第139話 オグマリー市攻城戦 7
文字数 1,980文字
結果だけをいえば、まあ勝ったわけだけど……いやあ危ないとこだった。
僕が離脱するのを最後まで追いかけてきた兵たちがいたことで、敵は本来の目的を思い出してしまったらしく、ズラカルト男爵への伝令に向かうために防衛線を抜けてこようとする兵がちらほらと現れた。
ま、最終防衛ラインは実はチャールズであり、彼は伝説の魔法使いラバナルの直弟子なわけで、一人二人と抜けてくる兵士なんかチョチョイのチョイで倒してしまうんだけどさ。
チャールズを使うことになるとは思わなかった。
ただし、こうした無茶をすることでいたずらに兵力を損耗し、破れる原因になったわけだ。
「報告します」
日が暮れて、晩飯どきにルビンスが配給とともに戦果報告を持ってきた。
それによると敵騎兵八騎、剣兵四十三を討ち取り、八人の捕虜を捕らえたという。
「そのうち騎士は何人だ?」
「はい、二名です。が……」
「……が? どうした?」
「一人は重体、もう一名も今後の復帰が難しい重傷を負っています」
あー、なるほど。
「尋問できるか?」
「なにを尋問なさるのですか?」
「もちろん中の様子だ」
「かしこまりました。あとでこのルビレルが直々に尋問いたしましょう」
「こちらの損耗は?」
「騎兵に二人、歩兵に二十六名の戦死。治療の経過報告はまだ上がってきてはいませんので、もう少し増えるかもしれません」
いくら魔法で治療できるとはいえ、理 を超えた奇跡は起こせないからなぁ。
「判った。さがっていい」
「は」
ルビンスがテントを退出した後、倦怠感 と筋肉痛で動くのもつらい状態で飯を食う。
これは思った以上に厳しい反動だな。
たぶん、腱 や靭帯 もけっこうダメージあるぞ。
今回は正規兵ではあったろうけど単なる一般兵相手だったからいいものの名のある相手、たとえばダイモンドと戦っていたりしたらきっと勝つことはできただろうけど、今頃ベッドに横たわっていたかもしれない。
そういえば、ダイモンドはどうなっただろう?
ルビレルに聞いておけばよかった。
体の悲鳴と格闘しながらようやく食事を終えた頃、チャールズが僕の天幕を訪れた。
「お館様、御 身体 の加減はいかがですか?」
「うん、厳しい」
「では、治癒の魔法を施しましょう」
チャールズには傷病兵の治療を優先してもらっていた。
魔力は有限だ。
治癒の魔法は術者が対象者に働きかけ対象者自身の治癒力を高めるものなので、他の魔法ほど術者の魔力は消費しないというけれど、発動のきっかけは術者の魔力なわけで、例えるならマッチだ。
ろうそくに火をつけるのにマッチを使う。
ろうそくに火がつけば後はろうそく自身が燃え続けてくれる。
しかし、マッチはそのつど消費する。
マッチ箱に入っているマッチの数は限られているからいつかは空になる。
そんなイメージだ。
「今日はご苦労だったな」
問診と触診のあと、治療の魔法陣を描くチャールズを見ながらそう声をかけた。
「お館様には望外 なほどよくしていただいております。むしろ働き足りないくらいですよ」
泣けること言ってくれる。
「……ところで、サビーがご執心のダイモンドはどうなったか知っているか?」
「逃げられたそうです」
「二人がかりだったよな?」
「はい。確かにサビーとルビンス様のお二人で戦われていました」
「それでも討ち取るどころか、取り逃した……」
「そのようです」
マジかよ。
「魔力を通しますので、力を抜いてください」
僕は結 跏 趺 坐 を組む。
高校時代の剣道部の顧問が禅に傾倒していて、しょっちゅうやらされていたいわゆる座禅だ。
瞑目して姿勢を正したら深く呼吸をし、自然を受け入れる。
とか、顧問はいっていた。
やがてチャールズの気配がはっきりと感じ取れるようになり、そこからなにかが体の中に流れ込んでくる……ような気がしてきた。
(あら、すごい。魔力を感じ取ってるの?)
(え? これ、魔力なの? 気じゃなく?)
(えーと、気と魔力はこの世界では似て非なるものなの)
おっと、難しいお話か?
(ざっくりいうとHPとMPね)
(これまた本当にざっくりだな。なろう系小説もびっくりだよ)
(どっちも生命力の根源なんだけど、詳しいことはまだ解明されていないわ)
(神様は知ってるんじゃないのか?)
(知ってるでしょうね)
(じゃあ……)
(神様はあくまで神様よ。この世の理はこの世に生きるものが必要に応じで解明するのが定めじゃ)
なんで最後が生臭坊主 ライクなんだよ。
でも……ま、なんでもかんでも親切丁寧じゃたくましくサバイバルはできないか。
地球の神様に至ってはなんにもしてくれないしな。
(あら、いろいろしてるじゃない)
(え? どんなことさ?)
