第321話 上を取る
文字数 2,376文字
砦というのは辞書によれば「外敵を防ぐために築造した建造物」のことだ。
その機能の大半は城壁で守って外敵を追い払うことに振り分けられているが砦の中も外敵を迎え撃つために設計されている。
道は狭く複雑に入り組んでいるので常に待ち伏せへの警戒を余儀なくされるし、道に迷って攻略も難しい。
というのが一般的な中世の砦攻めだ。
しかし、僕には若干の近代戦に対する知識があるし、それを実行できるだけの人材と技術力を有している。
砦の中に雪崩れ込んだ僕 軍はまず最初に城壁の上を目指す。
その際に役に立つのが鉄の 弾丸 の魔法を再現した魔道具小銃を持つ魔法兵(銃兵)と単体で魔法を使える魔法兵だ。
彼らは我が領内で確立した試験によって魔法適性を見出された魔法使いで、魔力を自力で操作できて魔法を行使できる魔法使いと魔力感応力があるだけの感応者とに区別をされている。
感応者はあらかじめ刻まれた魔法陣に魔力を通すことができるものをいい、その魔力量によってさらに三階級に分けられていて一級、二級の感応者が銃兵として従軍しているのだ。
ちなみに三級の感応者は生活魔道具の起動ならできるものたちの階級だ。
さらに余談だけれども一級の感応者の一部は魔法兵の補助として通信任務などにも割り振られている。
それはともかく、彼らは攻城戦においてひとたび城内に侵入した際は歩兵の護衛に守られつつ、攻撃部隊として城壁上の制圧任務を任される存在である。
小銃は元込め式で装填と同時に魔力を流せばほぼ間をおかずに発射できる速射性に優れた魔道具に改良されており、銃身に刻まれた旋条 よって回転しながら射出される椎の実型の弾丸は長射程と高い殺傷力を実現しているため、至近距離での発砲なら条件次第で一度に数人の敵兵を撃ち倒すことができるほどだ。
この近代兵器然とした魔道具が数を揃えて実践投入できるようになったのも適性試験によって使用者を発掘できるようになったから。
そこにさまざまな魔法を行使できる魔法使いもいるのだから、その制圧力はおそらく周辺領主の戦力を圧倒していることはまず間違いない。
特にラバナルとチャールズによって少ない魔力で効率よく魔法を行使できるように魔法陣に改良が加えられたことによって多様な魔法を臨機応変に行使できる魔法兵は戦術上すこぶる汎用性が高く、今回も火の 弾丸 や闇 、鎌鼬を起こす魔法の真空 刃 などを適時使い分けて城壁上の制圧に貢献してくれた。
「お館様。城壁の上、制圧完了の報告が届きました」
僕はウータを指揮官として地上に残しチャールズ、アゲールらに弓兵を伴って上にのぼる。
制圧の完了した城壁上は投降兵を歩兵が順次武装解除させていたが、その数は倒れている死体より少ないようだ。
「アゲール」
「ここに」
「砦の内部について知っていることを」
「さればこちらは裏門にあたり主に居住区画となっております。足下の建物が兵舎、その隣が工房、通りを挟んであれが砦の生活を支える住人の居住区となっております」
砦といえど兵士だけが詰めているわけじゃない。
常に武具防具の手入れ補修、補充をするための工房には職人がおり、彼らの家族なども住んでいる。
一応、戦う意志のないものを無闇に殺すなとは厳命しているが、乱戦となれば間違うこともあるだろうし血がたぎってやりすぎてしまうものが出ないとも限らない。
「アゲール、チャールズ。一般居住区から兵を退かせろ。兵舎方面からも半分前線へ送り込め」
「兵舎区画にはまだ多くの敵兵が抗戦しているようですが」
「ここから狙えぬか?」
「なるほど。味方の兵は少ない方がよろしいですな」
「さすがチャールズだ。狙撃の指揮はお前に任す」
「御意」
「アゲール、指示を急げ」
「実行します 」
なにそれ、かっこいい。
あれ?
