第67話 個別指導による楽しい化学講座歴史篇(え?
文字数 2,180文字
「では、こちらから質問させてください」
先手必勝。
「なぜ五百年もの間、人との交流を絶って森に棲んでいたのですか?」
「単に人族が嫌いだからじゃよ。なにか問題でも?」
う……なにも言い返せない。
「こちらからの質問じゃ。五百年の間になにが起きた?」
こりゃまた等価交換とは言えない質問だな。
いやいや、ほんとにやりにくい相手だ。
クソが。
そうか!
「じゃあ、こちら人族の五百年の歴史をお話ししますので、あなたが森に住むようになった経緯から今日までをお話ししてください」
「ふむ、それは正しき等価交換。では、ワシが先に話すとしよう」
ラバナルの話すところによれば遡ること六百年前、若きラバナルが古臭いナルフ族のしきたりを嫌って村を飛び出した後、大陸各地を旅してた。
旅の道々で当時の人族と交流を持ち、時にはドゥワルフ族とも誼 を通じていたそうな。
ちなみにドゥワルフとナルフは相性がよろしくないと物の本には書いていた。
もっともドゥワルフ族とオルグ族のように合えば殺しあうような中の悪さじゃなく、なんとなくいけ好かないって間柄のようだ。
そのうち人族の使う魔法に興味を持ち出した。
人族の魔法は生命力の根源と定義されている魔力を呪 によって顕現させる技だが、ナルフ族の魔法は人族からは一般に精霊魔法と呼ばれ、精霊から力を分け与えられて業 を使う。
人族の魔法と精霊魔法は相性が悪く……というか精霊が人族の魔法を嫌っているようで、魔法を使えるようになる代償として異端・闇落ちしたようだ。
まぁ、元々ナルフ族のしきたりが嫌で村を飛び出したくらいだし、そこは気にしていないようだけど、とにもかくにも魔法適性が高くて当時の魔法を瞬く間に習得していったという。
やがて一通り覚えたラバナルは実際に使ってみたくなって、人族の争いに加わっては魔法を行使していたらしい。
…………。
はた迷惑な。
やがて、負けた人族の反感を買ってお尋ね者に。
それで人間嫌いになって逆ギレ。
逆襲された人族は互いに争うのをやめ、団結して反攻。
戦力が拮抗したところで五年もの間膠 着 。
やがて戦いに疲れた双方がラバナルはこの森を出ないこと、人族は森を侵さないこと、という条件で停戦。
以来、五百年が過ぎたということだ。
なんでこんなところに村があるかと思えば、ここは対ラバナルの最前線基地だったのか……。
建国記にあった、悪の魔法使いと建国王の逸話は史実とされるものよりはるかに暴力的だったわ。
建国王を英雄にみせるための脚色、相当苦労しただろうな。
「ほれ、今度はそちらの番じゃ」
ラバナルに促されて、今度は僕が話す番か?
「森にこもってからの五百年は?」
「特になにもしとらん。しいて言えば、森に侵入する人族に魔法を放っていたくらいじゃ」
…………。
「ほれ、さっさと話さんか」
「……ラバナルとの戦いで団結した人族はリーダーとなった人物を国王にした王国を作り、領土を拡大していく。その過程で人族同士が戦うわけだけど、必要は発明の母って言ってね。しょっちゅう戦っていると、より強い武器、より硬い防具が欲しくなるわけだ」
「ふむふむ」
「やがて銅と錫 の合金である青銅器ではなく、どこにでも存在していて大量生産できる鉄器の時代になる」
「そこが判らんのだ。ともすれば石器より柔らかい純銅はともかく、錫を混ぜて強化した青銅がどうして鉄などという軟弱なものに駆逐されるのじゃ?」
はいはいはい。
オタクゴコロが刺激されますな。
「ラバナルの知っている鉄は今、僕たちが使っている鉄とは違うんだ」
「なに!? 鉄は鉄じゃろ」
「今、僕らが使っているのは鋼 と呼ばれる鉄なんだ」
と、オタク知識をひけらかす。
物質には融点(液化する温度)と沸点(気化する温度)というのがある。
金属を加工する場合、融点が一つのポイントになる。
錫でだいたい二三〇度、銅が一〇八五度。
そしてなぜか銅と錫の合金である青銅は八七五度で融ける。
木炭は燃焼温度が一〇〇〇度になるので十分加工できる。
「その数字はどうやって決めておるのじゃ?」
「あ……うん、とりあえず気にしないで」
「気になるじゃろ。普通に」
「それは等価交換外です」
「うぬ、仕方ない」
「で、鉄は一五〇〇度以上にならないと融けないんだけど、実は五〇〇度くらいに熱すると加工できるようになる。これが、ラバナルの知っている鉄だ」
あ、温度は全部「約」だよ。
「この鉄をガンガン叩くと火花が散る」
「うむ」
「この火花、実は不純物でね」
「不純物?」
「鉄以外のもの」
「なるほど、不純物を叩き出すと純鉄になるわけじゃの?」
「純鉄は実は青銅とそんなに硬さが違わないんだけど、適度に炭素が混ざっていると青銅の倍ほども硬くなる。これを人族は鋼と呼んでいる」
うーん……前世の単語と科学知識がドバドバ入っているけど、これは理解できてるのでしょうか?
ちなみにこれは前世で現代に入ってからの化学知識てあって、
「理解できん単語がいくつかあるが、つまりはちゃんとした鉄の加工技術を手に入れたということじゃな」
さすがは魔法使い。
地頭がよろしいようで。
「で?」
で?
