第202話 いざ出陣!
文字数 2,380文字
論功行賞が行われた日から五日後、軍議が開かれた。
「お館様自ら軍を率いられるのですか?」
議題はズラカルト領侵攻。
僕の親征に疑義を唱えたのはルビレルだった。
「私はポッと出の領主だ。由緒正しい貴族と違って館で踏ん反りかえっていられる立場じゃない。常に戦場に立ち、味方兵の士気を鼓舞する必要がある。総大将は私だ。異論は認めない」
そう言ってしまえば、部下であるルビレルに反論はできない。
「イラード、軍勢はいかほどか?」
「は。弓兵百五十、槍兵三百二十、騎兵は百揃えられました。魔法部隊はどう致しましょう?」
論功行賞と並行して、侵攻軍への従軍希望をとってもらっていた。
関門防衛線にはほぼ総兵力と言える千二百という動員をしたわけだけれど、戦死者二百二十五人。
約千人の残存兵力をすべて外征に出すわけにもいかないので希望者を募ってみたわけだ。
「捕虜にした中には傭兵もいただろう。あれは使えないのか?」
と、カイジョーが問えばルビンスが
「昨日までの敵を味方に抱え込むのか?」
と、嫌そうな顔をする。
「傭兵ってのは金さえ出せばどこの味方だってするもんだ。昨日の味方を相手にすることだってよくあるもんさ」
「お館様、一応意向は聞いております。いかが致しますか?」
ちゃんと傭兵にまで確認を取っているなんて如才ないね、イラード。
「カイジョー、御 せるか?」
「お任せください」
さすがは元傭兵だ。
自信があるなら任せるのもやぶさかでない。
「イラード、何人だ?」
「全員が本当に参加するというのであれば七十一名です」
「では、傭兵も組み込む。魔法部隊は四部隊連れて行こう。合して何人になった?」
「七百二十」
ラビティアが自慢げに答える。
侵攻戦に千人いないのは心許ないけど、これが田舎領主の実力だ。
「では、従軍する将の名を呼ぶ。総大将は先ほど言った通り、私が務める。副将にルビレル。魔法部隊の大将はチャールズ。弓兵隊はイラードに百、ホークに五十をつける。槍兵隊はオクサ、ラビティア、ノサウスにそれぞれ百。各々 にイラード、ガーブラ、ザイーダを副将としてつける。騎兵隊はダイモンドに八十騎を任せる。サビーはダイモンドの下だ。傭兵七十の歩兵はカイジョーに預ける。レンジャー隊、電撃隊、フィーバー隊がいれば八十を超えるだろう。残りの騎馬二十騎と槍兵二十人は本陣に親衛隊として配置、ラバナルには自由裁量を与えよう。今回はガブリエルの衛生部隊とルダーの輜 重 隊を含めて全軍で行動する。留守居の将はチカマック。他の者はこれをよく佐 けるように」
全員が「ははっ」と頭を下げる。
にやける。
いや、にやけないように努力はしようと思っているけど、やっぱりにやける。
「出発は三日後、兵たちには十分な休息を取らせてくれ。以上、解散」
と、軍議を解散して三日後、領内を守る関門の門を開いてズラカルト領に打って出る。
ズラカルト領は僕が奪ったオグマリー区の他にハングリー区、ヒロガリー区、ズラカリー区とに区分けされていて、ズラカリー区とオグマリー区は隣接していない。
名前的にヒロガリー区が一番広そうだけど、ハングリー区の方が面積的には広いが、広いだけで耕作適地が少なく貧しいのだという。
しかし、僕はあえてこのハングリー区を侵攻する計画を立てた。
貧しい地域ということは人口も多くなく、耕作適地が少ないため点在する集落も多くないから攻略しやすかろうと思ったからだ。
そして、不遇な地域を支配下に収めて善政を敷けば。僕の評判も上がるだろうと目論んでいる。
耕作についてはルダーがなんとかしてくれる。
……に、違いない。
僕の支配地は街道の整備がしっかりなされていてすっかり忘れていたが、ズラカリー男爵の支配地に入るとすぐに、その獣道かと思うような道に難儀することになった。
輜重隊に科学技術が導入されていなかったらこの行軍、遅々として進まなかったに違いない。
行軍で一番大変なのが食糧などの荷物を運ぶ輜重隊であることは言うまでもない。
この重労働を軽減するために開発されたのが蒸気機関である。
もちろん、自動車が完成したわけじゃない。
あくまで人力の補助レベルではあるけれど、これはとても評判が良かった。
蒸気機関に歯車繋いで車輪に力を伝えるSL 的なものだけど、まだまだパワーが足りなくて空の荷車を動かすのがやっとだったせいかお披露目の際、クレタがポツリと「電動アシスト荷車」とか揶揄してたけどな。
電気じゃねーしっ!
