第156話 グリフ族代表団
文字数 2,276文字
「最悪、ですか?」
「ああ、最悪だ」
「どのあたりがですか?」
チローに説明したことをかいつまんでいうと、
不平等であることがバレた。
そのことに対して怒ってる。
ってことだ。
「強いものが弱いものに強いるって、そんなにダメですか?」
うん、絶対ダメなことじゃあないね。
「今回の件は『仲良くしようね』って話なのだよ。しかも、商売の話だ。さらに持ちかけたのがこちら側」
「あー、信用の問題ですね」
チローも頭の回転が早くての見込みがいい。
「この条約は我々が往来の安全と希少価値の高い商品の取引をしたくて持ちかけている。グリフ族は別に我々と取引などしなくてもいい立場なんだ」
「むしろこちらの立場の方が弱いじゃないですか」
ん? むむ……そうだね。
そこにドアをノックする音がした。
チローがさっとドアを開ける。
そこにはオギンが立っていた。
「グリフ族の代表団が到着しました」
ようやくか。
「一行の機嫌はどうだ?」
「あの容貌ですので、測りかねるところはありますが、よくはないかと」
「あの」と言われても、僕は会ったことないしな。
「とりあえず、最上級の歓待で応じておくように。会談は明日の午前中で調整してくれ」
「かしこまりました」
「ああ、オギン」
退出しようとした彼女を呼び止めた僕は、アゴでチローをさしてこういう。
「役に立つはずだ、連れていけ」
実は最近、僕はチローをかなり重用している。
元はホルスの世話をする馬丁だ。
しかしこのチロー、頭の回転が早く物分かりがいいだけじゃなく人の機微に敏感なのである。
ということで最近は普段身の回りの世話を任せ、必要に応じてこうして便利に使わせてもらっている。
はたして翌日、チローはグリフ族の様子をかなり細かく報告してくれた。
うん、相当険悪なようだ。
「はぁ……」
ため息しか出ない。
足取りも重く、会談を行う会見場に向かう。
代表団を四半時間前に会場に案内しておいて、僕らは八半時間を切ったら会場に向かう。
入り口の前で営業スマイルを作ったら、ことさらなにごともなかったかのように明るくこういうんだ。
「いやあ、すまない。待たせたかな?」
そこにはグリフ代表団七名がいた。
人族との交流が比較的活発なナルフ族やドゥワルフ族は特徴的な部分はあってもあまり異種族感を感じないという。
実際、ナルフのラバナルはとがった耳をのぞけば人との身体的違いはほとんどない。
けど、グリフ族は明らかにその身体的特徴が違う。
全身が静脈が透けて見えているような青白い肌で覆われていて、足が短く手が地面に届くほど長い。
九十年代に流行ったアニメのキャラのように顔の半分くらいあるんじゃないかっていう大きな目をしていて、頭の上にケモ耳が乗っている。
しかも、女性四人はみんな風船おっぱいだ。
チローから事前にレクチャーされてなかったら営業スマイルもひきつってたかもしれない。
にこやかに笑いながらも僕はしっかり代表団を観察する。
団長は中央に座っている男でいいな。
両脇に女が座っていて、その後ろに残りの四人が立っている。
どうやらこの四人が護衛役だ。
ということは両脇の女は文官か?
なんだよ、グリフ族の方がジェンダーフリーが進んでんのか。
僕が席につくと後ろにオギンとキャラが控え、チローが目の前で飲み物を注いでくれる。
こちらの人数を減らしたのは配慮だ。
「改めてオグマリー区領主ジャン・ロイだ。わざわざ足を運んでいただいて礼をいう」
「リュ・ホゥだ。世辞などいい。とっとと本題に入るぞ」
こりゃすごい。
人族が言語体系の参考にしたというナルフ語と違ってグリフ語は起源がまるで違っていると事前に聞いていた。
そんなグリフ族の代表が硬いとはいえ綺麗な人 語 を話してくるなんて、なかなかどうしてインテリじゃないか。
「そうか。では、まずはこちらから謝らなければいけないことがある」
「謝る?」
「この通商条約の交渉に際して、私の預かり知らぬところでそちらに対してずいぶん失礼なことをしていたようだ。すまなかった」
「どういうことだ?」
毒気が抜かれたような顔になったぞ。
よし、先制攻撃としてはかなり有効だったとみえる。
一気にたたみかけられるか?
僕は、交渉の経緯と諸事情による不慮の交渉担当交代を説明して改めて遺憾の意を表明する。
「なるほど。経緯は判りました。謝罪も受け入れましょう。で? どうするおつもりか?」
リュの右隣の女性がいう。
こういっちゃなんだが、見た目(九十年代美少女アニメキャラ)に反して理知的ですな。
人語も流暢 だし。
とにかくなんとか理性的に軌道修正ができそうだ。
しかし、なんだな。
人相手よりグリフ族相手の方が対話による解決ができそうとか、人族終わってないか?