「続きじゃよ」
ああ。
いいでしょう。
僕たちの置かれている現状まで一気に話してあげようじゃないか。
先手必勝。
「なぜ五百年もの間、人との交流を絶って森に棲んでいたのですか?」
「単に人族が嫌いだからじゃよ。なにか問題でも?」
う……なにも言い返せない。
「こちらからの質問じゃ。五百年の間になにが起きた?」
こりゃまた等価交換とは言えない質問だな。
いやいや、ほんとにやりにくい相手だ。
クソが。
そうか!
「じゃあ、こちら人族の五百年の歴史をお話ししますので、あなたが森に住むようになった経緯から今日までをお話ししてください」
「ふむ、それは正しき等価交換。では、ワシが先に話すとしよう」
ラバナルの話すところによれば遡ること六百年前、若きラバナルが古臭いナルフ族のしきたりを嫌って村を飛び出した後、大陸各地を旅してた。
旅の道々で当時の人族と交流を持ち、時にはドゥワルフ族とも
ちなみにドゥワルフとナルフは相性がよろしくないと物の本には書いていた。
もっともドゥワルフ族とオルグ族のように合えば殺しあうような中の悪さじゃなく、なんとなくいけ好かないって間柄のようだ。
そのうち人族の使う魔法に興味を持ち出した。
人族の魔法は生命力の根源と定義されている魔力を
人族の魔法と精霊魔法は相性が悪く……というか精霊が人族の魔法を嫌っているようで、魔法を使えるようになる代償として異端・闇落ちしたようだ。
まぁ、元々ナルフ族のしきたりが嫌で村を飛び出したくらいだし、そこは気にしていないようだけど、とにもかくにも魔法適性が高くて当時の魔法を瞬く間に習得していったという。
やがて一通り覚えたラバナルは実際に使ってみたくなって、人族の争いに加わっては魔法を行使していたらしい。
…………。
はた迷惑な。
やがて、負けた人族の反感を買ってお尋ね者に。
それで人間嫌いになって逆ギレ。
逆襲された人族は互いに争うのをやめ、団結して反攻。
戦力が拮抗したところで五年もの間
やがて戦いに疲れた双方がラバナルはこの森を出ないこと、人族は森を侵さないこと、という条件で停戦。
以来、五百年が過ぎたということだ。
なんでこんなところに村があるかと思えば、ここは対ラバナルの最前線基地だったのか……。
建国記にあった、悪の魔法使いと建国王の逸話は史実とされるものよりはるかに暴力的だったわ。
建国王を英雄にみせるための脚色、相当苦労しただろうな。
「ほれ、今度はそちらの番じゃ」
ラバナルに促されて、今度は僕が話す番か?
「森にこもってからの五百年は?」
「特になにもしとらん。しいて言えば、森に侵入する人族に魔法を放っていたくらいじゃ」
…………。
「ほれ、さっさと話さんか」
「……ラバナルとの戦いで団結した人族はリーダーとなった人物を国王にした王国を作り、領土を拡大していく。その過程で人族同士が戦うわけだけど、必要は発明の母って言ってね。しょっちゅう戦っていると、より強い武器、より硬い防具が欲しくなるわけだ」
「ふむふむ」
「やがて銅と
「そこが判らんのだ。ともすれば石器より柔らかい純銅はともかく、錫を混ぜて強化した青銅がどうして鉄などという軟弱なものに駆逐されるのじゃ?」
はいはいはい。
オタクゴコロが刺激されますな。
「ラバナルの知っている鉄は今、僕たちが使っている鉄とは違うんだ」
「なに!? 鉄は鉄じゃろ」
「今、僕らが使っているのは
と、オタク知識をひけらかす。
物質には融点(液化する温度)と沸点(気化する温度)というのがある。
金属を加工する場合、融点が一つのポイントになる。
錫でだいたい二三〇度、銅が一〇八五度。
そしてなぜか銅と錫の合金である青銅は八七五度で融ける。
木炭は燃焼温度が一〇〇〇度になるので十分加工できる。
「その数字はどうやって決めておるのじゃ?」
「あ……うん、とりあえず気にしないで」
「気になるじゃろ。普通に」
「それは等価交換外です」
「うぬ、仕方ない」
「で、鉄は一五〇〇度以上にならないと融けないんだけど、実は五〇〇度くらいに熱すると加工できるようになる。これが、ラバナルの知っている鉄だ」
あ、温度は全部「約」だよ。
「この鉄をガンガン叩くと火花が散る」
「うむ」
「この火花、実は不純物でね」
「不純物?」
「鉄以外のもの」
「なるほど、不純物を叩き出すと純鉄になるわけじゃの?」
「純鉄は実は青銅とそんなに硬さが違わないんだけど、適度に炭素が混ざっていると青銅の倍ほども硬くなる。これを人族は鋼と呼んでいる」
うーん……前世の単語と科学知識がドバドバ入っているけど、これは理解できてるのでしょうか?
ちなみにこれは前世で現代に入ってからの化学知識てあって、
この世界の現代人
は経験的にこう
すればこう
なると理解しているに過ぎない。「理解できん単語がいくつかあるが、つまりはちゃんとした鉄の加工技術を手に入れたということじゃな」
さすがは魔法使い。
地頭がよろしいようで。
「で?」
で?
「続きじゃよ」
ああ。
いいでしょう。
僕たちの置かれている現状まで一気に話してあげようじゃないか。