でもそれ、この世界の言葉じゃないよな。
……いや、今は後回しだ。
「前線の状況は?」
「圧してはいますが数の有利を活かせないため制圧には時間がかかりそうかと」
夕刻まで三時間余りってところだろうか?
サビーやガーブラなど一騎当千の武将がいるあたりは上から見ていて鎧袖一触、圧しているのがよく判るが、一般兵同士の戦闘はともすれば膠着しているふうにも見える。
ラバナルは……魔法使いのくせに最前線で戦ってんじゃねーの?
とはいえ今の戦況だと日暮れまでに陥すのは少々難しいかもしれない。
「チャールズ」
「はい」
「魔法部隊を三組屋上伝いに前線に送り込み制空権を支配させろ」
「銃兵は?」
「兵舎区画の制圧優先」
「優先させます」
「指示出し終わりました。ウータ殿が手すきになったので指示を仰いでおります」
うん、もう少し自己判断力を養ってもらいたいところだが、今はちょうどいい。
「一般居住区画に対して投降を呼びかけさせろ」
「ウィルコ」
魔法兵が三組、屋根の上を飛ぶように移動していくのを見送りつつ、少し人数が少ないかと気になったので弓兵の半分を二手に分けて城壁伝いに前線に向かわせる。
「歩兵、なにをしている!? 弓兵の後を追え」
僕が指示を出すまでもなくアゲールの叱咤が兵たちの尻を叩く。
兵卒ではあってもそれぞれに寝返り組のアゲールに対して思うところはあるだろうけど、指揮官としての指示は間違っていないので唯々諾々と従う。
よく訓練された兵たちだ。
制空権を完全に支配したことで各所で地上戦の不利を覆していく。
抵抗圧力が弱まれば一騎当千の武将でなくても戦場を制圧することができる。
そもそも数的有利な我が軍がいずれ勝利をもぎ取ることは最初から決していた。
さて、最後のひと押しといこうか。
「チャールズ」
「はい」
「能力向上 」
「御意」
ああ、使いたくない使いたくないといいながら要所要所で頼ってるんだから、困ったものだ。
ま、いいや。
魔法で向上した身体能力で屋上をスカイウォークだ。
その機能の大半は城壁で守って外敵を追い払うことに振り分けられているが砦の中も外敵を迎え撃つために設計されている。
道は狭く複雑に入り組んでいるので常に待ち伏せへの警戒を余儀なくされるし、道に迷って攻略も難しい。
というのが一般的な中世の砦攻めだ。
しかし、僕には若干の近代戦に対する知識があるし、それを実行できるだけの人材と技術力を有している。
砦の中に雪崩れ込んだ
その際に役に立つのが
彼らは我が領内で確立した試験によって魔法適性を見出された魔法使いで、魔力を自力で操作できて魔法を行使できる魔法使いと魔力感応力があるだけの感応者とに区別をされている。
感応者はあらかじめ刻まれた魔法陣に魔力を通すことができるものをいい、その魔力量によってさらに三階級に分けられていて一級、二級の感応者が銃兵として従軍しているのだ。
ちなみに三級の感応者は生活魔道具の起動ならできるものたちの階級だ。
さらに余談だけれども一級の感応者の一部は魔法兵の補助として通信任務などにも割り振られている。
それはともかく、彼らは攻城戦においてひとたび城内に侵入した際は歩兵の護衛に守られつつ、攻撃部隊として城壁上の制圧任務を任される存在である。
小銃は元込め式で装填と同時に魔力を流せばほぼ間をおかずに発射できる速射性に優れた魔道具に改良されており、銃身に刻まれた
この近代兵器然とした魔道具が数を揃えて実践投入できるようになったのも適性試験によって使用者を発掘できるようになったから。
