僕が問うと
「ギランの家です」
ギラン関係なくない?
反お館派は今、ギランを中心に動いてるってことかな?
とにかく僕は、オギンを留守居に闇夜に紛れてギランの家に向かう。