(呪いとか天変地異とか)
(祟り神を持ち出すな!)
「お館様? 力を抜いて魔力を受け入れてください」
「す、すまない」
(やーい、やーい。怒られてやんのー)
誰のせいだ。
僕が離脱するのを最後まで追いかけてきた兵たちがいたことで、敵は本来の目的を思い出してしまったらしく、ズラカルト男爵への伝令に向かうために防衛線を抜けてこようとする兵がちらほらと現れた。
ま、最終防衛ラインは実はチャールズであり、彼は伝説の魔法使いラバナルの直弟子なわけで、一人二人と抜けてくる兵士なんかチョチョイのチョイで倒してしまうんだけどさ。
チャールズを使うことになるとは思わなかった。
ただし、こうした無茶をすることでいたずらに兵力を損耗し、破れる原因になったわけだ。
「報告します」
日が暮れて、晩飯どきにルビンスが配給とともに戦果報告を持ってきた。
それによると敵騎兵八騎、剣兵四十三を討ち取り、八人の捕虜を捕らえたという。
「そのうち騎士は何人だ?」
「はい、二名です。が……」
「……が? どうした?」
「一人は重体、もう一名も今後の復帰が難しい重傷を負っています」
あー、なるほど。
「尋問できるか?」
「なにを尋問なさるのですか?」
「もちろん中の様子だ」
「かしこまりました。あとでこのルビレルが直々に尋問いたしましょう」
「こちらの損耗は?」
「騎兵に二人、歩兵に二十六名の戦死。治療の経過報告はまだ上がってきてはいませんので、もう少し増えるかもしれません」
いくら魔法で治療できるとはいえ、
「判った。さがっていい」
「は」
ルビンスがテントを退出した後、
これは思った以上に厳しい反動だな。
たぶん、
今回は正規兵ではあったろうけど単なる一般兵相手だったからいいものの名のある相手、たとえばダイモンドと戦っていたりしたらきっと勝つことはできただろうけど、今頃ベッドに横たわっていたかもしれない。
そういえば、ダイモンドはどうなっただろう?
ルビレルに聞いておけばよかった。
体の悲鳴と格闘しながらようやく食事を終えた頃、チャールズが僕の天幕を訪れた。
「お館様、
「うん、厳しい」
「では、治癒の魔法を施しましょう」
チャールズには傷病兵の治療を優先してもらっていた。
魔力は有限だ。
治癒の魔法は術者が対象者に働きかけ対象者自身の治癒力を高めるものなので、他の魔法ほど術者の魔力は消費しないというけれど、発動のきっかけは術者の魔力なわけで、例えるならマッチだ。
ろうそくに火をつけるのにマッチを使う。
ろうそくに火がつけば後はろうそく自身が燃え続けてくれる。
しかし、マッチはそのつど消費する。
マッチ箱に入っているマッチの数は限られているからいつかは空になる。
そんなイメージだ。
「今日はご苦労だったな」
問診と触診のあと、治療の魔法陣を描くチャールズを見ながらそう声をかけた。
「お館様には
泣けること言ってくれる。
「……ところで、サビーがご執心のダイモンドはどうなったか知っているか?」
「逃げられたそうです」
「二人がかりだったよな?」
「はい。確かにサビーとルビンス様のお二人で戦われていました」
「それでも討ち取るどころか、取り逃した……」
「そのようです」
マジかよ。
「魔力を通しますので、力を抜いてください」
僕は
高校時代の剣道部の顧問が禅に傾倒していて、しょっちゅうやらされていたいわゆる座禅だ。
瞑目して姿勢を正したら深く呼吸をし、自然を受け入れる。
とか、顧問はいっていた。
やがてチャールズの気配がはっきりと感じ取れるようになり、そこからなにかが体の中に流れ込んでくる……ような気がしてきた。
(あら、すごい。魔力を感じ取ってるの?)
(え? これ、魔力なの? 気じゃなく?)
(えーと、気と魔力はこの世界では似て非なるものなの)
おっと、難しいお話か?
(ざっくりいうとHPとMPね)
(これまた本当にざっくりだな。なろう系小説もびっくりだよ)
(どっちも生命力の根源なんだけど、詳しいことはまだ解明されていないわ)
(神様は知ってるんじゃないのか?)
(知ってるでしょうね)
(じゃあ……)
(神様はあくまで神様よ。この世の理はこの世に生きるものが必要に応じで解明するのが定めじゃ)
なんで最後が
でも……ま、なんでもかんでも親切丁寧じゃたくましくサバイバルはできないか。
地球の神様に至ってはなんにもしてくれないしな。
(あら、いろいろしてるじゃない)
(え? どんなことさ?)
(呪いとか天変地異とか)
(祟り神を持ち出すな!)
「お館様? 力を抜いて魔力を受け入れてください」
「す、すまない」
(やーい、やーい。怒られてやんのー)
誰のせいだ。