ともかく、ガタガタ道でともすれば轍 や穴ぼこに車輪を取られる悪路で人力の補助動力として力を発揮した蒸気機関のおかげで、輜重隊を連れての行軍にもかかわらず歩兵の行軍速度を保って進軍することができるのはこの上ないことだ。
「兵は神速を貴 ぶ」とは三 国 志 魏 書 郭 嘉 伝 にある成句だ。
戦争では相手に対応される前に押し切ることができれば勝つ確率がぐっと上がる。
奇襲、急襲など電撃作戦が好まれるのはこの理屈だ。
ゆえに輜重隊は作成遂行のために置き去りにされることがままある。
地球の現代戦でさえ、いまだに補給がなおざりにされることがあるのだから、近代にも届いていないこの世界では「宜 なるかな」ってやつだ。
ああ、いまだにって言ったけど、僕が死んでからの地球はどうなってるのか知らないや。
転生してから二十五年かぁ。
光陰 矢 の如 しってやつだな。
(なにオヤジ臭いこと言ってるのよ。今日は難しい言葉がいっぱい出てきてるんですけど)
歴史オタクの悪い癖だな。
──ってか、それが嫌なら心を読むなよ、リリム。
行軍は順調に進み、森の中を掻き分けるように進んでいたかと思えば木々がまばらになっていき、地味 が悪いのか草原もハゲ散らかし始めた頃、ついに最初の攻略対象である集落が見えてきた。
関門を出発して八日目のことだった。
「お館様自ら軍を率いられるのですか?」
議題はズラカルト領侵攻。
僕の親征に疑義を唱えたのはルビレルだった。
「私はポッと出の領主だ。由緒正しい貴族と違って館で踏ん反りかえっていられる立場じゃない。常に戦場に立ち、味方兵の士気を鼓舞する必要がある。総大将は私だ。異論は認めない」
そう言ってしまえば、部下であるルビレルに反論はできない。
「イラード、軍勢はいかほどか?」
「は。弓兵百五十、槍兵三百二十、騎兵は百揃えられました。魔法部隊はどう致しましょう?」
論功行賞と並行して、侵攻軍への従軍希望をとってもらっていた。
関門防衛線にはほぼ総兵力と言える千二百という動員をしたわけだけれど、戦死者二百二十五人。
約千人の残存兵力をすべて外征に出すわけにもいかないので希望者を募ってみたわけだ。
「捕虜にした中には傭兵もいただろう。あれは使えないのか?」
と、カイジョーが問えばルビンスが
「昨日までの敵を味方に抱え込むのか?」
と、嫌そうな顔をする。
「傭兵ってのは金さえ出せばどこの味方だってするもんだ。昨日の味方を相手にすることだってよくあるもんさ」
「お館様、一応意向は聞いております。いかが致しますか?」
ちゃんと傭兵にまで確認を取っているなんて如才ないね、イラード。
「カイジョー、
「お任せください」
さすがは元傭兵だ。
自信があるなら任せるのもやぶさかでない。
「イラード、何人だ?」
「全員が本当に参加するというのであれば七十一名です」
「では、傭兵も組み込む。魔法部隊は四部隊連れて行こう。合して何人になった?」
「七百二十」
ラビティアが自慢げに答える。
侵攻戦に千人いないのは心許ないけど、これが田舎領主の実力だ。
「では、従軍する将の名を呼ぶ。総大将は先ほど言った通り、私が務める。副将にルビレル。魔法部隊の大将はチャールズ。弓兵隊はイラードに百、ホークに五十をつける。槍兵隊はオクサ、ラビティア、ノサウスにそれぞれ百。
全員が「ははっ」と頭を下げる。
にやける。
いや、にやけないように努力はしようと思っているけど、やっぱりにやける。
「出発は三日後、兵たちには十分な休息を取らせてくれ。以上、解散」
と、軍議を解散して三日後、領内を守る関門の門を開いてズラカルト領に打って出る。
ズラカルト領は僕が奪ったオグマリー区の他にハングリー区、ヒロガリー区、ズラカリー区とに区分けされていて、ズラカリー区とオグマリー区は隣接していない。
名前的にヒロガリー区が一番広そうだけど、ハングリー区の方が面積的には広いが、広いだけで耕作適地が少なく貧しいのだという。
しかし、僕はあえてこのハングリー区を侵攻する計画を立てた。
貧しい地域ということは人口も多くなく、耕作適地が少ないため点在する集落も多くないから攻略しやすかろうと思ったからだ。
そして、不遇な地域を支配下に収めて善政を敷けば。僕の評判も上がるだろうと目論んでいる。
耕作についてはルダーがなんとかしてくれる。
……に、違いない。
僕の支配地は街道の整備がしっかりなされていてすっかり忘れていたが、ズラカリー男爵の支配地に入るとすぐに、その獣道かと思うような道に難儀することになった。
輜重隊に科学技術が導入されていなかったらこの行軍、遅々として進まなかったに違いない。
行軍で一番大変なのが食糧などの荷物を運ぶ輜重隊であることは言うまでもない。
この重労働を軽減するために開発されたのが蒸気機関である。
もちろん、自動車が完成したわけじゃない。
あくまで人力の補助レベルではあるけれど、これはとても評判が良かった。
蒸気機関に歯車繋いで車輪に力を伝える
電気じゃねーしっ!
ともかく、ガタガタ道でともすれば
「兵は神速を
戦争では相手に対応される前に押し切ることができれば勝つ確率がぐっと上がる。
奇襲、急襲など電撃作戦が好まれるのはこの理屈だ。
ゆえに輜重隊は作成遂行のために置き去りにされることがままある。
地球の現代戦でさえ、いまだに補給がなおざりにされることがあるのだから、近代にも届いていないこの世界では「
ああ、いまだにって言ったけど、僕が死んでからの地球はどうなってるのか知らないや。
転生してから二十五年かぁ。
(なにオヤジ臭いこと言ってるのよ。今日は難しい言葉がいっぱい出てきてるんですけど)
歴史オタクの悪い癖だな。
──ってか、それが嫌なら心を読むなよ、リリム。
行軍は順調に進み、森の中を掻き分けるように進んでいたかと思えば木々がまばらになっていき、
関門を出発して八日目のことだった。