第148話 国家戦略会議 2 そこまで人材不足とは思わなかった

文字数 1,984文字

 会議は午後から本格化する。
 まずは人材のリストアップから。
 各町の行政官の中から使える人間、使えない人間を振り分ける。
 文官なのにろくに掛け算もできないなんて奴が実際いるんだから家柄だけで就職できてしまう貴族政治は困る。
 ひどいのになると自分の名前をかけるだけなんてのがいるってんだから、日本の戦国時代もびっくりだ。
 言っとくが戦国時代は下剋上とかで学習機会のなかったようなのが出世したりするから大名でも読み書きができない人物がいたんであって、平時の貴族や騎士が文盲なのとは全然違うからな。
 じゃあ、そんな奴らはどうやって日々の職務を遂行するかといえば家臣に丸投げしてるんだって。
 ってことは、その家臣は有能なんじゃね?

「まあ、行政が回っていたんですからそうなんでしょうな」

 とか、他人事のようにいうサイのぶっちゃけ具合が怖い。
 その有能さとチカマックの覚えめでたきで黙らせてきたんだろうな。
 仲間内で嫌われてんじゃねぇの?
 それはともかく、それこそ平時なら目を瞑っていられても乱世でそんな使えないのはいらないわけで、この際盛大にリストラしてしまおう。

 …………。

(なによ?)

(うん、前世のトラウマが……)

 なんて言っていられるわけもない。

「アンミリーヤ」

「はい」

「ウータ、と話し合って事務官採用試験の問題を作成してくれ」

「どれくらいの水準を求めているのですか?」

「ウータを基準にしろ」

「それは水準が高すぎますよ」

 僕もそう思うよ、サイ。

「同水準は求めていない。採用基準は七割だ。七割正答できれば採用としろ」

「必要人数に届かなかった場合はどういたしますか?」

 届かない可能性があるのか!?

「何人必要なんだ?」

「町の規模にもよるでしょうが、現在の人員程度は必要かと」

 オクサが淡々と答える。

「……オクサ」

「はい」

「必要人員に届かないと思っているんだな?」

「はい」

「ウータもサイもそう思っているのか?」

「おそれながら」

 と、サイがいい、ウータもうなずく。
 ま・じ・かっ!
 イラードが忍び笑いをしている。

「バロ村は十に満たない人数で回っていたぞ」

「村と町は違います」

 そりゃそうだけど……。

「七割を合格水準とするなら定員にどれほど足りないと予測している?」

「半分にも満たないかと」

 なに!?

「じゃあ、合格ラインを何割に設定するべきだと考えているんだ?」

「過半を越えれば合格ということで……」

「低すぎる!」

 思わず叫んじゃったよ。
 ウータはかなりの能吏だ。
 それでも天才的とまでは思わない。
 サイが少し上、オクサが頭ひとつ出ていてたぶんイラードと同等というのが僕の見立てだけど、これはこの世界の基準であって僕の求める水準じゃない。
 実務を任せるのにウータの半分じゃ僕の目指す水準までの効率化は不可能だ。

「今の行政がその水準以下で回っているのだとするなら、七割ウータで滞りなく回せるはず、いや、回して見せろ!」

 あー、ブラック上司だよ完全に。

(なに? 自己嫌悪?)

(……うん)

 心の中は反省しきりでも、それを表情には絶対出さないぞ。
 ルダーは今にも吹き出しそうだけど。
 いや、ここに盛大に吹き出した男がいる。
 イラードだ。

「さすがはお館様。不効率を改善すればお館様のお見立て通りに実務を回せましょう。このイラードがきっと回してみせてご覧に入れます」

 言うね。

「任せた」

「お任せあれ」

 …………。

「イラード」

「はっ!」

には内務大臣の任を与える。存分に腕を振るうがいい」

「ありがたき幸せ」

「ただし、必ず僕に裁可をあおげ。独断は許さん」

「過去の轍は踏みませぬ」

 ボット村の一件は、イラード自身十分に反省しているようだ。
 ついでに各町の行政長官を任命しとこう。

「あわせてサイにハンジー町の、オクサにはゼニナル町の行政長官を任命する」

「わ、ワタシはありがたいのですが、チカマック様はいかがなされるのですか?」

「やってもらいたいことがあるんだ。行政長官などで拘束させておくのはもったいない。今も町の仕事で釘付けなんだろ?」

 ここにチカマックもルビレルもいないのはそのせいだ。

「ワタシはいいのか?」

 と、不満そうなオクサの気持ちはよく判る。

「ゼニナル町は一筋縄ではいかない。なにせ、商都ゼニナルは半ば自治権を商人たちが行使していたところだ。オクサくらいの人物でなければつとまらんからな」

 事実、一町四ヶ村にゼニナルを併合してゼニナル町としたものの、旧ゼニナルはいまだに別行政を貫いている。

「代わりにゼニナル町には武官として弟のラビティアと、文官補佐にケイロ・ボットを付けよう。まだ若いが優秀な人材だ」

 ケイロは武将はともかく文官の人材不足著しい僕の領内で早くから目をかけてきた少年だ。
 今じゃ立派に成人してボット村とセザン村の事務を兼務している。
 学力ではアンミリーヤのお墨付きだぞ。
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