「条約の軌道修正をして、改めて通商条約の締結をお願いしたい」
「いいだろう」
意思の疎通ができたところで僕らはそれぞれに問題だと思われる箇所、修正したい箇所を出し合った。
するとやっぱり僕が問題になるだろうと思った箇所が出るわ出るわで、まいったね、こりゃ。
「待ってくれ。これほどしっかり問題点が把握できていてどうてこんな条文で締結しようと思ったんだ?」
「それは交渉担当が無能だったからですよ」
と、冷たく答えたのはリュの左隣の女性だ。
いやん、辛辣。
「担当したものは要職を降ろした。一族のためにならんからな」
そうね、出来ない人に任せることほど危険なことはないよね。
今回は件はホント、争いになりかねなかった。
「しかし、これは問題点が多いな……」
タフな交渉になりそうだ。
「ああ、最悪だ」
「どのあたりがですか?」
チローに説明したことをかいつまんでいうと、
不平等であることがバレた。
そのことに対して怒ってる。
ってことだ。
「強いものが弱いものに強いるって、そんなにダメですか?」
うん、絶対ダメなことじゃあないね。
「今回の件は『仲良くしようね』って話なのだよ。しかも、商売の話だ。さらに持ちかけたのがこちら側」
「あー、信用の問題ですね」
チローも頭の回転が早くての見込みがいい。
「この条約は我々が往来の安全と希少価値の高い商品の取引をしたくて持ちかけている。グリフ族は別に我々と取引などしなくてもいい立場なんだ」
「むしろこちらの立場の方が弱いじゃないですか」
ん? むむ……そうだね。
そこにドアをノックする音がした。
チローがさっとドアを開ける。
そこにはオギンが立っていた。
「グリフ族の代表団が到着しました」
ようやくか。
「一行の機嫌はどうだ?」
「あの容貌ですので、測りかねるところはありますが、よくはないかと」
「あの」と言われても、僕は会ったことないしな。
「とりあえず、最上級の歓待で応じておくように。会談は明日の午前中で調整してくれ」
「かしこまりました」
「ああ、オギン」
退出しようとした彼女を呼び止めた僕は、アゴでチローをさしてこういう。
「役に立つはずだ、連れていけ」
実は最近、僕はチローをかなり重用している。
元はホルスの世話をする馬丁だ。
しかしこのチロー、頭の回転が早く物分かりがいいだけじゃなく人の機微に敏感なのである。
ということで最近は普段身の回りの世話を任せ、必要に応じてこうして便利に使わせてもらっている。
はたして翌日、チローはグリフ族の様子をかなり細かく報告してくれた。
うん、相当険悪なようだ。
「はぁ……」
ため息しか出ない。
足取りも重く、会談を行う会見場に向かう。
代表団を四半時間前に会場に案内しておいて、僕らは八半時間を切ったら会場に向かう。
入り口の前で営業スマイルを作ったら、ことさらなにごともなかったかのように明るくこういうんだ。
「いやあ、すまない。待たせたかな?」
そこにはグリフ代表団七名がいた。
人族との交流が比較的活発なナルフ族やドゥワルフ族は特徴的な部分はあってもあまり異種族感を感じないという。
実際、ナルフのラバナルはとがった耳をのぞけば人との身体的違いはほとんどない。
けど、グリフ族は明らかにその身体的特徴が違う。
全身が静脈が透けて見えているような青白い肌で覆われていて、足が短く手が地面に届くほど長い。
九十年代に流行ったアニメのキャラのように顔の半分くらいあるんじゃないかっていう大きな目をしていて、頭の上にケモ耳が乗っている。
しかも、女性四人はみんな風船おっぱいだ。
チローから事前にレクチャーされてなかったら営業スマイルもひきつってたかもしれない。
にこやかに笑いながらも僕はしっかり代表団を観察する。
団長は中央に座っている男でいいな。
両脇に女が座っていて、その後ろに残りの四人が立っている。
どうやらこの四人が護衛役だ。
ということは両脇の女は文官か?
なんだよ、グリフ族の方がジェンダーフリーが進んでんのか。
僕が席につくと後ろにオギンとキャラが控え、チローが目の前で飲み物を注いでくれる。
こちらの人数を減らしたのは配慮だ。
「改めてオグマリー区領主ジャン・ロイだ。わざわざ足を運んでいただいて礼をいう」
「リュ・ホゥだ。世辞などいい。とっとと本題に入るぞ」
こりゃすごい。
人族が言語体系の参考にしたというナルフ語と違ってグリフ語は起源がまるで違っていると事前に聞いていた。
そんなグリフ族の代表が硬いとはいえ綺麗な
「そうか。では、まずはこちらから謝らなければいけないことがある」
「謝る?」
「この通商条約の交渉に際して、私の預かり知らぬところでそちらに対してずいぶん失礼なことをしていたようだ。すまなかった」
「どういうことだ?」
毒気が抜かれたような顔になったぞ。
よし、先制攻撃としてはかなり有効だったとみえる。
一気にたたみかけられるか?
僕は、交渉の経緯と諸事情による不慮の交渉担当交代を説明して改めて遺憾の意を表明する。
「なるほど。経緯は判りました。謝罪も受け入れましょう。で? どうするおつもりか?」
リュの右隣の女性がいう。
こういっちゃなんだが、見た目(九十年代美少女アニメキャラ)に反して理知的ですな。
人語も
とにかくなんとか理性的に軌道修正ができそうだ。
しかし、なんだな。
人相手よりグリフ族相手の方が対話による解決ができそうとか、人族終わってないか?
「条約の軌道修正をして、改めて通商条約の締結をお願いしたい」
「いいだろう」
意思の疎通ができたところで僕らはそれぞれに問題だと思われる箇所、修正したい箇所を出し合った。
するとやっぱり僕が問題になるだろうと思った箇所が出るわ出るわで、まいったね、こりゃ。
「待ってくれ。これほどしっかり問題点が把握できていてどうてこんな条文で締結しようと思ったんだ?」
「それは交渉担当が無能だったからですよ」
と、冷たく答えたのはリュの左隣の女性だ。
いやん、辛辣。
「担当したものは要職を降ろした。一族のためにならんからな」
そうね、出来ない人に任せることほど危険なことはないよね。
今回は件はホント、争いになりかねなかった。
「しかし、これは問題点が多いな……」
タフな交渉になりそうだ。