そこにさまざまな魔法を行使できる魔法使いもいるのだから、その制圧力はおそらく周辺領主の戦力を圧倒していることはまず間違いない。
特にラバナルとチャールズによって少ない魔力で効率よく魔法を行使できるように魔法陣に改良が加えられたことによって多様な魔法を臨機応変に行使できる魔法兵は戦術上すこぶる汎用性が高く、今回も
「お館様。城壁の上、制圧完了の報告が届きました」
僕はウータを指揮官として地上に残しチャールズ、アゲールらに弓兵を伴って上にのぼる。
制圧の完了した城壁上は投降兵を歩兵が順次武装解除させていたが、その数は倒れている死体より少ないようだ。
「アゲール」
「ここに」
「砦の内部について知っていることを」
「さればこちらは裏門にあたり主に居住区画となっております。足下の建物が兵舎、その隣が工房、通りを挟んであれが砦の生活を支える住人の居住区となっております」
砦といえど兵士だけが詰めているわけじゃない。
常に武具防具の手入れ補修、補充をするための工房には職人がおり、彼らの家族なども住んでいる。
一応、戦う意志のないものを無闇に殺すなとは厳命しているが、乱戦となれば間違うこともあるだろうし血がたぎってやりすぎてしまうものが出ないとも限らない。
「アゲール、チャールズ。一般居住区から兵を退かせろ。兵舎方面からも半分前線へ送り込め」
「兵舎区画にはまだ多くの敵兵が抗戦しているようですが」
「ここから狙えぬか?」
「なるほど。味方の兵は少ない方がよろしいですな」
「さすがチャールズだ。狙撃の指揮はお前に任す」
「御意」
「アゲール、指示を急げ」
「
なにそれ、かっこいい。
あれ?
でもそれ、この世界の言葉じゃないよな。
……いや、今は後回しだ。
「前線の状況は?」
「圧してはいますが数の有利を活かせないため制圧には時間がかかりそうかと」
夕刻まで三時間余りってところだろうか?
サビーやガーブラなど一騎当千の武将がいるあたりは上から見ていて鎧袖一触、圧しているのがよく判るが、一般兵同士の戦闘はともすれば膠着しているふうにも見える。
ラバナルは……魔法使いのくせに最前線で戦ってんじゃねーの?
とはいえ今の戦況だと日暮れまでに陥すのは少々難しいかもしれない。
「チャールズ」
「はい」
「魔法部隊を三組屋上伝いに前線に送り込み制空権を支配させろ」
「銃兵は?」
「兵舎区画の制圧優先」
「優先させます」
「指示出し終わりました。ウータ殿が手すきになったので指示を仰いでおります」
うん、もう少し自己判断力を養ってもらいたいところだが、今はちょうどいい。
「一般居住区画に対して投降を呼びかけさせろ」
「ウィルコ」
魔法兵が三組、屋根の上を飛ぶように移動していくのを見送りつつ、少し人数が少ないかと気になったので弓兵の半分を二手に分けて城壁伝いに前線に向かわせる。
「歩兵、なにをしている!? 弓兵の後を追え」
僕が指示を出すまでもなくアゲールの叱咤が兵たちの尻を叩く。
兵卒ではあってもそれぞれに寝返り組のアゲールに対して思うところはあるだろうけど、指揮官としての指示は間違っていないので唯々諾々と従う。
よく訓練された兵たちだ。
制空権を完全に支配したことで各所で地上戦の不利を覆していく。
抵抗圧力が弱まれば一騎当千の武将でなくても戦場を制圧することができる。
そもそも数的有利な我が軍がいずれ勝利をもぎ取ることは最初から決していた。
さて、最後のひと押しといこうか。
「チャールズ」
「はい」
「
「御意」
ああ、使いたくない使いたくないといいながら要所要所で頼ってるんだから、困ったものだ。
ま、いいや。
魔法で向上した身体能力で屋上をスカイウォークだ。